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冒険者ギルドで人を探すお仕事をしています  作者: さかい
第四章 ~ 夜を往くもの ~
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[19歳] エルネッタさん助手になる

第四章冒頭の [19歳] 極悪ふた股ヒモ男 【挿絵】

軽く挿絵など挟んでみました。流行りの絵柄じゃなくてすみません。絵柄が古いと言われます。


 源泉は熱い。80度ぐらいあるから水で埋めるか冷ますかという選択になるんだけど、ここの温泉じゃあ水で埋めてるらしい。

 温泉成分が薄くなるぐらいでちょうどいいってことは、源泉は相当濃いと見た。


 調温されたお湯が渦巻く温泉場で、手のひらにお湯を掬って口へと運ぶ。

 火山性の温泉じゃないからか、独特の匂いがないし、有毒な成分も少ないだろう。ドロセラさんはコップ半分ぐらいまでなら体にいいって言ってたけど……。


――― んぐんぐっ……。


 舌の上を転がして、口の中すべてに行き渡らせるように……。



 しょっぱい。源泉は海水が主成分なのだろう。


 『拾い食い』スキルは料理の味からだいたいのレシピを推測するスキルだから、塩分がどれだけ混ざってるか……ぐらいしか分からなかった。


 しょっぱい味。水で埋めて薄まった状態でも、たぶん味噌汁ぐらいの塩分濃度だからこんなの常飲してたら高血圧で死ねる。とてもじゃないけど温泉のメインお客さん層である年寄りには厳しい。炭酸塩硬度が高いアルカリ硬水だ。主成分はたぶんカルシウム。炭酸ガスが溶け込んでるから、この風呂に入ると肌や産毛に細かい泡がびっしりと付着する。もちろん自身も入浴して温まったけど、炭酸泉はいい。だけど二酸化炭素は家には持ち帰ることができない。


 入浴剤なんて簡単に作れると思ってたんだけど、この世界って塩の値段が高い。カルシウムと言うと骨粉だけど、何の骨粉持ってこられるか分かんないし、ある意味ちょっとしたホラーだし。


 入浴剤は思ったより難しいようだ。

 またこんどパトリシアに相談してみることにする。



 そろそろエルネッタさんが風呂から上がってくる時間だからと、ちょっと急いで部屋に戻ったのに、もうすでに茹でダコみたいになって座敷に座って、かるくお酒を飲み始めていた。


「早かったね。ちょっとまって、すぐマッサージするから」


 身体が熱を帯びてホカホカの内に左肩の古傷から順番に筋肉と関節をほぐしてゆく。マッサージしたあとにまた温泉につかるのも悪くない。


「なあ、わたしが温泉に入ってる間おまえ何してたんだ?」

「温泉ソムリエと話をしてたんだ。ここの温泉の粉を持って帰ったら、家の風呂に混ぜるだけで温泉になるじゃん? まあ炭酸は持って帰れないけどさ」


「ふうん、ディムはいろんなこと考えるんだな」

「べつに、ここまで来なくても温泉はいれるなら楽じゃん。ただ楽をしたいだけだよぼくは」


「そうか、じゃあなんでもうあとは寝るだけなのに服を着替えないんだ?」

「もしかしてエルネッタさんぼくを疑ってる? いや……、それは疑ってる目だよね」


「疑うというのは言葉が悪いな。まーたコソコソわたしに隠れて何かしてんじゃないかと疑ってる。ディムは昨日もわたしが眠ってから外に出ていっただろ?」


「浮気なんかしてないよ?」


「浮気も何もわたしたちはまだ付き合ってもいないからな」

「まだ? いままだって言ったよね、ってことは将来的に付き合うけど、まだ付き合ってないって意味でいいんだよね?」


 これはディムの常套手段。自分の話したくない内容の話になったら、こうやって話を逸らそうとする。

 ここで即座に否定したり反論して食って掛かるとディムの思うつぼ。


 今日のエルネッタは呆れたという表情を見せるにとどめた。


「危ないことはしてないんだな?」

「うん、ぜんぜん」


「仕方ないな。今日のところはそれで誤魔化されてやるとするか」


 それからあと、ゆっくりマッサージを続けるとエルネッタさんから言葉がなくなり、ウトウトし始めたのを確認すると、布団に寝かしつけ、掛け布団をかけてやると、ディムは静かに部屋を出た。


 殺人事件の調査だ。




 せっかくの温泉回だというのに、覗きも混浴もポロリもなしで、三か月前、新婚ほやほやの奥さんを乱暴された上、殺されてしまったというムゲノ・ダムフェルドの経営する土産物屋に来ている。

 ちなみにエルネッタさんと一緒に泊まってる温泉宿からは小さな通りを挟んで斜め向かい。

 新婚で奥さんがいなくなって、見つかったと思ったら殺されてました……なんて、断腸の思いだろう。


 ここの店、土産物とはいっても木彫りの人形とか、良縁のお守りとか、陶器の器とか、ペナントとか、剣の柄につけるキーホルダーのようなリングだ。

 フリーサイズの湯あみ着とか。石鹸とか入浴剤があったら買っていこうと思ったけれど、今日はそんな用件で来たんじゃない。



 閉店時刻が近いらしく店内は寂れていて年齢ぱっと見30歳ちょっとぐらいのやせこけたお兄さんが店番をしている。第一印象は、辛気臭しんきくさい男だな……と思った。



----------


□ ムゲノ・ダムフェルド 33歳 男性

 ヒト族  レベル026

 体力:15442/16050

 経戦:E

 魔力:-

 腕力:D

 敏捷:D

【栽培】E


----------


 ステータスを読んでみるとこの男が妻を殺されたムゲノ・ダムフェルドだった。

 ダムフェルドはディムが店に入ったのに気付くと視線を合わせることもなく、半ば疲れたような気のない挨拶で迎えた。


「らっしゃい」


 Aランク捜索者サーチャーあかし、ゴールドメダルを取り出して、チェーンをぶらぶらさせながら目配せすると、相手も用件が分かったようだ。


「こんばんわ。まだ店開いててよかった。ちょっとお伺いしたいことがありまして」

「おおっ、捜索者サーチャーのゴールドメダル? その若さで? あっ失礼、捜索者サーチャーのゴールドメダルなんて初めてみたものですから。優秀なのですね、こんな辺境の休息地にまで足を運んでいただき、感謝します。はやくダリアス・ハレイシャを捕まえてください」


 奥さんの話から順番に聞かせて欲しかったのだけど、初手からダリアス・ハレイシャが犯人と決めつけていた。ディムは先入観を嫌う。感触としては、まだダリアス・ハレイシャは犯人じゃないかもしれないと思ってるのだけど、あれだけ証拠が揃っていたのでは、仕方ないのだろう。



「えっと、事件のことでちょっと……」


 質問を始めようとしていたところにまた来客があり、店主の気が削がれた。


「いらっしゃ……」


 来客を迎える挨拶としては何を飲み込んだのかと思って振り返ってみたら……、ゴールドメダルをぶらぶらさせながら、エルネッタさんが入ってきた。しかも槍まで装備してる。


 寝かしつけたのに! つけてきたらしい。


 ディムが深く深く、大きなため息をついてる間に、エルネッタさんはすぐ横について挨拶をした。


「わたしは傭兵だけど、今日はこの男の助手だから気にせずに話を聞かせてやってくれ」

「あ、助手のかたでしたか。分かりました」


 エルネッタさんは助手という立場に収まった。

 仕方がない。ちょっと視線が冷たいのが気になるけど、怒ってないみたいだし。あとで怒られるなんてこともなさそうだ。


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