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冒険者ギルドで人を探すお仕事をしています  作者: さかい
【第二部】シリウス(15歳)サンドラ編
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【15歳】聖域のひみつ(3)

「ダリアも知っているでしょう? 6年前の事です。この国の王族は思いっきりヘタを打ちました。言い伝えで、あれほど警告していたにも関わらず、アサシンにケンカを売ってしまったのです。王国軍は王都を襲撃されて半刻も持ち堪えることができず壊滅状態……。愚かな弟王ルシアンも後ろ手に捕らえられ、首に短剣を突き付けられる始末。まさかこうなるとは私も知りませんでしたし。だから急ではありましたが、時空転移魔法を使って1000年前の過去に送ったのです。本当ならもっとゆっくりしてもらって、わたしの事を知らないお父さんとお母さんに、話したいことがいっぱいあったし、ちょっとだけ甘えてみたかったのですけどね……」


「1000年前? 正気か? 時間を……遡って、過去に行くことができるのか? そんな夢みたいな魔法があったらいいなと誰でも考えるけどなあ、私も過去に戻っていろいろしくじったことをやり直したいのだけど?」


「そんな簡単な魔法ではないのですよダリア。ちなみにこの魔法、もとは私の兄、プロキオン・ソレイユが構築した魔法理論なんです。それを形にして完成させたのはレーヴェンドルフ・フィクサ・ソレイユ。シリウスのお父さんなんですけどね」


「ますます分からん。じゃあ何か? ギンガは1000年前に行ったのか?」


「はい、そこでディミトリ・ベッケンバウアーと結ばれて、私が生まれました」


「はあ? えっと、じゃあシスター・アン、ちなみにお年は?」


「当年とって990歳になりました」


「美魔女かっ! なんだっそりゃ、ヒルデガルド聞いたか? エルフでも990年も生きないだろ!」


「はい、エルフは長老でも300歳ぐらいです……」


「だよな! もしかして30年前からトシとってないのもそういうこと?」


「はい、そうです。これでスクルドの疑問にも答えたことになりましたか?」


『この樹はヴェルザンディですね。いまシリウスが入っていった建物にむかって大きく根を伸ばしています。ヴェルザンディは自らが選んだ王の亡骸を抱いて寄り添ったのでしょう。でもここまで大きくなっておきながら世界樹になれなかった……わたしはその理由を知りたいです』


 ……っ!


 スクルドの発した言葉に強く違和感を感じるものがあった。


「いま何て言いました? 世界樹になれなかった?」


『はい、私たち妖精族は世界樹から生まれます。私の母は、かつてノルンと呼ばれた世界樹です。ヴェルザンディも同じ幹から産まれました。ヴェルザンディは王を選んだ。王が天に召されるときも共にあった。そして埋葬され、土に還ったところに自らも種となって落ちたんです』


「続けて、くわしく!」


 スクルドの話によると……妖精族が種になるのは、自らが王と決めたものと共に生き、王が生命を全うしたあと、自らは種に姿を変える。そして隙間なく根を張り王の亡骸なきがらを守るように寄り添い、王が朽ちた土から養分を摂取して世界樹となる。


 アンドロメダは、父ディミトリ・ベッケンバウアー亡きあと、ヴェルザンディがここに埋めてほしいと言ったのを思い出した。


 妖精が世界樹となった暁には、新たな妖精を生むことができる。つまり妖精族は自らが王と決めた人物が命を全うし、朽ちた土地から養分を得て成長するということだ。


 世界樹は、こうして子孫を残す。


 これまで男性の姿の妖精族が見つかっていないことから、妖精族は雌性発生するか、もしくは極めて雄の発生率が極めて低いかもしれないと考えられていたが、スクルドの話を聞いて、アンドロメダは人類で初めて妖精族の繁殖について理解した。妖精族の容姿が女性を模しているのもそのせいだ。


