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冒険者ギルドで人を探すお仕事をしています  作者: さかい
第四章 ~ 夜を往くもの ~
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[19歳]  エロネッタふたたび


 アダム・フォルカーは死んだ。

 不用意に闇に足を踏み入れたことで命を落とした。


 フォルカーを逮捕するため饅頭屋まんじゅうやに向かった6名は大木槌おおきづちで雨戸を破壊して建物内に押し入ったのち戦闘となったのだろう、抜剣していたにも関わらず、全員が惨殺体として発見された。


 休息地サルタを守る衛兵たちが6人も殺されたのだ、連続猟奇殺人事件が解決したというのに、衛兵たちの表情は堅い。


 饅頭屋のフォルカー、土産物屋のダムフェルド、そして狩人ケイナーの三人が襲った家族は年間約6~7家族で、温泉旅行を終えて休息地から帰る際の道中で襲い、全員を拉致して犯行そのものが明るみに出なかったため、ただの行方不明事件とされたが、監禁部屋だった山小屋の所有者、タイラス・ケイナーの自宅を捜索したところ、天井裏に25冊ものノートが発見された。


 趣味だったのだろう、几帳面にも女たちの記録をびっしりつけていた。住所氏名は言うに及ばず、誕生日と年齢、彼氏の有無、好きな男性のタイプ、これまで一番うれしかったこと、これまで一番わらったこと、これまで一番悲しかったこと、どこをどう責めるといい声で泣いたか、何と言って泣いたのかという、フォルカーと被害女性との会話内容まで克明に記録し、もも肉、ふくらはぎの肉、胸肉の脂身と乳腺など食した上で、その食レポまで書き残していたため、その猟奇的な犯罪は余すことなく調書に記された。


 アダム・フォルカーの殺害現場を見ていないと言っていたがそれも嘘だった。

 布袋を被せていたせいでエルネッタさんのウソ発見器スキル(ということにしておく)が発動しなかったのだ。あの詳細記録ノートが見つからなければ、この連続猟奇殺人事件は死んだアダム・フォルカーだけの犯罪になっていた可能性が高い。


 あれほど命乞いをしていた狩人のケイナーだったが、犯した犯罪の数が多すぎてハッキリしないが、人を食った経験があるという事だけでオカルト系の刑罰に処されてしまう可能性が出てきた。つまり火あぶりだ。


 しかし人食いアダム・フォルカーの事件はその猟奇的な内容ゆえ人々の関心を引き、風評被害などによりサルタ村休息地の温泉街が致命的な打撃を受けることを考慮し、連続猟奇殺人事件という形では報道されず、ラールの街の壁新聞では、アンナ・ダムフェルド殺害事件の犯人捕まるといった小さな扱いの記事となった。


 フォルカーたちに襲われた家族は9年間で50家族にも及び、被害者は150人を超えるのではないかという村ひとつ全部食い殺したかのような大惨事であった。この事件は緘口令が弱い、50家族も行方不明になっているのだから隠し通せるわけなどない。すぐブン屋に嗅ぎ付けられてオオゴトになるだろう。


 ひとまず事件が一件落着となった翌週、ディムとエルネッタはようやく休息地を後にすることができた。


「はあー、疲れた疲れた、やっと帰れるな。もうしばらく仕事しない。絶対仕事しない」

「何が疲れたって……、もう、衛兵の記録員の手が遅くてほんとイライラするんだ。証言を取るときは速記でメモってあとで清書してくれたら助かるのにね」


「ああ、衛兵がらみの仕事ももうやりたくないな」

「そうだね、ギルドの依頼に絞ろう。……ウマかったけどね」


「あははは、確かにウマかったな、こんなの年に一度あってくれたらいいな」

「衛兵抜きでね」


 衛兵から報奨金の証明書をいただき、さあ帰ろうかと旅館あさひやを一歩出たところで、通りの上手かみてのほうからディムたちを呼ぶ声が聞こえた。


「ディムさん、エルネッタさん!」


 ドロセラさんだ。なかなかイケメンで、見てるだけで腹立つ男といっしょだ。

 アダム・フォルカーが死に、事件の真犯人が明らかとなり解決したため、指名手配が解除され、探索者シーカーのドロセラさんが森に入って四日後にようやく連絡がついて、村に降りてくることができるようになったんだそうだ。


 べつにこのイケメン男にお礼を言われたいわけじゃないし、初対面なので積もる話もない。

 ただ大きく手を振り合って別れることにしたけれど、男はただ深々と頭を下げ続けていた。



----


 休息地のような標高の高い土地から西向きにくだる坂だと、夕焼けが目線よりも下に沈んでいくように錯覚してしまう。だけど角度的に空が圧倒的に広くなり、大地に見えるオブジェクトは、それが山々という壮大な自然であっても、空と比べたら小さく見える。


