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冒険者ギルドで人を探すお仕事をしています  作者: さかい
第四章 ~ 夜を往くもの ~
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[19歳] エルネッタさん不治の病にかかる

修正、アンナさん矢で死んだのに首を絞められて死んだ以外の外傷は見つからなかったというのを、修正しました。死因は矢が心臓に命中したことによる失血死です。

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 エルネッタたち護衛のパーティ6人は、50人からの隣国の精鋭部隊を相手に一歩も引かず、隊商を守り切ったこと、そして積み荷の大半を奪い返したことから、商工会議所から金一封と感謝状を受け取ることとなった。フェライの街で1週間ほど入院することになったアルスはラールに戻り次第ということになるが、エルネッタたちは一通りの報告を済ませ、ようやく家に帰ることができた。


 本当にエルネッタさんって、三年前には逮捕されたのに、今度は感謝状もらったりしてる。浮き沈みの激しいというか、なんとも忙しい人だ。


「はあっ、疲れた。あーあ、とうとうディムに助けられたなあ」


「エルネッタさん強いからそう簡単には負けないだろうけど、おかげでちょっとした臨時収入になったよ。30万! また服でも買う?」


「わたしも金一封に20万入ってたからな、しばらくのんびりしようか」


「なら休暇をとってどこか旅行いこうよ」


「おおっ? 引きこもりのディムが旅行? それはいいな。行こう行こう」


 ディムは完全夜型で日の高い間はだいたい寝てるし、夜になるとエルネッタさんが帰ってくるから自然と家にいるだけで、夜ならいくらでも外出する気がある。ネトゲのないこの世界じゃ引きこもると退屈なんだ。引きこもりじゃないとだけ言っておこう。


「じゃあぼくが作ったロールマットを持って行こう。やっと満足のいくものができたんだけど」

「ふうん、簡易ベッドみたいなものか?」


「簡易ベッドにもなるし、座布団にもなる。巻いて担げば邪魔にもならないっしょ」

「外で寝るのには慣れてるからな、わたしはべつに要らないかなあ」


 ディムとエルネッタはラールの街のギルドじゃたった二人のゴールドメダルだから指名依頼されることがあるかもしれない。だから旅行などで街を離れるときは報告の義務がある。

 軽く10日ほど旅行に行くことを伝えに立ち寄ったギルドカウンターで、受付のカーリさんから『旅行に行くなら休息地に割のいい依頼があるから、ついでに受けてから行ったらどう?』なんて言われ、気ぜわしいのはゴメンだけど、依頼レポートだけでも目を通しておくことにした。


 依頼、それは殺人事件の容疑者に懸けられた懸賞金のことだった。


 その殺人事件というのは三か月前に貼られた依頼で、まだ未解決のままということで事件が風化して犯人が逃げおおせることを恐れた衛兵が懸賞金を吊り上げたらしい。300万ゼノという、なかなかの金額になっていて、更に都合のいいことに、衛兵の警察組織が絡む懸賞金にはギルド手数料がかからない。

 懸賞金の出所が衛兵だからということらしい。


 レポートを読んでみた。


 被害者は、

 アンナ・ダムフェルド 18歳 既婚女性。三か月前のある日、行方不明となり捜索依頼が出されるが、行方不明から三日後、ひと気のない山中にて他殺体で発見された。

 死因は心臓に矢が命中したことによる失血死。遺体には乱暴された形跡があり、矢が命中した以外の外傷は見当たらなかった。

 死亡推定は発見される前日だから死後一日で見つかってる。

 第一発見者はタイラス・ケイナー 46歳。狩りに出て山道を歩いてたら遺体を見つけた。


 被害者の夫は、ムゲノ・ダムフェルド 33歳 男性

 休息地サルタの温泉街で土産物店を経営してる。

 殺害されたアンナとは、結婚してからまだ半年という新婚だった。


 最重要参考人とされてる容疑者は、

 ダリアス・ハレイシャ 23歳 未婚男性で、サルタの休息地では腕のいい狩人として知られている。この男、実は殺されたアンナ・ダムフェルドの元カレで、事件発覚後、行方をくらませている。

