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冒険者ギルドで人を探すお仕事をしています  作者: さかい
第四章 ~ 夜を往くもの ~
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[19歳] 理由

捜索者サーチャーになると過去の軍の命令書と報告書の公開請求できるんだよ。機密扱いになってるとダメだけどね、セイカ侵攻時の対処に関する報告書と命令書を請求したら分かったんだ。セイカが獣人の侵攻を受けた後、ぼくの家族は南のリューベンの町に逃れた。そこまではダグラスも知ってるでしょ? まあ、公開請求してから手元に届くまで1年かかったけどさ」


「ああ、だけど俺はそのあとのことはよく知らないんだ」


「記録では襲撃があった日から12日後、王立騎士団の第一陣がリューベンに到着してるけど、その数たった200。ダグラスは騎士団がきてすぐリューベンを離れたんだよね? だったらそのすぐ後かな、セイカ侵攻から18日後、獣人がリューベンに向けて再び侵攻を始めたんだ。記録では獣人の数が1200。たった200の王国軍に勝ち目なんかこれっぽっちもないよね。だけど戦って避難民を逃がしたはずの王国軍はたった1人の犠牲者も出ていない。オークが混ざってるっていうのに王国軍の戦死者はゼロなんて信じられなかったよ。だからさ、軍の資料だとこれ以上分からないから役所が管理してる戦死者リストを重ね合わせてみたんだ。そしたら獣人たちがリューベンに侵攻した日の撤退戦では、セイカやハルセイカ、リューベンの男たちばかり、約400人が戦死してる」


「まさか、そんな……」

「そうだよ。12歳の少年から78歳のお爺さんまで。その中には村長、うん、ダグラスの爺ちゃんも、イジメっ子のケイオも、おべっか使いのシェライの名前もあった。この国の軍隊が逃げだしてる間に村人が戦って死んだんだ。もしかすると捨て石にされたのかもしれないし、撤退命令が村人たちに届かなかっただけかもしれない。だけど400に対してゼロとなると後ろ暗い意図的なものを感じてしまうよ。ダグラスが先に他の街に逃げていたのは不幸中の幸いだ」


「じゃあディムは王国を憎んでるのか……」


「まさか。ぼくは別に誰かを憎んでるわけじゃないよ。でもそう言われると確かにそうだね、しいて言うなら国か世界か、それとも時代かって話になるしね。だけどさ、ここから先はたとえ話になるけどさ、もし仮にエルネッタさんを逃がすためにぼくが死んだとしたら、ぼくはエルネッタさんにそのあとの人生を、ぼくが生きられなかった分まで美しく生きてほしいと思う。復讐だとか憎しみだとか、そんなもので人生を曇らせてほしくない。ぼくが死んだと思って、いつまでも気にしてウジウジしてるダグラスはバカだ」


「これだ! ほらな、ディムはこういう奴なんだ。ひどすぎて力が抜けてしまうだろ?」


 ダグラスといっしょにフェライの街からきた二人の傭兵。ダグラスと組んで焚火を囲むといつも出てくる勇敢な少年の話があった。たったひとりでオークの戦士2体を食い止め村人たちを逃がしたなんて、酒で話が大きくなった与太話にしても大げさすぎると思っていたが、先程の戦闘を見た限りでは、ダグラスの話ですら控えめだと思った。


「ああ、そうだな。ダグラスはバカってトコは同意するよ」

「はああ? なんで俺がバカってことで落ち着くわけ? 意味わからん」

「ダグラス、男が命を懸けて大切な人を逃がしたんだ。助かった人は、それからの人生を幸せに生きるべきだと。そう言ってんだろ、ディムさんは」


 ディムはそういって理解してくれたダグラスの仲間にサムズアップで応えた。


「その通りだよ。でもさ、なんか勇者さまのパーティが王国北部を取り戻すために出発したって言ってたからね、うまくすればセイカは取り戻されるんじゃない? まあどっちにしろぼくには関係ないけどね」


