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冒険者ギルドで人を探すお仕事をしています  作者: さかい
第三章 ~ 抗争! 狩人組合 ~
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[16歳] パトリシアと二人で森へ行ってみた

 ギルド長が釈放され、パトリシアのケガも普通に歩けるぐらいにまでは回復した頃、狩人ハンター組合のほうは心配しなくてもエルネッタさんに殴られた人たちが仕事に復帰し、通常営業に戻ったことで、高騰していた肉の価格はほぼ通常価格にまで落ち着いた。


 だからと言って元通りのギルド、元通りの組合という訳にも行かず、今回の件で両陣営の溝は更に深くなり、しばしば小競り合いが見られる程度にはいがみあいが続くと見られている。


 ディムはシルバーメダルのBランク捜索者サーチャーであることと、パトリシアの先輩にあたるということでもう薬草取りなんて依頼を受けることができなくなってしまった。

 ちなみに薬草取りの報酬は10000ゼノ。これに30%の手数料が引かれるので実質の7000ゼノというお金が手のひらの上に乗ることになる。これが三日に一度ぐらいしかないので、いまはパトリシアが独占して受けてる状態だ。


 少し知識が必要だけど、森に行くなら薬草採取に加えて薬効キノコの採取を同時に受ければそこそこの稼ぎになる。


 薬草取りや薬効キノコ採取を卒業した人たちはどうなるかと言うと、森ではなく早朝から出かけて、帰りは夕刻を過ぎるという山岳地帯まで行って、岩場に自生する百毒下しを取りに行くついでに地層地帯へ行きエメラルド原石をとったりしてる。ちなみにうちのCランク探索者シーカーたち、つまりカエサルさんたちはだいたい山小屋に1週間ほど住み込みで行って、一か月分の稼ぎを纏めてとったら戻ってくるといった生活を続けている。それはそれで憧れるような暮らしだけど……。


 トリュフ採集のほうがよっぽど効率がいい。


 平常運転に戻ったギルドに今日も遅く、午後から依頼ボードを見に行って、あまりいいのがなかった。

 エルネッタさんも釈放まで三日だったけど、それから後も何度か衛兵の屯所に呼ばれることになったせいで護衛の仕事に出られず、うちでくすぶってる。たぶんまだあと一週間は出られないだろう。


 人探しの依頼なんて月に何度もあるわけがなく、だからと言って遠くの山になんて行く気もないので自然と今日もトリュフってことになるんだけど、依頼ボードから目を離して振り返ると目の前にパトリシアが立ってて、ぶつかりそうになった。


「師匠っ! 私にトリュフの取り方を教えてくださいっ」


「だれが師匠だよ! トリュフの取り方を教えたらぼくの稼ぎがなくなるからイヤだな……」


「じゃあ見学だけ! 私は見学して、見て技術を盗みます。本当にお願いしますよー、わたしもいずれ薬草取りできなくなるんですよ、遠くの山になんか行けませんし、薬効キノコは毒キノコの見分けに自信ないですし、数年の間に何か薬草以外で食べていく方法を考えないとオマンマの食い上げです。私にとっても死活問題なんですっ」


 酒場のカウンターで早速ジョッキを傾けているエルネッタさんが気だるそうにこっちを見た。

「ししょー? はぁん? なるほど、弟子とったんだ。若くて可愛い女の子の弟子ね。じゃあわたしはここで飲んでるか、家でゴロゴロしてるから、どうぞ楽しんできて」


「はあっ? エルネッタさんなに言ってんの?」


 エルネッタさんの言動が怪しい。真に受けて言われたとおりにすると後でえらい目にあう。

 どうしようかと辟易しているとカウンターの向こうからギルド長がカーリさんの向こうから声を掛けてきた。


「ディムくん、組合とは一応手打ちになったが、パトリシアの不安を察してやれ。それと、ちょっとキミのその技術を教えてやってくれたらギルドだけじゃなくラールの街が助かるんだ」


 エルネッタさんの表情を覗ってみるけど、イライラしてる風でもない。

 若い女と二人で行動しても心配じゃないのかな?

 いや、ダメでしょ、エルネッタさん嫉妬するでしょ?


「じゃあ森に行くからエルネッタさんもどう?」

「わたしはよしとく。狩人ハンターと会ったらまた殺し合いにならないとも限らないからな。ディムなら争わずにうまく切り抜けるだろ? ただし明るいうちに帰ってこいよ、パトリシアの母親は心配性なんだ。わたしもな」


 いつものエルネッタさんだった。

 なんかおかしいし、不信感が残るけど、いまの言質を取っておけばあとで怒られたとしても躱せる。


 実は、エルネッタさん、あの狩人がディムの眉間を狙って殺意のこもった矢を射たことに、まだ怒ってる。相手を殺しておいてまだ怒ってるんだ。


 組合も衛兵も、闘争になったのに、弓を引かれた上で身を隠さず立ったまま挑発したのもよくないし、そもそも眉間に向かって放たれた矢を手で掴んだだなんて与太話だれも信じちゃくれなかったってだけ。


 ギルド長は信じてくれたけど、あちらさんも衛兵も笑い飛ばしてた。


 狩人ハンター組合の言い分では、言いがかりをつけられて殺されたという。

 あんな森の奥に、なぜエルネッタ・ペンドルトンなんていう凶悪なシルバーメダルの傭兵がいたのか? 偶然見習い探索者シーカーが襲われてるトコに出くわしただなんて、そりゃあちょっと都合良すぎやしないか? ギルドの者が三人掛かりで一人の狩人ハンターを殺したんじゃないのか? という事をしきりに訴えてた。


