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冒険者ギルドで人を探すお仕事をしています  作者: さかい
第二章 ~ 古傷の疼き ~
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[16歳] エルネッタは、説教しようとする

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「おおエルネッタ、どうだった? ギルド長なにか言ってたか?」

「アルス、おまえすぐ抜かれるぞ。いや、実質もう抜かれてるな。ギルド長はBランクって言ってるけどすでにAランク目前らしい……」


「なんだとおおおおお! マジか、マジかあああ! おれディムに抜かれちゃうのか?」


 エルネッタは一旦カウンターの椅子を引いて腰かけたが、ディムの事で頭がいっぱいになって旨い酒を楽しめそうもない。ディムももう16になったんだから、あんまり心配してるって素振りを見せるのも過保護になるだろうし、難しいところだと感じているところに、あのゲッコーと戦ったという。


 ゲッコーははやい。目の前を通り過ぎたと思ったら向き合う前にもう仲間が倒されていた。

 仲間を庇うため、反射的に一歩前に踏み出しただけで首を狙われた。今思えばあれは迂闊な動きをさせるための罠だったのだろう。首を狙う短剣に襲われざま身体を捻って肩で受け、力一杯の横蹴りでフッ飛ばしてやったが、ぶっ飛ばした勢いそのままに、嘲笑う声だけ残して逃げられてしまった。


 痛み分けというより身体に受けたダメージで比較すれば明らかな負け。今度会ったら脳天から真っ二つにしてやりたいと常々思っているほど因縁の深い相手だった。

 ディムはあのゲッコーを短剣でひと突きにしたという。信じられなかった。ゲッコーは簡単な相手じゃない。背後から襲うでもなく、こちらが武器を構えていないときを狙われたわけでもない。


 ちゃんと装備を付けて、武器を構えた傭兵を何人も殺害した男だ。ゲッコーと対峙したときのことを思い出すと恐ろしくなってくる、エルネッタたち傭兵は油断も過信もなかった。それでも圧倒されるほどのスピードと、そして技術をもった強敵だ。


 エルネッタは信じられないという気持ちよりも先に、自分に何も言わず、そんなにも危険な相手と戦ったことに腹を立てた。今回はディムの短剣が上回ったのかもしれない。しかし命のやり取りは何があるか分からない、踏み込んだ先に砂の粒があっただけで優劣が逆転するのは当たり前だ。紙一重の事であの野郎の短剣がディムの首に突き刺さり、もう取り返しのつかない事になっていたかも知れないと思うと、イライラを通り越して怒鳴り散らしてやろうかとさえ思う。


 最悪、ビンタの一発でもくれてやらないとディムには伝わらないと思った。


「はあ、今日も飲もうって気がなくなった。ディムの顔でも見てくるわ」

「あいよ、お疲れさん。おめでとうって言っといてな」


 エルネッタは壁に立てかけていた盾と槍を担いで部屋に向かった。

 一般人の住むようなワンルームアパートでこの盾と槍は邪魔になるどころじゃなく、ドアを開けてから部屋に入り込むまでが一苦労だ。


「ただいま。んー、やっぱこの盾邪魔だな、玄関ドアよりデカいってなんだよ、部屋に入れるのにあちこちぶつけるわ」


「おかえりエルネッタさん。……んー、肩こってるって顔してるよ。こっちきて」

「ディム、わたしの肩がこるのは、お前が心配させるからだ。今日はちょっと話がある」


 エルネッタはまず、何と言って話を切り出そうかと考えてテーブルに向かうと、いつもエルネッタが座る席に、なにやらプレゼント包装された箱? のようなものが目に入った。今回はやけに小さい、宝石箱のような小箱だ。


「ん? これは何かな?」

 大きさは紙巻き煙草の箱を2つ重ねたような大きさだから。指輪が入っているとしたらちょっと大きい。ペンダントかネックレスか、なにか、そのようなものだと思って、ドキドキが止まらない。