「勇者サマって何なんだろうな、噂では異世界から召喚されてくるとか聞いたけど、異世界なんて本当にあるのか? うさんくさいな」


「異世界? マジなの? ちょっとその話聞きたいなあ」

 ディムが驚いて素っ頓狂な声を出したのが珍しいと思ったのか、いまもマッサージで夢見心地になりウトウトし始めていたエルネッタが勇者と聞いて目を覚ました。


「まさかディムが異世界や勇者に興味あるとはな。おとぎ話でよければ聞かせてやるぞ?」

「いいね、聞かせて欲しい」


 ゴホンと小さく咳ばらいをしてエルネッタは語る。


「このハーメルン王国は1000年の歴史があるが、建国時から国土拡張を目的とした侵略戦争を行ったことがない。秩序と平和を国是としていて、ヘスロンダ―ルのように小競り合いを仕掛けてくる野蛮な国とも本格的な戦争になったことはなかった。この取ったもん勝ちの世界でなぜこれほど長きにわたって平和を享受できたのかというと、それが勇者の存在だ」


「勇者って1000年の歴史があるの?」


「おとぎ話に正確な年数を求めちゃいけないが、まあだいたいそんなものだと言われてる。初代王ステイメン・ハーメルンが若くして国王になると、しばらくして世界は人魔大戦という、双方の人口の半分以上が死んでしまうという大きな戦禍に見舞われたんだ。セイカが受けたような獣人侵攻の遙かに規模の大きなものだと思ってくれたらいい」


「魔王みたいなのがいたの?」

「魔王ってなんだ? 分からないけど、北の蛮族、魔人と呼ばれる獣人の長が覇権を目指し、世界に対して戦を仕掛けたんだ。人族と獣人も混ざった混成軍隊は強力で、我が国も例外なく滅亡の危機に立たされた。小さな城が焼け落ちる寸前、国王は側近の騎士7人とともに名誉と栄光の名のもとに戦って果てようとしたけれどかなわず、国王が捕らわれ、王国の命運も尽きたと思われたその時、光の女神アスタロッテの使い、この世のものとは思えないほど美しい聖女さまが天馬に乗って現れ、王国滅亡の危機に召喚魔法を使って異世界から勇者を呼び出した」


「うっわ……いっぺんにウソくさくなったよ」


「おとぎ話にいちいち突っ込むな。そして勇者は獣人を蹴散らし、聖女は国王を守り、天馬は雷鳴を呼んで空をかけた。勇者の力は絶大で、何千という大軍に怯まず飛び込んで、敵軍の将を打ち倒したんだ。それから勇者と聖女はハーメルン王国の守護者として崇められ、天駆ける天馬はハーメルン王国勝利の象徴となり、国旗になった」


「あの国旗って天馬だったの? ぼくにはキメラみたいに見えてたよ。なんでも翼つけたら聖なるナンタラになるんだからなあ。聖女さまには翼なかったの?」


「ディムはおとぎ話あんまり好きじゃなさそうだな。むかしの人の言い伝えにいちいちツッコミ入れるなよ、昔話なんてだいたいどこの国でも似たようなものだろう? ハーメルン王国は勇者さまと協力して獣人軍を打倒した最大の貢献国となり、最強国である我が国が平和を推進したから、現在も世界の平和と秩序は守られているという、いい話なんだからな」


「いや、ごめん。常々思ってたことをつい……。でも白い鳥の翼だったら"聖なる"で、コウモリの翼が付いてたら確実に"邪悪な"とかになるんだもんなあ。コウモリって温厚な哺乳類だよ? 鳥なんて人よりも爬虫類の方に近いじゃん。タマゴ生むしさ。コウモリのほうがいくらも人に近い動物なのに可哀想だよ」


「ああー、そうか。ディムは夜行性だからなコウモリの味方したい理由が分かった。だけどな、勇者さまが異世界から降臨された魔法陣は保存されて、その上からかぶせるように大神殿が建てられて今も機能しているぞ? 25年前、実際に勇者さまが降臨されたしな、まあ勇者さまがセイカ村を取り戻しに向かわれたのなら安泰だ。ディムはもうすぐ故郷に帰れるぞ」


