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冒険者ギルドで人を探すお仕事をしています  作者: さかい
第五章 ~ 悪魔憑き ~
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[19歳] 悪魔の告白

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「おーいディム! カリウス・フォンダあいつな、賞金首だったらしいぞ。わははは、やったかも!」

「マジで? ナンボ?」


「聞いて驚け500万ゼノ! 10年前フェライの街で金貸しの家に押し入ってあるじの前で妻を殺したらしい。賞金が入ったらまた温泉に行こう」


「500万!! なんでそんな金額になってんの? 大したことなかったのに」

「妻を殺された夫が賞金額上げたんじゃないか? 10年前だからな」


「そ……、それは温泉だよねエルネッタさん」

「ああ、これでしばらくは仕事しないですむ」


 金持ちの家に押し入って、金を出させるために妻を殺害したのに男は生かしたまま野放し? なんでそんな一生かけて追われるようなことをしたんだろう。考えられないバカだ。だけどこんな自作自演の人さらいを計画するようなやつだから もしかすると最初から人を殺す気なんてなかったのかもしれない……もしそうだとしても同情なんて1ミリも出来ないけど。



 サンドールでは悪の芽がちょっとだけ摘まれ、母さんが生きていて、いまも幸せに暮らしていること、妹が生まれていたこと、さらわれた子どもたちが全員無事に保護されたこと、依頼を達成できたこと、カリウス・フォンダが思わぬ臨時収入になったこと。今回もまた短い期間にいろいろあったけど、風は悪くない方向に吹いたと思う。


 そのあとはもう、朝まで衛兵に引っ張りまわされて、結局4人が死んだ戦闘の跡地、子どもたちを監禁してた小屋のあった場所まで戻っての現場検証をやってる最中に太陽が顔を出した。朝になるとディムのステータスはガタ落ち。それでもレベルが高い分、一般人よりはいくらも快活なはずなんだけど、夜の絶好調さと比較すると、太陽が出た瞬間、ステータスが18分の1にまで激減するのだからそのショックは計り知れない。ほんと倒れそうなほど疲弊する。


 そんなこと知るわけもない衛兵たちって、昨夜はぐっすり寝てて、朝になってようやく出勤してきた交代の勤務者がまた大量に湧いて、ディムのほうは眠くて頭ぼーっとしてるのに、ようやく衛兵の現場検証から解放されたと思ったら、助けた子どもたちの家族のお礼突撃を受けてしまい、こればっかりは衛兵のように邪険にすることも出来ず、しっかり握手を交わしたりしておいた。


 また明日になると衛兵の詰め所、つまり警察署のような施設に行って状況説明しなくちゃいけない。なぜなら捕らえたハンマ・ターナーの証言と食い違ったら、食い違いが無くなるまで取り調べは続けられる。そしてこの世界の取り調べは、前世日本の警察よりも酷い、捕まったターナーの証言と、ディムとエルネッタ二人の証言の間に食い違いがあれば、立ち会って一緒に尋問することが許されている。


 簡単に説明すると、椅子に縛られたハンマ・ターナーに対して、証言が食い違ったからという理由で呼び出され、マジ切れ寸前になるほどイライラしてるエルネッタさんを同室で対面させて尋問するという、半ば拷問に近いものだった。


 ハンマ・ターナーは恐らく10年以上、牢屋で生活をすることになる。


 人が四人も死んだとは言え、戦闘の検証は簡単だった。出入口が一か所しかない掘立小屋ほったてごや、ここに子どもたちが監禁されているのを背にして守る構えのエルネッタとディム。相手は五人いて、うち二人は遠い間合いから弓を引いて狙っていた。この状況だけでも絶体絶命だった。


 実況見分での取り調べの際、ディムの場合は全員ナイフで首を狙ってひと突きだからまだいいけど、エルネッタさんは、戦闘時の動きと攻撃を当てた場所まで調書とられてた。戦闘では圧倒的に不利だった状況だが、明るい室内から飛び出してきてすぐの五人組に対して、暗闇に目が慣れていたことが幸いして、本来なら勝ち目のない戦闘を運よく無傷で生き残ることができたと結論してくれたらしい。