 エルネッタは出ばなをくじかれてしまった。


「ぼくからエルネッタさんに」


 エルネッタは渡された箱の包装を解くと、ちょっと豪奢な黒いビロード張りのケースが姿を見せた。

 何が入っているのかとワクワクしながら開けてみると……。中に入っていたのは青く輝いて透き通る小瓶と、それを首から下げるためのペンダントチェーンだった。


「これは……えっ? エリクサーか?」


「うん。エリクサー。エルネッタさんぼくに使ってくれたんでしょ? それから買ってないし」


「こんな高価なものをおまえ……いくらしたんだこれ? わたしが持ってたのは、家から持ち出したものだから自分が買ったわけじゃない……。むちゃくちゃ高かったんじゃないか?」


「ちょっとした臨時収入が入ったからさ」


「ディム、これはお前が持ってろ。わたしは盾を持ってるから大丈夫。これはお前の命を助けるものだ」

「ぼくがケガをしても、エルネッタさんがキスしてくれたらたちまち全回復するんでしょ?」


「ああー、まて、だけどダメだ。わたしは肝心なときに居ないらしいからな!」

「じゃあエルネッタさんが帰ってくるまでぼくは待ってるよ。死なずにね……」


 そういってディムはエルネッタの首にエリクサーの小瓶をさげてやると、肩の古傷と、重い盾をずっと担いで依頼を達成してきた筋肉をほぐすため、ソフトなマッサージを、丁寧に、念入りに、何時間もかけてゆっくりゆっくり施した。


 ディムのマッサージは夜半になるまで続けられ、エルネッタのまぶたが重くなり、そろそろ眠くなってきた頃、何の脈絡もなく話は核心へと飛んだ。



「この古傷が痛んでも、もうあんな野郎の事なんか思い出さなくてもいいんだな。ひとつ楽しみがなくなったよディム、ゲッコーのクソ野郎は? 強かったか?」


「ぜんぜん。オークの戦士と比べたら小動物さ……」


「くくくっ……。やっぱりなディム。どうだ? オークって強いんだろ? どんな塩梅あんばいだ? わたしでも戦えるか?」


「強いなんてもんじゃないよ。たかだか村を襲ったやつらの中に混じってたのがレベル62。強すぎるからこそ個人技に頼るから集団戦でギリ戦えるけど、奴らが纏まってコンビネーションとかしてきたら勝ち目ないからね……」


「62だと? 想像がつかないな。わたしはいくつなんだ?」

「エルネッタさんは41だってば」


「あれからまた護衛に行ってきたじゃないか。それぐらいじゃあ上がらないのか……」

「戦闘経験した?」


「してない」

「じゃあ上がるわけないよ。あと訓練でも上がるし、きっつい運動しても上がることがあるけどね」


「ディムは? いまいくつなんだ?」

「ぼくはいま51」


「わたしよりだいぶ強いじゃないか。レベルの上げ方を教えてくれ」

「レベルなんてただの目安だからね。ぼくみたいにいつもゴロゴロしてるような人は、レベル相応の強さを発揮できないと思うよ? それにぼくはエルネッタさんのキスがあれば一生戦える。エリクサーはエルネッタさんが持っておくべきだ。万が一の時、ぼくが助けに行くまでそれで頑張れるなら価値はあるし。エルネッタさんが無事でもアルさんが傷を負ったら使えるじゃん。もちろんあとで請求するけどね」


「アルスになんか使ったら出世払いになって、きっと一生回収できないけどな……んっ……んんんっ、ディムどんどんマッサージうまくなってないか? わたしをとりこにする気なんだな」


