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冒険者ギルドで人を探すお仕事をしています  作者: さかい
第三章 ~ 抗争! 狩人組合 ~
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[16歳] 隠し事が無くなったら付き合おう 【挿絵】

挿絵、というかイラスト?を一枚はさんでみました。

エルネッタさんです。


第三章おしまい! 次話は明日。第四章(19歳)に入り、物語は中盤あたりでしょうか。

まだしばらくは毎日投稿できるので、よろしくねがいします。



挿絵(By みてみん)


「やだよ、そんなこと言って帰ったらまたあとで組合長のことも怒る気だし」


 ディムはエルネッタにサンダース夫人の監視を任せて現場を離れた時、まずはサンダースを見つけて、そのあと改装されたばかりの狩人ハンター組合に出向き、15人からの強面の狩人ハンターどもに囲まれながら組合長と直談判し『来ないとヘイシー・ディレルが死ぬよ?』と脅迫して無理やり連れてきたというのに……、ストレスを大敵とするディムとしては逆に誉めてほしいぐらいなのに怒られちゃ立つ瀬がない。


「怒らない。むしろ謝るから一緒に帰ろう」


「いやだ断る。……でもエルネッタさんが10日間、あの服を着てくれるなら帰ってもいい」


「あの服って? 女の服か? えっと、5日でどうだ? 5日なら」

「だめ。交渉決裂。ぼくはエルネッタさんに怒られた事だけを思い出にして一人で生きていくよ……」


「ひっ、卑怯者! じゃあ7日! 一週間わたしは女になろう! これでどうだ? 頼む、これで勘弁してくれ」

「んー、そうだな。じゃあ9日かな……大負けに負けて9日……」


「うるさい、そんなニヤニヤしながら言ってもダメだ。7日な! ここから抱っこして帰ってやるから7日で手を打っとけ」

「ちょ……ちょっとまって、人に見られたらカッコ悪いってば。なんでお姫様抱っこなんだよ、降ろしてって」


 エルネッタは有無も言わさず強引にディムを抱き上げると、つづら折りの坂道をくだり、きっと街に入る前に降ろしてもらえるかなと思ったのに、そのまんま戦利品のように抱えて通りを繁華街に向かった。


「なあディム、さっきから考えてるんだが、分からない。なぜディムがサンダースの奥さんに怒ったのか分からないんだ。だから怒るスイッチが知りたい。もしディムが今日の調子でわたしに怒ったら、きっとわたしはなぜ怒られたのかも分からずに泣いてしまうかもしれない」


 深夜とは言え人通りの多い繁華街を、広い歩幅で歩きながら、周囲からクスクスと聞こえる笑い声なんて気に留めず、エルネッタさんは今日ずっと考えていたけれど答えの出ないことを教えて欲しいと言う。


「あの狩人とくっついてどこへなりと駆け落ちして逃げればよかったんだ。それならサンダースさんは少しの間、恥かいて笑い者にされるだけで、新しいパートナーを探せるじゃん」


「その通りだ。だから、なぜディムがあの奥さんにあそこまで怒ったのかが分からない」


 ディムにしてみればスイッチの所在を聞かれて困惑しないわけがない。

 エルネッタはディムの事を温厚な人間だと勘違いしている節があるけれど、ことエルネッタに危害を加えようとするような者に対しては極めて好戦的で命を奪うことを厭わないし、打算的で計算高いことは性格が悪いと認識されている。


 サンダース夫人に男として許せなかったことが、どう許せなかったのかと聞いているのだろう。

 ようやくわかった。このくそニブい女と付き合うと、男心を察してもらえないからむちゃくちゃ苦労するってことだ。


 ……はあっ。

 そう考えると溜息が出てしまう。


「エルネッタさんはぼくのことがどれぐらい好きなのかな?」

「唐突だな……この前言った通りだ、惚れたらどうしよう……ぐらいには思ってるよ」


「それほとんど惚れてるって意味だよね」

「まだ惚れてないって意味だ!」


 個人的には押せば落ちるんじゃないかってぐらい、いい線いってると思ってるんだけど、押しが弱いと自負している年下男にはまだ無理なのかと思った。


「そっか。うーん、じゃあなんで昨日、パトリシアとぼくを二人で森に行かせたのさ。心配じゃないの?」


「んー、それが牢屋に入れられてる間いろいろ考えてな。ディムを巻き込んでしまったのは悪かったし、わたしも大人にならなきゃいけないと思ったんだ。あんな小さな子にいちいち目くじら立てるのなんて大人気ないだろ? そりゃあパトリシアは若くて可愛いから心配だけど、わたしはディムを信頼してるからな」