 ディムとエルネッタが解放されたのはお昼前。

 パサパサのパンに齧り付いて牛乳で流し込むだけという質素な朝食をとった。


 連れ込み宿は朝になると自動的にチェックアウトになるので、また朝からチェックインしようと思ったのだけど、母親とその家族の手前『連れ込み宿にいるから何かあったら連絡してね』なんてこっぱずかしくて言えず、二人分の料金が発生するくせに、シングルのベッドが2つ横並びに設置してあるというサービスの方向を間違ってる普通の宿にチェックインした。

 ディムの希望としては、はダブルベッドがドカンと設置された薄暗い部屋のほうが良かったのだが。


「あーぼくもうダメ、眠くてフラフラ。太陽きらい。光の圧力で死ぬ……」

「はあっ、わたしも疲れたよ。捜索や戦闘までは全然楽なもんだったけど、衛兵の面倒くささな……」


 精神的にも肉体的にも疲労の極致に追い込まれ、ようやく宿にチェックインしてシャワーを浴びると、ベッドに寝転ぶエルネッタさんの身体をメンテナンスする。ディムの真の仕事はここからだ。


「ディムおまえ今日は酷く疲れてるだろ? 疲れてないときだけでいいから」


 たしかに衛兵が気ぜわしいのと、あちこちで気を遣ったストレスとでイライラしてたけれど、いまホッと一息ついたところだ。ウトウトしながらでもエルネッタさんのメンテナンスはできる。


 背中から肩にかけて、腰からふともも、ふくらはぎにかけて、酷使したわけじゃないけどこれほどの頻度で実戦を経験してるなんて心身ともに前線の兵士なみに疲労してるはず。真剣を向けられるというのは想像を絶するストレスがかかる。ストレスは脳から身体に伝播し、全身のパフォーマンスを低下させることにもつながり、パフォーマンスの低下は、いつもは余裕を持って対処できるはずの敵から手痛いダメージを受けることにも繋がる。いまのエルネッタさんは多重人格障害が出るほど精神的に参ってるから、お金が入ったら休暇をとってもらって治療に専念しよう。


「ディムの指は私を天国に連れてってくれる……」

「いまエルネッタさんがほら、エロいほうの人格のエロネッタさんに代わってくれたらぼくも天国なんだけど」


「エロネッタ言うな!」


「ディアッカって名前もエルネッタさんの名前だから、エロネッタでもいいじゃん」



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□ディアッカ・ライラ・ソレイユ 29歳 女性

 ヒト族  レベル049

 体力:63322/62400

 経戦:S

 魔力:E→D

 腕力:S→SS

 敏捷:C→B

【聖騎士】A /片手剣A/短槍S/盾術S/両手剣D


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「あれ? レベルひとつ上がってる。【聖騎士】Aになってて『短槍』Sだよ」


 ディムのマッサージが余程心地いいのだろうか、エルネッタさんは恍惚の表情を隠しもせずに応えた。


「ディムにはレベルなんて関係ないだろう?」

「エルネッタさんには関係あるよ。レベル39の【盗賊】ってゲッコーより強いんだよ? そんなのをまるで子ども扱いにしてたじゃん。レベルは高ければ高いほどいいんだ」


 そういえばエルネッタはレベル39のカリウス・フォンダも、レベル28のハンマ・ターナーも、力の差をあまり意識することがなかった。どっちも揃って、特に強いとは思わなかったから印象に残ってないというだけだ。


 カーテンを暗幕まで閉めたのを確認しテーブルランタンを吹き消して寝る準備を整える。

 一通りエルネッタさんの身体、メンテナンスを終える頃にはもう、エルネッタさんはスースーと気持ち良さそうな寝息を立てていて、ディムの方はというと、自分のベッドが用意されているにも関わらず、狭いシングルのベッドに潜り込んで添い寝することにしたのだけど、もぞもぞとエルネッタさんの横に潜り込んで、毛布をかけてホッとしたところに、寝てるはずのエルネッタさんと目が合った。