 もしかすると冒険者ギルドの三人が、森で出会った一人の狩人ハンターを襲ったんじゃないかと。


 なにせ生き残った目撃者というか当事者は全員がこっちの身内。あっちは死人に口なしだ。はいそうですかと納得のいく話じゃないのも頷ける。

 という訳で、エルネッタさんの怒りはまだ収まってない。


 亡くなった狩人ハンターの人には申し訳ないけど、まだ見習いで13歳のパトリシアの足に矢を命中させた上、エルネッタさんの目の前で眉間を狙った矢を射たのは確かだし、本当か嘘かは別としてもエルネッタさんも短剣さえ抜かなければ殺すことはなかったと証言したので、森で起こった闘争についてはギルドメンバー3人の正当防衛が認められて不問となった。手打ちにはなったけど、あちらさんも納得したわけでは、決してない。



----


 エルネッタさんは自宅でゴロゴロするらしい。

 パトリシアは薬草取りの依頼を受けて、ディムはトリュフ探しをするため森に来ている。

 探索者シーカーが薬草取りに行くぐらい単独行動で行けないとダメなんだけど、パトリシアは殺されかけてケガから復帰初日だし、ギルド長が森に行くなら一緒に行ってやれというのも頷ける。


 ギルド長はパトリシアに期待してるみたいだけど、残念ながらパトリシアには【薬草士】アビリティと『調合』スキルがある。将来的には探索者シーカーなんかやるより、薬屋さんを始めたほうがよっぽどいい。自分で薬草を採って『調合』するなんて坊主丸儲けだ。



「なあパトリシアはなんで探索者シーカーなんてやるのさ? 【薬草士】なんだから薬草の店を開いてもいいんじゃないか?」


 パトリシアは自分のアビリティをディムが知っていることに少し驚いた。他人に知られて困るようなものではないが、お金もない家の子が【薬草士】なんてアビリティを得ても薬剤師になれなければ宝の持ち腐れになってしまうことも多い。だがそんなことよりも、ディムが自分のことを知ってくれていることに素直に喜んだ。


「お薬屋さんになるためには薬剤師の資格が必要なんです。その薬剤師になろうと思ったらすっごいお金のかかる学校に行かなきゃですね。私の稼ぎじゃ100年かかっても無理です……」


 せっかくの才能を埋もれさせる子も少なくないということだ。そう考えると、セイカなんていう貧しい村で、魔法使いになるため家庭教師を頼んでもらったメイや、騎士になるためすぐ鍛練場に申し込みをしたダグラスの親は裕福だったということなのか。


「んじゃあ薬学校行かなくても技術を磨けばいいんだよ」

「調合が完璧でも資格のない私がつくった薬は売れませんから」


「じゃあ薬以外を作って売ればいい」

「……? 私の資格なしの調合で何か稼ぐ方法あるんですか? わたしキノコの判別も自信ありません」


 ディムは無言のまま森を奥に歩いて行き、入り口近くの、ちょっと日当たりのいい場所にきた。

 ここには野生のペパーミントが自生している


「パトリシア、ここには何がある?」

「ミントですね」


「ちょっと違う。誰の物でもない、誰がとっても怒られないミントだ」

「はい。でもミントなんか農家のひとが大量に栽培していて、市場に行けば安くいくらでも手に入りますから、ここで篭いっぱい採って帰っても、うちは夜ご飯も食べられません」


「うん。じゃあミントの使用用途は? なんでラールの街ではそんな大量のミントが消費されるの?」

「噛み薄荷はっかとか、お酒のカクテルにも葉っぱまるごと入ってますよね確か、それに葉っぱをお風呂に浮かべたり、一輪挿しに差して部屋に置いておくだけで虫よけになるし、香りもいいです」


「じゃあそのミントの、香りやスッとする味の成分だけを抽出して、小ビンに入れたら?」

「私も煮出してみましたけど、香りがすぐに飛んじゃって……やっぱり生の葉を買ってきた方がいいと思いました」


 ディムは驚いた。パトリシア本当に13歳か? もうそんな実験までやってるという。

 向学心はあるのにお金がないから学べないという現実がそこにあった。


「ミントの件はまたこんど実験しようか。んじゃあえーっと、こっちへ」


 パトリシアを連れて、右に湾曲する道の左側を直進し、枯れ落ちそうな巨木のあるエリアに来た。


「ここには何がある?」


「ここは私も来たことがあります。えっと、ズンダの葉と、ウムべが咲いてます。あと、私にはわかりませんけど、キノコが数種類……」

「うん。ここにはキノコを見に来たんだ。ざっとみてキノコ三種類、ひとつ食べてみろっていわれたら何を食べる?」


「えっと、自信ありませんけど……この中なら、これ。今にも倒れそうな木に群生して生えてます、これはたぶんセンナリタケだと思います。薬効はありませんが、美味しいキノコです」


「本当に自信なさげに言うんだなあ……」


 パトリシアはジト目でじ――っとディムの顔を見ている。いま自分の出した解答が正解なのか間違いなのか。その結果を待っているのだろう。


 しかし間違いだ。


 だけどセンナリタケと間違えるってことは、生える場所と形と群生の仕方まで分かってるってことだ。問題はよく似たタイプの毒キノコがあるってこと。


「はい、パトリシア死んだ。食べたら死ぬから絶対食べちゃダメ。ちなみにここにある三種類のキノコはぜんぶ毒キノコだからね」


「えええっ、師匠っ、それはずるいです」


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