 また、山脈が小さく見える分、空は壮大で、遥かな高みに筋を引く雲ですらも真っ赤に燃え上がる。


 炎上し、遥か西の国を超えて地平線の彼方へ燃え落ちる太陽に向かって歩きながら、エルネッタさんは今しがた別れてきたカップルの事を考えていたのだろう、つい口をついてこぼれた。


「あのカップル、幸せになれたらいいな」

「へえ、エルネッタさんがそんなこと言うなんて、珍しいね」


「ん? そりゃおまえ……強い女が弱い男を助ける話は、なんだかスカッとするからな」


「スカッとしたならよかったじゃん」


「それがモヤモヤしてるんだ」


「なんでさ?」


「ディムがアサシンを知っていて、わたしに隠し事をしようとするからだ」


 エルネッタは横目でディムを見ながらそんなことを言った。

 嘘をつくことなく、秘密にしたいアサシンのことを話せという意味だ。


「じゃあアサシンが本当に居たとして、エルネッタさんはどうするつもりなのさ?」


「ディムはわたしがソレイユ家の者だと知ってるんだよな?」

「うん」


「家の成り立ちや、王都での役割などは知ってるか?」


 たしか国王と一緒にこの国を建国したメンバーだったはずだけど……。

「うーん、よく知らない。ただ、古い家系だったよね」


「そうだ。常に王のそばにあり、王を守り、国を守る重要な役割を与えられている」


「王国を崩して勇者を殺す者っておとぎ話じゃなかったの?」


「いや、わたしもおとぎ話だと思ってた。だが【勇者】は確かに存在するからな。【アサシン】なんて見た事はないが、本当に居るとすれば見つけ出して、必ず殺さなきゃいけない。もしアサシンがラールなんて田舎町をウロウロしてるんだとしたら、きっとわたしを探してるんだ。殺すためにな」


「ドロセラさんの【盗賊】アビリティと同じだよ。【アサシン】だからって悪いヤツだと決めつけるのは良くないからさ。必ず殺すって、悪いことをしてなくても殺すの?」


「そんなこと言うな、わたしが殺されてもいいのか?」


「いいわけないじゃん。じゃあもし、ぼくがアサシンだったとしたら?」


「だってディムは違うだろう? 【羊飼い】だって言ったじゃないか、あの言葉に嘘はなかった」


 エルネッタさんは複数アビリティのことを知らない。

 ディムは、まだ日が出ていて【アサシン】アビリティが発動する前だというのに、じっと横目で見ながら歩くエルネッタの肩を抱き寄せて、ひょいっと抱き上げた。


 まだ日が出ているのに、何も言わずおもむろに抱き上げられたことを不審に思ったのか、エルネッタさんは少し怪訝そうな表情を見せた。


「ダメだよ、想像力が足りない。ちゃんと想像して。もし、ぼくがエルネッタさんを殺しに来たアサシンだとしたら?」


 そう言ってぼくは、エルネッタさんを抱いたままグイッと抱き寄せ、顔と顔を徐々に近づけて行く。


「ディム……顔が近い、近すぎてほら、想像力が働かないって……」

「ダメだよ、ほら想像して……、悪いアサシンがエルネッタさんを殺そうと狙ってる……」


「……っ!」


 鼻と鼻が触れた!

 エルネッタさんの呼吸が止まって、小刻みに震えてる……。


「想像して、ほら。アサシンがこんな距離にまで近づいてきた。エルネッタさんは槍を使って応戦しないと、きっと……」


「はあっ! 唇が触れた! おまえ何を……唇を、まさかわたしの唇を奪ったのか! ううっ、抵抗できなかった……お前いったいわたしに何をしたんだ。胸が痛い。ディム、ダメだ、わたしが死んでしまう」


「ああっ、ごめんなさい。今のは本当に事故。ギリギリで止めるつもりがエルネッタさん目を閉じちゃったからさ、そっちに気を取られて距離感が疎かになったんだ……」


 あせった。まさか唇が触れ合うギリギリで寸止めするつもりだったのに、まさか触れ合うとは。

 いや、いまのはどさくさに紛れてエルネッタさんの方から唇をつけに来た。


 エルネッタさんは抱き上げられたままディムの首に両手を回して、伸びあがるように姿勢を変えると、腕に力をこめるでもなく、そのFカップぐらいある豊満な胸に、顔をうずめさせた。


「ぶはあっ? どうしたの? もしかしてまたあの病気?」


 エルネッタさんは劣情を誘う瞳でディムを誘惑しながら、その厚めの唇で、ディムのまぶたを味わうかのようにベロっと舌を這わせるという、とてもイヤらしい濃厚なキスをした。


 またエロネッタ状態だ。


 仕方がない。またカサナツの葉の出番だ。


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