「起きてるなんてずるいよ、せっかくこれから服を脱がせてぼくも脱いで、起きた時ドッキリを仕掛けようと思ったのにさ……」

 軽口で状況を誤魔化そうとするディムを見るエルネッタさんの眼差しは、いつものように優しいけれど、どこか寂しげだった。


「どうしたの? もしかしてエロネッタさん? それともまた別の3人目かな?」

「ディム、おまえ無理してないか? お母さんと会えたのにどこかよそよそしかった。お前のお母さんがちょっと驚いた表情をしていたのも、きっとディム、おまえの反応が思ったより鈍かったからだと思う」


 エルネッタさん……ずっと衛兵の相手をしながらそんな細かいところにまで気を回す余裕があったなんて、驚きだ。


 確かに、いきなり母さんが現れてどうしようかと、少し混乱してしまったのは確かだ。

 だけど、そんなことじゃない。


 ディムは今日、母親と初めて話した。ディムが幼い頃の記憶は、葉竹中はたけなかディミトリが体験していたものを、視覚を通してただ見ていただけだ。


 今日はじめての挨拶をして、今日はじめて触れ合い……、手を握った。思ったよりも柔らかくて、思った通り温度が高くて、その熱量を、温度を、ディムの手はまだ覚えてる。


 ディムにとって母親は、スクリーンの中の人だった。

 触れたこともなければ、実際には会ったこともない。

 まるで憧れの映画スターと会ったような、そんな感覚のほうが強かった。


 ディミトリ・ベッケンバウアーという人物は、葉竹中はたけなかという男が基本人格として生まれ、朝霞星弥あさかせいやは五人いた別人格のうちの、ひとつだった。


「エルネッタさんはぼくにあとどれぐらい隠し事があるの?」

「ん。お互いに隠し事の数を言い合ってひとつ隠し事を減らすか?」


「隠し事って、敢えて言わないけど、エルネッタさんに聞かれたらちゃんと答えられることは含めなくていいんだよね?」


「そうだな、わたしはあと……ふたつ? かな」

「んー? ぼくはどうかなあ、3つか4つぐらいあるかな。もしかするとまだあるかもだけど、いま思いつくのはそれだけ」


「そか。じゃあ一つ言え。不公平は良くない」

「いや、そういう問題じゃないでしょ」


「そういう問題なんだよ、いまは打ち明けるチャンスだ。この機を逃すな」


 エルネッタさんも出来ることなら打ち明けたい。隠し事なんてしたくないと、そう言ってる。


「それってエルネッタさんも隠し事を早く減らして、ぼくと付き合いたいって考えてくれてるの?」

「深読みしすぎだそれは」


「ねえエルネッタさん、話の前にひとつ。お願いがあるんだ」

「ん。なんでも言ってみろ」


「ぼくの話を聞いて、ぼくを嫌いにならないで欲しい……」

「ほらな、それだ。不安だから話せないんだろ? 大丈夫だからな、わたしがお前のことを嫌いになんてなるわけがない」


 エルネッタさんが大丈夫だと言ってくれたので、手放しで安心したというわけでもないのだけど……。

 回りくどいとは思ったけれど、時間をかけて子どものころの話から、始めることにした。


 セイカの村でどう育ったか。父さんがどんな人だったか、母さんがどれだけ優しかったか。幼馴染のダグラスとメイのこと、ペットだったタカのトールギスのこと。森で育ったこと、小さなころからチャル姉が口うるさくお節介だったこと……。


 そして、その溢れるような美しい思い出はぜんぶ、自分が体験したものじゃないということを。


「ディム……? どういうことなんだ?」


「ぼくは見てただけ。ずっと、ずっと」


「ちょっと分からない。なあディム、分かるように話してくれ」


「分かってもらえると思うから話した。エルネッタさんにだけは、分かってもらえると思う」


「わたしにだけ分かる?」


「うん……、多重人格の別人格。この世界じゃ悪魔憑きって言うんだっけ? エルネッタさんにはディアッカがいる」


「……なっ!」


「そう……、ぼくは悪魔なんだ」


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