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冒険者ギルドで人を探すお仕事をしています  作者: さかい
第三章 ~ 抗争! 狩人組合 ~
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[16歳] 狩人組合長 ガイラス・ドーリアン

 エルネッタはサンダースの家の玄関が見えるギリギリの立ち位置で闇に身を潜めている。

 不慣れな張り込みをしているのだ。ここは市街地の居住区で治安もいい。敵に襲われることもない、ただ女性が出てくるかどうかを監視してるだけだというのに、少し緊張してしまう。


 護衛に出てるときとはまた違った緊張感に包まれながら、エルネッタはディムの事を考えていた。

 今日のディムは少しおかしい。確かに夜になると気分が高ぶって、エルネッタが心配するほど迂闊なことをする事がある。先ごろアンデス・ゲッコーを殺した事もそうだ。ディムはゲッコーの逃走経路を知りながらギルド長に追わせて、先回りして待ち伏せていたのだろう。


 人の行動の先読みをする、または人の行動を誘導して思った通りに動かす。それは若さとは対極にある熟達じゅくたつした経験と、老練ろうれんな知識があって初めて成り立つ。どんなアビリティがあっても、スキルを育てるには経験が必要なのだ。


 サンダース夫人への対応は酷かったのも、きっと何か考えあっての事だろう。


 だがしかし、傭兵マーシナリーの家族がどんな思いで遠征の帰りを待っているのか、ディムはひとつも分かっちゃいない。まだサンダースの安否についてひとつも手がかりがないのに、余計なことを言って、家族に要らぬ心配をさせてしまった。あれは迂闊だとか口が滑ったとか、そういうことじゃない。

 ディムはわざとサンダースの奥さんを不安にさせるようなことを言ったんだ。


 エルネッタはディムが " 家族を心配する気持ち " を、まるで分かっていない事に腹を立てている。


 考えれば考えるほど苛立ちが募るエルネッタの視線の先、サンダースの家に動きがあった。



―― ガチャッ



 半刻(一時間)もしないうちに、サンダース家の扉が開いた。

 ドアを開けたあとで靴を履き整えている。よほど急いでいるのだろう。


 まだディムと合流してないのに女が出てきた。さっき会ったサンダース夫人だ。ディムに脅かされたせいか、表情には僅かばかりの余裕すら見えない。何か思い詰めているようにも見えるが、周りの事を気に掛ける余裕もなく、小走りで家を出て行った。


 エルネッタは見失わないよう尾行を始める。だいたい心に余裕のないときはすぐ背後にまで迫っても尾行には気付かないものだ……。


 今日のディムは言動も行動もおかしい。言った通り、サンダースの奥さんは出てきた。あいつ本当に16歳か? と思う。チャルが言うには間違いないらしいが、どうも腑に落ちない。あの姿で実は40過ぎだったりするんじゃないかと疑うほど、ディムの年齢については信じられなくなってしまった。


 エルネッタは不慣れな尾行をしながら、サンダース夫人が両手に何か抱えてることに気が付いた。

 背後からなので確定はできないが、剣? いや、短剣か。


 あの女、短剣を持っている。


 あんなに思いつめた表情で短剣を抱えて……どこに行くのか、向かってる方角からだいたい想像がつくし、あの短剣の使い道も、だいたい見当がつく。


 エルネッタの拙い尾行であっても気付かれることなく、夫人は目的地に到着した。

 思った通り、さっきディムといっしょに来た、あの狩人ハンターの家だ。


 ここで夫人は身嗜みを整えながら短剣を腰の後ろに隠したあと引き戸をノックした。


 玄関先でどんなやり取りがあったのかは『聴覚』スキルを持たないエルネッタには知ることができなかった。だけどサンダース夫人はこんなにも夜遅い時間帯だというのに、男が一人暮らしする家へと招き入れられ、戸は閉じられた。


 こんな時にディムが居ないなんて、臨機応変にって言われても……エルネッタには木で出来た隙間だらけの押し窓の下に身を潜め、中の声を盗み聞きするぐらいしかできなかった。



---- Sound Only Open ------------



「ヘイシー、主人に何をしたの!?」

「はあ? 何のことかわからねえ」


「ここにうちの主人が来たでしょ?」

「知らねえって……。ははは、女を寝取られても気が付かないアホなんざ知らねえよ。おまえそんなこと言って本当は寂しいんだろ? 今夜は朝まで楽しむか?」


「真面目に答えて! ケイオンがここに来たのは分かってるの。ギルドから捜索者が出て調べられてるの! あのひとに何をしたの?!」


「おいおい、勘弁しろ。そんなもん出すな、危ねえって! 俺がやったのはお前だけだ、ははは。お前のダンナになんざ興味ねえって言ってんだろうが」


「ケイオンが帰らないなんて、そんな訳ないんだから! 絶対何かあったに決まってる!」

「やめろ! おい、やめねえか!」


―― ガタタッ ガタガタガタッ


「かえしてよ! あのひとをかえして……」


------------ Sound Only Closed ----



 短剣を持って女が入った窓から聞こえる切羽詰まった会話と、そのあとの露骨に暴れてるドタバタ音が聞こえると、エルネッタの我慢も限界になりスイッチが入った。



―― ドバーン!


