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冒険者ギルドで人を探すお仕事をしています  作者: さかい
第五章 ~ 悪魔憑き ~
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[19歳] 正義の味方

すみません、投稿する前に編集するんですが、編集前のものを投稿しちゃったようでアワ食って修正したところです。こういうミス多いので以後気を付けます。


「ああっ! もう! せっかく気付かれないようにしてたのに台無しだよ!」


「誰だあっ!」


 隣の掘立小屋ほったてごやのドアが乱暴に開くと、隣の小さな建物の中から男たちがわらわらと飛び出してきた。こんな静かな山間やまあいの丘陵地帯でドアを蹴破ったのだから、飛び上がるぐらいの炸裂音がするのだから致し方ない。

 

 真っ先に出てきた男たちの分析を行うディムの目に移った違和感。

 足跡の歩幅と少し違う。足もとが怪しいやつが3人……。酒が入っいて正確な動作ができてないものがいる。アジトを急襲されて酒が入っていたなんてお気の毒だが、弓でも引かれない限り、エルネッタさん一人に任せていて大丈夫そうだ。


 男たちに向けてゆっくり槍を構えるエルネッタさんを確認すると、ディムは蹴破られた扉の中に入った。


「わははは、追っかけてきたんだよ。楽しませてくれるって言ったじゃないか。さあ、誰からヒイヒイ言わせて欲しいんだ?」


「くそっ、何でここがバレた」

「おまえが案内してくれたんだろ? 役立たずくん」


「このクッソアマぁ」


「挑発に乗ってんじゃねえ! 黙って囲め! 相手は槍だ。キュラスとケイレブは間合いを取って弓で狙え。お楽しみは後だ」



 エルネッタさんが雑談してる? 時間を稼いでくれるなんて有難い。中に集中して大丈夫そうだ。

 中にはどうやら五部屋あるらしく、狭い廊下を介して端っこから五枚の扉が並んでいた。

 面倒くさい構造だ。一部屋にしておけば面倒もないのに、攫ってきた少女たちを捕らえておく小屋をこんな個室にする必要があるのだろうか。



―― ドンドンドン。


「くっそ、誰か居ないか! 誰か!」


 ……っ!


 『聴覚』スキルに引っかからない? 誰もいないのかな?


 いや、スンスンと鼻を啜るような息遣いが聞こえる……。


 フィルターをかけるように扉の向こう側から聞こえる小さな声をして抽出する。


「助けに来たよ。キャンディー! テインクちゃんは居ないかな? アリスはどこに居るかな? ディミトリアちゃん?」


 か細く助けを求める声は、扉の向こう側からディムの呼びかけに応えた。


(助け、助けて……)


  ディムはかすれるように力ない声を聞いた。


「扉から離れろ、蹴破るぞ!」



―― ドガン!


 扉を蹴破ると、中は畳で言うと4畳ほどの狭い部屋で、中に居たのは4歳ぐらいの女の子。見張りや警備は付いてない。女の子ひとりだった。助けに入ったディムの顔を見ることも出来ず、怯えて小さく丸くなって震えていた。


「キミはだれ? 名前は?」


 ブルブルと震えながら小さくうずくまってる。

 この子は怯えていて話ができる状態じゃない。暗いと言う、それだけのことで子どもは恐怖を覚えるというのに、この狭い部屋は明り取りの窓一つ付いていなかった。さらに個室で、一人ぼっちに分けている。

 その理由が分かった。


 被害者の女の子が発見された時、女性の衛兵から様々な情報を聞き出される。聞こえてくる音やにおいまで含めた監禁場所の情報、犯人を見た、声を聞いたなど、直接犯人につながる情報、そして他にも一緒に捕まってた子がいないかという情報だ。その全てを与えないことによって、女の子たちを殺さず、無事に帰すことが出来る。


 ディムの悪い予感が当たってしまったようだ。

 営利誘拐は身代金の受け渡しが非常に難しい。顔を見られただけで人質を殺さなくちゃいけなくなることもある。営利誘拐だけでも重罪なのに、まかり間違って殺してしまうと死罪は免れない。カネと引き換えにするには割の合わない犯罪だ。


 だから少女を攫うだけ攫っておいて、身代金の要求をせず冒険者ギルドに捜索依頼を出すように仕向ける。衛兵事務所にも報告されるだろうが、営利誘拐と、ただの行方不明とでは動員される人数からしてだいぶ違うし、万が一捕まってしまったとしても営利誘拐でも人身売買でもなければ、5年程度の軽い刑で出てこられる。割のいい仕事を考え出したものだと感心する。


