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冒険者ギルドで人を探すお仕事をしています  作者: さかい
第三章 ~ 抗争! 狩人組合 ~
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[16歳] エルネッタさん水を得た魚

 ディムの目には美しく冷めた銀河の星々に照らし出され、柔らかな藍色の世界にしか見えないのだけど、ランタンをもつエルネッタさんには真っ暗闇にしか映っていない。負傷者をだきかかえながらの移動で最大の難所だった2メートルの土手なんだけど、土手よりも何よりも、暗い森が初めてで、ランタンを持ったままだと片手が使えないし、バランスをとろうとすると足もとも良く照らすこともできず、真っ暗闇の不整地を満足に歩くことが出来ないエルネッタさんがまた不満を言い始めた。


「はあっ……、やっぱり若い女はいいなあ」


 なんだかパトリシアにも申し訳なくなってしまって、土手を交互に抱き上げて降ろしてあげると、エルネッタさんが、もう10倍になってんだからいいだろ? このまま降りたくないとか言い出したので、ディムは二人を抱いたまま、夜の森を歩くことになった。女の子を二人を抱いて歩くのはいいけど、その女の子が担いでいたパンパンの荷物はもちろんディムの背にある。足跡の沈み加減から体重50キロと推定していたのはこのリュックサックの重さが加わっていたからだ。


 ひとつわかったことがある。

 エルネッタさんは元々からして思ったことをストレートに言う人だ。それがいまヤキモチをいてる。

 けっこうく人なんだけど、嫉妬してるという自覚がない。

 まあ、分かりにくいよりは分かりやすいほうがいいので、ここは突っ込まないでおくことにした。

 パトリシアはエルネッタさんの嫉妬に辟易してるのだが。



 ディムは二人を抱いたままゆっくり歩いて、ようやく森を出て街に戻るとギルドに戻ってまずはパトリシアの件を含めて狩人と闘争になり人死にが出てしまったことを報告した。


 もう、それからが超大変だった。


 まずは心配性だと聞いていたけれど、パトリシアの母親がもうギルドに問い合わせに来てて、もうちょっと遅かったら捜索依頼出されるところだったということ。パトリシアが乱暴されそうになった件は未遂ということもあり、母親が桁外れな心配性ということもあって、その件は報告しないで欲しいという希望を汲んだ形となった。


 それでもギルド長にだけは母親に伏せておいて欲しいことも含めて報告しなくちゃいけないというので、やんわりと報告したんだけど、それが知られたらエライことになると思っていたパトリシアの親よりもきっとギルド長の耳に入ったほうがよほどヤバかったんじゃないの? ってぐらい激しく逆上した。


 怒髪天を衝くとはこのこと、組合の奴ら皆殺しだなんて言い出したものだからなだめるのに苦労した。


 やっぱり人が一人死んでるんだからということで衛兵に通報するとギルド前は衛兵たちが押し寄せてきて一時騒然となり、闘争になって死んでしまった狩人ハンターの登録証を提出すると、パトリシアだけでなく、当然ディムもエルネッタも事情聴取を受けた。


 朝超弱いから午後からにしてほしいって言ってんのに、明日の朝イチで、徒歩1時間以上もかかる森の中まで現場検証に同行しなくちゃいけないらしい。考えただけで鬱だ。ちなみに衛兵たちはこんな夜だというのに小隊規模を森に派遣している。死体を森に一晩でも放置していると、アッシュベアなど肉食のモンスターを引き寄せることにもなるらしい。


 食われるんだろうなあ……、なんて嫌な想像をしてしまった。


 んなことやってる間にもギルドには続々とギルドメンバーたちが集まり始めていて、もう酒場の席が半分ぐらい埋まってる。別に今日に限ってギルド酒場が繁盛してるわけじゃなくて、いつもはヘラヘラと軽薄な笑顔が多いアルさんも今日ばかりはまなじりを吊り上げて不機嫌オーラ全開。


 アルスがディムの顔を見るや、人をかき分けて駆け寄った。


「ディム! 大丈夫か、聞いたぞ。眉間を狙われたって? 組合の奴らは知能が低いから動くモンみたら矢を撃ってくんだよ。全員指一本動かせなくなるまでぶちのめしてやる」


 ディムには最初アルスが何を言ってるのか理解できなかった。何をぶちのめす気なんだろうと。


「えええっ? どうしたの? もしかしてこの人たちみんなケンカの準備なの?」


 ディムは眉間を狙われたし、パトリシアは現実に足を射られてケガしてるし、ディムとエルネッタが現場に行かなければパトリシアはどうなってたか。まあ乱暴された挙句に行方不明ってことになってたんだろうけど、これがいくら結果オーライだとしても、無事で帰ってきたんだからいいじゃん……なんて話には、当然……ならない。


 拳を握ってボキボキ言わせ、腕が鳴るぜ! ブンブン鳴るぜ! と言わんばかりに、やる気を見せている。いつも下卑た笑い声が絶えないギルド酒場が今日は格闘技大会の控室みたいにピリピリした雰囲気になっていてストレスがマッハだ。


