[11歳] 鑑定スキルを手に入れたぞ
20180206改訂
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時は流れ、季節は巡る。
アビリティ鑑定で『ディミトリくん、キミには【羊飼い】の才能があるよ』と司祭さまに優しく頭を撫でられたあの日から1年の月日が流れ、ディミトリは11歳になっていた。
母に言いつけられた水くみを終えると、ひとり家の屋根にのぼって、湖のほうから流れてくる心地よい風に吹かれながら、森のずっと向こうにある、てっぺんが白くなった山を眺めている。
アビリティ鑑定をしてもらった日から、ダグラスもメイも、自分の将来、生きる方向を決めたようで、もう森に入って一緒に遊ぶなんてこと、ほとんどなくなってしまった。
ダグラスは鑑定結果を受けると三日と待たずして、騎士という誉れあるアビリティを伸ばすため、剣の稽古に行くことになったのだが、剣の訓練施設なんて、こんな辺境の寒村にはない。ダグラスは自宅から歩いて二時間もかかる隣町リューベンにある衛兵の集まる屯所で大人たちに混ざって剣の鍛錬をして、戦術を学ぶことになったのだ。ちなみに2時間というのは片道にかかる時間で、往復すると4時間になる。まさに遠路はるばるといったところだ。
ディミトリはヒマに飽かしてダグラスの様子を見るため、見学という名目で片道2時間の距離をいっしょに歩いて着いて行くこともあったが、衛兵のおじさんに『なあボウズ、お前も木剣ぐらい振ってみろ』と言われるのが嫌で、自然と足が遠のいた。衛兵の屯所には子ども用の木剣なんて置いてないし、大人用の木剣は重くて思ったように振れない。剣を振ることの何が面白いのか分からないというのが正直な感想だった。
さすがに【騎士】アビリティ持ちなどそうは居ないので衛兵のおじさんたちも気合を入れて鍛えないと逆にやられてしまうからだろうか、厳しい訓練によりダグラスからメキメキと音が聞こえるように実力を伸ばし、もう王都の騎士団にも推薦してもらえるという話が持ち上がってるほどだという。
11歳にしてエリートコースを決めたダグラスは凄い。いつか大人になったとき "ダグラスはぼくの幼馴染なんだぜ" と自慢することになるだろう。それぐらい誇らしいと思った。
一方、魔法使いの才能を持っていたメイの家は特に裕福な家庭には見えなかったけれど、村ではいちばんの雑貨屋だったのでそれなりにお金持ちだったのだろう。魔法使いのアビリティが降りていると聞いた翌月になると大きな町から住み込みの家庭教師を呼び寄せて魔法の勉強を始めた。
魔法の使い方を教えてくれる先生なんて近隣の村を探しても見つからないので、教会のつてを頼って通えないほど遠くの街から探してきたらしい。
メイは人前で魔法を使っちゃダメだときつく言われてるらしく、見せてくれと言ったところで魔法の出来を見せてもらえなかったけれど、メイは炎を生み出す魔法に適性があるようで、実技の訓練の時こっそり覗いたら、おっそろしい火柱のような魔法を操っていた。
魔法なんて見たことがない日本人にしてみるとハリウッド映画のCGを駆使した映像を見ているかのように、なんだか遠い世界のことというか、絵空事のように見えたのを憶えてる。
持つものと持たざる者の差というものを思い知らされた。
どれだけ頑張っても二人には追い付けないことが良く分かった。
幼馴染が三人で、一緒に肩を並べて、背中を預けあって、この王国に危機をもたらす敵と戦うなんて、幻想だった。そもそも朝霞星弥が転生して生きているのは平和な王国なのだ、危機なんておとぎ話のなかの出来事でしかなかった。
10歳の時点で、幼馴染二人と圧倒的な差がついてしまった。ふてくされてしまいそうなもんだけど、実はそれほど劣等感に苛まれることもない。実は、この世界……、悲観するほど捨てたもんじゃあなかった。
実はアビリティ鑑定からしばらくすると、少し遅れたけれど、ディミトリ少年にアビリティがもうひとつ発現した。
アビリティはひとりに必ず一つと言われていたので、もしかすると五人の別人格? にもアビリティが発現するかもしれない……なんて淡い期待をしてたのは確かだけど、ここでまさかの複数アビリティ発現なんてチートに出くわすとは思ってなかった。
発現したのは朝霞星弥のアビリティ。
いや、アビリティと同時に発現するスキルなのかもしれない。
発現した能力のおかげで、わざわざ司祭に見てもらうまでもなかった。
なにしろ朝ごはんを食べてる最中に『えーっと母さんのアビリティなんだっけ?』って思ったらいきなりパッとステータスウィンドウが開いたのだ。これには星弥も驚いた。
星弥は "このウィンドウどうやって閉じればいいの?" とパニックになり、数分間収まらないほど焦った。
星弥に突然降りてきたのは、ステータス鑑定のスキルだ。
この鑑定スキルは司祭のようにアビリティ鑑定の際、対象者の頭に触ったりせずとも、ただ見るだけで、その人のいろんな情報を見ることができた。
見られる情報は氏名、年齢、種族から、そのひとのレベル、才能だけじゃなく、技術などという、主要ステータスが見られる高性能なものだった。
これはもう間違いなく司祭さまの鑑定スキルよりも上位スキルだと思われる。アビリティのランクを始め、スキルや本人のレベルまで見えるのだ。そもそも、この世界に住む人間にレベルの概念があることに驚いたのだが……。
ちなみにディミトリ本人のステータスを調べてみるとウィンドウが出て、その中に主要なパラメータが記される。この際だからいま調べられる全てを表示させてみることにした。
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□ディミトリ・ベッケンバウアー 11歳 男性
/葉竹中一郎
ヒト族 レベル011
【羊飼い】E /羊追い
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ディミトリの視界を五人で共有しているはずが、鑑定の文字は星弥にしか見えない。その理由は分からないが、これがディミトリの基本ステータスを読み取ったものだ。
葉竹中がディミトリのパイロットなのだから、いまは葉竹中のステータスを見ているということなのだろう。
ちなみに葉竹中の生前の職業は学校の教員だったらしいので、なにか【羊飼い】アビリティにも秘密はありそうだと睨んでいて、五人分全員のアビリティやスキルをすべて葉竹中が使いこなすというタイプのチートかな? とも思った。
だけど星弥の鑑定スキルは他の誰にも使えない。いくら葉竹中がディミトリを動かしていたとしても、鑑定のスキルは星弥だけのものだ。
見られた本人もまるで気が付いていないのだから、ステータスはいくらでも覗き見も可能。
もちろん服が透けて裸が見えるだとか、心の中で何を考えているだとかは見えないので、覗き見したところで罪悪感に苛まれることもない。
もし仮に、たとえ透視のスキルをもっていて女性の服が透けて裸が見えたとしても、身体を持たない朝霞星弥が女性の裸を見たところでどうなんだ? という話になるのだが。
もちろん朝霞星弥が星弥自身のステータスを覗くことも出来た。
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□ディミトリ・ベッケンバウアー 11歳 男性
/朝霞星弥
別人格 レベル005
■■■■E /知覚/■■
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目を疑った。いや、初めて見た時には驚いて変な声が出たぐらいだ。
なぜ鑑定スキルの出所であるアビリティの部分が黒塗りになっているのも意味が分からなかった。
エッチな放送禁止用語でも書かれているのかと不安になってしまったほどだ。