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冒険者ギルドで人を探すお仕事をしています  作者: さかい
第三章 ~ 抗争! 狩人組合 ~
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[16歳] 女の足跡が気になる

 なんだかエルネッタさんが分かりやすすぎるレベルで上機嫌になった。


「いや、本当にディムって性格悪いよな」

「なんでそんな機嫌よくなって、ぼくの性格悪いって連呼してんのさ?」


「ずっと言わなきゃと思ってたことが言えたからな。肩の荷が下りた。あとは、そうだな、ディムがわたしみたいな年増よりも、もっと若い女に目を向けてくれたら大団円だ」


 エルネッタさんはまだそんなことを言う。

 ディムは少しだけイラっとさせられたことで、言い返してやろうと思った。


「なんで口説かないか分かる?」

「本気で口説いたら落ちそうだから? 落ちたら落ちたで年増はしつこくて面倒だからじゃないのか。女も20過ぎると必死だからな、既成事実=即結婚ってことにもなりかねん。ま、普通はな。わたしに限っては家のこともあって結婚できないから安心していい。口説いていいぞ。ほら」


「違うよ、じゃあぼくも告白しよう。エルネッタさんはぼくの事を一生放したくないって思ってくれてないし、他の女の人を勧めるあたり、将来的に離れていく気なんだろうなと思ってる。実家に帰ってしまう気なのかな? なんて勝手に思ってるんだけどね、それをぼくの方がエルネッタさんから離れていくだなんて言われたくない。不愉快だね」


「ディムには隠し事なんてできないんだな。そうだ、ずっと一緒に暮らせるだなんて甘い考えなんか持っちゃいないさ。だけどな、わたしはディムのことが好きだぞ。偽りなくな。こんな気難しくて考えを曲げないおばさんのことを好きでいてくれてありがとうな、ちょっと愛してくれただけでわたしは満足だ。ディムはもっと若くて奇麗で、子どもを産んで一緒に育ててくれる女の子と幸せになるべきだ」


「ありがと。でもエルネッタさん、最近とくに年齢の事とか、行き遅れだとか言うけどさ、それってコンプレックスってことだよね? しかもここ1~2か月ぐらいで頻繁に言うようになった。だからぼくはこっそり喜んでるんだ。これまでぼくはエルネッタさんの弟みたいなもんだって思われてたけど、今は男として見てくれてる」


「……ディムはうまいこと言うな、その通りかもしれない。最近ドキっとすることがあるのは認めるよ。あと、そう言ってわたしの事を子ども扱いする所にも惹かれてるのかもしれないな。見た目はまだあどけない少年のように見えて、わたしよりも大人びた考えを持っている。わたしどころかあのギルド長すら手玉に取るなんて傑作だぞ? お前は最高だ」


 さすがエルネッタさんということころか。ディムが生まれる前、35歳のおっさんだったのを、なんとなく見抜いてる。この世界で生きた16年を足すと51歳になる、日本だと初老のオッサンだ。エルネッタさん26歳だから、51歳から見るとピチピチギャルに他ならない。


「そう、若く見えるけど中身はおっさんなんだ。ちゃんと見てよ。嘘偽りなくおっさんなんだ。エルネッタさんは愛し方を知らないなんて言うけど、今のままで十分ぼくは愛されてると感じてる。ただね、ぼくはエルネッタさんの中に女でありたいと思う気持ちも絶対あると思ってる。酒に酔ってぼくを襲ったと思い込んだのもエルネッタさんの中に性的衝動があるからでしょ? ならぼくたちは、もしかすると自然にそういう深い関係になれるかもしれないよね」


「んー、それなんだよな。わたしはディムのそういう所に惹かれる。なんでこんなわたしを愛そうとしてくれるんだ? もしかして本当に熟女しかダメなひとなのか? これまでは収入のないディムを養ってはきたけど、いまは圧倒的にディムの方が稼ぎいいしな。打算的に考えればわたしなんかもう、面倒なだけで用済みの女だ。普通ならこんな年増は捨てて若い女に走るよな。なぜそうしようとしない? ディムはわたしに何を望んでるんだ? 望みを言ってみろ」


「ぼくを必要としてほしい」


 エルネッタはディムの言葉の続きを待った。だけどディムの望みはそれだけだった。


「お前……」


「ああっ、違う違う。誤解だよ。誤解」

「はあ? なんだそれは。浮気現場に踏み込まれた男か!」


「ぼくを他人に必要とされなかった可哀想な男だと思ったでしょ?」

「思ったよ、気の毒にと思ったよそんなの」


「違うからね。ぼくはエルネッタさんに必要とされたいって意味だからね。さっきも言ったじゃん、エルネッタさんが他の人を選んだらぼくは去るって。可哀想だとか思わないでよ? ぼくの生き方はぼくが決める、だけどエルネッタさんは将来を悲観してる。ぼくもあまり楽観してはいないけど、そこまで悲観するようなもんでもないよ。ふたり一緒に暮らしていくなら、捨てたもんじゃないと思うよ」


