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冒険者ギルドで人を探すお仕事をしています  作者: さかい
第四章 ~ 夜を往くもの ~
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[19歳] ディム、とうとう女性を拉致してしまう

プロローグの第一話のところにタイトル絵を描いて、貼り付けておきました。

お暇な方、見てやってくださいまし。



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 エルネッタさんと一緒に宿に戻ると、ディムはリュックの中に突っ込んであったレポートを引っ張り出して、事件のあらましなんかを説明している。マッサージしながらなのでちゃんと聞いてくれてるのか怪しいほど生返事を繰り返してるけど、さっきもしっかり寝かしつけたと思ったのに、こっそり出て行ったのをしっかり尾行つけてきたのだから、きっと伝わってるはずだ。……と思う。


「だけどディム、おまえ今日たったあれだけの話であいつが犯人だと言い当てたのか。 すごいな」


「んー? 怪しいと思っただけだよ? あれだけ衛兵をこき下ろしておいて、いざ犯人だけは衛兵の言った事を鵜呑みにしてる。せっかくエルネッタさんがいるんだから『お前が犯人だろう!』って言ってやるのが簡単じゃん」


「はあ? もしかして関係者全員それで試すつもりだったのか?」


「だって犯人は元カレじゃないよね、女を乱暴したってことは抱き合うぐらい接近して、まあいろんな意味で揉み合いになったって事でしょ? 首を絞めても殺せるだろうし、短剣で刺せば簡単なのに、なんで矢を射る必要があるのさ? それもご丁寧に狩りに使う名入りの矢を胸に残して行ってる。アホだよね。こういうのは証拠過多って言うんだ。こんなの普通、無能で頭のユルい衛兵さんにでも分かりやすく誘導するため、わざと残されたものじゃないかな? って疑うでしょ。証拠過多で誘導された犯人を『あいつだ』なんて決めつけるような奴がいちばん怪しいよ」


「……ま、まあお前の性格の悪さは筋金入りだということは良く分かった。ひん曲がってる」


「じゃあさエルネッタさん、もし仮にだよ? 犯人が本当に元カレのダリアス・ハレイシャだったら、もうとっくにこんな村から離れてると思わない? 事件からはや三か月でしょ? 王都や首都なんて通り過ぎて西の国境を越えるルートで国外に逃れてるよきっと。こんな温泉街にまだ居るなんて考えられないじゃん。ダリアス・ハレイシャが犯人だったらもうとっくに逃げてるから今更見つかんないよ。それでも探す気なら、真犯人は別に居てくれないと絶対に見つからないし」


「名探偵かと思ったらペテン師だった。バカバカしいったらありゃしない。わたしが行かなかったらどうしたんだ?」

「名探偵路線で別のラインからあたるつもりだった。ぼくをペテン師にしたのはエルネッタさんだからね」


「元締めみたいな言い方はやめてくれ。ほんと……」



 いい加減夜も更けて、明日の予定を名探偵モードに決め、エルネッタさんのメンテナンス、そろそろ終わって寝ようかと思ったところだった。


 さっきの土産物屋の主人が犯人だと看破してしまったから、もしかしたら何かあるかもしれないと思って念のため発動しておいた『聴覚』スキルに反応があった。足音を消して、すり足で誰かが近付いてくる。


 足音は一人……。

 こっちは二人ともゴールドメダル見せたのに、腕に相当な自信があると見える。


「エルネッタさん、お客さんだ。槍を持ってドアの脇に」

「あーもう、せっかくマッサージがいいとこだったのに……せっかちな野郎だ。わたしの安息を奪った罪で死刑にしてやろう」



 足音は二人の部屋に近付くにつれてゆっくりになり、ドアの前に立った。

 聴覚スキルを発動してるから心音まで聞こえてくる。

 けっこうドキドキしてる、熟練の暗殺者ではなさそうだ。


 そしてドアの外に立つものは、ノックもせず蚊の鳴くような小さな声で語り掛けた。


(お願いです。もし聞こえているのなら、ドアを開けて中に入れてほしい)


 女の声だ。しかも聞き覚えがある。


 振り返ってみるけど、エルネッタさんには聞こえてないか……。


 本当に人を試すようなことばかりする人だった。


 ディムはエルネッタさんに目配せしてからドアのカギを開け、深夜の来訪者を迎え入れることにした。


「ドロセラさん? ですね。どうぞ」


「ドロセラ? 誰だ? 女の名前? ダメだなこれは……ディムも死刑にするか……」


 エルネッタさんは女の名を聞いていっぺんに不機嫌になってしまった。



 部屋に招かれてぺこりと一礼して入ってきたのは美しく、高身長でスマートな女性だった。

 露骨に怪訝な表情で迎えるエルネッタさん。

 

 ディムはいま結構な焦燥感を覚えている。なにしろ背後から突き刺さる視線が凍るほど冷たいのだから。


「どうしたんですか? こんな夜更けに……」

「あ、はい、すみません。お邪魔ですよね」

 まさか女連れだと思わなかったのか、途端に遠慮し始めるドロセラさんと、


「ああ、邪魔だ!」

「露骨に邪魔とか言っちゃダメ」


 ドロセラさんがいうお邪魔は、きっと二人お楽しみのところをお邪魔してすみませんという意味のお邪魔だ。エルネッタさんの言う邪魔とはちょっとだけニュアンスが違う気がする。


