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冒険者ギルドで人を探すお仕事をしています  作者: さかい
第六章 ~ アサシン ~
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[19歳] 勇者パーティの捜索


 このプラチナメダルたちが実はディムとエルネッタたちが温泉旅行の途中で、ケンカした奴らだったって事で、酒場の雰囲気は一変。


 だいたいこういう仲間内ばかりが吹き溜まってるような場末の酒場では、こういうときだけ妙に連帯感がある。狩人組合との抗争もそうだった。仲間の敵は自分たちの敵だと判断するのが普通だ。


「ケンカはナシだ! わかったな。ここは雰囲気が悪い、みんな二階に上がって、私の部屋で話を」


 ギルド酒場は腕っぷしの強い奴らがやる気になってて収まりがつかないので、どやどやと狭くて急角度の階段を上がり、二階にあるギルド長の部屋に移動したけれど、この紫色のローソファーが4人掛けなもので、客人である3人を座らせるとエルネッタさんが帰ると言い出した。


 つい先日ケンカになった理由が説明できないもどかしさもあるし、こいつらは殺しておかないとこの街での生活に支障がでるかもしれない、生活に脅威をもたらしてる敵なのに、こいつらを座らせて、自分らが立って話を聞くなんて格下扱いが我慢できないのだ。


「けったくそ悪い。帰るぞディム」

「指名依頼は簡単には断れないぞエルネッタ。断るには相応の理由が必要だ」

「ケンカしたって言ってんじゃん、ならこの魔法使いと神官。こいつらに話を聞いてみろ、わたしらと組むなんて絶対にイヤって言うだろうよ」


「エルネッタ! 間で板挟みになってる私の身にもなってくれ、まずは依頼書だ。ほら……」


 依頼書の束は通常のものよりも分厚くなっていて、その依頼の複雑さを物語っていた。

 しかしエルネッタさんは最初の2枚をペラペラと見ただけで、束ごとディムに押し付けた。


「ディムを連れていけない。行くなら私一人だ」

捜索者サーチャーが必要なんだよエルネッタ。ディムくんは外せない」


 エルネッタさんさっきまで断るって言ってたのに、依頼書見ただけで行く前提になってる。

 これはおかしい。


 獣人がらみなのは分かってるけど……。


 ディムは隣に立つダグラスと二人、覗き込むように書類に目を通した。


 依頼内容は、獣人支配地域に入ったまま連絡の途絶えた勇者パーティの捜索。

 行く先は、ランド領といって、ディムやダグラスたちの故郷でセイカ村、ハルセイカ村、リューベンの町などがある、王国最北部の丘陵地帯だ。


「なあディム、勇者サマを探してくれってさ……獣人の支配地域に首突っ込むようなアホは放っとこうぜ! 俺けっこうトラウマなんだ……」


「ぼくもそれに賛成。王立騎士団が大隊規模でぼくたちの前を護衛してくれるって言うなら考えるけどね、あんなとこにパーティ単位で行くなんてピクニックか!って言いたくなるよ。ほんとばかげてる。だからエルネッタさんも行っちゃダメだ」



 勇者パーティ6名の捜索と救出で、最優先は勇者の身柄。

 全員が動けなくとも、勇者だけは生かしたまま連れて帰ってこいという意味だ。

 全員が死んでた場合は、聖剣バルムンクを回収するのが目的となる。これが優先順位。


 依頼達成金はひとり500万。これはギルド手数料を引かれない。依頼遂行中は各市町村にある教会が食事と風呂と寝床のサービスを行うから、教会のバックアップは受けられる。


 これは悪くない条件だ。だけど500万で獣人の支配地域に突っ込むより、エルネッタさんを衛兵に売り渡して3000万もらったほうがいいと考えた、あの捜索者サーチャーも考えは正しい。


 誰も好きこのんで獣人たちの支配地域になんて行きたくないのだ。


 獣人の支配地域ってことは、先ごろ建国したっていうヨーレイカとかいう獣人の国だ。


 この世界がRPGのような遊びやすいシステムに則ってくれるなら、国境周辺はスライムとかそんな微妙なモンスターが放たれてて、ディムのパーティは布の服を着て旅に出ればいい。棍棒を担いで。


 だけど現実にそんな支配地域の交錯するような地域にいちばん弱いモンスターが放たれてるわけがない。主戦力が睨み合ってるような場所なんだから、精鋭をよこすでしょ普通は。


