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冒険者ギルドで人を探すお仕事をしています  作者: さかい
第四章 ~ 夜を往くもの ~
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[19歳] 監禁部屋を襲撃する

ゲスな犯罪者のヤサを襲撃します。苦手な方はご注意ください。

このような猟奇的犯罪は第四章限りで、以降は扱わないことにします。


 後頭部の毛が逆立つ怖気おぞけを撒き散らしながらアダム・フォルカーという男は、ダムフェルドと二人、この美しい月光に照らし出された道を、ただ談笑しながら休息地の方へ帰って行った。


 他人のステータスを覗き見して背筋が寒くなったのは初めてだった。


 こいつの店でつくってる饅頭って何が入ってるのだろうか。まさか肉まんとかだと絶対に食べたくない。しかもレベル40って、前線にいる兵士でもないくせによく上げたものだ……。


 いや、相手が一般人でも多く殺してるうちに上がったのだとすると、とんでもない奴かもしれない。

 狩人は動物相手にしかしないのに、あの狩人組合の組合長はレベル38を誇っている。

 自分より明らか格下であっても、倒していると少しでも経験値が入り、レベルはあがってゆくということだ。


 肉屋ブッチャーじゃなくてよかった……それだけが救いだった。


 しかしカニバリズムという単語そのものがこの世界のものじゃない。

『知覚』スキルがディムにも理解しやすいように翻訳表示してくれてるとしか考えられない。


「ディム? どうした、中に一人残ってんだろ? どうする? ん? なぜそんな顔をする?」

「いま帰ったやつ、アダム・フォルカー レベル40、【調理士】アビリティにスキルが短剣、解体、カニバリズム、サイコパス……。ねえエルネッタさん、ぼくは絶対にアサシンの方が安全だと思うけど?」


「カニバリズムって何なんですか?」


「人食い嗜好、共食いのことだよ、あいつは女を攫って、三人で楽しんだあと、解体して食ってたんだろうな。ちなみに次の獲物はドロセラさんを予定してる」


「ひっ……そ、それは好ましく……ないです」


「くっそ、アサシンといい勝負だ……」


 そこまで印象が悪いとは思わなかった。

 いつかエルネッタさんに、アサシンの中にもいい奴が居るんだって事を説明して、分かってもらえたらカニバリズムつきのサイコパスとは一緒にしないようにお願いすることにした。


 この世界でカニバリズムとサイコパスはスキルの扱いだということは分かった。



「なあディム、サイコロパスってなんだ?」


「サイコパス。精神病質の事だよ。およそ良心というものが欠如してるんだけど完璧に外面がいいから周囲の人はコロッと騙されるんだ。とても理知的で弁が立つから魅力的に見えるけど、人の痛みが理解できず冷酷で、人を操って利用したり、とにかく嘘をつくことに良心の呵責がない。ああそういえば女にくっついて、自分は働かず、メシ食わせてもらったりする男が多いらしい……。まあ、道徳観念がまったく欠如してるくせに、外面を取り繕うことに長けているから周りの評価がやたら高いっていうね……えっと、これはぼくの事じゃないからね、念のため……」


「ディムが自爆するの珍しいな。わたしは気が付かなかったが、そう言われてみればディムそのものだ」

「くっそ、いいよもう、さっさと小屋の中を制圧して、タイラス・ケイナーをぶん殴って攫おう。腹立ってきた」


 ドアには鍵がかかっていたが、そこはそこ、スキルがなくともドロセラさんの【盗賊】アビリティだけでこんな簡単なカギはわずか五秒ほどでカチッと開いた。才能だけで開錠できるとはすごい。


 背後で槍を構えるエルネッタさんと、戦闘には自信がないというドロセラさんも短剣を構えた。

 ディムはドアを開けた瞬間に矢が飛んできても大丈夫なように構えながらそっとドアを開けて室内へと侵入する。


 だが、山小屋の中はもぬけの殻だった。

 誰も居ない。


 奇妙なことになった。さっきは確かに3人の声がしていて、出て行ったのは2人。

 これはおかしい、第一発見者のタイラス・ケイナーが居るはずなのに、どこかに消えてしまった。


 足跡はさすがに室内だから上から上から踏まれていて、ちょっと見づらいが……、奥の風呂? へと続いていた。こんな山小屋なのに風呂トイレ完備してるのか! と驚いたが、なるほど、温泉の湯を引いてるのだとすると、なんとも贅沢な山小屋だ。


 確かに一人、残っていたはずだが……。

 いや『聴覚』スキルに反応があった。この壁の向こう側から声がする。


 女の声だ。


「ちょっと静かに。物音を立てないで……」


 エルネッタさんもドロセラさんも、足を止め、呼吸すら静かにゆっくりとなるべく音を立てないよう、ディムの捜索に協力した。


 『聴覚』に加えて、集中を維持し『足跡追尾』を強めに発動する。


 みっちり足跡まみれだ、乱雑にべたべたとついた踏み跡から一番新しいものを探すと、左側奥へと続いているように見えた。


 こっちはさっきチラッと見た、風呂だったはず。脱衣場もついてる。


 ここだ、この壁、脱衣所の一番奥の壁の向こうから女性の声が聞こえる。おかしい、山小屋の大きさを考えるとこっちは外だ。



 まさかこの文明レベルでボタン押したら壁がミューンって開くなんてことはないだろうから……と念入りに開閉ギミックを検索すると、床のところに隙間を発見した。


 指が入る。


 持ち上げてみると、すぅっと音もなく、重い隠し扉が開き、奥へ続く。


 まさか下から持ち上げるタイプの隠し扉が仕掛けられていた。


 隠し扉は分厚くなっていて相当な重量があるだろうけど、向こう側にロープで重りと繋がっている。

 カウンターウェイト? 砦の門とか跳ね橋で使う技術かな? そんな大仰なものをこんな秘密基地っぽいところで使うか……。この山小屋、思ったよりもずっとカネがかかってる。


 隠し扉をくぐった先は岩山を人工的に掘った洞窟で、奥行きはそれほど深くなさそう。いちばん奥を右に折れた先からランタンの光が漏れてる。


 ……座敷牢? が左右に四つ。


 人だ、人が毛布にくるまってる?



