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冒険者ギルドで人を探すお仕事をしています  作者: さかい
第四章 ~ 夜を往くもの ~
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[19歳] ディムのつれてきた世界

 村のあちらこちらに転がっている盗賊の死体を集めて端っこに積み上げる作業は、申し訳ないが体力の残っている村人たちにお任せすることにした。

 立ち寄った隊商の荷車も当然のことながら村は略奪の限りを受けていたが、金目のものは村の中央に集められ山積みにされていたので、運よく本来の持ち主のもとへと戻された。


 どんどん積み上げられる盗賊たちの死体。こいつらの正体は敗戦した隣国から逃れてきた兵士だった。

 国を奪われ、愛する家族も奪われ、人としての尊厳も自尊心も踏みにじられた。何もかもを失くしてなお、盗賊に身をやつしてこの土地に流れてきたのだ。こいつらに残ったのは戦う力だけだったのだろう。力を振るう矛先を獣人から村人に変えて刹那的に犯罪を繰り返す集団となった。


 まったく……、行き場を失った力なんて、どうしようもない。



 村の中央の広場には篝火と、木組みの準備が終わりキャンプファイヤー気味の大きな焚火が用意された。夜半から少し冷え込むこの季節にはありがたい。


 村人たちは大変な目にあったというのに、死力を尽くし村人たちを守るために戦った傭兵たちの為にと、なけなしの酒を振る舞ったけれど、酒を飲んで仲間の無事を祝おうなんてできず、パチパチと薪の爆ぜる音を子守歌にしながら、倒れるように眠りに落ちるものが多かった。アルスもその一人。


 ディムはキャンプファイヤーで暖を取りながら、エルネッタを座らせて、酷使された身体をもう何時間もかけてメンテナンスしている。エルネッタはもうウトウトと船を漕ぎはじめていて、焚火の温かさにも釣られ心地よい眠りに落ちようとしていた。


 ダグラスはその隣で胡坐あぐらをかいて、六年ぶりの空気感を味わう。エルネッタの身体をしっかりいたわっているディムと、記憶の中のあの幼馴染のディムの姿を重ね合わせて。


「なあディム、あの後どうなったんだ?」

「んー? あの後って? セイカの話?」


「ああ、あれだけムチャクチャにやられて、良く生きてたと思ってさ」


「んー、普通のオークはどうってことなかったけど、あのデカいほうの刺青いれずみオークが強いのなんの。もうどうにもならなかったから川に投げたら掴まれててさ、一緒に落ちて流された」


「マジかよ! ティムお前たしかアビリティ【羊飼い】だったろ? いったいどんなスキルがあったらあんな岩石の塊みたいなオークをどうってことないなんて言えるんだよ」


「それぐらい刺青いれずみのほうが強かったんだよ」

「マジかー。俺は刺青いれずみじゃないほうにブッ飛ばされたんだけど。なんかディムには助けられてばっかりだ。今日もありがとうな、また助けてくれよ」


 そう言うと、ダグラスはディムに手を差し伸べた。今更だけど、改めて握手を求めた。


「いまちょっと手が離せないからあとでいい?」

「おまえちょっとその女から手を放そうとは思わないの? きっと逃げたりしないと思うぞ?」


「いや、そうじゃなくてさ、改まって握手なんて照れくさいじゃん……」


「はあ、ディムのマイペースは変わらないってか。だけどディムが生きてるって、メイが知ったら驚くぞ。絶対に泣いて喜ぶ。俺の倍は泣くと思うからな、メイを探してやらないといけないか」


「メイは親戚を頼ってサンドラって街にいるらしいんだけど、ダグ知らなかったの?」


「サンドラだったのか。メイはお婆ちゃんの実家に向かうって聞いてたけどさ、分かってるなら手紙ぐらい書いてやれよ。お前が死んだと思ってずっと泣いてたんだぜ、引っ越していくまで一度も笑顔を見なかったぐらいだからな」


「そのうちな。このひと、ぼくが若い女にちょっかい出すと妬くんだ」

「ああ、その女は凄かった。ぜったい敵に回したくないな、あの数の強敵を前にして1ミリも下がらない強情さを持った恐ろしい女だった」


「聞こえてるぞ」

「うああああぁ。いまのは俺なりに精いっぱい称賛した最高の誉め言葉だからな」


「おい悪ガキトリオ。わたしは寝てても悪口だけはよく聞こえるんだよ、あとタカの行方が分かったら全員そろうのか?」


「キングか。キングはいまどうしてっかな?」


「ちがうよ『トールギス』だよ。メイは『ピーちゃん』、ダグラスは『キング』って名付けたけど、ぼくにしかなつかなかったから『トールギス』になったじゃん」


「キングはキングだ」

「トールギスだよ」


「ああ、分かった分かった。お前らが仲いいことは分かったから、もう休もう。今日は疲れた」

「ぼくはまだエルネッタさんのメンテナンスが残ってるから」


「今日はもういいから。なあディム、ハトを飛ばしたのは午後半過ぎ(15時~16時)だ。ハトがラールの街に帰巣するのはギリギリ暗くなるかならないかの夕方だろ? それから夜半前(22時ごろ)にはこんなところまで来てた。三日の道程みちのりを休まずに走ってきて、ついたら戦闘だ。それで疲れてないわけがないだろ? わたしにはディムのステータスは見えないけど、もうフラフラになってるはずだ。わたしを心配させないでくれ」


「エルネッタさんやダグラスと比べたら、ぼくなんかまだまだピンピンしてるさ。レベルも上がったし」

「いくつになったんだ? レベル」

「74」

「はあ? 74? もう追いつけなさそうだ。どんどん離されていく」

「今日の敵は強かったのかな? 倒すたびにレベル上がったように思うけど、いちいち確認なんかしてらんないからさ」



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 まるで故郷にあった家の屋根に上がって、柔らかな風に吹かれるような雰囲気を戦場まで連れてきたディムの、懐かしい空気感に包まれる。さっきまでのピリピリした戦場の空気、一瞬のスキを狙ってくる攻撃を正確に対処しなければ即座に命を奪われるような極限の戦闘を強いられていたのに、ディムが現れると空気が変わったというより、世界が変わったと感じた。


 いっしょに焚火を囲むダグラスは聞いてみたいことがあった。


「なあディム、お前はそれほどの力があって、なぜ獣人たちと戦おうとしないんだ?」


「んー。故郷の村が焼かれたのに? 父さんが死んだのに?」

「違う、そういう意味で言ったんじゃない……おじさん死んだ? のか、すまん悪かった……忘れてくれ」


「いいんだ。戦うかどうかを決めるのはヒトの意思だよ。力のあるなしは関係ないだろ。それにさ……父さんが死んだのはきっと獣人のせいじゃない」


「どういうことだ? なぜそんなことになる」

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