表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
冒険者ギルドで人を探すお仕事をしています  作者: さかい
第二章 ~ 古傷の疼き ~
26/238

[16歳] ベラ・イサク 行方不明案件(3)知的盗賊団、残党

 依頼者がディムをギルドから来てくださった方だと紹介すると、革の積み下ろし作業をしていた男は、露骨に『やれやれ、またか。めんどうだな』といった仕草を見せて、いま掴んでいた革の束をその場に置いた。


「ああ、今日はアンタで3人目だよ。しかしギルドの探索者シーカーも人手不足なのかい? アンタみたいな子どもが来るなんて思わなかったが……」


「どうも。ディムといいます。あと、探索者シーカーじゃなくて捜索者サーチャーです。以後、お見知りおきください」


「サーチ……、本当か、若いのにすごいな。女将さんがいなくなっちまって、おやっさん元気なくてね。なんでも聞いてほしい。そして女将さんを見つけ出してくれたらありがたい」


「ありがとう。んじゃ、まず住所と氏名と年齢、この職場に来てからの勤続年数と、奥さんがいなくなったときの状況を詳しく」


「住所氏名と年齢? そんなことが必要なのか?」

 エイナスは露骨に訝しんで答えに難色を示したけれど、実はそこが一番聞きたい情報だったりする。


「あ、えーっと。みんなに聞いてるんですけど何か不都合が?」


「いや、なんでもない。住所はアイネス区11番のアパートで名前がエイナス・ブレイム。49歳 で、勤続年数はえーっと、おやっさん、俺どれぐらいでしたっけ?」


「んー、1年半ぐらいじゃないかな?」


「聞いた通りだ。えっと、女将さんがいなくなった時の状況なんて前に話したのとまったく同じだ、タムロさんとこの工房に荷車の鹿皮を卸すのに女将さんついてきてさ、今月分の集金を終わらせたんだ。金額は、122万ゼノだった。タムロさんのほうにも伝票あるからそっちで聞いてくれてもいい。戻りしな、俺に先に戻っといてくれって言ったんだ。時刻は午後半前(15時になる前ほど)ぐらいだったが……」


「ちなみにそんな大金を持った女性を、なぜ先に帰らせたのか。差し支えなければ」

「仕入れの便びんだよ。タムロさんとこで荷を下ろす、空になった荷車で狩人組合に行って鹿皮を積み込んで戻ってくる。知っての通り、狩人組合までは距離があるからね、大金を持ち歩いて街の端から端までうろつくほうがどうかしてる」


「ありがとう。その時の奥さんの服装はどうでした? 靴はどんなのを履いてました? 目につくアクセサリーは付けていましたか?」

「普通の浅黄色で、ひざ丈のワンピースだったかな。でも靴までは……」


 奥さんのいつも履いてる靴をちょっと見せてもらったところ、サイズは24センチ。女性にしては普通すぎるから足跡で特徴を掴むことは出来なさそうだ。身長は165センチ。ってことはエルネッタさんよりもちょっと高いぐらい。この世界には写真というものがないから簡単じゃない。だけどブロンドでスタイルがいいという事を聞いただけで聞き込みはできそうだ。


「ありがとうございました。もしかするとまたお話を伺いに来るかもしれません」



 エイナス・ブレイムという男、本名が『フェデロ・ディラスコ』という。偽名を使ってるという事は、本名を知られたくないってことだ。履いてる靴も軽作業用ではなく、長旅に使うようなブーツだった。この男、どうもクサイ。


 まずはギルドに戻ってこの男の名前を検索してみることにした。


 こういう相談はギルド長のダウロスさんが受けてくれる。手数料を30%も持って行くのに誰も文句言わない理由のひとつがこれだ。まあ、依頼に失敗したときの捜索にかかる費用をぜんぶギルドがもってくれるというのが大きいのだろうけど。


 で、ディムはというとギルド長の部屋の、あの悪趣味としか言いようのない紫色のふかふかローソファーにどっしりと尻を沈めながら、ギルド長にお願いして、指名手配から盗賊、人攫いなどの前科者など要注意人物の名前がびっしり書かれている名簿、所謂いわゆるブラックリストを検索してもらっているところだ。


「あー、あったあった。フェデロ・ディラスコ。7年前に首都サンドラで大地主の資産を丸ごと奪った知的盗賊団の幹部だ。衛兵の公安捜査官を2名殺害して指名手配されてるけど賞金が懸かってるわけじゃないからちょっかい出すだけ損だぜ? さっき持っていった依頼と関係あるのかい? もしかしてこんな大物が絡んでんのか?」


「いいえ、まだ未確認なんですけど、もしかするとそいつが絡んでるかもというだけで……」

「そうか、なんだか危険なことに足を突っ込んでそうな気がするな。だれか付けようか?」


「いまのとこ大丈夫ですけど、もしかすると……近いうちに何かお願いすることになるかもしれません。こんな時にエルネッタさん居ないし……ほんといっつもあの人は……」



 ディムはギルドを出ると空が暗くなるのを待ち【夜型生活】が発動したのを確認すると、またイサク商会の前までやってきた。


 工業区は残業してる人たちの作業する槌の音が時折響く程度で、静けさは街の外とあまり変わらない。

 こんなランタンの街灯がまばらにしかない街の端っこだと人通りも少ないようで、さっき会ったフェデロ・ディラスコの足跡がくっきりと見える。ベラ・イサクを見つけ出すのに一つも手がかりがないので、こいつの線から当たっていこうという訳なんだけど……。