 また、被害者アンナの胸に刺さっていた矢はダリアス・ハレイシャが狩りで使っている名入りのやじりだったことから衛兵はこのダリウス・ハレイシャを最重要参考人として行方を追っている。


「カーリさん、これってこの最重要参考人を衛兵につき出せば依頼達成になるの? それとも別に真犯人がいたらダメ?」


「懸賞金は事件が解決したらってことになるけど、この事件は元カレで決まりじゃないの? 単純な人探しだから捜索者サーチャー向きだし、300万ならディムくんには美味しいかなと思ったんだけど」

「だったらいいんだけどねぇ……」


 エルネッタさんと一緒に温泉もいいなと思った。ゆったり温泉を楽しんで、エルネッタさんの傷ついた身体を癒して、そのついでに受けた殺人事件をちょっとだけ調べてみて、いけそうなら深入り。ダメそうなら早々に諦めてマッサージストに徹すればいい。


「うん、じゃあとりあえず受ける。休息地にはギルドあるの?」

「出張所のような窓口があるだけだから、報告と情報の共有は衛兵の屯所に行った方が手っ取り早いかも」

「そか、ありがと。んじゃそれ受けてみよう」




 休息地までは距離にして50キロぐらい。旅人の足で2日、傭兵の護衛だと3日といった距離感。

 目的地近くがちょっとした高地でファミリー登山道のような階段地獄になってるらしい。正直、温泉を好むような年寄りにはきついと思う。


 ディムとエルネッタは旅装に着替えることもなく、武器だけを担ぐと普段着のままラールの街を出た。

 着の身着のままだ。夜も目が見えるディムと一緒に、ランタンも持たずに出たという事は、夜歩くときは抱き上げてもらう気なのだろう。もちろんディムも承知の上だ。


 せっかくいい夜で、満天の星空の下で眠れるのだから、テントとか持たず地面に敷くロールマットと、あと小さな鍋と水筒を持って出ることにした。水と食べ物の準備は必要だというのに、まったくのんきなことで飲食物に関してはスカッと抜け落ちている。隊商の護衛では武器などの装備品以外はだいたい荷車に乗せてるから自分で担いだことがないらしい。武器と盾しか持ったことがないという……。


 結局、食料と飲み水もある程度はディムが背中に担ぐことになったが、いつもより少し機嫌がいい。

 日帰りならちょくちょく出歩いたりするけど。エルネッタさんと泊まりでどこか旅行だなんて初めての経験なのだから。ディムも19歳。そろそろしっぽりと濡れた夜も経験しておきたいところだ。 


 ラールの北から出て歩くその足取りは軽い。

 べつに急いではないけど、エルネッタさんのいうキャンプ地まで進んでから休憩することにした。

 地図を見るとかなり遠く、距離にしてざっと30キロは離れている。傭兵の護衛ペースなら一晩キャンプする必要があるほどの距離だ。


 雑談しながらダラダラと20キロほど歩いたあたりで日が暮れたので、そこからはエルネッタさんを抱き上げている。不満そうな顔をしているけれど、本当はどこか嬉しく思っていて、それを悟られないようにするため注意を払ってるといった状況だ。最初から嬉しそうな顔をしてしまうと、今後一生、だっこして移動するということになってしまいそうな気がするから。


 このまま抱き上げたまま歩いて行っても朝までには余裕をもって休息地につけると思ったんだけど、エルネッタさんのほうが疲れたのか、何にもないところでキャンプしようと言い出した。


 街道の脇から河原に降りる道があり、少し広くなっていて、荷車のわだちなどがいっぱい残されている。隊商護衛がよくキャンプに利用するのだろう。


 そこは半分河が干上がったような、丸く角の取れた大きな石がそこいらにゴロゴロ転がってる河原だった。今日のところは同じキャンプ地を利用する隊商の護衛もないので、地面の平坦な一等地を占領しロールマットを敷いた。このロールマットが実にいい。地面にゴロンと寝るとき、地面の冷たさから身を守ってもくれるし、ごつごつした石の攻撃から身を守って快眠を約束してくれるスーパーアイテムだ。