「ぼくはエルネッタさんの扶養家族だからね、お金なんか一日で無くなっちゃったしさ。また養ってもらわないといけないから、身体のメンテナンスはぼくに任せて」


「お金なんか働いたらいつでも手に入るって言ったのはわたしだけど、使いすぎ。んっ、そこっ」

「無駄遣いした訳じゃないんだからいいじゃん」


 エルネッタはひとつ大きな溜息をついて、しみじみとした表情で、


「そうだな」


 と言った。

 アンデス・ゲッコーが死んで、ディムが無傷でこうやって、自分の身体をマッサージしてくれている。

 これ以上、望むのは欲張りすぎだと、そう思った。


「あ、そうだ。さっきぼくに話あるって言ってなかった?」

「んー、もうどうでもいい。気が削がれたらダメなたぐいの話だったんだ」


 やはりエルネッタは軽くなされ、かわされ、けむに巻かれてしまった。

 思った通りの結果になったが、ディムがマッサージの出来栄えを確認してみると、思っていたよりもずっと良かった。



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□ディアッカ・ライラ・ソレイユ 26歳 女性

 ヒト族  レベル041

 体力:48800/43000

 経戦:B→A

 魔力:E→D

 腕力:A→S

 敏捷:D→C

【聖騎士】C/片手剣B/短槍B/盾術B/両手剣D



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 ステータスが軒並み限界を超えて上がってる。

 ちょっと目を見張る効果に驚いたが、自分のステータスを確認すると理由が分かった。マッサージのアビリティクラスがアップしたようだ。


「エルネッタさん、ホントいい具合にステータスアップしてるよ。もしかするとこれまでで最高のデキかもしれない。スキルアップを感じる」


「本当か、じゃあ回数を重ねるごとに気持ちよくなっていくのか? うわあ、わたしは幸せ者だよ……」



----------


□ディミトリ・ベッケンバウアー 16歳 男性

 ヒト族  レベル051

 体力:404400/410500(10倍)(41050)

 経戦:C→A

 魔力:D→C

 腕力:C→A

 敏捷:A→SS

【アサシン】E /知覚C/宵闇B/短剣S

【羊飼い】A /羊追いB

【理学療法士】E /鍼灸D/整骨B/ツボB

【人見知り】E /聴覚E/障壁E

【ホームレス】D /拾い食いB



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【マッサージ師】アビリティは、もともと細山田ほそやまださんの生前の職業そのまま【理学療法士】に変化しいて『知覚』スキルもスキルランクがアップ。これまで分からなかったスキルの熟練度が表示されるようになった。ステータスを読める項目が増えたことにより、これまでよりも相手の情報が事細かに把握できるようになった。【理学療法士】アビリティは、身体を丁寧にメンテナンスすることで、ステータスの上限がアップする効果がある。常識的に考えて一時的な効果だと思う。どれだけ持つかは不明だけど。


 ステータスアップ効果があると分かり、ディムがエルネッタの身体をメンテナンスしなくちゃいけない理由が補完された。もうメンテナンスに手を抜くことは許されなくなった。


「どうしたディム? わたしの顔をじーっと見て……なにかな?」

「ステータスを見てるんだよ」


「おまえなあ、女性に対してそれはないと思うぞ、もっとほら、こう、褒めてくれ」

「またあとでいっぱい褒めるよ」


「おまっ、あとで何する気だ」

「お楽しみ」


 ディムはアンデス・ゲッコー事件を解決してから、ひとつショックな出来事があったせいで、この後どうしようかと悩んでいた。エルネッタに言うべきか、言わざるべきか。


 実は【夜型生活】アビリティが【アサシン】に変化してたのだ。夜間体力の伸びが10倍になってるってことは、【夜型生活】アビリティがクラスアップしたと考えていいのだろう。


 4人の兄弟たちはは生前の職業由来アビリティを得ていたのになんで無職だった自分が【アサシン】になるのか。これ以上人聞きの悪いアビリティもないだろう。


 エルネッタさんに隠し事が一つ増えた気分だ。


 ステータスに『経戦』というのが追加されてて何なのか分からないけど、たぶん経戦能力。

 スタミナみたいなものだと思ったけど、そんなことは【アサシン】のインパクトが大きすぎて、もうどうでもよくなった。


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