 この建物は外を一回りしてみた限りでは裏口がなかった。ってことはエルネッタさんが守ってる入り口ひとつ。

 裏から入られて子どもを連れていかれるなんてこともないだろうから、まずは外を片付けたほうがいい。


「よく頑張ったね、お兄ちゃんは外の怖い人たちを懲らしめてくるからね、もうちょっとだけここで待っててね。外には正義の味方の強ーいお姉ちゃんも来てるから、もう大丈夫だ」


 小さな女の子を部屋に残してディムがゆっくり建物を出ると、エルネッタさんは盾も持たずに拠点防衛の構えで掘立小屋ほったてごやの入り口を守っていた。


「時間稼ぎご苦労様。女の子がいたよ、たぶん確定。こいつら全員アウト」

「わははは、ほらな。見ろ、これがゴールドとブロンズの差だ素人諸君」


 エルネッタさんをマトに、間合いを取って弓を構える者が二人と、短剣を持って囲みを狭めようとしてる者が三人……。


 ターナーとセングル、あとフォンダが短剣か。


「どうする? 全員逮捕は無理だぞ?」

「ひとり生かしとけば十分でしょ?」

「弓のほう頼めるか? まーた盾を忘れたんだ」


 ディムが腰の短剣に手をやった刹那、後方にいて弓を引いていた狙撃手二人、弓の弦がバチンと切れたのとほとんど同時に倒れた。


 断末魔の叫び声もなく、無言でドサッと倒れた音に驚いて探索者シーカーのセングルが振り向くと、目の前に居たのは仲間ではなく、ラールのギルドのゴールドメダルだった。目の前に居た? いや、息のかかるほど近くに立っていて、首から何かを引き抜いた? ように見えた。


 探索者シーカー期待のホープと言われたセングル、いまわきわに何を思ったか。

 "あいつ、いま何をしたんだろう? " 人生の最後に考えていることなんてだいたいそんなことかもしれない。


「そっちのやつレベル39だからね、念のため」

「弓だけでいいっていったのに……サービスいいな」


 言うとエルネッタさんは下段攻撃で足を突いてから槍を振り上げてフォンダの構える短剣を跳ね上げると、金属同士が衝突する鈍い音がして、短剣はクルクルと真上に打ち上げられた。


 エルネッタさんはまるで舞うように一回転すると、切っ先で首をかすらせ、フォンダの喉から滝のように熱い血潮がどっと流れ出した。


 流れるような連続攻撃だった。エルネッタさんは夜目が利かないはずなのに、この暗闇でも間合いをしっかり把握してる。

 このフォンダという男、レベル的にも短剣スキルも、あのアンデス・ゲッコーと同等か、それ以上だと思ったが、レベル差があるとこうも簡単に圧倒できる。


 エルネッタさんの強さの一端を見た。センチ単位? いやミリ単位の間合いを身体で覚えてるんだ。

 槍なんて掴む場所によって間合いが変わる難しい武器なのに、変幻自在に操って間合いを支配してる。

 鋭利な刃物のように研ぎ澄まされた気迫が伝わってくる。この人はレベルよりも何割り増しかの力を持って槍を振るう。子どものころ実家で叩きこまれたと聞いているが、相当な技術だ。


 そんなエルネッタさんに短剣を抜いた結果【盗賊】カリウス・フォンダは、こんな満天の星空を仰ぎ見ながら、静かに息を引き取った。


「悪党の最期にしちゃ安らかすぎるでしょ」

「悲鳴ぐらいあげさせてやるべきだったか?」


 そして目の前に武器を構えて立っているのは、ギルド酒場でちょっとモメたハンマ・ターナーだけ。


「んー、でもなんでそいつを最後に残すのさ? 一人は生かしておきたかったのにさ。まあ、そいつ殺すのちょっと待って。女の子が足りなかったら尋問しないといけないし」


 ディムまた掘立小屋ほったてごやに入ってまだ開けてない4つの扉をひとつずつ蹴破っていった。

 空室がひとつあったけれど、全てが個室になっていて、そこそこ防音も効いた重厚な造りだった。



「さっきまの威勢はどうした? せっかくわたしが相手してやるって言ってるのに」

「くっ、この」


 間合いの不利をものともせず短剣で懐に飛び込もうとするけれど、間合いと技量と、そして何といってもレベルの差は大人と子供ほどに開いていて、エルネッタには眠くなるほど遅い攻撃だった。


―― キン!


