[19歳] 増援!増援! 大乱闘!
炎を受けた感触を確かめる。体感的には一瞬だけ熱かった。
髪の毛の焦げるイヤな匂いが充満したけど、炎は急速に引いて行く。
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□ディミトリ・ベッケンバウアー 19歳 男性
ヒト族 レベル076
体力: 1175220/1341970(19倍)70630
経戦:A→SS
魔力:A→SS
腕力:S→★
敏捷:★→★★
【アサシン】S /知覚B/宵闇SS/知覚遮断D/短剣★
【追跡者】B /足跡追尾S
【理学療法士】S /鍼灸C/整骨S/ツボA
【人見知り】C /聴覚C/障壁B
【冒険者】D /摂食B
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自分で起動した覚えのない『障壁』スキルが上がってる。ディムが試しに何度か起動しようとしたけれど使い方すらよくわからなかった耐魔法障壁がオートで展開してくれたようで助かった。同じ【人見知り】アビリティにくっついてる『聴覚』スキルは意図的に起動する必要があるので、これはきっと使い勝手のいいように調整されてる。
……あれっ?
ディムはたったいま気が付いた。【ホームレス】アビリティが【冒険者】に変化してる? 拾い食いも『摂食』になってるけどいまは考えてる余裕もない。
またあとで検証してみるとして……もしかして、魔法攻撃受けるだけでスキルって上がるのか。
これは……、もしかすると……。
炎の魔法はファイアピラーの魔法だった。子どもの頃、メイが練習してたやつそのまんま、かなり上空まで火柱が立ち上がる派手な魔法だ。
「おらあああああぁぁぁぁ!!」
「どっせえぇぇぇい!」
ディムが魔法攻撃を食らって、冷静にダメージなどを分析していたと言うのに、エルネッタとダグラスが冷静さを失って獣人たちの中に飛び込んできた。
「段取りどうしたのさ、突っ込んできちゃダメでしょ!」
「ディム大丈夫か! 火傷してないか? 炎を吸い込んでないか?」
どうやらディムに炎の魔法が直撃したことで二人が心配して助けに飛び込んできたというわけだ。
しゃあない、段取りとかフッ飛ばしたけど、大丈夫だって返事する前に、もうエルネッタさんの槍がゴブリンの魔法使いを貫いていた。
なんて短気な人だ。
せっかく魔法を何発も浴びてスキル上げしようかと思ってたのに……。
「ぼくは障壁スキルあるから、魔法なんて平気だよ?」
「ディムおまえなんでもアリなんだな!」
「みんな持ち場を離れて飛び出してくるなんて……打ち合わせで決めた段取りとかどうなってんだよ。あとで反省会してやる。二人とも正座だ、正座」
乱戦になるともうゴブリンの弱さじゃ『警戒』スキル持っててもほとんど役に立たないことが分かった。
ダグラスの剣が頭上に振り下ろされることが分かっていたとしても、それを防ぐ手立てがない。
ゴブリンは真っ二つになり、ディムは警戒ゴブリンの代わりに『追跡』もちのゴブリンの喉から短剣を引き抜いていた。
オークが大斧を振りかぶると、ダグラスが脇をすり抜ける格好で斧を持った腕を飛ばし、エルネッタさんの槍がぶ厚い脂肪と筋肉に覆われた胸を3度突き入れ、最後の突きは肋骨の隙間を通り抜けて致命傷を与えるに至った。
「肋骨の隙間は覚えた。次からはひと突きだ」
「エルネッタさんのキメ顔とセリフが怖いよ」
戦闘が終わってホッと一息入れられるかと思ったのに、ちょうどその時、土手の東側から駆け上がってくるのと、街道を走ってくる敵の増援に気が付いた……。
「あちゃあ……敵の応援いっぱい来たっぽいけど? どうするダグ? 持ち場に戻らないとプリマヴェーラさんが危ないよ」
「あーもう! ディムが魔法なんか撃たせるからだ!」
「ディム! お前の鑑定スキルは飾りか? 魔法使いは最優先で殺さなきゃいけないんだ、あとで反省会だからな」
「くっそ、もしかしてぼくが反省するの?」
「「 当たり前だ! 」」
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結局、応援にきた敵の数は8パーティで49体という、結果的に小隊規模の大乱戦になった。
集まってきた獣人たちの中に魔法使いがいたら優先的に倒せって言われてたのに、つい後回しにしちゃって、ドカーンって頭の上に雷落ちたりして、遠くの方まで雷鳴が響き渡ってまた増援がきたりした。
ここはもういい加減敵地なんだから、敵はうじゃうじゃ出てくる。
それはまあ、分かっていたことだ。
