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冒険者ギルドで人を探すお仕事をしています  作者: さかい
第四章 ~ 夜を往くもの ~
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[19歳] エルネッタ遭難す

「……っ! エルネッタさんが?!」


 ディムは何も持たずサンダル履きの普段着のままギルドへ飛び込んだ。

 ギルドで働き始めて四年目だけど、事故を起こしたギルドメンバーの捜索なんて初めての依頼だ。

 しかもそれがエルネッタさんだなんて……、信じられなかった。


 捜索隊が組織されようとしていて、ギルドエリアは騒然、酒場の方でも怒号が飛び交っている。


「ダウロスさん、詳細を」

「まて、まずは……」

「待てません。すぐにお願いします。ぼくが先行しますから」


「仕方ないな。カーリはディムくんに詳細を説明して。地図とオーダーレポートを。説明も聞かず飛び出してしまいそうだ」

「はいっまずはこれを」


 ディムは多忙を究めるカーリを捕まえて半ば強引に情報を聞き出す。

 ギルド長も、エルネッタが事故ったと聞かされて、ディムがのんびり部屋で待ってるだなんて最初から思っていなかったのだろう、ディムのソロ先行を許した。


 こういう非常事態になると傭兵マーシナリーは携行しているハトを飛ばして状況をギルドに知らせる義務がある。

 普段から訓練している伝書鳩の飛行速度は時速50キロ以上。つまり隊商の護衛が2日かけて移動する距離をたった1時間で戻ってくるということだ。


 今回、エルネッタさんの受けた依頼はいつものような往復便のピストン輸送ではなく、目的地四か所を転々として回り、ラールに戻ってくるというルート輸送。その最後の目的地だったカタローニの村に立ち寄った際、村を狙った盗賊団の襲撃に巻き込まれたと書いてあった。


 隊商を狙った襲撃ではなく、村が襲撃されたという。

 村を襲うような、そんな大規模な盗賊団なんて聞いたことがない。


 カタローニは標高500メートルぐらいの低山の中腹あたりにある村で、岩山からすずが産出されることから昔は鉱山の村として栄えていた。

 しかしいまは鉱脈も尽きて産出量が減ったこともあり鉱山で働く者は少なくなったらしいが、賑やかだった鉱山の村の名残は残っているらしい。


 そんな人気ひとけのない山あいの村で、総勢およそ50人の大規模盗賊団と交戦状態に陥ったという。時間的に、ハトが放たれて救援要請がされてから二時間というところ。

 


 ギルドから出ていた護衛はエルネッタさんやアルさんを含めて六人。

 エルネッタさんがAランクのゴールドメダル、アルさんはシルバーのBランク。

 Dランクの二人とCランクの一人が軽傷を負ったと書かれてあるから、敵は相当な手練れだ。


 ということは戦闘が始まって、劣勢になり、相当に追い詰められてから鳩を放ったのだから、時間的には切迫している。


 地図を見た限りカタローニの村までハトの飛ぶ直線距離で70キロ、道なりに行けば80キロ前後。

 隊商を護衛する足では三日かかる距離だ。


「三日の距離ならぼくは今夜中こんやじゅうに着くので先行する予定は変わりません。後発パーティの探索者シーカーどなたが?」


「俺だ。先に行くなら目印は頼んだぞ」


 後発の探索者シーカーはカエサルさん。熟練者だ。

 盗賊団の数が多い。カタローニ村からは半日の距離(15キロぐらい)にあるフェライの街のほうにも救援依頼のハトが飛んでるはずなので、フェライのギルドからも援軍が来るはず。こっちは遠くて出足で遅れる分、なるべく多くの援軍を送っておきたいらしいが、んなもんどうでもいいから決まった者だけ先行させてほしい。状況は一刻を争う。


 だけどエルネッタさんやアルさんが事故を起こすような現場に数名の格下ランカーを行かせても多重遭難になるだけだというギルド長は、こんな時こそ冷静に考えろという姿勢を崩さず、ディムの提案は届かなかった。


