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冒険者ギルドで人を探すお仕事をしています  作者: さかい
第六章 ~ アサシン ~
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[19歳] 勇者たちと連絡を取っていた斥候の証言

 デニスのおっさんは「普通に考えるならもう全滅してるな……」という。


 だけどメイリーンがついてる以上、地の利がある。メイリーンはディムやダグラスと同じセイカ出身だし森に逃げ込んでさえすれば生きている可能性はぐんと高まる。メイリーンもセイカ周辺の地理には詳しい。どこで戦えば有利で、どうやれば不利になるかは熟知してるはずだ。敵の戦力がどれほどのものかは分からないが、そう簡単に全滅するなんて考えられない。


「メイはぼくらと一緒に森で育った。8歳の時点でワイルドボアを遊び相手にしてたぐらいだからね、森に逃れてさえいれば、いまも生きてる可能性は高いよ」


「毒キノコさえ食ってなきゃな!」


 たしかに。メイリーンの持ってくる食材は食べられそうかどうかを判断基準にしない。

 "きれいだから美味しいに決まってる"というのが第一の基準だった。


「ダグラスまだ根にもってんの?」


 ダグラスがメイリーンに食べさせられた毒キノコというのは、森の奥の奥、白樺の林が見え始めたあたりに生えてた真っ赤なキノコだ。もちろんメイがいつも通りその毒々しい色合いを見て『奇麗なキノコ、きっと食べたら美味しいわ』なんて言い出したので、そのときのディミトリだった葉竹中はたけなかが止めようとしたんだけど、別人格の桜井さくらいが異論を唱えたのだ。そのベニテングダケはたぶん世界で一番うまいキノコだと。


 だから反対もせず、メイリーンに任せてその場で焼いて食った。桜井さくらいはホイル蒸しにすると超うまいって言ってたけど、この世界にアルミホイルなんてものはない。


 ベニテングダケの味は桜井さくらいの言う通りだったらしく、メイもダグラスもそれはそれはウマいウマいと言って食べてたけど、ベニテングダケは幻覚キノコだ。これは日本人ならおそらくみんな知ってることだし、セイカの大人たちも同じだろう。


 大人でも食べていいのはおよそ一本程度まで。それ以上食べるとひどい目に遭うからこそ毒キノコに数えられている。


 食べた場所が森の奥の奥だったのは間違いだった。ダグラスは幻覚キノコを大量に摂取してしまったせいでその晩はラりってしまって村に帰れず、翌日の昼すぎに帰ってみたら村では大騒ぎ。村の大人たちが総出で山狩りにまで発展したそうで、ダグラスは思いっきりオヤジさんにぶん殴られてた。いまダグラスが根に持ってるのはその時のゲンコツだ。


「ベニテングダケみたいな弱毒キノコでラリったのはダグラスだけだったからね、ぼくとメイはぶっ倒れて幻覚にうなされるダグラスについて一夜を過ごしたんだ」


「根に持つわ! 暗闇から手を差し伸べる悪霊から逃げ回るという、おっそろしい幻覚をみたよ! それに俺が主犯みたいなことになってたじゃないか。あれはメイのせいだからな。……あのゲンコツもいまじゃいい思い出だけど」


「まあ、ベニテングダケを食べたところまでいい思い出ってことにしとこうよ。ところで最後の連絡ってどこで受けたのさ?」


「そうそう、最後の連絡受けた場所と、連絡を受けられなかった待ち合わせ場所? と、予定されていたコースも教えて欲しい。あと、勇者パーティって最終的に何が目的で獣人支配地域に入ったのさ?」


「はい、えっと、最後の連絡を受けたのはこの地点。リューベンから東に2キロの位置、つぎに連絡をもらう約束地点がここ。ここはセイカに近い。勇者パーティの最終目的は、セイカにあるという獣人たちの前線基地の破壊と、獣人たちの司令官の討伐が任務だった。作戦が成功し次第、ここから王国兵が反攻に出る予定でした」


「無理だよ。ここにどれだけの兵が揃ってるの? 全員で出ても少ない。最低でも三倍は必要だよ」

「はい、ですから東西の村や町に分散しています。進攻時は2500の兵が集結しますから」


 勇者パーティが大暴れして、敵の支配地域を荒らしに荒らして、主戦力を倒してきたのを待ってからノコノコ出て行くという作戦らしい。


 資料を見せてもらったところ、獣人たちの司令官というのはオーガ族である可能性を示唆していた。誰も見たことはないが、獣人たちを尋問して聞き出した情報らしい。ちなみにオーガ族というのはオークのような獣人ではなく、巨人族と呼ばれる一族で、説明を聞くに日本人の感覚では鬼に近いと思った。戦闘力もオークよりはいくらも強いと聞く。情報の信憑性はイマイチだけど、オーガ族の狂戦士がいるとしたらヒト族が同じ土俵で剣を持って戦ってたんじゃ不利だ。