「おおっ、なるほどねえ。これイイな。気に入ったよ。次の護衛に持って行くからわたしにもひとつ作ってくれないか」

「なかなかいいでしょこれ。これは試作品なんだけどさ、ぼくの仕事はラールから離れないことが多いから、エルネッタさんが使ってくれたらいいよ。地べたで寝るのは気持ちがいいけど疲れが取れないからね。今みたいな暖かい季節ならいいけど、冷え込む季節はキツイでしょ」


 エルネッタさんが指定した場所なんだから何かあるのかな? と思ったけど、特に何もなし。

 ただ、街も村も遠く離れてしまった中間地点なので、明かりになるようなものがひとつもない。

 焚火なんかすると、何百メートルも先から所在が分かってしまうので、盗賊避けという考え方をするならばここでは焚火もできない。なーんもない、だだっ広いだけの河原だった。


「なあディム。お前の目にこの夜はどう見えてるんだ? 星明りだけでもこんなにも遠くまで見える」

「こんな時はエルネッタさんしか見えてないよ……って言うのが正しいのだろうけど、そうだなあ、ぼくは10歳でアビリティの加護を受けてから暗闇がなくなったんだ。夜はとても美しいよ。空気も湿気を含んでいて頬に冷たく感じるでしょ? その心地よい空気感も映像にしたような感じかなあ」


「そっかー。すごいんだなディムは。わたしは子どもの頃から、夜寝る前の闇が怖かった。闇なんて恐怖の対象でしかなったんだがな、ディムが隣にいると、その闇ですら美しく感じるよ」

「闇は最初から美しいよ、エルネッタさんは人生が美しいことに気付いたんだよ」


「そうかもしれないな。ディムはここがどこか分かるか?」

「んー? どこだろ。ここに来るのは初めてなんだけど……」


「ここはな、わたしとディムが初めて出会った場所だ」


 そこはロマンチックさなんて欠片もない、ただ石がゴロゴロ転がってるだけの河原だった。

 殺風景な、なーんもない。ただ街道の脇に河原が広くなってるからキャンプに使いやすいってだけの、こんな何の変哲もない河原だが、6年前、エルネッタたち隊商の護衛がここにキャンプを張らなければ、ディムは死んでいたのだろう。きっと。


 助けられたディム本人ですら隊商の空いた荷車に縛り付けられて運ばれてるときの記憶ははっきりしないが、エルネッタは頑張れ、必ず助けると手を握って声をかけたり、頬を撫でたり、ディムの意識を繋ぎ止めるため尽力した。


 はっきりしない朦朧とした意識の中で、光が苦手なディムが覚えてるのは、女神の微笑みと、温かな手のぬくもりだった。


 ここで出会ったと言われると、何ひとつ思い出もないにせよ、満天の星空の下、銀河から降り注ぐスコールのような光束のしぶきすらも、いつもよりも、どこの場所よりも美しく感じる


「なあディム。わたしの告白を聞いてくれるか?」

「え? なになに? 告白? ぼくに!!」


「ああそうだ。わたしはどうかしてしまったらしい。ディムに助けられてから心が壊れそうなんだ、胸が苦しい。これはきっと死に至る病だ」


「ええええっ、どうしたの? 病気? 病気なの?」

「ああ、そうだ、すまんなディム。わたしはもう長くない……」


「ダメだよ、気をしっかり持って。エルネッタさんが死んだらぼくも生きていけないよ。だれがぼくを食べさせてくれるのさ」


「すまん。お前は誰かいい人を探して……」


「……ねえエルネッタさん、その病気って誰が診断したの?」

「こんなにも胸が痛いんだ。病気だろう?」


「長くないって? 余命宣告は誰がしたの?」

「こんなに苦しいんだ。わたしはもうすぐ死んでしまうに決まってる」


 自己診断で死にそうなんて言う人がどれだけ信用できないかというのは、長年アルさんと組んで、しょっちゅう死ぬ死ぬなんて泣き言を聞かされてるエルネッタさんには百も承知のはず。


 言動もそうだけど、様子がおかしい。


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