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冒険者ギルドで人を探すお仕事をしています  作者: さかい
第三章 ~ 抗争! 狩人組合 ~
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[16歳] 嘘も偽りも


「おっ、あの辺かな……」


 ディムは土の上からだとまず探せないトリュフを探せる。昔はだいたいこの変だと目を付けた位置周辺の土を全て掘り返すといった乱暴な方法で探していたというほど見つけることが困難なキノコだ。

 『拾い食い』スキルの影響なのか、スキルを発動しなくとも食べ物の匂いにだけは敏感だから、トリュフのある場所は土の中だろうと、なんとなく分かる。


 落ち葉をかき分けて軽く掘ってみると拳よりもちょっと大き目の黒トリュフが見つかった。


「へーっ、こんなに簡単にとれるのか? いまどうやって見つけたんだ?」

「スキル」


「わたしには無理だといってるんだな……。それ、いくらぐらいで売れるんだ?」

「黒トリュフだから、これで3万ぐらいかな。白でこの大きさなら5倍はするよ」

「5倍? 15万か。傭兵が護衛を一週間して稼ぐ金額だぞ? なんでそんなにするんだ? 薬効でもあるのか?」

「珍味って言われてるけど食材にするなら香りを楽しむものだから、美味しいわけじゃないよ?」


「そか、食べてみたいと思ったけど、美味しくないのにそんな値段で売れるなら、売ったほうがいい」

「食べたらエッチな気分になるかもね。催淫効果があるんだってさ」

「マジで?」


「何もないのに高く売れる訳ないじゃん。試してみる?」

「やめとく」


「即答でNOを突き付けたね? なんでさ。美味しいかもしれないよ?」

「媚薬みたいな効果があるんだろう? 絶対イヤだ。おまえの悪だくみにハメられる未来しか見えない。そして翌朝わたしが泣きそうになってるのに、おまえはあのニヤニヤしたイヤらしい顔で笑うんだ。まったく、そんなに性格悪いと知ってたら拾わなかった」


 そこまで言われてしまうと、さすがにレッドスネークの出番があるかもしれない。

 エルネッタさんは性格が悪いと言った。ここまで期待されているのだから、期待に応えてあげてもバチは当たらないんじゃないかと思った。


 あの夜からエルネッタさんは寝る前、ちゃんと寝間着を着て、胸もはだけないように身嗜みもしっかりして、指さし確認してからじゃないと眠れなくなったらしい。

 トラウマになってしまったのかもしれないし、男を意識し始めて、女としての部分が目覚めたのかもしれない。一緒に暮らす身としては結果オーライだ。


「トリュフがもうちょっと出てくれたら、危険な護衛に行かなくても食べていけるのにな」

「わたしのヒモはやめるのか? ちょっと寂しいな」


 エルネッタさんはずっとヒモで居てほしいのだろうか。


「うーん、エルネッタさんは傭兵稼業を、あとどれぐらい続けられるつもりでいるの?」

「いきなり厳しい質問だな」


「うん。みんなだいたい50~60までに引退してるよね。ぼくが言ってるのは、そのあとも何かして食べて行かなくちゃいけないって話なんだ。農家なら息子に畑を少し継がせて、老後は農具の手入れしたり、商家なら店を子に譲って、やっぱり家族という単位で暮らしていくじゃん。子どもがいない老夫婦も居るけど、みんな概ね幸せに暮らしてるね。ぼくが言ってるのは独り者の傭兵が引退した後、どっやって暮らしてるか? ってことなんだけど」


「ディムの言いたいことは分かる。独り者の傭兵なんて、だいたい稼いだ金はぜんぶ酒に消えて老後の貯えなんて持ってないからな。狩人ハンターなら森や山で暮らしながら、いつかアッシュベアのエサになるって選択肢もあるんだが、独り者の傭兵が引退した後なんて、だいたいドブで野垂のたれ死にするってのがオチだ。心配させて悪いな。それともわたしが50になってもお前、くっついてるつもりなのか?」


「ダメ?」


「ダメじゃないけどさディム。女ってのは若くてナンボなんだ。……いいか、ディムが30になったら私は40だぞ? めかけにも側室そくしつにも需要なしだ。これっぽっちも需要がない。女になんて生まれるもんじゃないなホント。でもな、男の30、40ってのは、まだまだ若い女からモテるんだ。ディムのようにギルドでスター扱いされてたら尚更な。おまえのアビリティならこんな街でくすぶっていないで、首都や王都に行けば今よりもずっと稼げる。評判になったら王城にも取り上げられるかもな。メイドの居る屋敷で側室の三人や四人養ってお釣りがくるんじゃないか? 男が年上で女が年下。これが自然で普通のこと。ディムはいつか絶対にわたしから離れていくよ。それが現実だ」


