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冒険者ギルドで人を探すお仕事をしています  作者: さかい
第六章 ~ アサシン ~
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[19歳] 前世日本人35年の生涯+転生後19年の人生


 エルネッタを追うため、ディムがギルド長室から出るともう居なくなっていたので、当然『足跡追尾』スキルでエルネッタさんの足跡を追うのだけど、


 この足跡、しっかりと踏んで、わざとハッキリ付けてあった。


「うわー、追いかけてきてほしいんだろうなあ……かわいいなあエルネッタさん……」


 普通に歩いてもディムは見逃さないのに、わざわざ分かりやすいように、サービスがいい。


 部屋に戻ると思っていたのに、エルネッタさんはギルドを出て南に向かっている。

 いや、すぐそこの狭い路地に入ってる。


 小走りで足跡を追うと、そこに不機嫌そうな顔をしたエルネッタさんが立っていた。


「38、39、40……遅い。ここに着いてから40も数えた。わたしを40数えるまでも放っといて何してたんだ?」


「なに言ってんだよホントに、ぼく今日はごまかされないからね」


「こういう女なんだ。まさか知らなかったとは言わないよな?」

「エルネッタさんの強情は知ってるよ、だけど……」


「なあディム、お前わたしを足手まといだと思ってるだろ、それがムカつく。弱いと思われてるのが我慢できない。どこへでもついて行くからな。意地でもついて行って、わたしをパートナーだと認めさせてやる! それでもダメだというなら……いい機会だ、捨てていけ。別行動だ」


 そんな堅い決意と揺るぎない覚悟を詰め込んだような眼差しで言われるともう何も言えなくなる。

 こうなったエルネッタさんはもう誰の手にも負えない。どうにかして戦闘させないよう、どうにかして敵に出会わないよう、夜間だけコソコソ移動して依頼の勇者を探し出すほか手はなさそうだ。


「今日は誤魔化されないよ。16歳の勇者、資料じゃソレイユ姓だったよね。エルネッタさんの身内でしょ」


 ……。


 エルネッタさんは思いっきり視線を逸らして空中を睨みつけてる。空間に穴が空きそうなほどだ。

 ふてくされてます! と全身で表現している。


「ぼくたち二人、隠し事が無くなったら付き合おうって言ってたのに、隠し事を増やす気?」

「増やさない。これはもともとあったことだ。隠し事を増やす気がないことのあかしに、お互い一つずつ告白するか? わたしはディムの本当の年齢を知りたい」


「本当の年齢って?」

「ごまかすな、おまえが見た目通りのトシじゃないことぐらいお見通しだ」


「エルネッタさんが年上好きなら言うよ」

「お前がわたしより年上だということは分かってるし、わたしはお前のことが好きだ」


「わかった。ぼくは54歳」



 ……。


「何かコメントしてくれないと不安なんだけど?」


「くはははは、おっさんじゃないか。エルフでも混ざってるのか?」

「違うよ、純粋なヒト族。まあ悪魔だったこととか、いろいろ紆余曲折があって54歳なんだ。エルネッタさんまだ20代? ピチピチギャルじゃないか。ぼくが普通に若い女が好きだってことは分かったでしょ? 今後は年齢を盾にぼくを遠ざけようとするのはもう禁止だからね」


 エルネッタは腹を抱えて笑っている。目には涙がちょちょぎれていて……。


「ぼくが54歳ってことは、そんな腹を抱えて笑うほど面白いことなの?」


「いやまて、もしかして4年前、わたしは50歳のおっさんといっしょに風呂に入ってたのか?」

「そうだよ。その時エルネッタさんは25歳。年齢半分。まあ思春期のドキドキよりも、いけないことをしてるんじゃないかってほうのドキドキのほうが大きかったけどね、それよりも裸で抱き合って眠ってるときの方がヤバかった。だってほら、身体は若いんだしさ」


「あーもう、言うな。考えただけで顔から火が出そうだ。だが女の扱いに慣れてる理由も分かった。お前は54年の間に、何人の女を泣かせてきたんだ?」



「……」


「いいよ、言わなくても。このスケコマシめ。わたしがコマされてるのが我慢できない」


「エルネッタさんの前に一人だけ好きになった女性ひとがいた。一人だけね。これも隠し事だって言われちゃかなわないし、もう終わったことだから話さなくていいよね」


「そのひととは? どうなったんだ?」

「分かってるくせに。そうだよ、ぼくは愛想を尽かされて、逃げられたんだ」


「そうだったのか、お前は性格が悪いからな。わたしに逃げられないよう、もっと大切にしろ。だけどさすがにそのトシじゃパトリシアやサラエはきついか」


「あんまり考えたことないけど、ぼくはもうちょっと大人の方がいいな。でもエルネッタさんのほうがイヤじゃない? 25も年上なんだよ?」


「いや、100とか200じゃなくてよかったよ。ホッとした」


「じゃあエルネッタさんと勇者の関係を聞かせて」


「わたしの事を嫌いにならないのなら」

「なるわけないじゃん」


「ディムならそう言ってくれると思った。これは話したくなかったんだが……な、ソレイユ家は異世界から転移してきた勇者を祖先に持つ、勇者の血を引く一族だ。つまりわたしは異世界人の血を引いていて、わずかばかりだが、この世界の人間じゃない者の血が流れてる……といえばディムはわたしの事をどう思うだろうか、見る目が変わるよな」