「ぼくの帰りを待ってるひとなんて居ないからね、どうだっていいよ」


 異世界転生が実在するんだから異世界転移があっても全然不思議じゃないけどさ、まさか異世界から勇者がくるだなんて自分の事を棚に上げて考えたこともなかった。


「エルネッタさんって勇者しってるんだ」


「わたしが王都にいた頃ってまだ子どもの頃だし、召喚されてきたのが25年ぐらい前になるかな。実際に勇者さまが召喚されてくることなんて建国以来なかったことだから当時の王都では大騒ぎだった」


 で、25年前にやってきた勇者さまが今更のこのこセイカ村を取り戻しにきてくださるってか。

 もと日本人なディムの感覚では勇者サマなんてのは村人のしょーもないお願いを聞いて回る御用聞きのようなイメージがあるのだけど。


 いまどきコテコテのファンタジーRPGでもない限り勇者サマは世界を救わない。

 まあたとえ勇者サマなんてのが本当にいたとしてもディムの居るような場所は勇者サマが通り過ぎることはあっても、会うこともないような辺境の街だし、セイカを取り戻してもらってからでいいから、エルネッタさんと旅行に行ければいい。勇者なんてのは遠い外国の話だ。



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 翌朝にはフェライの街から傭兵の援軍と衛兵たちが大挙して押し寄せ、軍医まで来てくれたおかげでアルスは入院確定。戸板に括りつけられた挙句、荷車に乗せられ、1日かけてフェライの街まで快適な荷車の旅を約束されたわけだ。


「アルス行ってらっしゃい。お前もうフェライの子になっていいぞ」

「ひでえ……俺マジでいらない子なのな」


 ダグラスはバキバキの筋肉痛に見舞われ、下手くそなロボットダンスのような動きになっていたが、エルネッタはディムのおかげもあってほとんど筋肉痛もなく穏やかに回復していった。距離の離れたラールから救援が訪れたのはその翌日の事だった。


 ちなみに薬草士は結局見つからずパトリシアが初の遠征に参加してきた。

 ラールは距離が遠く初動が遅れたので結局、こんな山あいの村に到着したときには全てが終わっていて、パトリシアの出番はなかったけれど。


「ディムさん、これ。新作の育毛剤です。ストレスおつかれさまでした」

「ありがとおおお。ぼくの毛根を心配してくれるのはパトリシアだけだよ」



 ディムたちはこの村で数日を過ごし、軽症者は怪我が癒えるとみんな自分たちの街へと帰って行った。

 ダグラスとは住所を交換して別れた。フェライとラールは旅人の足で2日と少しだし、フェライからラールへくる隊商護衛も多いので、護衛がてらまた遊びに来てくれると約束し、堅く堅く握手を交わした。


 まあ、奪われた荷も取り返したし、商人たちはみんな軽症か無傷。護衛の続きをしながらラールまで戻ることになったのだけれど。ディムはエルネッタさんやパトリシアたちと帰りの旅路をゆっくりと楽しむことにした。

 盾がぶっ壊れたとかで帰りは身軽なんだとか。



 護衛の間の食事は、だいたいが荷車から干し肉とパンを持ち出してかじるのが通例らしいのだけど、せっかく森育ちのディムが同行してるんだからその辺の森や林から食べられそうなものをいっぱい集めてきて振る舞ってあげることにした。


「これはアケビ、これがザクロ、これがビワ。ここいらじゃ何て言うかしらないけど、ぼくはそう呼んでるんだ。美味しいよ」


「これは食べられるのか? ザクロ? グロテスクだが……、このビワってのはアレだ、なんだっけ?」


「シュワの実ですね。甘くて美味しいですよ。こちらのアケビという蔓植物の実はこのあたりじゃウムベといって、強壮の薬効があるので旅の途中で見つけたら食べるといいですね。だけど食べるところなんてほとんどないですよこれ?」


「おおー、いいこと聞いた。ディムか薬草士をパーティに加えたら食糧事情はかなり違ってくるな」


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