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冒険者ギルドで人を探すお仕事をしています  作者: さかい
第二章 ~ 古傷の疼き ~
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[16歳] ベラ・イサク 行方不明案件(1)

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「なーなー、それマジ? なあエルネッタ、髪ブラッシングしてきたのか? 髪留めも……。どういう心境の変化なんだ? まさか身だしなみを整えてきたの? そんな傭兵みたことねえし。それにさ、おまえ盾なんか使えんの? 槍とか……聖騎士じゃあるまいし、ディムに盾もつよう言われたからって本気か? 足引っ張るようなことになったらいくらエルネッタでも許さないぞ?」


 これから護衛に出るというのに、相棒の様子がいつもと全然違う。小綺麗に髪をとかしてきた上に盾と短槍たんそうを担いできたものだから騒いでいるのだ。


 護衛の仕事は傭兵マーシナリーの仕事としては特別楽な部類に入る。

 商人が荷車の隊列を引いて行進しているのは盗賊にとってウマい獲物だけど、傭兵が護衛がついているのに狙うことは殆どない。盗賊とはいえ、隊商が命を懸けて襲うに値する荷物を運んでいることなんてほとんどないことから、傭兵はだいたい武器を担いで、ただ隊商の列について歩けば平穏無事に目的地にたどり着けるのだ。


 だからといって、不得意な武器を持っていたのでは万が一の時に困る。

 アルスはいま信頼性の問題を指摘しているのだ。


「大丈夫だってば。わたし盾使えるし。じつはスキル持ってんだ」

「マジで? 両手剣を使えて盾も使えるって? ウェポンマスターかよ! うわー、盾なんかめんどくせえのよく持とうと思うよなあ、しかも超デカいし。何それ? 突風で飛ばされそうにならね? 川渡るとき船になりそうだし、マストに付けたらスピード出そうだしな! まあ雨が降ったら入れてくれ。な」


「ぜったい入れてやるもんか。なあアルス、お前わたしのことを女狐って言ったの忘れてないからな」

「俺は覚えてねえかんな! 首絞められて低酸素状態で救出されたって聞いたし。マジで殺す気だったのかと思ったらドン引きだよ。酒場で心肺蘇生受けたって聞いたしよ」

「ウソつけ! そのあと思いっきり飲んでたくせに」


「相棒に殺されかけたんだ。飲まずにやってられっか! …………、しかしあのエルネッタがねえ、ディムに盾もてって言われたら次の護衛には本当に盾もちか……お前本当にあのディムにいかれちまってんのな」

「うるさいな、それディムにいったら明日はオリオン河に浮かぶことになるからな」


 エルネッタはディムと盾を持つ約束した翌日にはもうレジェンド装具店に行って重装兵が使う長方形の大型盾『スクトゥム』を用意し、右手に持つ武器としては身長より少し短い槍をチョイスして、次の護衛依頼には間に合うように準備してきた。


「んーそれでもまあ、ちょっとこの盾はデカすぎる気がするけどな」

「俺なんか盾を持つのもお断りだ、向かい風とかどうする気なんだ? 苦行にしかならねえだろ? 前に進まねえって」


 このスクトゥムという盾は隊列を組んで行う集団戦に用いられる盾で、機動性を犠牲にしない小型の丸盾バックラーを好む傭兵マーシナリーが使うことは殆どない。

 短槍たんそうは突けば刺す、振れば斬るという、長い棒の先に大きめの短剣を縛り付けたような武器で、普通に流通しているものだ。だけど一般的に短槍たんそうは両手武器だ。これを片手で扱うとなると筋力に加え相当な技術が必要となるので、こちらも脳筋の多い傭兵にはあまり人気のない武器となっている。


 そんな重そうな装備をヒョイと担いでエルネッタは護衛に出る。

 今回は、ディムの母親が住んでいるらしいサンドールの町に向かう往復の護衛で、4~5日で帰る予定だと言って家を出た。



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 一方ディムは朝まだ眠いうちからエルネッタが護衛にでるというので、朝から起き出して街の出口で隊商を見送り、家に帰るや否やすぐさま二度寝。午後になって腹の虫が騒ぎ出すとようやく脳がハッキリしてきた。


 この前の白トリュフの稼ぎもエルネッタさんへのプレゼントで飛んでしまったし、また何か依頼を受けて小遣い稼ぎをしておきたいところだ。


 部屋の戸締りをして外に出ると、朝は晴れていたのに、雨が降りそうな空模様になっていた。

 実は空気を感じるだけで天候の変化がなんとなくわかる。たぶん【ホームレス】アビリティのおかげだとは思うけど、さすがにアビリティが5つもあると何が効いてるのかよくわからないこともある。