 エルネッタさんは王城に取り立ててもらえると言った。

 それはきっと希望的観測が入っている。好きこのんで【アサシン】を招き入れるような王城なんて、あるわけがないのに。非接触鑑定士に見られたらオシマイ。そのあとは迫害されるだけだ。


 エルネッタさんは自分の未来を悲観してる。"いつか絶対に離れていく"……か。逆だと思うけどな。

 だけどいま否定したところで言葉に重みがないから軽くいなされるか、押問答になるだけ損だ。


 確かに損することは分かっているけれど、それでも、否定するべきだここは。


「ぼくがエルネッタさんから離れていくって? その根拠は? ぼくが熟女しか愛せないひとだったらどうなの? それともエルネッタさんは若い頃、30ぐらいの男性に恋をした?」


「してない。わたしは男になりたかったんだ。恥ずかしい話だがわたしはこれまで恋愛なんてしたことがないし、人を好きになったこともない。だから人の愛し方が分からない。ディムも女の人に愛されたいって願望ぐらいあるだろう?」


「そういえばこの前、ぼくのシルバー祝いのとき生娘だって言ってたね……」


「マジか! そんなこと言ったのか! 恥ずかしいから誰にも言うなよ、そんなことがギルドに知れたらわたしは家出するからな。絶対誰にも言うなよ。……ああ、でもあれがイタズラだったとはな。てっきり酔った勢いでディムを襲ってしまったと思って、取り返しがつかないと思ったよ」


「ははは、エルネッタさん何ガッカリしてんのさ? じゃあいまここで、酔った勢いなしに、ちゃんと素面しらふでしてみる?」

「うるさい。性格の悪いディムが顔を出したな。警戒だ警戒。おまえはもっと若い女を襲え」


 エルネッタさんの警戒は、一歩離れて歩くだけのようだ。

 襲うのはエルネッタさんだって話をしてるのになんで襲われないよう下がるのか。

 やってることがいちいち支離滅裂すぎる。


「もっとこう、普通にさ、そういうのなしに一緒に暮らしていこうよ。何かと若い女を出してくるけど、そんなに心配なの? ぼくはあんまり目移りしない方だし、引き際もいいほうなんだ。もしエルネッタさんがぼくと違う人を愛したら、ぼくは黙って離れていくから安心していいよ。せっかくいい女に憑りついたけどね」


「屈折してるなあディム。そんなんじゃモテないぞ? もうちょっとガツガツ行けって。まあ、そんなこと言いながらディムはわたしを口説いたことなんかないからな」


「口説かないのにも理由があるの。ってか、ギルドに何年いるのさ? エルネッタさんほどの美人があんな野獣みたいな男の中に入ってるんだ。普通に口説かれたりしたでしょ?」


「うーん、最初だけかな。アルスも口説いてきたことがあるぞ」

「それでなんで?」


 横を歩くエルネッタが遅れはじめたのでチラッと何の気なしに視線をやると、先ほどまでの挑戦的な眼差しはもうなく、とても寂しそうな目でディムのほうを見ていた。



「わたしには人の嘘が見えるんだ。なんとなくな」


 嘘が見える? 嘘が分かるでもなく、嘘を言えば分かるでもない、嘘が見えるという。それが本当ならアルさんじゃ口説いても落とせなくて当たり前。見えるってどういう意味だろう? 嘘ついたセリフ文字が青で表示されたりとかするのかもしれない。


「だからぼくを拾っておいて、名前も出身もなにも聞かなかったの?」


「そうだ。嘘をつかれたら悲しいからな。だけどディムのことは好きだぞ、たまに嘘をつくが、嘘をいっちゃいけないような大切な場面では絶対に嘘は言わないし、わたしを好きだと言ってくれる言葉に嘘はない。そして嘘を言わなきゃいけない場面では下手にごまかすからな、わかりやすいんだ」



 ……っ。


「な、もう普通に話せないだろう? わたしに嘘を見破るスキルがあると知れたら男も女もプライベートでは近寄りもしなくなった。わたしもディムと同じで隠し事の多い女だが、ディムも自立できるようになったからな、そろそろ潮時しおどきかと思った。だから話した。もうわたしのもとから去りたくなったろう? これがわたしだ。男どころか、友達もいない。ありがとうな、こんなわたしのことを好きだと言ってくれた。こんなわたしのことを美人だって言ってくれた。私もディムのことが好きだぞ。感謝してる」



「……ちょっとまって、ストップ! 念のために聞くけど冗談ぽくいったことも全部? たとえば、ぼくがエルネッタさんのことをエッチな目で見てるとか、あんなことやこんなことをしたいって言ったのも?」