 ヨーレイカ支配地域に入った途端にコソコソ隠れながら移動して斥候に見つかったら敵の精鋭部隊と戦闘になるんだから。ゴブリンやオークだけじゃなく、他種族の獣人もいると噂だし……。


 これは俗にいうところの、無理ゲーというやつだ。



 勇者パーティは6人。

 6人を6人で救出なんて、そもそも不可能だ。


・勇者   ギンガ・フィクサ・ソレイユ  16歳

・聖騎士  ターミナル・グラナーダ    35歳

・剣士   ショウズ・セネガルシス    33歳

・弓使い   ダービー・ダービー     29歳

・魔法使い メイリーン・ジャン      19歳

・神官   聖ジャニス・ネヴィル     48歳



 エルネッタさんの話ではたしか勇者は25年前に異世界から転移してきたはずだけど、16歳か。

 ってことはまた新たに転移してきたってことだろう……。


 なーんて騙されてやればいいのだけど、ディムはこんな大事な局面だからこそ騙されてやらない。

 勇者はソレイユ姓だった。

 たしかエルネッタさんに聞いた話によると、勇者は異世界から転移してくるはずだ。だけどこの勇者きっとエルネッタさんの身内だ。


 エルネッタさんはまた隠し事を増やす気らしい。



 はぁぁぁっ!!



 無理ゲーの中にとんでもない名前を見つけた。


「うおおおっ! メイがはいってんじゃんこれ!!」

「なんだと、ちょっと見せろ!」


 ダグラスもメイの名前に食いついて確認したけど間違いない。魔導師というポジションにメイの名前が記されていた。なんでメイが……。


「メイって子、ディムの幼馴染の子なんだろ?」

「うん。ダグラスもおんなじ幼馴染だよ」


「フルネームも【魔法使い】アビリティ持ちという特徴も、年齢も一致してる。メイはディムが生きてるのを知らない。だから獣人にディムを殺されたと思ってるし、あの夜の地獄を見た生き残りだからな。メイの性格を考えると、動機もあるからたぶん間違いないと思う」


 メイリーン・ジャン。それほど珍しい名前じゃないとは思うけど、同姓同名でかつ激レアの【魔法使い】アビリティが発現する同い年なんて……考えにくい。同一人物だと考えた方が自然だ。


「メイなら地理に詳しいし、森に入っても生存してる可能性が高いからね、ぼくたちもリューベン、セイカぐらいまでなら地図なしでも移動できる」


「なら決まりだ。わたしもこの依頼、受けよう」

「エルネッタさんはダメだ。獣人はそんな簡単な相手じゃ……」

「行くといったら行く」


 この強情っ張り……なのは知っている。身内が行方不明で不安なのは分かるけど、エルネッタさんは獣人がどれほど恐ろしいかを知らない。ダグラスだって受けるのは分かってるけど、苦虫を噛み潰したような表情になってる。メイが絡んでるからこそ二つ返事で受けた。



「ねえギルド長さん、勇者って強いんでしょ?」

「相当なものだと聞く。人外の力、異能の力、ありとあらゆるチートを詰め込んだビックリ箱みたいなアビリティだと言うが? この国の最高戦力だろ? 私らのようなパンピーには理解できん」


「ねえエルネッタさん、この国でも最高戦力と言われてる勇者パーティが遭難するような場所に、ぼくらみたいなちょっとケンカの強いだけの傭兵が捜索に行って、無事に帰ってこられるだなんて考えないほうがいいよ」


「うるさい! わたしを置いていくなんて言ったら許さないからな。ギルド長、わたしは受ける! ディムが反対するならわたしは別行動でいく。ひとりでも受けるからな」



―― バタン!


 そう言うと、エルネッタさんは乱暴にドアを開閉して出て行ってしまった。振り返りもせずに。

 後を追わなければ、絶対またエルネッタさんが怒る。だからといってもう怒ってる。どっちにせよディムはもう貧乏くじを引かされたも同然だ。


「あーディムくん、痴話喧嘩は早々に解決して四半刻しはんこく(三十分)で準備のあと酒場集合。ヨロシクなー」


 ギルド長も一緒に獣人の支配地域に連れてってやろうかと半ばマジでそう思った。



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