「ほう、ディムおまえこんな夜中に部屋を訪ねてくるような女の肩を持つのか……ほう……」

「エルネッタさん、ちょっと、ほんとちょっとだけ話を聞こうか」


 このひとは……本当にもう、自分が妬いてるという自覚が、まったくもって一ミリもないのあたり、非常にやりづらい。


「ちょっと目を離したらすぐこれだ……」

「呆れ顔で言うようなこと? それ」


「パトリシアも可哀想に、もう二番手、三番手まで落ちたのか……」


 言い方が悪い。

すっごく人聞きが悪い。


 でもこっそり自分を上にあげてるあたりが可愛いから許そう。



「はい、エルネッタさん話が始まらないから、ほんとゴメン、あとで説明するけどこのひと、ここの案内所でギルドの受付と温泉ソムリエを兼任してる人で、ドロセラさん」


 ドロセラさんは紹介を受けて言葉なくただ目を伏せるという形で挨拶をした。

 エルネッタさんは壁に槍を立てかけながら、不機嫌なオーラを発散すると今さっきまでマッサージしてた布団にどっかと腰かけ、あぐらを組んで、こちらに向きなおった。


 まるで盗賊団の棟梁が "よし、話を聞いてやろう" とでもいうような態度だ。


「あの、えっと、すみませんこちらのかたは……」

「はあ? 何よ? わたしが居たら邪魔なわけ?」


「ああ、もう違うってば、このひとはエルネッタさんといってぼくのパートナーです。公私ともにね」

「ああっ、奥さまだったのですね、失礼しました、あの……」


 奥さま……ん? あれ? エルネッタさんが否定しない……。全力で否定されるのもショックだけど、肯定気味に黙っていられるのも後が怖い気がする。


 たぶんドロセラさんはディムが殺人事件を追うために来た捜索者サーチャーだから女性と一緒に来てるとは思わなかったんだろうな。だけど温泉の事をあれだけ聞いたのに、宿帳も見ずにひとり客だと思って入ってきたということだ。本当に二人連れだとは思わなかったとするならこの人の【盗賊】アビリティを有効利用したことがないというのは本当なのだろう。迂闊を通り越して浅はかだ。


 短剣の扱いに長けてはいたけれど、こんな事じゃとても盗賊なんてできやしない。この人に対してはちょっとだけ警戒を解いてもよさそうな気がする。


「同席しても大丈夫ですよ、ぼくは助手なので。ところで今日は何を?」


「はい、あの、ディムさんは賞金首になったダリアスを追ってここに来たのだと思いますが、ダリアスは犯人じゃありません……」


「いや、ぼくが受けたのはダリアス・ハレイシャを捕まえるだけなんて簡単な依頼じゃなくて、事件を解決しないと報奨金が出ないタイプの難しい依頼なんだ。ドロセラさんはダリアス・ハレイシャを知ってるんですね」


「はい」


 ダリアス・ハレイシャのことを "ダリアス" とファーストネームで呼ぶ仲か……。

 面倒なことにならなきゃいいけど。


「興味深いですね、まあその辺に座って。まずはそう思う理由を答えていただけますか」


 ドロセラさんは腰につけたナイフベルトから短剣を外してその場に正座すると、床に短剣をコトっと置いて、胸を張って背筋を伸ばし、きっぱりと言ってのけた。


「事件の夜、私たちは一緒にいたからです」

「そこ詳しくお願いします。あと、それは衛兵に言いましたか?」


「はい、ちゃんと言いました。でも私はあの……彼を守るためなら平気で嘘をつくような立場なので、わたしの証言は採用されませんでした」


 それは【盗賊】アビリティを持ちながら偽名でいるから信用されないという意味なのか、それともダリアス・ハレイシャと恋人の関係にあるということなのか。


「ドロセラさんとダリアス・ハレイシャとの関係を明らかにしていただけますか?」

「はい、付き合ってます」


「で、ぼくたちにどうしてほしくてここに来たの? ダリアス・ハレイシャを見逃せと?」

「見逃すも何も、彼は何もしていません。それを言いに来ただけです」


「言いに来ただけ? なんでまた? 何だか妙に親切ですね。ふうん、でもそれってややこしいことになるよね、被害者のアンナ・ダムフェルドは、あの土産物屋の主人と結婚する前は、ダリアス・ハレイシャと付き合ってたんでしょ? じゃあ、あなたにもアンナ・ダムフェルドを殺す動機はあるってことだからね」


 ディムは話の途中から立ち上がり、そっとドロセラさんの背後に回り込むと、ドアにカギをかけた。

 ディムの動きに合わせてあぐらで座ったまま片膝を立てて睨みを利かせるエルネッタさん。

 いつでも動ける姿勢だ。急に襲われても対応できる。


 打ち合わせなしでこの阿吽の呼吸。エルネッタさんはディムの事を性格が悪いという。だけどディムに言わせればエルネッタさんも人の事を言えないぐらいワルだ。いい夫婦になれると思う。さっき "奥さまだったのですね" と言われて何も反論しなかったことを突っ込んで、なんとか付き合ってもらえるよう、あとでちょっと口説いてやろう。


「あの……何を……」

「今の状況を説明しますとですね、残念ですが……たった今あなたは、ぼくたちに拉致されたという事です。抵抗するとひどい目に遭うので、どうか大人しく」



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