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冒険者ギルドで人を探すお仕事をしています  作者: さかい
第六章 ~ アサシン ~
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[19歳] 触れてはいけないこと

第六章始まりました。物語は佳境に入ります。


 ディムとエルネッタが大金をせしめてラールの街に戻ると、情報だけ先に到着していたらしく、よそのギルドで一泡吹かせてきたことに称賛する声や、祝ってやるからタダ酒飲ませろというアルさんの声が聞こえてきた。


 ギルド長のダウロスさんは、衛兵の警察組織と協力し、行方不明者捜索の依頼を受けた時のルールブックを作成するのにギルド長室にこもり、机と書類に噛り付きで作業してるのだとか。


 まだ自室にこもりっきりならいい。ディムとエルネッタはあれほど完全アウェーな状況の中、四日間毎日出頭で、朝から晩までひたすら調書とられた。だいたいすぐブチ切れて帰ると言い出すはずのエルネッタさんも500万の賞金をもらうまでは大人しくしておかないと損だという損得勘定が働いたせいか、おかげで調書はすんなりいったけど、すんなりいってまる四日かかったというのだから、狩人組合との抗争でブタ箱に入れられたときの取り調べよりひどかった。


 ギルドの方は別にどうってことなく、書類仕事がいくつか増えるだけで、面倒な現場検証や実況見分などという作業はすべて衛兵のほうが執り行うことになった。ギルドだけに任せておけないという事なのだろうけど、やることが増えた分、この件については衛兵たちの受けが悪い。


 衛兵たちの仕事と言うのはたった数時間の出来事を何日間もかけて時系列準に整理して書類に起こすというそれはそれは面倒くさいものなので、その手続きと書類も簡素化してほしいところだ。


「お前ら本当に大変なことをしてくれたなあ」

「ぼくたちのせいじゃないからね……」


「ギルド長は面倒な書類仕事に追われて機嫌が悪そうだぞ? どうするディム」

「機嫌が悪いならしばらく姿を隠します。えーっと、ぼくたち2週間ぐらい温泉に行ってくるので休暇ください」

「ああっ? どこ行くんだ? まーた休息地か?」


「はい、あそこの炭酸温泉がエルネッタさんの古傷にいいので」

「古傷だと? そういえばいいと思いやがって……。わかった。急な指名があったら急使を走らせるからな、街道を外れるなよ。向こうのギルドにも滞在の報告を忘れるな」


 エルネッタさんは40キロの距離を歩いて帰ってきた割には足が痛いとも言わず、すぐにでもまた50キロ離れた温泉に行こうだなんて、傭兵の足腰は伊達じゃない。

 どうせ夜になったらディムが抱いて移動することになるのだからと、できるだけ早く出立することにした。


 ディムとエルネッタは普段着から旅装に着替え、バックパックの中身も入れ替え。汚れものを放り出して奇麗な着替えを詰め込み、ロールマットをもって、またすぐに部屋を、そして街を出た。


 別に一晩ぐらいラールの自宅で寝てもよかったんだけど、サンドールの町で嫌になるほど繰り返し聞かれたことを、帰ってきてからまたいろいろ聞かれるのも面倒だったし、精神的に疲れた。

 二人はコソコソと逃げるように小走りで街を出た。


 休息地まで今回は通る道まで指定されたのでこの前のように回り道してディムが死にかけていたという河原に寄ることもなく、最短距離で休息地へ。


 到着すると、まずは案内所にいるドロセラさんに声をかけた。


「あはっ、ディムさんどうされたんですか? もしかしてまた温泉に? それともまた衛兵さんに呼び出されましたか?」

「うん、休暇なんだ。ぼくたちしばらく仕事しない。ずっと温泉につかってゴロゴロしてるんだ」


 ドロセラさんは左手の薬指にキラリと光るリングを恥ずかしそうに見せてくれた。

 このリングは心から欲しかったものだけど、さすがに受け取れず、最初は断ったそうだが、その時、断る理由が【盗賊】アビリティだったことを明かすと、求婚したダリアス・ハレイシャだけじゃなく、村人たちみんなだいたいそんなことだろうってことは分かっていたらしい。


 こんな寂れた休息地の温泉町に、身寄りもないのに母子家庭で引っ越してくるような母娘おやこは、だいたいみんな、ほぼ間違いなくなんらかのワケアリなのだからと。


 なぜかエルネッタさんが大喜びして、その指輪を羨ましがった。


 その夜にはドロセラさんの婚約者、ダリアス・ハレイシャも来たので、ちょっといい酒を飲みに行ったりして、ディムとエルネッタは仕事の事やストレスのたまる街の生活を忘れて、何日も何日も、休息地の湯で疲れを癒した。


 エルネッタさんは古傷の湯治とうじと、これまで無理してきたツケが貯まってるから、湯治と合わせてディムのメンテナンスで限界ステータス以上の状態に押し上げて、温泉のリラックス効果でストレスを解消する。この繰り返しで天国に昇るような気持ちになり、ストレスフリーの素晴らしさを満喫する。



----ーーーーーー


□ディアッカ・ライラ・ソレイユ 29歳 女性

 ヒト族  レベル049

 体力:70472/62400

 経戦:S

 魔力:E→D

 腕力:S→SS

 敏捷:C→B

【聖騎士】A /片手剣A/短槍S/盾術S/両手剣D



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 体力限界値を10%超えた。体力110%。

 ディムのマッサージスキルが上がったのか、それともマッサージ効果が蓄積されるのかは分からないが、それでも10%アップは驚異的だ。


 毎日毎日、温泉に浸かってはメンテナンスマッサージを繰り返しながら。ディムとエルネッタは瞬く間に休暇を終えた。それこそ夏休みが一瞬で終わるようなものだ。


 また必ずくるねと約束して、ドロセラさんたちカップルに見送られ、二人はまた大きく手を振りながらサルタの休息地を後にした。



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 エルネッタさんも体調がいいみたいだし、たまには歩かないと足腰からダメになってゆくという話から、骨粗鬆症こつそしょうしょうになり、晩年は自分の足でトイレにも行けなくなるんだぞと、ちょっと脅かしてやると、腕から飛び降りて、自分の足で歩くという。