「あっ、ヒモが出てきた」

「どうしよう、エルネッタという女がいるのに私を抱いた悪い男と再会してしまったわ」


「サラエおまえマジで9歳か? セイジもさあ、ぼくはヒモじゃなくて扶養家族だってば。お前たちも仕事してないのにごはん食べさせてもらってるだろ? それと同じだよ」


「オレも15になったら探索者シーカーになってヒモになるんだ」

「おおっ、ヒモはいいもんだぞ。ただ、兄ちゃんみたいにモテる男になって、いい女捕まえないとな」

「なあディムたのむ。女の口説き方を教えてよ。年上がいい」


 ちなみにこのセイジってガキんちょは8歳。ディムが8歳のころはまだセイカの森で、メイやダグラスたちと将来のことなんてこれっぽっちも考えずに、ただただ、ひたすらに遊び惚けていた。

 15で探索者シーカーになるのはいいとして、ヒモはどうかと思うところだが、何も考えてないよりいいにきまってる。


「ディムも早くあの年増と別れなさいな、そしたら私が働いて面倒見てあげるわ」

「うおっ、それはお願いしたいなあ」


 ちなみに、こっちのマセた姉もまだ9歳。

 日本だったら接近禁止命令がでて社会的に殺される勢いの責め苦を受ける年齢だ。



「セイジ!! サラエ!! またお前たちは! まったく、兄ちゃんにどんだけお世話になったかもう忘れちまったのかい!」


 お母さんにこっぴどく怒られるのは、だいたい悪い言葉をたくさん覚えてる姉のサラエで、サラエが怒られているスキを見てセイジがヒソヒソ話で教えてくれた。


(あの白トリュフ、5万で売れたんだぜ……兄ちゃん)

(おおっ、マジか。すげえな。良かったじゃないか)


 そしてサラエは反対側の耳に、こっそり耳打ちしてくれた。

(ほら、お母ちゃんのブレスレットみてみて)


 サラエたちのお母さんの手首には、細身のブレスレットが光っていた。

 トリュフを売ったお金で買ったんだそうだ。


 ディムが親指立てのサムズアップを決めると、二人は最高の笑顔でピースサインを決めた。

 こいつら本当に気持ちのいいガキどもだ。


 ディムは素直に『ガキんちょはいいな』としみじみ思った。

 自分もガキの頃どれだけ大人たちに迷惑をかけて、心配させたか。

 それでもゲンコツをひとつガツンともらって、親の頭ばかり下げさせて、当の自分はケロッとして。


 それで笑ってたら平和なんだから……羨ましい。


 日本じゃ平和の象徴はハトだって言われてたけど、ここじゃあチビっ子の笑顔がいちばんいい。



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 サラエとセイジがいつもの元気印なのを確認したディム、今日もだらけたような顔をして依頼ボードを確認すると、冒険者ギルド、探索者シーカー用の依頼ボードをに新しい依頼が1枚貼られていた。


● ベラ・イサクの捜索 29歳 女性 誘拐の可能性あり 200万ゼノ(経費全込み)


 ベラ・イサクという29歳の女性が行方不明になったから探す出すのに200万ゼノという依頼だ。


「おおっ、期待のルーキーが早速その200万に目を付けたか!」


 目を付けたって言われても、たったいま気付いたところだというのに、依頼ボードを見た瞬間に声を掛けてきたのはギルド長のダウロスさんだった。妙に上機嫌でニコニコしているように見えて、その裏に何があるのかと疑ってしまう。


 子どもが二人行方不明になった依頼が77万3000ゼノだったのに、ま、受け取らなかったんだけど、それが29歳の女性を探すのに200万ってどういう事なんだろう?


「どうした? 渋い顔して……」

「子どもと大人でこうも依頼達成の金額が違うものなんですね」


「いや、そうでもないんだ。子どもの行方不明は自分の意思で逃げ出すということがない。だから、迷子になっているか、何らかの事故、事件に巻き込まれて帰りたいのに帰れないという状況であることが大半なんだが……、大人の女性が行方不明になるという事がどういうことか分かるかね?」


 言われなくても分かっている。ディムは前世、日本人だったころ朝霞星弥あさかせいやとして、当時の婚約者、春日かすがひかりが失踪し、行方が知れなくなったのだから。


 大人の女性が忽然と姿を消す、その理由として一番多いのは自分の意思で家出したり、男と駆け落ちしたりというものだ。だから、まだこの街に居るかどうかすら怪しい。日本とは違って、この世界の文明レベルだと写真すらない。ただし、日本のようによそ者について無視するといった風土ではなく、近所で見かけない者がうろついていると、どうしても目立つことから、行方不明者の捜索は聞き込みを中心に行うのがセオリーだ。徒歩で何日もかかるような遠い街にこっそり隠れていたりするだけで、経費はドカンと跳ね上がるだろうけど。


 また子どもの場合だと街の人の大半は協力的だけど、女が逃げ出すような家には何かあるかもしれない。旦那が妻に暴力を振るってたりしたら友人知人の協力を得られないばかりか、嘘の証言を受けて振り回されることにも成り得る……。


 加えて "誘拐の可能性あり" という注意書き。なるほど、200万の理由がなんとなくわかった気がする。


 まるでエルネッタさんを探してるソレイユ家の家族のようだ……。

 行方不明者と知りながら一緒に暮らしているディムには、すこし身につまされる依頼だ。


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