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冒険者ギルドで人を探すお仕事をしています  作者: さかい
第六章 ~ アサシン ~
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[19歳] エルフの魔法使い

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「んー、ディム。やっぱ乗せてくれ。疲れた」


 ギルドから指定された街道を通ってラールへ帰る道の途中、エルネッタさんは日が落ちるとやはり乗せてもらいたがったので抱き上げたところ。日が落ちるとディムのステータスが爆上げになるから乗らにゃ損といった理屈に甘えてるのだろう。マジで骨粗鬆症になっても知らない。


 かくいうディムのほうもエルネッタさんを抱いて歩きたいと思っているし、エルネッタさんの体重なんて夜のディムにはまるで綿毛のように軽く感じるので、ギブアンドテイクが成り立つ。


 抱き上げられたいエルネッタさんと、そんなエルネッタさんを抱き上げて歩きたいディムとの需要と供給の問題だ。これはもう二人のスタイルになったのではないかと思う。


 今夜は雲が多いけど、上空の風が強いようで流れるのが早い。月は出ていないけれど、雲の隙間からはいつものように星明りがさざめきを覗かせる。


 銀河、つまり天の河の光は肉眼でぼやっとして見えるほど微弱だが、闇夜に降り注ぐと、地面に影を落とさせせるぐらいの光源になり得る、とても優しい灯りだ。



 とても柔らかな光に包まれてはいるけど、慌ただしく雲の流れる、美しく荒れた夜空。


 せっかくいい夜なのに、走って帰るのはもったいない気がした。



 休息地を出てしばらく、山を下りていくと小川のほとりに隊商たちがよく野営する広場がある。ここは馬車も停めて馬を係留できるキャンプ場のような場所だ。ディムが拾われた河原のように大きな川じゃないのでキャンプできる場所も狭く、限られてる。


 そこにはすでにキャンプしてるグループが1つあって、焚火に鍋をかけていて、脇に置いてあるバックパックの大きさから長期の旅をしていることがうかがえる。男が3人と、女が1人の4人パーティだ。


 端っこの方に陣取って焚火をしていることからもキャンプのマナーは悪くないように思えた。ただ酒が入ってるらしく、ちょっと大げさに騒いでるきらいがある。


 エルネッタさんと二人連れのディムが言うことじゃないかもしれないけど、こんなところで女連れキャンプなんていただけない。傭兵でも連れてなければ絶対にないシチュエーションだ。


 横目で4人組を値踏みするディムの目に、すぐ手の届く範囲に置かれている装備品が見えた。大きめのカイトシールドだ。どうやら騎士が混ざっているらしいことは分かった。


 ディムたちは先にキャンプしていた男たちとは対角の、一番遠い場所にロールマットを敷いて場所を取り、そこにエルネッタさんを寝かせることにした。


「なあディム、普通のカップルはこんな状況でキャンプなんてしないんだぞ?」


「ぼくの彼女は綺麗なだけじゃなく、ケンカしたら強いんだ。それに背中には槍を隠してる。ただ、こんな所で刃傷沙汰にんじょうざたはやめてほしいな。もう衛兵を呼ぶのは嫌だからね」

「あーそうだ、たしかにもう衛兵にはウンザリだからな」


 ディムは念のため、あっちの方でキャンプしてる4人のステータスを見ておくことにした。



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□デニス・カスタルマン 49歳 男性

 ヒト族 レベル048

 体力:39642/42020

 経戦:B

 魔力:-

 腕力:A

 敏捷:C

【騎士】B /片手剣B/盾術B/パーティ戦闘B



□プリマヴェーラ・ハーレ・シャデイレン 162歳 女性

 エルフ族 レベル062

 体力:45090/48420

 経戦:C

 魔力:A

 腕力:E

 敏捷:C

【魔法使い】B /炎術A/風術C/鑑定眼C/弓術C



□カイラ・デフォイ 30歳 男性

 ヒト族 レベル030

 体力:23811/25020

 経戦:C

 魔力:-

 腕力:D

 敏捷:C

【狩猟】C /足跡消しC/追跡C



□ハイデル・ショーラス 28歳 男性

 ヒト族 レベル026

 体力:19442/19960

 経戦:C

 魔力:D

 腕力:E

 敏捷:E

【神官】D /回復魔法D/鈍器E/盾術F/薬草調合C


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「うっわ!」


 変な声が出た。


 ステータスを二度見してしまった。


 ディムはエルフ族の女性を見るのは初めてだった。耳が尖っていて長いことは噂で聞いている。

 だけどつば広の帽子のせいでよく見えない。


 162歳で、鑑定眼スキル持ち。

 という事はこっちのステータスも当然見られてると考えるべきだ。



「なんだ頓狂とんきょうな声を出して」


「えっと、念のため警戒しといて。あそこにいるのはエルフ女、レベル62、魔法使いだけど相当な手練てだれだよ。あと、騎士の男がレベル48だからエルネッタさんクラスだ。しかもあの背を向けてる男は神官で回復魔法を使う。もしかして勇者パーティ? ぼくエルフなんて初めて見たよ」