 やりやすいと言うか何と言うか、近頃はエルネッタさんの扱いにも慣れた気がする。



「なあディム、わたしはもう落ち目になってるだろう? 女ってのはだいたい20歳ぐらいでもう伸びが止まって、そこからは体力維持で精一杯、25からは徐々に下がっていくんだ……」


 何の話をしてるのかと思ったらレベルとか戦闘力の話だった。

 先日の戦闘で『短槍』スキルがSに上がったし、さすがに伸び盛りって訳にはいかないだろうけどまだ成長してる。そんな常人の型にエルネッタさんが当てはまるとは思えない。


 実はエルネッタさん、ちょっと規格外だ。

 ディムが言うのも変だが、ただ者じゃない。


 たぶん【聖騎士】アビリティのおかげで体力は2割増し、スタミナを表す経戦けいせんの値はSという。更に腕力はディムのメンテナンスがなくてもSなんて、似たようなアビリティでレベルも近いダグラスと比べても下回ってる部分がないどころか、腕力Sというと、セイカの村を襲ったあの刺青オークと同等だ。


 ダグラスはあれで訓練とか鍛錬とか大好きな男だから、隠れてコソ練してるはず。でもエルネッタさんは体操のように槍と盾を振る、構えのかたを週に何度かやる程度。それでダグラスを上回れるってことは、よほど天賦の才に恵まれてるんだ。


 どんな人でも歳には勝てない。人に生まれた以上は必ず老いる宿命にある。どんな屈強な戦士でも不倒不敗ではいられない。ヒトがピークを維持していられる期間はとても短くてわずか10年ぐらいなもの。

 それを20年もの長きにわたってピークを維持しようだなんて土台無理な話だ。


 だけどそれは筋力とスピードで勝負する人の話。

 日本にいた頃、プロ野球のマウンドでゴリゴリの剛球投手で鳴らした選手が、40代になってから最多勝を上げた例もある。筋力とスピードでは後進の若い者に勝てないことを認めて、トシで落ちてしまった体力の隙間に知識と経験を詰め込んで再武装、技巧派投手となって再び立ち上がり、そして勝ち続けたという例もある。エルネッタさんはスキルを上げていけばいい。


 無理さえしなければ大丈夫だと思うけど、エルネッタさんは無理をするひとだ。

 3年前と比べたら膝と腰、足首など、土台となる足腰の関節が少し疲れてる。メンテナンスでステータスの底上げをしてるのと、絶対的なレベルが上がっているから当のエルネッタさん自身も、自分が言うようにトシで落ちてきたなんて実感はないだろうけど。


 ディムの考えでは、今の稼ぎが安定するならエルネッタさんには通常の護衛を引退してもらって、二人でいっしょに人探しする時だけ同行してもらえればそれでもよさそうなんだけど、護衛を引退しろだなんて、そんなこと言ったらケンカになる。


 この人はいつまでも面倒見のいい、お姉さんで居たいのだ。だからディムは、エルネッタさんの身体をメンテナンスする。毎日、毎日、積み重ねるように繰り返して、常に最良の状態を維持する。


 万が一の時、無理がきくように。

 万が一の時、身体が裏切ってしまわないように。



「アルさんはビタッと伸びしろ尽きたっぽいけど、エルネッタさんにはぼくがついてるから、あと20年は戦えるようメンテナンスするよ」


「そうだな、じゃあ、あと50年たのむ」

「80まで現役で傭兵やる気なの? エルネッタさん80だったらぼく70だよ? 隠居しようよ」


「ディムは70でも捜索者サーチャーやるんだろう?」

「ヨボヨボの爺さんと婆さんでも、男と駆け落ちして逃げた奥さんの後ぐらい追えるさ」


「イヤな爺さんだなあ……駆け落ちは純愛だぞ?」


「失踪とか絶対にダメだよ、いきなりいなくなったら家族は心配するでしょ。恋人に去られた相手は何年も何年も探すんだからね? 似たような後姿が視界の片隅に映り込んだだけでハッとして必ず目を引かれるんだ。他に好きな人ができたならちゃんと別れを伝えるのが大人の責任だからね!」


「おまえ、サンダースの奥さんのときもそうだったけど、そういう事にはムチャクチャ厳しいよな」


「じゃあエルネッタさん、ぼくが何も言わずにいきなり居なくなったら心配しない? 探さない?」

「探すよそりゃあ。だってディムは何も言わずに居なくなるなんてことないだろう? だからディムがいなくなるってことは、何かあったと考えるに決まってるじゃないか」


「だからさ、何も言わずにいなくなるなんてこと絶対ないぐらい信頼してる相手が、実はぜんぜん知らない人と駆け落ちしてたら? こっちは死ぬほど心配して探し回ってるのに、相手は熱愛なんだよ?」


「あーもう分かった分かった」


 ディムの怒るスイッチがそこにあるということを忘れていたエルネッタは、つい触れてしまったことに失敗したと思った。


 ディムがこういうことにこだわりを持って怒るという事は、エルネッタの与り知らぬ過去に何かあったのだろう。だけど、エルネッタは持ち前の鈍感さのせいで、そのことに気付くのは、ずっと先のことになる。



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