「大人気ない? さっき自分でガキだったって認めたくせによく言うよ。それと信頼って何だよ、……じゃあ、ぼくは誰とくっついて恋愛関係になりそうだと思う? エルネッタさん以外で」


「パトリシアだ」


 迷いなく即答でパトリシアか……。考えた事もなかったな。でもエルネッタさんなりにそう見えてるってことだから気を付けよう。


「じゃあ、そうだな……どうしよう。えーっと、例えばだよ、ぼくは何年もずっとエルネッタさんのことが好きだ好きだって言い続けてるのに、ある日、エルネッタさんにコソコソ隠れて、ぼくとパトリシアが肉体関係だったことが発覚します。さて、エルネッタさんはどう思いますか?」


「ええっ? そりゃあ、いいことだと思うぞ。お前が本当にパトリシアを選んだのなら」

「信頼はどうなったの?」

「ディムに限って、遊びだとか軽い気持ちで女に手を出したりしないだろ? ディムがパトリシアといい仲になったのなら、わたしがどうだとか関係ない」


 ディムは大きなため息を吐いた。そもそもの話で、それは違う。エルネッタさんは第三者の立場からしか考えられないようだが、当事者であることを認識してほしい。


 サンダースさんは奥さんとの生活に満足していたし、信頼してたはずだ。それがどうなったかはたった今見たはず。この話の流れで信頼なんて持ち出したところで何の意味もない。


「ダメ。それは信頼じゃないし、それに想像力がまるで足りないよ。ちゃんと想像力を働かせて。ぼくが本当にパトリシアと裸で抱き合ってる姿を想像するんだ。キスしたり、愛してるなんて言いながら背中を触ったりとか」


「あーもう、やめろ! イヤな想像をさせるな。頭が爆発しそうになる」


「はい爆発してください、じゃあぼくとパトリシアとの肉体関係がエルネッタさんにバレました。だからエルネッタさんはぼくの元から去って行こうとします。でもぼくは本当に反省したと言って謝るんだ。エルネッタさんを愛してるから、エルネッタさん許して、お願いだからどこにも行かないでって言ったら?」


「許さない。パトリシアがかわいそうだ」

「ダメ。まだ想像力が足りない。よく考えてみて。ぼくは本気で後悔してる、エルネッタさんを失いたくないから必死で懇願するんだ。ごめんなさいって。エルネッタさんを失ったらぼくは死んでしまうよ」


「ダメだ頭が痛い。ダメだよディム、それは……」


「それでもぼくはエルネッタさんなら許してくれると思う。でも心はひどく傷ついて、たぶん死ぬまで忘れることができなくて、ずーっと一人で苦しみ続けることになるんだ。その苦しみは想像を絶するよ……でもね、サンダースさんは、あの思い出の丘で、幾晩も考えて考えて、ホント思い出しただけで吐き気がするほどイヤな想像を乗り越えて、例え一生苦しむ事が分かっていても、奥さんと子どもたちの元に戻ることを選んだんだ」


「……だからサンダースの奥さんに怒ってたのか?」

「あの奥さんは残酷なことをしたんだ」


「分かりづらい! おまえは本っ当にわかりづらい! そんなこと分かるわけがないだろ?」

「男心なんて単純だよ。エルネッタさんには一生分からないだろうけどね」


「くーっ、やっぱ腹立つな。だけどもう一つ聞かせてくれ……。いま思えばディムはサンダースが戻ることをあらかじめ知ってたんじゃないか? うまいもの作れとか熱い風呂いれとけとか。なぜだ? サンダースは街を出ていく決心をしていたのに」


「あははは、そんなのウソだね。思い出の丘で一週間も街を眺めてたんだよ? 未練タラタラって言うんだよそんなの。頭では去ったほうがいいと思ってても、心が去りたくないと拒み続けたんだ。そこにツケ込む隙があったってこと。もっとも本当に街を出てたなら、もうぼくは追わなかったけどね」