 立てていた槍の柄を蹴ってぐるんと一回転させただけで宙を舞う短剣……と指。

 誘拐犯たちの最後の生き残りハンマ・ターナーは短剣を握る指を失い、エルネッタの流麗な槍捌きは、短剣と指が地面に落ちる前に、膝頭ひざがしらを突いていた。

 ターナーはもう立ち上がることすらできず、膝を屈することとなった。


 別に怨みもないような相手ならそこまでで済ませてもらったろうに、こいつはエルネッタさんを怒らせたという理由で、槍の回転時に刃先とは逆の柄頭つかがしらの一撃で胸を突き、肋骨の数本を砕いた。


「ぐはっ……げふぉっげふぉっ」


 エルネッタさんの追い打ちが決まり、ターナーは少し強い風に吹かれて波打つ草むらに転がった。


「なあディム、こいつどうする?」

「こいつ短剣スキルもってないんだよ? それなのに短剣を握り締めてさ、エルネッタさんみたいな槍のスペシャリスト相手するのに、なんで槍の間合いで戦おうなんて思ったんだろうね?」


「それが分からないから素人なんだ。わたしもついイラっとして膝突いちまったよ。町まで担いでいくのも面倒だ、やっぱ殺すか」


「心を入れ替えて協力的になるなら生かしておいてやってもいいけどさ、正直言って邪魔だよね? 町まで遠いし、引きずっていくのも重いし」


「がっはっ……げふっ。ああっ、まてまて、待ってくれ。抵抗の意志はない降参だ、殺さないでくれ。右足は無事だ。何としても歩いて帰るから面倒じゃないだろ?」


「まだ歩けるだあ? わたしとした事がどうやら手加減しすぎたようだ」

「エルネッタさん……」

「このボケ、ディムに色目使いやがったよな! 依頼は子ども探しだ、誘拐犯を逮捕しても報酬が増えることはないからな!」


 哀れなターナ―は殺す価値もないほど弱かったが、ディムを罵ったという、ただそれだけのことでエルネッタの怒りを買い、必要以上に痛い目をみた。

 べつにディムが止めてやるほどのことではない。自分のために大切な人が怒ってくれるというのは、正直いって、心地よく感じるものだ。


「ぐああっ!」

「ヒイヒイ言ってみろやオラッ! なにが『ぐああっ』だこの……ちゃんとヒイヒイと泣けやこのボケが」


「エルネッタさん、さっきぼく、中にいる子どもに『正義の味方のお姉ちゃんが助けに来たよ』って言ってしまったんだ、ちょっとでいいから抑えて……」


 エルネッタさんは乱暴な言葉を封印し、無言で倒れた相手を容赦なく蹴りまくった。

 踏んだり蹴ったりという言葉を正しく表現している。本気で『ギャフン』というまで暴行を続けるヤンキーの所業だった。


「折れた肋骨のあたり蹴ってるし……肺に刺さったら死ぬからね、そいつ」


 五人の誘拐犯は制圧した。エルネッタさんが居るのだから万に一つも逆転の可能性はない。

 外のことは正義の味方のお姉ちゃんに任せて、ディムが部屋を捜索すると、ひとつは空き部屋だったが、個室に一人ずつ、合計四人の子どもたちを見つけた。


「ストップ! もういいじゃん。女の子は名前を確認したからね、四人全員無事に確保! はい悪者は成敗されました。強いお姉ちゃんが助けてくれたよ。みんなでうちに帰ろう」


 スマートに救出とは行かなかったが、エルネッタさんの機転? いや、機転とはとても言い難い奇襲が功を奏し、まあまあ結果オーライだった。


 誘拐グループは五人組。五人でやったら分け前が薄くなって旨味がないのに、なんで五人なのかと聞いたら、最初は三人でやる予定だったが、カリウス・フォンダに声をかけたことで盗賊仲間の手癖の悪い奴らが話を聞きつけて次々と乗っかってきたそうだ。だから目立つことは分かっていながら子どもを四人もさらう羽目になったらしい。


 言い出しっぺは探索者シーカーホープのセングルだけど、主犯といっていいのか、リーダーはレベル39の【盗賊】カリウス・フォンダだったらしい。つまり、たったいまエルネッタさんの相手をして、腹話術人形の口みたいに喉がパカッと開いて、ゲロみたいに血を吐き出して死んだ愚か者がリーダーだった。


「お姉ちゃん正義の味方なの?」

「んー? どうかなあ? わたしはキミたちの味方だ。だからキミたちが正義のちびっ子だったら、わたしは正義の味方だねえ」


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