「ふたり一緒に暮らしていくなら捨てたもんじゃないか……ディムの言葉は心に刺さる。なんだか口説かれたようで気分がいい。わたしにはディムが必要だ。ずっと傍にいてほしい。だけどなあ、ちょっと、……うーん、ただひとつ気になった事があるんだが……」


「んー? なに?」


 エルネッタはわざわざディムの正面に回り込むように移動してじっと目を見た。

 もう絶対逃さないぞとでも言いたげな目だ。


「なあ、おまえは女を知ってるよな?」


 ドキッとした。

 そこまで読むか……。前世では一応、付き合ってた彼女もいたし。結婚する寸前までいった。

 だけどいつそんなことに気付かれたのかが分からない。


 しかもわざわざこれほどあからさまに正面に回り込んだということは、嘘は許さないという明確な意思だ。


「ん?」


「お前、聞こえてないフリをしたな! どうなんだよ、どっちなんだ!」


「そんなこと聞かなくたって、ぼく13歳からずっとエルネッタさんと暮らしてるじゃん」

「おまえを拾って家に連れ帰ったときに聞いた13歳という言葉に嘘はなかったと思う。だけど腑に落ちないんだ。いっつもわたしを子ども扱いにするし、それがちっともイヤじゃないんだ。なあディム、おまえは女の扱いがうまいんだよ。16歳やそこらでできるこっちゃない」


「あー、バレてたのね。そう、ぼくは女を知ってるよ。だってエルネッタさん、ぼくを襲ったじゃんあの夜さ、めくるめく官能の夜だったよ。ぼくもうあの夜からエルネッタさんのことを忘れられなくて、今日はこんな告白をしたのに……覚えてないなんて酷いよ。ねえ、もういちどする? ここでほら、誰も見てないから大丈夫」


「なああああぁぁぁぁぁ! おまっ、ちょ……あれはいたずらだって言ったじゃないか。そういう誤魔化し方をするってことは嘘をつかなきゃいけないんだな。仕方ないな、ほんとうに」


 こんなことで誤魔化されてくれるところも、好きなところだ。


 エルネッタさんは可愛い。掛け値なしに。


 こんなに可愛いエルネッタさんと一緒に、こんなにも美しい森を散歩してる。横目でチラチラとトリュフがないか探しながら歩いてたのは最初だけ。黒トリュフひとつ見つけたし、いまはもうエルネッタさんと森を散歩しながら雑談することが目的になった。



 でも、ディムはせっかくエルネッタさんと珍しくデート気分に浸っているというのに、一つどうしても気になって気になって仕方のないことがある。森に入るときから先にあった足跡の主とすれ違わないまま、こんな森の奥まで来てしまったということだ。


「んー、エルネッタさん。せっかくのデート気分ブチ壊しでごめん、じつは依頼も受けてないんだけど、捜索者サーチャーモードになっていいかな?」


「どうした?」

「森の入り口から、たぶん午後半(15時)よりあと森に入った一人分の足跡があるんだけど、まだ奥に続いていて、すれ違ってないんだ」


「すれ違わないのはおかしいのか?」

「ぼくたちはいまここで引き返して街に帰るつもりだったんだ。この時点で引き返さないと、森を出る前に暗くなるんだよ。つまり、これ以上奥に行くと、明るいうちに森を出られないってこと」


「足跡の主は?」


「細身で小さな足跡。足のサイズは22~3センチぐらいで、森を歩く用の探索靴の足跡。歩幅から推測するに子どもっぽいけど、体重は50キロ前後。だからたぶん小太り? の女性探索者シーカーが単独行動してて、今朝貼られた薬草とりに行ってると思う。ここからまだちょっと先にいい採取スポットあるし。そんな探索者シーカーに心当たりある?」


「薬草とりか。なんか子どもっぽいのが新しく入ってるけど、小太り? そんな裕福そうな子が探索者シーカーなんてするかね? 若い女の事はディムの方が詳しいだろう? 同業だしな。わたしに気を遣って知らんぷりする必要はないぞ?」


「いつも寝坊するから朝のギルドなんて知らないんだよ。ぼくが顔を出すのは午後から夜だからさ」


「放っておけば明日には捜索依頼でるかもよ?」

 なんて言いながら、エルネッタさんの目がすわった。傭兵モードになってくれたようで心強い。


「それじゃあ人でなしだ。ギルド長室に座らされて説教されるよ」



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