----------


□ スレイラ・ハーク 16歳 女性

 ヒト族  レベル014

 体力:3566/6370

 経戦:F

 魔力:-

 腕力:F

 敏捷:E

【栽培】E


----------



 16歳の女の子だった。

 座敷牢の奥の隅まで逃れて、小刻みに震えてる……。岩壁にへばりついてまで来訪者ディムたちから逃れようとしている。よほど怖い目に逢ったのだろう。


 いちばん奥の右の部屋、漏れる光から推測するに扉も何もない。首でも絞められているような女性のうめき声が耳障りだ。カウンターウェイトの隠し扉を開いてしまうと防音も考えていないようで、四つある座敷牢に声が響く構造になってる。


 姿を見せないようにして、苦しむ声だけを聞かる。恐怖を演出するのはもってこいだ。


 振り返ってみるとエルネッタさんは槍先の鞘を外して準備完了、ドロセラさんのほうも短剣を抜いて涙目になりながらも、ひときわ強い眼差しで前を睨みつけている。大丈夫そうだ。


 扉を持ち上げてこの隠し部屋に侵入した時点で、タイラス・ケイナーには気付かれているはず。

 だから、隠し扉を上げてディムたち三人が洞窟エリアに侵入したときから、静かになった。

 タイラス・ケイナーが息を殺して待ち構えているということだ。


 ちなみにタイラス・ケイナーとは会ったことがないからステータスは見ていない。だが狩人であるという情報は得ている。


 しかし、足跡を残しておいて隠れてるつもりなのか。狩人にあるまじき男だ。

 まさか自分が追い詰められるなんて思ってなかったのだろう。


 しかも壁に設置してあるランタンが人影を映し出していて、通路から動きが手に取るように分かる。

 いま弓を構えようとしているのが影絵のようにハッキリ見えるんだから。


 アホだとしか言いようがない。


 エルネッタさんが盾も持たずに狩人の待ち伏せる小部屋へ我先にと飛び込もうとするのを引き戻し、ディムが一歩前を行く。エルネッタさんはいついかなる時も感情に任せて行動するから、危なっかしくてしょうがない。


 すぐ近く、角を右に向いたらタイラス・ケイナーが弓を構えて待ち伏せている。

 相手にも当然こちらの侵入は知れている。だからこそ、声をかけると言うのは有効な戦術だ。


「お楽しみのところお邪魔しますよ」


「だっ! 誰だっ!」


 タイラス・ケイナーが弓を構えて威圧を強める。だけどこっちは三人、敵はひとり。

 狭い密室だ、矢を放った瞬間、次の矢をつがえる時間など与えてもらえるわけがない。全員に襲い掛かられて殺されることぐらい分かってるはずだ。


 この狭い小部屋の中、状況を掌握したことを確認すると洞窟内にエルネッタさんの口上こうじょうが響いた。


「弓と矢を捨てろ、言う通りにしないと死ぬことになるぞ?」


 エコーがかかったようなようないい声で発せられたエルネッタさんの怒りは、とてもありきたりな定型文のような言葉だった。


 タイラス・ケイナーの手の届く位置に武器になるようなものがないかと部屋の様子を窺うと、ディムはあらためて絶句した。


 三角木馬に、首輪、チェーンと縄、鞭、拘束具つきの拷問椅子、はりつけにするのだろう、手枷と足枷が打ち込まれた壁……。

 拷問部屋? というよりも、どっちかというと悪趣味なプレイルームだ。


 それも男女とも合意の上で楽しむようなプレイではなく、拷問と殺害を目的とした器具がびっしりと、商店のように並べられている。


 何に使うのかは分からないけれど、見ただけで怖気を誘う針が曲がったような器具、鈍く光を反射していて置き場所は理路整然としていてミリ単位の正確さで陳列するように置かれている。


 大きさの順に向きまでしっかり整えられていて、まるで鉛筆立てに立てている鉛筆の長さまで一定じゃないと気に入らないかのような、病的とも映る神経質さを感じた。



 首輪をつけられ、全裸で天井から吊るされている、きれいな肌の若い女性。細身でスタイルがいい、こんなところに捕まってさえいなければ、草原と花が似合うだろう可憐な少女だった。



 それに加えて上半身が裸で、パンツ一丁になった醜い中年のだらしない身体つきのオッサンが弓を構えている。美しい全裸の女性と並んで立ってるもんだから豚のような醜さが際立つ。



----------


□ ハレイサ・ハーク 18歳 女性

 ヒト族  レベル016

 体力:2681/7514

 経戦:F

 魔力:-

 腕力:F

 敏捷:E

【栽培】E /草花の知識E



□ タイラス・ケイナー 46歳 男性

 ヒト族  レベル030

 体力:20643/22256

 経戦:E

 魔力:-

 腕力:C

 敏捷:B

【狩猟】C /追跡D /弓術C


----------



 ディムたちは第一発見者タイラス・ケイナーの犯罪を第一発見してしまった。


 若い女を拉致監禁しての強姦。状況的に強姦目的の誘拐もやっちゃってrだろうから、初犯でも20年は食らう重罪だ。座敷牢にいた女性たちにも関与しているとすれば、下手すると縛り首にもなりかねない。


 アビリティとスキルは思ったよりノーマルだけど……、やってることはアブノーマルだった。


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