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冒険者ギルドで人を探すお仕事をしています  作者: さかい
第四章 ~ 夜を往くもの ~
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[19歳] エルネッタさん名探偵になる

 エルネッタさんの乱入には驚いたけど、助手だというなら助手をやってもらおう。

 まずは被害者の夫、ムゲノ・ダムフェルドから必要な情報を引き出す。


「えっと、この度はご愁傷さまでした。あの、すみません。奥さまの行方不明になる前後の話をお伺いしたいのですが」


「妻は遺体で見つかった。行方不明になる前後のことなんて今更関係あるのかね? そんな事よりも犯人が分かってるんだから犯人を捕まえてくれ」


 ダムフェルドは怪訝そうな顔で今更と言った。確かにもう三ヵ月も前に起こった事件で、衛兵は犯人をダリアス・ハレイシャと決めつけていて、冒険者ギルドへの依頼は、逃走中のダリアス・ハレイシャを見つけ出してほしいということだ。もちろん別に真犯人がいれば真犯人が優先されるらしいが、ダリアス・ハレイシャを見つける以外の事をするのは無駄な労働になるだろう。


「ええ、そうです。犯人の隠れ家に辿り着く重要な情報が隠されてるかもしれません」


 被害者の夫ムゲノ・ダムフェルドはイライラを隠し切れない様子でディムの質問に答えた。

 ディムの関心は、質問の回答よりも、自分の意図しない質問を受けた時の態度のほうにあったのだが、証言から整理していくのはセオリーだ。注意深く顔色を窺いながら話の整合性を詰めて行く。



・アンナが結婚してからも元カレであるダリアス・ハレイシャは、アンナに付きまとっていた。

 これは俗にいうストーカーというやつだ。


・アンナが行方不明になる数日前、衛兵に『妻の元カレが妻に付きまとってるから何とかしてくれ』と訴えかけるも無碍むげに断られてしまった。


 日本のようにストーカー規制法なんてないので、妻の身を案じるのなら傭兵でも雇って護衛してもらうしかない。一日二日で付きまといが終わるのならいいけれど、無期限に護衛をつけ続けるなんて貴族さまでもなければ土台無理な話、かかる費用を考えると現実的じゃない。


・アンナの様子はいつもと変わらず、だけど土産物の温泉饅頭をひとりで引き取りに行ったまま帰ってこなかった。


 なお、温泉饅頭を作ってる饅頭屋にアンナは現れてない。土産物屋から饅頭屋までは休息地の大きな通りを300メートルほど歩けばつく。この通りは深夜ならまだしも真昼間には常に人通りがあって、とても人目につく。悲鳴なんて上げようものならその時点で拉致誘拐事件が発覚してしまうことになる。


 つまり、強引に攫われたのではなく、顔見知りの、しかも相当に親しいものが連れ去ったか、もしくはアンナ本人の意思で通りから外れどこかへ行ったかってことになる。


「いつアンナさんが行方不明になったと判断しましたか?」


「午後いち(13時ごろ)ですぐ近くの饅頭屋に出かけたのに、午後半(15時)になっても戻らなかったから、心配になって店番を手伝いのタムチに任せて饅頭屋に行ったら来てないという。道中の思い当たる所や、知り合いの店などに声をかけて見てないかと聞いたけど、誰も見てなかったんだ。それでも夕刻前(17時前後)まで帰りを待ったんだが……まったく、衛兵の奴ら少しも役に立たない。未然に防ぐことも出来たはずだし、起こってしまった事への対処も遅れて結局犯人を取り逃がしてしまった」


 なるほど、妻の元カレが付きまとってるから何とかしてくれと訴えられたのを無碍に断ったら殺人事件になってしまったから衛兵の警察組織が批判されてる。だから早期解決したいのに相手は狩人で森に逃げ込まれたら手も足も出ないことから、懸賞金をかけたという事だ。


 実は昨日のうちに衛兵の詰め所に行って再確認したけど、アンナが行方不明になってから三日後に遺体が発見され、衛兵の鑑定では死亡後約一日ということだった。この世界の衛兵の法医学なんて拙いもので、死後三日を経過すると一気に精度がガタ落ちするのだけど、死後三日以内であればある程度信用できる。行方不明だった期間が三日、そのうち一日は死体だったとすると、最初の一日は殺されてなかったということだ。


「ではアンナさんが行方不明になったと分かってから、遺体発見までの、あなたの事をおしえてください。まず、アンナさんが帰らないということで衛兵の詰め所に捜索願を出しに行ってからどうしていましたか」


「私? もしかして私が疑われているのか?」


「そこにヒントがある可能性があるんです、出来るだけ思い出して、ちゃんと答えてください。協力していただければ犯人逮捕が早まります」


「そういう事なら是非もないが……。少し不愉快だ。いまさら土地勘もない遠い街の捜索者サーチャーが来て何が出来るのかは分からんが、妻を殺したあのクソ野郎を縛り首にしてくれるなら何でも話す」