 エルネッタさんが全員個別に声をかけたうえで、闘争心に火をつけて煽ってる。あのひと煽動家のスキルでももってんじゃないかって思うほどに。周りの人間をカッカさせるのがうまい。


 もしかして戦場で仲間の戦意を鼓舞させる言葉みたいなのを生み出すスキルか何かじゃないかと疑うほどに。


 こんな夜だというのに、これから戦争でも始まるんじゃないかってぐらい緊張感でギルドの建物まるごとピリピリしてる。


 ダウロスさんもギルド長なんだから責任があるとかなんとか言って止めりゃいいのにまったく止めようとせず、たぶんエルネッタさん以上にイライラした顔で衛兵の偉そうな人に怒鳴ってる。


 トップのギルド長ですらこの有様ありさまなんだから、もう誰にも止められない。


「明日の朝ちゃんと詰め所に行くからいいだろ。こちとらメンバー二人も襲われて一人は大怪我してんだ、行って抗議するのが当たり前だろうが。それが私の仕事だ。邪魔すんなや!」


「あちらさんだって死人が出てるんだ。行けばケンカじゃ済まないだろ? まあまあ、落ち着きましょうや」


「おいおい、あんたら衛兵は事件が起こった時に仕事があるんじゃねえのかい? まだ何も起こってないってのに、こんなとこで油売ってんじゃねえ。お引き取り願おう。私は……」



 ギルド長と衛兵の偉いさんが話してるところ、ギルドの外で何やら怒号が発せられ、賑やかになったなと思った矢先、それは起こった。



―― ドオッゴォ



 ……ギルドの建物ドアが破壊音と共に吹き飛んだ。


 爆発? いや、蹴破られただけか?


 間髪入れず、どこぞの傭兵か? と思しき風体のゴリラ体形の大男たちがギルドになだれ込んできた。


「ゴルァァァァ! ぶっ殺せこのヤラアア!」



 ヤ〇ザ顔負けというよりもプロレスラーのようなやつが先陣を切って、迎え撃つ傭兵たちを手当たり次第に殴り始めた。


 アルさんがいつもの10倍威勢よく叫んで気を吐く。

「野郎ども! 殴り込みだあぁぁぁ!」



 大乱闘が始まった。


 まさか狩人組合の方から殴り込んでくるとは思わなかった。


 ドアを蹴破られて怯む者もおらず……ってか、驚いて怯んだのはディムと酒場ウェイトレスのチャル姉だけだ。


 襲撃を受けてすぐさま応戦できるのは傭兵マーシナリーランカーたちの強みなんだけど……、なんでこの人たちこんなにも生き生きしてるのかな!ってほど大喜びで殴り合っていた。


 殴り込んできた狩人組合ハンターくみあいの奴らの中で一番強いやつでもレベル39。さすがに街中だし、武器を使わず素手で殴り合うって暗黙のルールがあるみたいだから、単純にレベル差があるせいかエルネッタさんやダウロスさんの敵じゃない。相変わらずエルネッタさん大喜びだし……いいトシした綺麗な女性が、酒場で殴り合いだなんて……本当に残念だと思う。


 殴り合いになんて参加したくないし、だからといって止める気もないし。

 ディムは酒場のカウンターに腰かけて、強めのお酒を注文することにした。


「マスター、ぼくにスピリッツをグラスで」

「はいよっ」

 大乱闘を肴に飲む酒もいいだろう。負けそうにないし、止めるのは衛兵さんが頑張ってくれてるし。

 まあ、衛兵程度じゃ止められないんだけど。


「ねえディム、冒険者ギルドっていつもこんなに賑やかなの?」

「チャル姉、ぼくはやめとけって言ったよね。荒くれ者ばかりだって言ったよね」



―― ドンガラガッシャーン


 奥のボックス席のテーブルを破壊して、アルさんがバックドロップくらったような格好になってた。


「うわっ、アルさん大丈夫か!」

「おのれクソ野郎ども、身体が大きいなんて卑怯なマネを……」


 それは別に卑怯じゃない。


 エルネッタさんなんていちばん細くて小さいのにムチャクチャ強いし。あれは人を殴り慣れてるというか、どこにどの角度でパンチを当てたら効率的に相手を倒せるか本能的に知ってるパンチだ。じゃないとあんなふうにコークスクリュー気味にダメージが突き抜けるパンチなんて打てない。あのひと本当に聖騎士か?って思う。シラフで人を殴るエルネッタさんを初めて見たけど相当強い。酒を飲んでクダ巻いてケンカするときとは腰の入り具合が違うからパンチの重みが桁違いだ。


 てか狩人ってもうちょっと細くてヒョロヒョロのイメージあったけど、傭兵と大差なく大柄で疵面キズヅラで、腕っぷしも負けてない。もしかしてマンモスでも落とし穴にハメて槍と投石で狩猟してんのかって思うほど野性味あふれる風貌だし、腕っぷしには相当な自信があるのだろう。


 だけど相手が悪い。エルネッタさんだ。


 ギルドに殴り込んできた野郎どもは全員、のされてしまってギルド建物の外、通りの端っこに積み上げられると、エルネッタさんが勝ち名乗りを上げた。


「1000年早えわこのクソども!」


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