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冒険者ギルドで人を探すお仕事をしています  作者: さかい
第四章 ~ 夜を往くもの ~
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[19歳] 二刀のフューリー

 カタローニの村長が飛ばしたハトの救援要請に応えた援軍がまさか、たったの三人だとは思わなかったが、フェライのエースはひとりで傭兵10人分の突破力を見せると、無視できない強力な男の乱入にエルネッタへと集中していた盗賊たちの攻撃はうまく分散しはじめる。二刀のフューリーが噂通りの男だったおかげでエルネッタは随分助けられた形となった。


「こいつらの中にザコはいねえのか、あんた大盾もちなら守る方が得意なんだろ? うしろ、村人たちを任せられるか?」


「村人っても男衆はケガ人が多いからな、この場で拠点防衛のほうがいいかと思ったんだが……」

「ちなみに足手まといを捨てれば村の外、街道に辿り着けるぞ」

「そんな選択肢、犬に食わせちまったよ。わたしは一人も見捨てたりしない」

「気に入った、説教されてる気分だ耳が痛い……。あと13年若けりゃ口説いてたな」


「わははっ、条件緩和したのにカスリもしてねえ」

「アルスおまえあとでぶっ殺すからな……」


 防衛戦に徹するしんどい戦いの中、たかが盗賊と思っていた敵の盗賊団が実は軍隊なみに訓練を受けた手練れだと知り、その連携攻撃の多彩さに圧倒されつつあるのを察して二刀のフューリーはエルネッタに注意を促した。


「間違いない。これはオークの戦士を相手にする戦術だ。しかも練度が相当に高い。ってことは、国を失ったヘスロンダール軍としか考えられないな。亡国の精鋭部隊せいえいぶたいが山賊まがいとは情けないことこの上ないが……同時に3人以上相手にしちゃダメだ。こっちも最低2人で背中を守り合わないと簡単にやられるぞ」


「聞いたかアルス、ツーマンセルだ!」

「端折りすぎてて分かんねーってば。エルネッタ説明してくれ」


「敵はオークの戦士を相手にしたとき、三人で取り囲んで確実に倒す戦術を使ってる。ひとりで相手してたら勝ち目はないからな、アルスはわたしの横について」

「オークたちを押し返してた精鋭が一転して最悪の盗賊団だなんて笑えねえよ!」


 フューリーたちフェライからの傭兵は隣の村が盗賊団の襲撃を受けたと依頼を受けてこの村に第一陣として先行して駆けつけた。偶然隊商の護衛をしている傭兵たちが助けてくれているが敵の数に圧倒されて旗色が悪いとしか聞いていない。まさか国を失った軍隊たちが盗賊まがいの略奪行為をしているなんて考えてもみなかったのだ。


「この野郎ども、強いはずだ」


 エルネッタたち6人の護衛は三人が怪我をしていて満足には働けなくなった。いま現実に剣を抜いて目の前にある『今そこにある脅威』は、十二人の敵。三人の連携として四グループだ。


 今でも相当まずい状況なのは変わらないが、二刀のフューリーたち三人が応援に加わったおかげで何とかギリギリ防衛戦の形だけは崩さずに維持できている。


 守るべき村人の数は50人を超えている。いま略奪行為と村の制圧に散っている盗賊たちが戦闘に参加してくるとひとたまりもないだろう。


「こいつらの狙いは女だ! 中心に守るよう。男たちは棒でも鍬でもなんでも持て!」



 ギリギリの綱渡りのような戦闘を繰り広げながらも、ゆっくりと、ジリジリ下がってゆく。

 背後には森と、岩壁があった。岩場の方にはたしかすず鉱山があって、すぐ脇の森にはアッシュベアーが徘徊していると聞く。前も地獄、森も地獄、鉱山に逃げるともう逃げ場はない。


「村人の中に、この森に詳しい人はいないか? 守るのに適した場所があったら案内してくれないか」

「夜の森に入るようなバカは居ない! ここいらの森にはアッシュベアーが出るんじゃよ」


「それがそうも言ってられなくなったんだ。敵は村の制圧を終えて、わたしたちとの戦闘に人数を回せるようになってきた。ぞくぞく集まってくるぞ。もう守り切れない」


「いやじゃ、森に入ったらアッシュベアーに食い殺される。ここで盗賊に殺される方がましじゃ」

「ダメか。やっぱり夜の森に好き好んで入って行くようなのはバカしか居ないか……。左の岩壁の方に行けば鉱山の入り口があったな」


「なんだと? それはもっとも愚かな選択だ。敵の動きは俺たちを森よりも岩場の方に誘導しようとしてる。森に逃げ込まれるほうが、より嫌なんだ。鉱山は守るのには向いているがそれは援軍が来るまで敵の猛攻に耐えられるときの戦術だ。もう一歩も下がれなくなるぞ……明日の朝にはフェライから援軍が到着するだろう。だがしかし、それまで持つとでも思っているのか?」