「なるほどね、女の細い筋肉なのにやたらと腕っぷしが強い理由も、規格外に経験を積んで行くスピードが速いのも、窮地に陥ってからが強いのも、やっとその理由が分かったよ」


「それだけ? わたしが気持ち悪くないのか? 異世界人でしかも悪魔憑きなんだぞ?」


 ディムは少し落ち込んだ。

 異世界人の血を少しだけ引いてる悪魔憑き。エルネッタさんの要素そのまま100%に濃縮したすがたこそ、ディムそのものだ。


「勇者の子孫がいるってことは、異世界人との子どもが生まれるってことでしょ? 同じ種族である証拠だよ、それとも異世界人はこの世界で差別でもされてるの?」


「差別というよりも、怖れられているな。戦闘能力が高すぎるんだ。わたしは劣等生だがな」


「じゃあ問題ないよ。さいわいぼくもそこそこ強くて、エルネッタさんに殴られても死なないから。ただし殴るときは夜にしてほしい。二重人格の方もコントロールできてるでしょ。勇者の末裔か……いいなあ、気持ち悪いどころかカッコよくなっただけじゃん。ぼくもカッコいい異名欲しいよ。ヒモとか、極悪ふたまたヒモ男とか。最近はパトリシアもぼくの被害者って言われてるんだよ。集まった20からの縁談ぜんぶ断ったのも全部ぼくのせいってことになってるし」


「自覚がないのか? パトリシアが縁談を全部断ったのはディムのせいだ。おまえそんなことも分かんないのか? まったく54にもなって女心も分からないとはな……。やっぱ若い女の気持ちは、わたしのような若い女にしか分からないんだな」


「え――――――――っ! もうオッサン扱いなの? ぼくたしかに初老だけどさ、なにその手のひら返し。エルネッタさんつい昨日まで自分の事をオバサンって言ってなかったっけ?」


「おまえ次わたしのことをオバサンだなんて言ったら殴るからな……」


「え――――――――っ!」


 エルネッタはとても機嫌よさそうに、顔をほころばせている。

 ニヤニヤが止まらない様子だ。

 ディムがオッサンだったことが、そんなにも嬉しいらしい。



「いいよもう、で? 勇者の子は身内なんだね?」


「イトコなんだ。まさか【勇者】アビリティが出てるなんて思わなかった。ディムはわたしがここにいることが家にバレて連れ戻されることを心配してるんだろう? 大丈夫だ、わたしが家出したのはギンガが三歳の頃だったからな、わたしの顔も覚えてないはずだ。名乗るようなバカなこともしない。なあディム、同意してくれ。わたしはおまえのパートナーだろ? お願いだ、ギンガはよく遊んであげた可愛い子なんだ」


「バレることも心配だけど、ぼくが心配してるのはそこじゃなくてオークが強いってことだよ」


 一体二体ならどうとでもなるけど、あれが10体、100体いると考えただけでエルネッタさんを連れていくことなんか絶対できない。そんなとこにパーティ単位で行くなんて自殺行為にも程がある。

 そもそも戦闘能力が高すぎるなんていう勇者パーティがあっけなく遭難したようなところに……。


 きっと何を言っても無駄だ。安全に移動することだけを考えた方がよさそうだ。


「仕方ないなあ。でもホント、捜索者サーチャーの指示に従ってね。逃げてって言われたら逃げてよ、絶対に意地を張っちゃダメだよ。ちょっと前相手にした手ごわい盗賊団も、オークたちに負けてこの国に流れてきたって事を絶対に忘れちゃいけないよ。わかった?」


「わかった。ありがとう。お前がいてくれてギンガは幸せだ」


 ディムは押し切られた。

 エルネッタさんは意地の張り合いだったら絶対に勝てると思ってるあたり、ディムのむかつくところでもあった。


 ギルドを出たエルネッタさんが自宅のほうじゃなく、市街に向かったのは、注文してた大型盾スクトゥムを引き取るためレジェンド武具店に行くところだった。獣人支配地域にいくなら厳しい戦いを覚悟しなきゃいけない。


 ディムは短剣で二刀流を考えていたので、ちょっと短剣見せてもらいたいと思ってたところだ。

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