「ディム、お前はやっぱり性格が悪い」

「どういたしまして」


「だけどわたしはそんなディムが好きだぞ」

「じゃあ好き同士じゃん。ぼくたち二人、このまま付き合っちゃいますか?」


「そうだな、じゃあ、お互いに隠し事がなくなったら付き合おう」


 ぐっ……。


「根に持ってるよね、エルネッタさんさっきぼくが隠し事したので思いっきり根に持ってるよね! 遠まわし気味ストレートにフラれたよねぼく」


「やかましい! このバカ野郎が、わたしに心配させるだけさせておいて、何も話さずに隠し事だと? ふざけんな」

「さっき怒らないっていったじゃん!」


「そんなこと言ってない!」

「言ったよ」


「言うかバカ!」

「騙された。ぼく騙されたんだね……ひどいよエルネッタさん……」

「騙される方が悪い! なんかムカついてきた。ドーリアンの事もあとで説教することに決めたからな!」


「ムチャクチャだあ……」


 たまにはエルネッタさんに抱き上げてもらうのも、悪くないと思った。

 人の目は気になるけど、なんだかみんなこっちを見て、クスクス笑ってる気がする。被害妄想のチェック項目にありそうだ。いや、指さされて笑われてる。被害妄想なんかじゃなかった。


 恥ずかしいって言ってるのに、エルネッタさんは酒瓶と槍をディムに持たせて、抱き上げたまんま、わざわざ通りのど真ん中を歩いて、降ろしてくれることもなく冒険者ギルドに戻った。



 ギルド酒場でどれだけ笑われたか……。


 アルさんだけじゃなくチャル姉も涙流すほど笑う事かと。


「報告してもらわなきゃいけないんだが、そのまま報告するのかオイ?」

 なんてギルド長は呆れてしまって、開いた口が塞がらない様子。

 ギルド長なら助けてくれると思ったのに、結局エルネッタさんに押し切られてしまった。


「いま手を離したら逃げられるからな、絶対に逃がさない。このまま報告しろ、ほら」


 酷いったらありゃしない……。


 報告書は翌日という事にしてもらって、口頭での報告だけでサンダースさん行方不明案件は終わった。

 行方不明になった理由は明日にでも本人の口からきいてくれとだけ言っておいた。


 ディムは抱き上げられたまま部屋に連れ込まれたので、ちょっとだけその後の展開に期待したけれど、朝まで説教されるか、それとも朝までマッサージしてエルネッタさんの機嫌を取るかという二択を突きつけられ、後者を選択した。


 翌日には約束通り、サンダースさんがギルドに心配かけたことのお詫びと報告に現れ『これ、世話になったディムくんに』と、けっこう高くて強い酒を差し入れてくれた。

 アルコール度数がすごいことになってて、呼気に点火したら火を吹けそうなほどだ。


 驚いたのは狩人組合の組合長もギルドを訪れて、鹿を一頭まるごと置いて行ったことだ。

『あー、ディムって野郎にな、迷惑料だと思ってみんなで食ってくれや』

 鹿の一頭なんて一日二日では食べ切れる量ではなく、しばらくの間、ギルド酒場では酒を注文したらタダでステーキやらハンバーグやら焼き肉やらが振る舞われることとなった。


 ギルド長によると、あの気難しいドーリアン組合長がディムの事を気に入ったと言い、後ろから見ていた戦闘スキルをベタ誉めで『あいつはギルドより組合向きだから、こっちによこせ』なんて言った挙句、本来、死人が出ておかしくないところうまく立ち回って丸く収めたことを評価されたらしいが、そんなの明らかに偶然だ。人が人を買いかぶるという原因と傾向を思い知った気分だ。


 あと、エルネッタさんの服、一週間ずっと着るのは洗濯などがあって無理ということで、今回の報酬である50万(経費は酒場で買った酒だけ)のなかからもう一着、今度は深緑色のワンピースを買った。茶色の染まり具合がよかったけれど、エルネッタさんの髪色と瞳色がブルネットなので服の色と似たような色になってしまうためグリーンにしたけど、正解だった。


 ディムは腕と功績で凄腕と認められAランク捜索者サーチャーになり、ラールの街では文句なしのトップランカー、ゴールドメダルとなった。


 エルネッタはディムのAランク昇格から約1年遅れでようやく貢献度がMAXに達し、Aランク昇格を果たした。最初は昇格を喜んでいたけれど、Aランクともなると名声により指名依頼が増えるため、これまでのように楽な護衛ばかりを選んで受けることもなかなか難しくなったけど、ふたりコンビで仕事することも増えたので、二人とも満足している。


 あと、サンダースさんがくれた高いお酒は、ちょっとほろ苦い味がした。

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