[19歳] 予期せぬ遭遇戦
ディムの動きが止まって通りの先に気を取られているのを見て、パーティに不穏な空気が流れ、全員が警戒モードに移行した。
「どうしたディム?」
「街道、北側。獣人たち、4、いや5か。ゴブリン3、オーク2。獣人たちもパーティ単位だ。明かりを持たずに歩いてる、ぼくらと同じ、たぶん警戒中。街道を堂々と歩いてるってことは、奴ら基地から巡回に出た歩哨だ」
ディムの急告。
獣人パーティの接近を知り、パーティリーダーのデニスは隠れてやり過ごすことを選んだ。
「隠れろっ」
こちらに向かってくる獣人たち、まだこちらに気付いてはいない。
ディムは最初にステータスを『知覚』し、相手パーティの戦闘力を値踏みする。
プリマヴェーラも同時に見ているはずだ。
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■スカルーニカカ 43歳 男性
オーク族 レベル054
体力:44820/46020
経戦:C
魔力:-
腕力:A
敏捷:E
【戦士】C /大斧B
■ドライセンカカ 38歳 男性
オーク族 レベル058
体力:50884/54400
経戦:B
魔力:-
腕力:S
敏捷:E→F
【戦士】A /大斧/大槌
■スタリキックス 34歳 男性
ゴブリン族 レベル039
体力:17294/19030
経戦:D
魔力:B
腕力:E
敏捷:D
【魔法使い】B /炎術A /雷術B /風術D /土術D
■エルディックス 24歳 男性
ゴブリン族 レベル031
体力:10085/12030
経戦:D
魔力:-
腕力:C
敏捷:B
【狩猟】C /弓術C /追跡D
■ケセラミックス 22歳 男性
ゴブリン族 レベル030
体力:11042/12640
経戦:D
魔力:-
腕力:C
敏捷:B
【狩猟】C /弓術C /警戒B
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今のところ大丈夫だ、敵のパーティには暗視スキル持ちも気配察知スキル持ちも居ないからまだこちらの存在に気付いてない。
いくら星明りで明るい街道とはいえ、夜に明かりもなしに哨戒任務とは、敵が潜んでいても気づかないだろうに……。
ディムたち冒険者パーティが明かりをつけてない理由は、獣人たちに見つかりたくないからだ。遠くからでもランタンの灯りは目立つという単純明快な理由からだ。
それは獣人たちも同じで、夜にランタンもつけずに外をうろつくってことは見つかりたくない相手がいるということだ。
勇者たちに見つかりたくないわけでもないだろう、どっちかというと見つけたいはずだ。
ということは……。
こいつら、あの爪のモンスターを恐れてる。
爪のモンスターはあんなに明確な爪痕をつけていたくせに地面に足跡を残していなかった。
つまり、空から襲うタイプのモンスターだ。
ドラゴンかワイバーンか……。どっちにせよファンタジー世界での食物連鎖では頂点に近いような位置にいるような種だ。
制空権はモンスターに握られていると考えたほうがいい。
そんな中、この満天の星の下で戦闘するのは得策じゃない。やるとしてもすぐに終わらせないと。
ステータスを見ながら頭の中で作戦を考える。ゴブリンはレベル30台だからどうでもいいとして、2体のオークが両方ともレベル50台。
ゴブリンの中に魔法使いが混ざっていてレベルは低いけど4属性の魔法スキルを持っている。
ゴブリンたちは全然どうでもよくなかった。こいつは隠れてやり過ごす方が安全かもしれない。
『警戒』ってどんなスキルなのだろうか。よくわからない。
……チィッ!
草むらに隠れてやり過ごそうとするカスタルマンたちには残念なお知らせだが、それじゃあダメなことが判明した。敵パーティの中にも『追跡』スキル持ちがいる。
いまはランタンも持たずに街道を巡回するほど厳重に警戒しているのだから、いま街道に出てベタベタと付けてしまった足跡を見逃しちゃくれないだろう。
「デニスさん、もう隠れても無駄だよ。ゴブリンの中に『追跡』スキル持ちがいる。街道に出て足跡つけちゃったからもう隠れてもダメだと思う」
「くっ、しまったっ」
「エルネッタさん、草むらの土手下と、この道から動かないのとどっちが守りやすい?」
「基本的に階段の一段分でもいいから高い位置の方が守りやすい。逆だとキツいんだ」
「じゃあこの街道から外れず、打ち合わせ通りでいい?」
「それでいい。魔法使いはわたしの後ろに。絶対に護ってやるからビビんな。安心してていいぞ」
打ち合わせでは、盾持ち【騎士】のデニスさんが【神官】のハイデルさんを専属で守り、エルネッタさんが大盾を構えて、エルフ【魔法使い】のプリマヴェーラさんを死守する。
ディムが前に出てターゲットを定めない臨機応変の遊撃戦を仕掛け、打ち漏らして後衛に迫った敵をダグラスが担当する。パーティのレベルを考えるとこれが最適な戦闘プランだ。
エルネッタさんは大盾を地面に置くと、肩に預けるよう立てかけて腰を落とした。
「ふーっ……」
伊吹のような呼吸法を使い、腹に力をためるように力を込めた。
どんな強い攻撃にも耐える構えだ。
「んじゃ行くよ!」
戦闘開始だ。先に敵を見つけたこちらが先制権をもっている。
ディムは街道を外れ、草原の側を迂回して、まずは横から奇襲を仕掛けてオークの首を狙う。
まず大きなオークから狙ったのは、エルネッタさんと噛み合わないタイプの相手だからだ。
レベルも58と高い。
奇襲を成功させて一撃で最強の戦士を葬るつもりだった。しかし蓋を開けてみると首に短剣が届く寸前に、オークと目が合い、短剣は手のひらを貫いただけだった。首ではなく、咄嗟に防御しようとした手のひらだ。
いつもの常勝パターン、絶対に気付かれることなんてない。たとえ敵が正面に立っていたとしても、これまで首を狙った攻撃が防がれたことはなかった。
しかしオークのような鈍重な、いわゆるノロい敵に攻撃が防がれるなんて……。
気付かれたのだとすると、まさか『警戒』スキルの効果か! 奇襲が読まれると予定通りにはいかない。
オークが遅いからちょっと甘く見てた。奇襲するときはまず最初に警戒スキルを持った奴から倒さないといけないか……。
でも警戒スキルもちと魔法使いと回復魔法使いがいたらどれから先に倒せばいいのか、臨機応変でいいとはいえ、何が最適解なのか分からない。
左手のミセリコルデが防がれたなら、右手のブラオドルヒで脇の下を2度突く。防御にスキができたところを狙って再び首に左のミセリコルデを突き刺した。
『警戒』スキル、厄介だ。まずは『警戒』持ちのゴブリンをからやらないといけなかった。
チラッと『警戒』ゴブリンの位置を確認して、オークの首に刺さった短剣を引き抜こうとしたとき、ディムの視界が光に包まれた。
「ぐああっつっ」
何が起こったのか分からなかった、目の前が光って……、熱っ、焼け……。
落ち着いて辺りを見渡してみると身体が炎に包まれていた。
火だるまの状態だった。
「魔法? これが魔法攻撃か!」




