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冒険者ギルドで人を探すお仕事をしています  作者: さかい
第五章 ~ 悪魔憑き ~
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[19歳] 尾行してるつもりが尾行されてた件

 町の繁華街の外れ、足跡は左側の細い路地に折れていて、建物と建物の隙間、大人の肩幅じゃ二人並んで歩けないほど細い路地裏のような道にエルネッタさんの手を引いて入って行く。


 ひろくて明るい通りを敢えて避け、薄暗くて狭い路地裏をわざと通っている。

 探索者シーカーなら危険回避のため、むしろ避けるべきエリアだ。だからあいつが意味もなくこんな道を通るなんてことないはずなのに、その意味が分からない。


「んー、なんでこんなところから繁華街に出るのかな?」

「どこへ行こうとしてるんだ? 道に迷ってるのか?」


 建物の隙間の細い路地を出ると右に折れる足跡の行方ゆくえ。歩幅は大きくなっていて、せっかくの『足跡消し』効果が薄くなるっていうのに走った形跡がある。


 誰かを追っていた? 細い路地から明るい通りに出たと思ったら、すぐに走っている。


 足跡を追うと物陰に隠れて壁を背に向けた形跡。



「んー、細い路地に入って角を曲がったら走って、物陰……これって、誰かを尾行してるのかな?」


 この男も探索者シーカーで、同じ依頼を受けて子どもを探してるんだから、誰かを尾行するってことは、もう手がかりを見つけたということなのだろうか。


 いや、違う。


 誰かを尾行してるとしたら、対象者が路地から出て角を曲がると、見えてない時間を極力減らすため、見えなくなったらダッシュで間合いを詰め、出来るだけ早く対象者を視界に入れようとする。


 でもこの足跡は、角を曲がるまで平然と歩いてるくせに、路地から角を曲がり、通りに出た瞬間に走って物陰に立った。……つまり逆だ、尾行されてたのはこいつのほうだ。


 そして、尾行してるのはディムたちだった。


 バレていたらしい。……まさか足跡を追尾していることを悟られるとは思わなかった。

 あいつにそんな特殊なスキルはなかったはずなのに、なんでバレたのかが分からない。


 ディムは立ち止まってエルネッタさんと雑談するよう偽装しながら、なぜ尾行が発覚したのかを考えた。もし自分たちが尾行されていたとして、どうやれば尾行を知れるのか。


 いや、深く考えすぎだ。

 単純に考えて、ギルドで説明を受けていた時からもうすでにドアの外で監視されていて、ドアを開けて出たところから尾行されてたと考えたほうが自然だ。


「どうだディム?、わたしには何もわからん。周囲を警戒してればいいのか?」

「うん、でも露骨なのはダメだよ。あくまで自然に。もし相手がすぐ近くにいてもバレないぐらい自然に」


 角を曲がるとすぐさまダッシュして物陰に入る?


 もし『足跡追尾』スキルを使わずに尾行していたとしたら、15メートルも離すと、路地から出て通りの角を右に曲がられた瞬間から、どんなに急いでも5~6秒ぐらいは目線が切れる。あの男は『足跡消し』のスキルを使ってなお、通りを右に曲がったところでダッシュして6歩目で急停止した足跡を残している。


 ということは3~4秒ほどで物陰に隠れて……、誰かに会ってたのか? いや、足跡を見ると壁に背を預けて突っ立ってるだけっぽい。ということは、なるほど素知らぬ顔で別人を装って、路地から尾行して出てくる者がいないかを確かめてたんだ。


 エルネッタさんとの無駄話をしていたせいで、尾行は数分ぐらい遅れてるはず。

 姿を見られたわけじゃなさそうだ。まさかエルネッタさんとの痴話げんかに助けられるとは思わなかった。尾行されてるかもしれないと、警戒心が異様に強いだけなのか。


 では何のために?


 街灯で明るく、賑やかな繁華街の路地をまた右に曲がってる足跡……。またさっきの薄暗い裏通りへと戻る方向に向かってる。露店で買い物するでもなく、一度この明るい通りに出たあと尾行の有無を確かめるためか賑やかな通りに出て、物陰に隠れて背後を覗ったあと、またおっさんが立小便してそうなクソ狭い路地に入って行った。


 不自然だ。

 言葉では言い表せないような胸騒ぎがしているところだ。


 何か見落としているのかもしれない。


 そもそも尾行されるのにも理由がある。


 ひとつ、この場では何かマズいことがあっても、逃がさないよう尾行して、ひと気のないところで用件を達成する。ボコられるぐらいで済めば儲けもの。こっちはかなり物騒な人たちのする尾行だから、できることなら関わり合いになりたくない。


 ふたつ、立ち寄り先、ヤサの割り出し、交友関係を調べたい。こっちは普通に捜索者サーチャーの通常業務なんだけど……。



「ねえエルネッタさん、ゴールドメダル二人に尾行されてるかもしれないのに、わざわざ薄暗いあんな路地からこの通りに出てきて、コの字を描くようにまたあっちの暗い路地に入って行くってどいういう心理なの?」


「ん? 生意気だな。そうとう腕っぷしに自信があるのか? あいつのレベルはいくつだった?」

「28か29だったはず。ステータス見る限りでは腕っぷしに自信がありそうじゃなかったよ?」

「うーん、これは傭兵の思考だから捜索者サーチャーの役に立つとは思えないが、そうだな、尾行者を特定したかったり、尾行されてることが分かってるなら、逆に罠に誘い込んだりもできるな」


 ……っ!