「ああ、あれも嘘じゃなかったな。ってか、そこか? 第一声がそこなのか? 他にも突っ込みどころあるだろ? わたしいま結構重大な告白をしたつもりなんだが」


 話の方向性が下ネタにいったとき突っ込みどころなんて言われたら、つい反応しそうになったけど、そこはグッと我慢しないと今はそんな雰囲気じゃあない。


「いやいやいやいや、あれは恥ずかしいよ忘れて欲しい。黒歴史だ。次から注意するから。……してやったり! と思って冗談っぽく本音を言ってたのに、実はバレバレだったなんて。しかもあんなセクハラ発言が本気だったらドン引きだよね普通……ああもう、恥ずかしくて顔から火が出そうだよ」


 ディムはいつものようにバカを言い合うときの顔に戻ってほしくて言った。あきれたと言ってほしくて上ずったようなセリフを吐いた。

 エルネッタは寂しそうな目に温かみを含めた眼差しで答える。


「まあ、わたしと一緒にいると、そんなふうに嫌な思いをするし、そのうちわたしと話すことも避けるようになる。これが、わたしのもとからディムが離れていくという根拠だ。必ずな」


「じゃあ、そうだな。その通りだ。嫌な想いをしたよ。ぼくはエルネッタさんのことが嫌いになった! だからエルネッタさんのもとから去りたい!」



「……それは……嘘だ。ディム、おまえは……なぜそんな優しい嘘がつける?」


 ディムはエルネッタの腰に手をやって、更に森の奥へと誘うようゆっくりと歩き始めた。

 こんな話、べつに大したことじゃない、数多あまたある雑談のひとつだと言いたげに、ディムは散歩を続ける。


「ぼくにも隠し事ぐらいたくさんあるさ、言いたくないこともたくさんね。だからこれからも嘘はつくし、下手なごまかしもたくさんするよ。そんなことよりもぼくはエルネッタさんが心配だ。その能力は、ひとを幸せにするものじゃないと思う」


「嘘なんて見抜けなければいいのにって思ったことは何度でもあるよ」

「それは常時起動スキルみたいなもの? それとも意識して起動しないとダメ?」

「どっちかというと意識かな。あと近くで顔を見てないと分からないから。わたしに嘘をつきたいなら、後ろから話せばいい」


 近くで顔を見てないと分からない? 後ろからでも無理なのか。じゃあ話を聞いただけで分かるとか、そういうものじゃないらしい。ってことは耳じゃなくて目で嘘のサインを見てるってことだ。


「暗闇では? 正面で向き合って目を閉じながらでも分かる?」

「顔が見えてないと分からないから暗闇でもたぶん分からないな。わたしが意識的に相手の顔を見ないようにすれば分からないから」


 ん? それはもしかして単純に刑事とかが目を見て嘘を見破るのと同じような技術かもしれない。

 刑事は眼球運動、瞳孔の収縮や拡散をみて嘘を見破るという。


 でも刑事の技術で分かるのは嘘だけだ。本当のことを言ってそれが本当なのかは分からない。


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□ディアッカ・ライラ・ソレイユ 26歳 女性

 ヒト族  レベル041

 体力:45600/43000

 経戦:B→A

 魔力:E→D

 腕力:A→S

 敏捷:D→C

【聖騎士】C/片手剣B/短槍B/盾術B/両手剣D


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 エルネッタさんのステータスを表示させてみても、怪しげなスキルはない。これは『知覚』スキルじゃ見られないのかもしれない。


 さっきのフィトンチッドの知識はきっと【羊飼い】か【ホームレス】アビリティにくっついた知識から出たものだろうと思うし、ディムがスキルもないのに細山田ほそやまださんの合気柔術? を使えるのと同じ理屈だと思えば不思議でもなんともない。


「わたしのスキルを見てるのか?」

「うん、怪しげなスキルはないからね、もしかしたら【聖騎士】アビリティにくっついたオマケみたいなものかもしれないしね……、はあ、でもよかったよ。嘘が見えるっていうからどんな能力かって思ったけど、分かるのは嘘だけなんでしょ? 隠し事をしてることが分かったり、読心術のようなものだったら、逆に、エルネッタさんのほうがぼくから去っていくところだった」


「おまえの性格が悪いことはもう知ってるぞ?」

「マジで? それだけは知られたくなかったのに、なんでバレたんだろ?」


「あはははは、ディムおまえ、ほんと性格悪いな」

「性格の悪いぼくと一緒に暮らそうだなんて、エルネッタさんは本当に変わり者だと思うよ」


「おまえがな」

「エルネッタさんもだよ」


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