・アンナが行方不明になった晩、夫であるムゲノ・ダムフェルドは知人など約20人ほど集めて、通りに面した商店、通りを外れた民家など、この小さな村、休息地サルタ全ての家の門戸を叩いて探し回った。


・村の中を捜索してくれた者の中には、第一発見者のタイラス・ケイナーもまざっていた。


・捜索した村の衆の中で事件当時自宅にいなかったのは、重要参考人となっている第一容疑者、ダリアス・ハレイシャただ一人。アンナが行方不明になった晩に。なお、この男は事件から三か月たった現在に至るも姿を見せていない。つまり、アンナが行方不明になった晩、居場所が特定できなかったのは、このダリアス・ハレイシャ(元カレ)と、あと温泉宿に泊まっていた宿泊客だけ。


 なんでこんな片手落ちなことをするのだろう、平日でも全部の宿の宿泊客を合わせたら100人近い人間がこの休息地にいるのに、宿泊客を見逃した時点で全部の家の門戸を叩いて回ったという努力なんてなかったのと同じことだ。



・アンナは行方不明から二晩たった三日後の午後、狩人ハンタータイラス・ケイナーが、仕掛けた罠に獲物がかかっていないか確認するため森に入ったところ、狩人たちが使う獣道から一段下がった土手の下で見つかった。


「一報を聞いたのはいつ頃でしたか? 聞いてどう行動しましたか?」

「ケイナーから聞いて現場まで走って行ったらもう衛兵たちに囲まれていて、触ることも許されなかったよ。ただ遺体を見せられて妻かどうかを聞かれただけだ」


「なるほど、第一発見者タイラス・ケイナーは遺体を発見したことを衛兵に報告した後、あなたにも報告したんですね」

「そうだ」


「とても残酷な質問をするかもしれませんが、もう一度よく思い出して答えてくださいね、奥さんはどういう死に方をしていましたか?」


「胸に矢が刺さっていた。衣服は乱れていて……もういいだろう! そんな事を聞いて何の意味がある!」


「すみませんでした。では最後に一つ、お伺いしていいですか?」

「いいですよ、不愉快だがね」


 ぼくは横にいるエルネッタさんに目配せしたあと夫ムゲノ・ダムフェルドをちょっと強めに睨みつけながら最後の質問を投げかけた。


「ムゲノ・ダムフェルドさん。あなたが殺したんじゃないですか? もしくは殺害に関わってる」


「何を言うんだ、私が妻を? そんなことあるわけがないだろう。あんたどこの捜索者サーチャーだ? 失礼にも程があるぞ。犯人はダリアス・ハレイシャに間違いない、衛兵だってそう言ってるじゃないか」


「ああっ、これは失礼。申し訳ありませんでした。どーもすいません、じゃあわたしたちはここらで。また寄らせていただくかもしれませんが、そのときはまた」


「若いからって失礼が許されると思わないことだ。まずは礼儀から学んでくるのをおすすめする」


 追い出されるようにそそくさと土産物屋を出ると、よその店はだいたい店じまいをしていて、これ以上はもう情報収集はできなさそうだ。明日は昼間から動いてみるか……と。


「エルネッタさん、あの男の話どうだった?」

「嘘だった。あの男は殺してないと言ったが、真っ赤な嘘だ。あの男の嘘は分かった。だがなディム、お前もなぜわたしに内緒でこういうことをする必要がある?」


「あんな厳しい戦闘を長い時間続けた後なんだ。精神的にも肉体的にもだいぶ疲れたでしょ? 身体の疲れは休めばすぐにとれるけど、強いストレスを受けるとそうはいかないんだ。エルネッタさんには休んで欲しかった。それだけだよ。嘘偽りなくね」


 嘘は言ってないぞという気持ちを押し出し、エルネッタさんの真正面に向きなおして言った。

 本当は、エルネッタさんには護衛に行ってほしくないという気持ちも半分ある。あの戦闘でもしエルネッタさんが殺されていたらと考えたら夜も眠れない。


 あんまり夜寝ないということは置いといても。だ。


「ありがとうな。だけど秘密にされると、心配なんだ」

「分かったよ、もう秘密にしないから」


「ん。じゃあ依頼の詳細を言ってみろ。わたしは助手だからな」

「助手ぅー? たったいま犯人を見つけたのはエルネッタさんでしょ。あとは証拠を見つけてあいつを被害者ヅラさせないようにするだけだからね、ぼくのほうが助手だよ。リュックにレポートあるから読みに戻ろう。でもぼくについてくるなら明日の昼にはお風呂入れないよ」


「お風呂は気持ちいいけど、こっちのほうが面白そうだ」


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