 さすがエルネッタさんだ。

 『足跡追尾』スキルで相手の『足跡消し』を上回ってるもんだから、完全に上から目線で考えてた。逆に誘導されてるって危険性も考えるべきだった。


「じゃあさ、傭兵の思考だと、ぼくたち二人を、あの細くて薄暗い路地に誘い込んだらどうするの?」

「そうだな、格上の相手を安全確実に殺したいなら、初撃を弓で奇襲だな。狭い路地というあたり格好の的になる。相手が【狩猟】の加護を受けていて腕のいい『弓』スキルもちだったりしたらまず無事では済まないだろう、わたしには殺す気で放たれた矢を素手で掴み取るなんて芸当はできないからな、足手まといになって悪いが盾を持ってないと弓で奇襲されたらキツい」


 もしエルネッタさんの言う通り、待ち伏せがあるとしたら、いったんこの人通りの多い繁華街の通りに出たのも頷ける。



 最悪の場合、二人は今の時点で囲まれてる可能性すらあるって事だ。


 これだけ明るい街灯の下だ……、囲まれてるとしたらもう全員に顔を見られた。


「ああー、くっそ。初動からしてやられた。顔を見られたのは失敗だったかなあ」


 一人で突っ込むか……いや、この時間帯なら矢なんて止まって見えるから当たりはしないだろうけど、もしあいつが誘拐犯の一味だったとして、何人いるかも知れない仲間のうち一人でも取り逃がしたら子どもたちの追跡が不可能になる。



「どうした? そんな顔をして……また機嫌が悪くなったのか?」

「キスが貰えない気がしてきた。不機嫌にもなるよ……」


「本当か? あはは、わたしがディムに勝っちゃう……」

「ひどいよ。せっかくやる気になってたのに、もうやる気なくしそうだよ」



 なら素直にこの路地に入ってやる必要はない。


 じゃあ逆手に取ってやるか。


 足跡は通りを右に折れて狭い路地に入って行ってる。ならば逆をいってやる。


「エルネッタさん、ぼくと腕を組んで。カップルみたいに……」

「はあ? へっ? ああっ」


 二人はカップルのように見せかけ、これからしっぽりと濡れ場にしけ込むふうに、細い路地を左側、そう足跡の続く路地に背を向け、逆方向に入った。あちら側と同様にこちらも相当狭くて小便臭い。行きつく先は場末しかない、汚い裏路地だ。


「屋根の上に二人分の足音。慌てて動いたよ」

「すごいな。そんなことまで分かるのか?」



 屋根の上の二人に加えて、二人が動いたのを見て尾行ツケてきた二人組の足音……。

 尾行は四人?


「エルネッタさん、うしろ二人ツケてきたけど振り向いちゃダメだからね。ぼくに合わせて……」


 この先にあるのは連れ込み宿。まあ俗にいうところの"ラブホテル"がいくつかあって、路地の突き当りには売春婦だろうか? 胸の大きく開いた服で売り物の身体を見せつけようとしてる。


 客を取りたいんだ、否が応でもこっちを見る。まあ女性同伴だから声まではかけてこないだろうけど、それでも二人は人目にさらされて注目されてる。ツケてきてる二人がいきなり襲撃してきたリなんてことはないはずだ。


 ディムとエルネッタの二人は、怪しい探索者シーカーを尾行してここに来たわけじゃなく、連れ込み宿を目当てに来ただけのカップルを装う。こいつらの正体がわかるまで迂闊には動かないほうがいい。


「ねえエルネッタさん、入ろうよ。ぼくもう我慢できないからさー(合わせてほら、合わせて)」

「はあっ? なにを……ディムおい……」


 尾行されてるなら尾行させなければいい。しかも自然に奴らのミスにつけ込むんだ。


 まず狭い路地に入って、追跡者が背後からついてきたら立ち止まってイチャつく。

 この狭い路地に入った尾行者は立ち止まることも出来ず、そのまま追い抜かざるを得ない。



 ディムはエルネッタさんと抱き合って、イチャつくふりをしながら腰に手を回して美しいブルネットの髪に顔をうずめた。


「はああぁぁぁ、ちょ、ダメっ」

「合わせて、ほら……」


「あああっ、ダメだ。耳に口をつけちゃ……息が……はあっ……」



 ディムはエルネッタの柔らかな髪の隙間から、追い抜かざるを得なくなった間抜けな尾行者の鑑定に成功した。してやったりだ。


----------


□ カリウス・フォンダ 43歳 男性

 ヒト族 レベル039

 体力:25987/28640

 経戦:B

 魔力:-

 腕力:B

 敏捷:A

【盗賊】B /短剣B /開錠C /スリC



□ ゲーリー・キュラス 43歳 男性

 ヒト族 レベル038

 体力:25417/27220

 経戦:D

 魔力:-

 腕力:C

 敏捷:B

【狩猟】B /弓術B /短剣E /気配消しC


----------


 ツケてきたやつ二人とも揃ってレベルが高い。屋根の上のやつらまだ配置についてなさそうだから、戦闘になっても大丈夫そうだが……。また片方は【盗賊】アビリティもちで短剣Bだ。

 その他のステータスも軒並み高い。こいつあのゲッコーなみかそれ以上の盗賊じゃないか。


「顔みた?」

「ああ見た」


 レベル39の男、カリウス・フォンダ 43歳 身長180センチぐらい。茶色のくせっ毛で肩に届くほどの長髪。眉が太くて、ぎょろっとした大きな目が特徴で、ポケットに両手を突っ込んでる。あと猫背。


 目撃情報のあった不審者と特徴が完全に一致する。まだ確定じゃないけど、極めて怪しい。

 まさかギルドの探索者シーカーと誘拐犯がグルの可能性なんて、考えてもみなかった……。




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