 まずフェデロ・ディラスコの足跡を確認する。昼のうちに見て、足跡は覚えておいた。作業員の履くような安物の靴じゃなく、使い込まれたブーツだったので足跡を見間違えることも、見失うこともなかった。


 足跡を辿って尾行すると、さっき聞いた自宅のある方向とは全然別な方角に向かっていたので、メシでも食いに寄り道するのかな? と思ったけど、ごはんを食べたり酒を飲むような繁華街からも外れてしまった。


 足跡の軌跡は西の、いまいち治安のよろしくない地区へと向かっていて、いくつかのレストラン兼酒場といった店が軒を連ねる通りを、何とも言えないいやーな雰囲気を醸し出す5階建て雑居ビルのような建物に入って階段を2階まであがった一番奥の重厚な扉の中へと続いている。防犯カメラなんてこの世界にはないし、ドアのところに小さな穴が空いていて魚眼レンズが仕込まれているという事もない。『聴覚』スキルを発動してみたけど、聞いたことのない男女の声が、くだらない雑談をしてるだけだった。


 この扉がいきなり開いてフェデロ・ディラスコが出てくるかもしれないというリスクに見合うような話は聞けそうにないから、一旦は通りまで出ることにした。


 この部屋に出入りしてる足跡は、このフェデロ・ディラスコを含めて三人分。

 うち一人がどういう訳か24センチぐらいの小さな、細身の足跡、女物の靴だ。

 捜索対象のベラ・イサクだったら手っ取り早くて嬉しいのだけど。


 建物を出てぐるっと一回りしてみた。

 裏口がないかどうかを確認したけど、裏口と思しき出入り口はいまのところ見つかっていない。ってことは、あの扉さえ押さえれば逃げ出せるのは窓だけってことになる。



 二階の一番奥か……二階の窓から中の様子をうかがいたいのだけど。

 通りに出て部屋の窓を見上げると室内の天井が見えた。ってことはカーテンが引かれておらず、窓が開いてるってことだ。


 あれっ?

 窓から室内を覗こうと凝視すると、右の窓つまり奥の部屋の窓の横から壁に何か不自然な突起物が並んでる……突起物は交互に、ちょうど手と足がかかるような形状と幅で絶妙な間隔を保って取り付けられていて、それが屋上へ逃れるための逃走に使えるものだということが容易に見て取れた。


 ここは何かのアジトになっていて、敵? か何かの襲撃があったとしても無事に逃げおおせられるよう、準備も万端というわけだ。


 いったい何故なにゆえそこまでの準備が必要なんだろう? 普通、建物の階上から逃げるときは地上に向かってハシゴなりスライダーなりを取り付けるはずなのに、屋上に逃げる理由があるのだろうか?

 あるとするならば、いったいどういう理由なんだろう? 火事になったとしても上に逃げちゃダメってのは子どもでも知ってるのに。


 ディムは通りを挟んで向かい側の、二階建ての建物に目を付けた。

 建物の壁をよじ登り、屋根に上がって斜め上の方向から開いてる窓が二つあるから、その窓を通りを挟んで向かい側から覗いてみることにした。二階建ての建物の屋根ということは、実質三階と同じ高さだ。


 セイカ村の自宅はそーっと恐る恐る踏み抜かないよう気を付けないといけないほど頼りない屋根だったけど、さすがに街の建物は石造りだし、瓦屋根の家は頑丈で、この屋根なら屋根板の裏側にある骨を踏み外しても踏み抜く心配はなさそうだ。


「えーっと……、お。いたいた」


 フェデロ・ディラスコ発見。コーナー型の白革ソファーにこれでもかってほどもたれかかって酒を飲んでる。室内は酒場とか会員制のバーとか、風俗ビルって感じじゃないから客という訳でもなさそうだ。酒瓶を持ってる男は?……えっと。



----------


□アンデス・ゲッコー 39歳 男性

 ヒト族 レベル038

 体力:30860/32200

 魔力:-

 腕力:C

 敏捷:A

【盗賊】/開錠/短剣


----------



 レベル38!

 この男……、強い。【盗賊】アビリティ? ……話には聞いてたけど、実際に見たのは初めてだ。この男もまたダウロスさんに調べてもらう必要がありそうだ。


 レベルがやけに高い。プロの盗賊かと思ってしまう。

 室内にいるのはこの2人だけ? いや、足跡は3人ぶんあったし、ドア前で聴覚スキルを発動して盗み聞きした会話では、女の声も混ざってた。


 ディムは聴覚スキルを強めに発動しなおし、窓の中の男たちの会話を聞こうと思った。その時だ。

 隣の部屋から女性が出てきた。こちらは指に挟むタイプのワイングラスを片手に飲んでいる最中のようだ。隣室、つまり2部屋以上ある間取りであることも分かった。



----------


□イゼッタ・カルカス 48歳 女性

 ヒト族 レベル022

 体力:7922/8333

 魔力:-

 腕力:F

 敏捷:D

【学術】/算術


----------



 んー。見事なブロンドたからこの女がベラ・イサクだと思ったけどどうやら違った。

 ベラ・イサクは26歳。この女は48歳だし……。もしかしたらいっぱつで200万ゲットかと思ったけど、人生、そう甘い話ばかりじゃないということだ。


 だけど足跡の女はこいつで間違いはなさそう。


 それにしても、怪しい奴の側には怪しい奴が集まるって本当だな。

 アンデス・ゲッコーという盗賊、ステータス鑑定しただけでロクでもなさそうな奴だと思ったのは初めてだ。


 差別とか偏見というものが自分の中にも根深くあることが分かった。

 気を付けなければ。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
script?guid=on
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