「いや、勇者はアビリティだ。勇者アビリティを持ったものはいないか?」

「いない。騎士、魔法使い、狩猟、神官だよ。バランスのいいパーティだね」


「たぶん冒険者のパーティだな。魔法使いと神官なんて相当に高度な戦闘編成だ。こんな片田舎に何の用だ? そっちのほうが胡散臭いな」


 コソコソ話しているとあっちのパーティが動きがあった。聞き耳など聴覚スキルを持っている者は向こうのパーティに居なかった。こっちの会話は漏れてない。

 あっちの弓持ちが下がってコソコソと陰に隠れた。小便ってわけでもなさそうだ。

 闇に隠れて弓を引く気なのかもしれない。矢をつがえて構えたらこっちが先制しないと不利だ。


「エルネッタさん、ちょっとマズい。弓使いが陰に入って身を潜めた。おっぱじまるかも」

「分かった。ディムは魔法使いから殺せ。そして次は神官。矢の一本ぐらい撃たれてもここいら一帯火の海になるよりマシだ。騎士風の男がレベル48なんだな? わたしが抑えてる間にディムは他を皆殺しにしろ」

「りょーかい……」


 エルネッタは背中に隠していた槍を手元に引き寄せて臨戦態勢に移ったことを相手に知らしめ、同時に威嚇もするという戦術を見せた。


 こっちも気付いていて、お前たちの動向を見ているぞという警告だ。こうなると相手は素知そしらぬ顔をして自由に動くことができなくなる、なるほど、ひと睨みで相手の動きをある程度封じたということだ。こういう傭兵の駆け引きは勉強になる。



 睨み合う無言の空間、ふたつの陣営の間の空気がこわばり、ピリピリし始めると、むこうの焚火にあたってる4人組が目配せと手話のようなサインで少しやり取りをした後、動きがあった。


 ハンドサイン? ということは、こっちの聴覚スキルもバレているということだ。

 二人がここに座ったあたりから、あちらの陣営はシンと静まり返ってる。さっきまでは酒が入っていて騒いでいるように見えたのにだ、ディムとエルネッタがここに座ってからというもの、ただの一言も言葉を交わしてない。という事は、向こうの鑑定眼もちがステータスを読んで、こちらを警戒してるということだ。


 あのエルフ魔法使い、鑑定眼はCの評価だった。どこまで読めるのだろう、相手に与えてしまった情報によってはこちらも出方を変える必要がある。


 相手の出方を見てからこちらの動きを決める作戦で、動くのを待っていると、相手方からレベル48の騎士の男が面倒くさそうに頭をバリバリ掻きながら立ち上がった。


 ソードベルトを外し、丸腰であることを見せつけるように、手のひらを見せながら片方の手にランタンを持ち、こちらに向かって会釈しながら歩いてくる。

 エルネッタさんはニヤリと挑戦的な視線を送り、ディムは怪訝そうな顔でこの男を迎えた。


「あー、こんばんわ。すまんね、実はうちの若いのが賭けを始めてね、あんたに気付かれるか、気付かれないかって賭けだったんだが、おかげで明日の酒がタダ酒になった。ありがとうと言うべきかな?」


「礼には及びませんよ」


「ところで、そちらの女性の方、どうも初めまして。んー、ちょっと年が釣り合わないと思うんだが、どういう関係か聞かせてもらってもいいかね?」


「どういう理由で? って聞いてもいいですか?」


「サンドラからきたSランク冒険者だと言えば用件は分かるだろ? 実はこっちの仲間に鑑定眼スキルを持った者が居てね……、そちらキミの同伴者の女性のことなんだが、実は捜索願が出ている家出人かもしれないんだ。だから、まずはそちらの女性と、キミとの関係を知りたい」


「捜索願いの件は知ってますよ。この人はぼくの彼女。つまりオンナ。ステディな関係にある。鑑定眼スキルもちはあのエルフの、プリマヴェーラ・ハーレ・シャデイレンさん。162歳……魔法使いの方ですね。ぼくは田舎者なんでエルフを見るのは初めてです」


 エルネッタさんの否定しづらい状況で"ぼくの彼女だ"と宣言することで、少しずつでも一歩ずつでも前に進めばいいと思った。ちょっとズルいかもしれないけど悪いことをやったとは思ってない。


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