 ディムの前に割り込んでギルド長と打ち合わせするカエサルさんが少し熱っぽいようなのでステータスを覗いてみる。


----------


□フェルナンド・カエサル 41歳 男性

 ヒト族 レベル033

 体力:15400/18410

 継戦:E

 魔力:-

 腕力:E

 敏捷:C

【狩猟】D /弓術D


----------


 ちょっと体調を崩してるようだ。体力が最大値より10%以上下がってるときは体調の悪化を疑うけれど、この程度なら風邪レベルだし探索者シーカーだから仕事に影響を及ぼすこともないだろうが、風邪を引いたのだとしても鼻水で嗅覚が落ちたら困る程度、人探しは捜索者サーチャーの役目で探索者シーカーの役割は捜索者サーチャーが付けた目印を追って、傭兵たちを迷わず戦場まで導くことなので特に問題はない。


 カサエルさんはステータスを見ると大したことなさそうに見えるけれど、ステータスでは表せない強みがある。それは経験だ。直接筋力やスキルなどの評価値が実力を表す傭兵マーシナリーとは違い、探索者シーカーの強さは数値では測れない。このような非常時、探索者シーカーに求められることは、戦闘能力ではなく、傭兵マーシナリーたちを指揮し、できるだけ疲れさせず、万全の状態で速やかに一秒でも早く現場に到着させるマネジメント能力だ。


 カエサルさんは経験値においてディムよりもはるかに多い場数を踏んでいて傭兵たちの信頼も厚い。 


 【狩猟】アビリティを持っていて『弓術』にも長けているから、弓を使った精密な援護射撃も期待できる。ディムが先行して探索者シーカーになら分かる目印をつけておけば、後続の捜索隊がすぐに駆けつけてくれるという事だ。


 ならばディムが出来ることは、多くない。カエサルさんへの目印は視覚メインで。匂いを使うものは今回使わない。


傭兵マーシナリーはほぼ集まった。同行する薬草士が決まり次第こっちも出る。到着は出発から二日後の予定だから強行軍になるぞ。酒の入ってる者は遠慮してくれ!」


 ギルドの異様な雰囲気に気圧されることなくパトリシアが手を挙げた。


「薬草の調合なら私が!」


「ダメだ。パトリシアはまだ戦場には出せない、他に……」

 パトリシアが志願したけれど16歳の女の子を飢えた50の盗賊団が襲った村になんか行かせられるわけがない。でも人手がいなければパトリシアに決まってしまうから、先行する捜索者サーチャーの責任は重大だ。


 盗賊が50人……。


「ぼくは先に出ますね。地図ありがとう。すぐに向かいます」


 地図から得られる情報はことほか多い。

 カタローニ村から更に北東の果て、荷車の通れない急勾配が続く難所ばかりの登山道を通り、三つの山と二つの渓谷を越えると湖の対岸はつい先ごろ獣人たちに滅ぼされたという王国ヘスロンダールだ。


 遠く離れてると思っていた隣国の戦争。盗賊団だなんて言ってるけど、いきなり50人の盗賊団が降ってわいたように現れるわけがない。しかもエルネッタさんたちが苦戦して、退けることができないような手練てだれとなると、これまでギルドの話題に上らなかったこと自体が不自然だ。


 こんなのヘスロンダールからの武装難民としか考えられない。ついこの前まであのオークどもと渡り合っていた熟練の兵士が混ざっていると考えるほうが自然なんだ。


 相手がヘスロンダールの正規兵だとすると下手に抵抗さえしなければ無暗に殺されたりはしないだろうけど、エルネッタさんは下手に抵抗してしまう人だ。一秒でも早く合流しないと大変なことになる。


 ディムはギルドを出て自宅で旅装に着替えると短剣だけをベルトにつけて、すぐさま地図の通り道なりに走った。

 幸い、もうすぐ夜が来る。持久走なんてしたことがないけど、ステータスを見る限りでは、80キロマラソンを走り切ることも可能だし、走れなくても何とかして辿り着くしかない。


 ……この道の先で今もエルネッタさんが助けを求めているのだから。


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