でもこの戦闘でひとつわかったことがある。エルネッタさんは怒鳴ってるうちはまだ優しいということだ。口数が少なくなって戦闘に余裕がなくなるとあの大盾を持ちながら攻撃に転じ、敵の急所しか狙わないという、まるでどっちがアサシンなのか分からない、鬼神のごとき怖い女になるし、ダグラスは一心不乱になって剣を振り回してた。
デニスのおっさんはいい歳こいて泣きが入りつつも代わる代わる後衛を死守してたし、その背後から回復魔法をこつこつ唱え続けて精神疲労で倒れるまで自分の仕事をこなしていた神官のハイデルさんは、話してくれないから親しくなれないけど、信頼できる人だという事が分かった。
どうせもうバレてしまったんだからって、ド派手な魔法を唱えまくり、土手の草原が火事になってしまって周辺が煙で目が開けられなくなっても炎魔法を唱えることをやめなかったプリマヴェーラさんの働きもあり、冒険者パーティは辛くも戦闘に勝利し、へとへとになって狩人の山小屋に逃げ込んだ。
途中、墓場に寄る予定だったのが一足飛びに狩人の山小屋だ。
「はあっ、しんどかった! みんなよく生きてたな、ほんと帰りたいって言ってるのに、もうこんな奥地まで来てしまった……とほほほほほほ……さて、ディミトリくん、反省会と行きたいところだが」
「足跡がここまで続いてるから、きっと追っ手があるよ。今のうちに身体を休めて神官を休ませよう。反省会はみんな無事に帰ってからで。ぼくはエルネッタさんの身体をメンテナンスするから、みんなも身体を休めて」
「なんだかそのまま逃げられそうな気がするが……、まあいい。ところでわたしのレベルはどうだ? 上がったか?」
まずは肩からマッサージに取り掛かろうとするぼくに、レベルがどれだけ上がったのかというエルネッタさん、自分の古傷や筋肉の張りよりも先にレベルの方が気になるらしい。
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□ディアッカ・ライラ・ソレイユ 29歳 女性
ヒト族 レベル060
体力:63322/88075
経戦:SS
魔力:E
腕力:SS
敏捷:B
【聖騎士】SS /片手剣A/短槍SS/盾術★/両手剣D
□ディミトリ・ベッケンバウアー 19歳 男性
ヒト族 レベル095
体力: 1040224/2316250(25倍)92650
経戦:SS→★★
魔力:SS→★★
腕力:★→★★★
敏捷:★★★→★x5
【アサシン】B /知覚B/宵闇★★★/知覚遮断D/短剣★★★
【追跡者】B /足跡追尾S
【理学療法士】S /鍼灸C/整骨S/ツボA
【結界師】B /聴覚B/結界B
【冒険者】D /摂食B
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エルネッタさんを座らせておいて、肩から筋肉をほぐしつつレベルの話を継続する。
「あがりまくってるよ。いまレベル60。上がりすぎ。無茶したって自覚ある? 追手が来る前に身体を戻さないと、左肩が張ってるし」
ディムは自分のアビリティとスキルの変化に気が付いた。
【人見知り】アビリティが【結界師】になってて『障壁』が『結界』に格上げ? されてる。
ユニークアビリティは育てれば化けると言ってたけど、こういうことだった。
羊飼いだったのがヤギになるぐらいだろうと考えていたのが随分と使えそうな文言がずらっと並んでる。
敵を何対倒したか覚えてないぐらいの乱戦だったから、敵を倒すたびにレベルが上がったのだとしたら、ステータスの一覧が様変わりするのも仕方がない。
いちいちステータス確認してる余裕がなかったのも確かだ。
戦闘中に気が付いた【ホームレス】アビリティが【冒険者】に上がってるのも『拾い食い』が『摂食』に変わったのも、みてくれはかなり良くなった感ある。プリマヴェーラさんのようにすれ違いざまでアビリティ読むような人がいる以上、これは大歓迎。恥ずかしい思いをしなくて済む。
そんなことよりも冒険者がホームレスの上位だったというのが一番の驚きだった。
ってことは、ここにいる6人全員がホームレスの上位のような人だ。
冒険者なんて流れ者のやることだとか、根無し草の宿無しがやる事だって言われたことがある。
その通りだ、エルネッタさんは流れ者だし、ディムは河原に流れ着いたどざえもんだった。
「ふーっ、わたしもやっとレベル60の大台に上がったか。オークの戦士を相手するのが苦じゃなくなってきたからな……。で、ディムのレベルはいくつなんだ?」
「95になってしまった……」
「せっかく60になったのに、ぜんぜん追いつけないじゃん、ディムはもう戦闘すんな!」
「競ってないから。それに今のは不可抗力だよ、どんどん敵が増えてくるしさ」
「敵はディムが呼び込んだんだろ?」
「ごめんってば……」