 リューベンから東に2キロ、待ち合わせ場所の一つという地点の詳細を聞いてみたら、ここは集団墓地なんだそうだ。


「行ってみるか? ディム。お前の墓がある」

 ぼくの墓はあるけれど父さんの墓はない。だけどダグラスの爺ちゃんの墓はあるな。天候によっては足跡なんて残ってないだろうけど、まずはここに向かうべきだろう。


「ぼく生きてるけどね。じゃあ28日前、隠密の斥候が行っても会えなかったという約束の場所はどこ?」


 地図で『この辺かな?』と指されたのは、セイカからほど近い湖のほとりで、湖の対岸に位置する。


「この辺にたしか狩人が使う山小屋があったよね、今もあるの?」


 約束のポイント近くでは狩人が使う山小屋があって、山小屋から徒歩で少し下ると沢があり、沢沿いに大きな岩が3つ並んでいるところらしい。


「あそこ? 知ってるけど、なんでそんな……」

「コンタクトポイントを決めてるのがメイなんじゃないの? でさ、28日前に行って会えなかったのなら、次に隠密のひといつ行ったの? 何も残されてなかった?」


「勇者パーティが遭難したとすればそこはもう安全ではありませんから……」

「まったく捜索してないの?」


 驚愕の事実が判明した。


 約束の日、約束の時間に会えなかったことで隠密の斥候は撤退し、会えなかったとだけ報告。

 勇者パーティが行方不明になったことで付近の安全が確保されていないと判断し、それ以降は確認にも行ってないのだとか、その手際の悪さに我慢できなかったのだろう、ダグラスが声を荒げた。


「なにを手ぬるいことやってんだ! アンタらの不手際のせいでメイが……」

「斥候には戦闘などできません。捜索の技術もありませんので……すぐにハトを飛ばしてあなたがた捜索隊を……」


 教会関係者に掴みかかろうとするダグラスを止める力持ちが複数いてよかった。

 ディム一人だったらこんな奴が絞め殺されてもダグラスを止める力なんて出てこなかっただろう。


 最後にここ一か月の天候を教えてもらったお礼に、冒険者パーティは、いくさに敗れた隣国の兵士が盗賊として流入してるという情報を付け加え、ケスタールの砦を北側の門から出してもらった。なぜご親切にそんな情報をくれてやったかというと、これまでここの砦の兵士は、警戒は北にのみ向けて備えていればよかったものを、東から敵の精鋭部隊がいまや盗賊に身をやつしてどんどん流入していると言えば、衛兵事務所に問い合わせた後、必ずや夜も寝られない警戒態勢になる。要するにディムの性格の悪さから来るイヤガラセだった。どうせたぶんもうディムたちが逃げ帰ってきても、この門は開けてもらえないだろうから、予め先に仕返ししておいても構わない。それがディムの言い分だった。



「ぷっはぁ! ケンカしないでくれよ、獣人に会う前から殺されるかと思ったぜ? 王立騎士団だよ? プライドが服を着て歩いてるような奴らだよ? よく無事で出られたと思うよ……」


 今の今まで黙っていたと思ったら、息を潜めていたらしいデニスのおっさんが今更ケンカするなって言う。プライドが服を着て歩いてるような奴らなら、服をはぎ取ってから足を折ってやればいい。


「あいつらがセイカを見捨ててなければ、ねぎらいの言葉のひとつもあったと思うけどね……」


「ディムの言う通りだオッサン、うちは村長だった爺ちゃんも親父も、いとこの兄ちゃん二人も死んだ。それなのに奴ら、遅れてきたと思ったら戦線を押し上げもせず、あんな後方に砦をつくって、盾も鎧もピカピカの無傷だった。ぶん殴らなかっただけでも褒めてほしいぜ」


「まあそう言うな、奴らも足りない人数でやりくりしてんだろ……しかし、乱闘になったらどうしようかと思ったよ……刃引きの剣で思いっきり殴りかかってきたしな。あんなの当たったら怪我じゃすまないぞ?」


「あんな実戦経験もないような奴らにぼくたちをどうこう出来る訳ないよ。自慢の筋肉で剣をブンブンするだけじゃ通用しないってば。間合いの取り方が素人すぎてレベルほどの強さを感じなかったしね」



「わたしはとてもいいものを見せてもらったからな、あの司令官と同じ感想になるんだが、ディムあれどうしたんだ? あんな重そうなやつを投げ飛ばすなんて、私の力でもできるのか?」

「力なんて要らないよ、あれは重心を崩して、あとはタイミングだけ。パトリシアでも投げられるよ」


 エルネッタさんは歩法に興味があるみたいだ。ディムの知ってるのは別人格として同僚? だった細山田ほそやまだが日本人だった頃もっていた合気道と柔道の知識で、歩法といえるほど大したものじゃない。


「おおおっ、教えてくれ。その歩法を憶えたらわたしはあと50年戦えるからな」

「もうちょっと早く引退してくんないとぼくの足腰も限界だからね」


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