 炸裂音がして引き戸が吹き飛ばされると、そこについ先日、狩人組合にカチ込んだ主犯格の女が槍を構えていた。エルネッタだ。


 室内の状況はサンダース夫人が短剣を構えて斬り掛かったものの、あっけなく腕をとられて後ろ手にめられ、落とした短剣を奪われたところだろう。


「お取込みのところ邪魔する。その女はこっちの身内なもんで……で、このタイミングでよかったのか? ディム」


「ん。さすがエルネッタさんだ」


 タイミングもバッチリ。

 ディムが背後にいて引き戸を蹴破った瞬間、二人同時に飛び込むことも想定済み。


 エルネッタが槍を構えた時、同時にディムが家の中に飛び込んでいて、ヘイシー・ディレルが奪った短剣で女を人質に取る前にもう背後をとっている。


 疾いなんてもんじゃなかった。


 眼前のエルネッタに槍を突き付けられ、慌てて女を盾にしようとしたヘイシー・ディレルだが、槍使いの女と一緒に飛び込んできた若い男が、まさか次の瞬間には耳元で囁くなどとは思ってもなかった。


「で? どうするかな? オニイサン。槍の間合いに入ってるし、後ろから喉に突き付けられた短剣が動脈を狙ってる。もう人質なんて意味ないと思うよ?」


 さすがにここで意地を張るなんて馬鹿なマネをすることはない。ヘイシー・ディレルは観念したように短剣と人質を手放して両手を頭の後ろで組んだ。


 争う意思がない、降参のポーズだ。


 後ろ手に捕まれていたサンダース夫人は人質から解放されるや否や、床に落ちた短剣を拾うと振り向きざまヘイシー・ディレルの胸を狙って襲い掛かった。


「よくもケイオンを!」



―― キンッ!


 素人が短剣を持ったところで、横から槍に不意を狙われるとどうしようもない。横槍よこやりという言葉のとおり、見えない角度から為す術もなく攻撃を払われた。エルネッタが短剣を跳ね上げたおかげでゲイラ―・サンダースは殺人者にならずにすんだ。


「大丈夫だよ。サンダースさんは生きてるからね。そしてオニイサン、さっきの会話を聞いた以上、あなたは万死ばんしに値する」


「このクソどもが! 組合が黙ってないからな。また抗争だ、おまえら一人残らず狩ってやる」


 たかだかレベル28の一般人に凄まれてビビるディムでもなし。

 エルネッタも涼しい顔をして、やってみろと言わんばかりの挑発的な目をしている。


「……と言ってますが、またやりますか?」


 ディムが話しかけたのは家の外。

 玄関先、エルネッタに蹴破られた引き戸の外に居て『気配消し』スキルを使って中の出来事の一部始終を見ていた男がいた。

 声を掛けられ、ぬうっ……と入ってきたのは、やけに体格のいいマッチョな男だった。


 エルネッタと睨み合い、バチバチと火花の散る効果音が聞こえるほどピリピリした空気を連れて家の中に一歩一歩踏みしめながらゆっくり入ってくると、ぐるり室内を見渡した上で答えた。


「いーや、やらねえ!」



----------


□ ガイラス・ドーリアン 男性 51歳

 ヒト族  レベル038

 体力:29990/32500

 経戦:D

 魔力:-

 腕力:B

 敏捷:C

【狩猟】B /短剣C /弓術B /足跡消しC /気配消しC


----------


「ドーリアン……わたしに殴られてからジャーキー噛めなくなったんだってな。いい気味だが……なんでうちのディムと一緒に登場したのか聞かせて欲しいところだねえ」


 エルネッタはディムが四半刻(三十分)ほどの時間どこに行ってたのかを問いただす必要はなくなったが、更なる苛立ちを覚えた。


「エルネッタ・ペンドルトンか……フン! 今日はてめえに用はねえ」


「ディム! またひとつ後で怒ることが増えたからな!」


「イヤだよ。どうせもう帰る家なんてないし……」


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