「フェライのエースともあろう男がえらく弱気じゃないか。隠れてればいい。わたしの盾でおまえを守ってあげるから」


「この……なんて強情な女だ。……おまえがあと10年若かったら口説いていたかもしれんな」

「わははは、こんだけ妥協してくれてんのにカスリもしねえ!」

「アルスおまえ、今死ぬか?」



 エルネッタたちは全員で岩壁のくぼ地のほうに逃れるよう引いてくと、村人たちはケガ人を抱えながら女こどもを先頭に、次々と鉱山へと入って行った。もう逃げ場はないし、二刀のフューリーが言った通り、もう一歩たりとも下がることはできない。


 敵軍も森じゃなく岩場の方に誘導するよう配置していたおかげか、ここまでは比較的スムースに移動できた。あとはエルネッタが意地を見せて、翌朝まで敵を一人も通さないようにすればいいだけだ。


 エルネッタの鉄の意志に、二刀のフューリーも賛同する。

「なあに、俺も付き合うさ。もう誰かに守られて、自分だけ逃げるだなんてまっぴらゴメンだからな。俺は逃げない! 絶対にだ」


「なあんだ、わたしに守られていれば痛い目みて泣くこともないんだぞ? フェライの」

「安心しろ、俺の涙はもうとっくに枯れてる。ラールの」



 エルネッタと二刀のフューリーは傷つき、疲れた体に鞭を入れ、数歩前に出てやけに強力な盗賊団に向かって意地を張って見せる。


 盾を地面に置いて裏側に膝を差し込み、グッと腰を落としたエルネッタ。たとえ敵が丸太を振り回してきても一歩も引かない、拠点防衛の構えだ。もっとも得意な構えで敵を迎え撃つ。


 空はもう暗くなっていて、追い詰められた場所ではあるけれど、傍にあった木材を篝火の台に放り込み、火を灯した。これでエルネッタたちは前だけ見ていればいい。


 ぞくぞくと集まってくる敵の軍。数えられるだけで35の敵影。一度に襲い掛かってこられたらエルネッタとて耐えられるようなヤワな敵ではない。しかし隣にいるのはフェライの街のゴールドメダル。連携がうまく行きさえすれば、やれない相手じゃないとそう思った。


「盾もちってことは騎士だろ? あんたのアビリティは?」

「聖騎士だ」


「マジか! すげえな。俺も騎士でね、集団戦の訓練は?」

「イヤってほど受けたよ。ガキの頃だけどな」


「なら戦えるな。二面防御横隊の型!」

「あははは、ガキの頃を思い出してすっごいイヤな気分だが! 爪先の動きまで身体が覚えてる」


 二人とも子どもの頃に騎士の訓練を受けていたおかげで、拠点防衛の型、敵を迎え撃つ型、押し寄せてくる敵を押し返す型、様々な型の隊列を身体で覚えていたことが幸いした。


 騎士は多人数であっても少人数であっても、必ず仲間と背中を預けて、大切なものを守るために戦う基本戦術を身体に叩き込まれる。


 そして敵の防御崩しに対する対処法も当然身体が覚えていて、二人の騎士が連携すると、三人分、四人分の力を発揮することができる。


 迂闊に崩しに来る敵の攻撃を受けず、カウンター気味に片手剣を突き出した。通常の盗賊が相手ならばカウンターなど危険な手段を選ばなくともフューリーの腕があれば倒せる。だが今日の敵はいくつかの布石を打ったあとスキを誘発しないと攻撃すら当たらない。だからいくつもの攻撃を捨てたあと、自分の思ったところに敵の攻撃を誘うことでせんを制する。


 雑魚と思われた末端の盗賊たちでもこれほどの手数を加えないと倒せない。だが、崩しに来ることが分かっているなら戦いようなどいくらでもある。


「オラァ! オークの戦士と比べたらおまえら小動物だぜ!」

「ん? どっかで聞いたことがあるなそれ。お前もオークと戦ったことがあるのか?」


「俺はガキの頃、住んでた村を獣人どもに焼かれたんだ。こんな逆境、あの夜と比べたら屁でもねえな!」


 エルネッタはハッとした。まさかと思った。

 一瞬振り返って背中を預けるこの大男を見る。顔には小さな傷がいくつかあるが、若い。

 二刀のフューリー、20歳前後だ。ディムとあまり変わらない。


 もしかするとディムの知り合いかもしれない。


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