 哺乳類でもないのに胸のふくらみがあるのも、妖精族の生存戦略なのかもしれない。



「念のために教えて欲しいのだけど、世界樹って普通の木とどう違うのかな?」


『全然違いますよ? ここで周囲の季節を狂わせるほど濃密なマナを放出しているじゃないですか。あなたにはヴェルザンディがその辺の樹木に見えるのですか?』


「もうひとつ、ヴェルザンディが世界樹になっていたら、いまここはどうなっていると思いますか?」


『ここまで育った世界樹だと、私のような妖精が30羽ぐらい産まれて周辺を守るでしょうね、人が軍隊を率いてきたとしても、近付くことすら許しません』


 アンドロメダは少し溜飲を下げた。


「だからじゃないの?」


 スクルドはまだピンときていない。首をかしげて考えている。


「ヴェルザンディはヒト大好きだし、ヒトを遠ざけようだなんて考えるわけないよ。だってさ、わたし8人兄妹きょうだいなんだけど、みんなヴェルザンディに育ててもらったんだよ? 夜泣きしてもすぐ飛んできて、光ってあやしてくれたし、ミルクも哺乳瓶もってきてくれたし。しかも素肌と同じ適温で! ヴェルザンディにできないことって、おしめの交換ぐらいじゃなかったかな。サンドラの街でも子どもたちにすっごい人気があって『幸せを運ぶ妖精ベル』という絵本になったぐらいなんだよ?」


『絵本? って何ですか?』


 やっとダービーにも理解できる話になってきた。ベルの絵本はダービーの世代にも大人気だった。


「わたしもベル大好きだった!! 今でも家の本棚にあるんだが? なんだ? ヒルデガルドもか?」


「私も小さいころ母にベルの話をしてもらいました! 蜜蜂のドリーと競争する話が好きです」


「ほらね? ヴェルザンディは最後の最後までヒトのことが好きでしたよ。他でもない私が言うんだから間違いありません。ヴェルザンディが私の手のひらの上で、硬くなって死んでしまったあと、遺言の通り、ここに埋めたのも私です」


『あなたが姉を看取ってくださったのですね』


「うん。責任をもって看取ったよ。ヴェルザンディは実の母よりも私に優しく接してくれましたから。お母さんに酷く叱られてるとき私を助けてくれたのはヴェルザンディだったし」


『じゃあなぜヴェルザンディは悲しんでいるのですか?』


「そんなことないよ? 悲しむ理由がないです。ヴェルザンディが悲しんだのはお父さんが亡くなったときだけです。この墓所を守るため、私がルーメン教会を興したときも力を貸してくれました。いまも悲しんでいるの?」


『悲しみと苦しみが伝わってきました』


「ええっ? 苦しんでいるの? ちょっとまって、それは身に覚えがありません。なんでだろう……。ごめんなさい、すぐ調べるからね! 私そういうこと分からないんだ。教えてくれてありがとう、でもどうしよう、何があったんだろう? こういうとき頼りになるのは……パトリシアしかいないか」


 アンドロメダは不安そうな表情でブツブツ言いながら落ち着きなく、そのへんをグルグルと歩き回っている。考えがまとまらないとき、視界を前に動かしてやると、意外と落ち着いて物事を考えられるのと同じ理屈なのだが、それを見ていたダービーも、さすがに見かねてしまって、放っておけなくなった。



「なあシスター・アン、シリウスたちが戻るまで話題を変えよう」


 余りにも空気が悪く感じられたからだ。

 ダービーは、いまにも巨木に駆け寄ろうとしていたアンドロメダの首根っこを掴んで引き戻した。


「あのさ、話の流れからよくよく考えてみたら、私ってもしかして、ギンガの子孫になるのか?」


「そう話したつもりですよ」


 ダービーは少し渋い顔をしてみせた。

 ということは、アンドロメダとも遠縁にあたるという事だから。


「なに? その不満そうな顔……」


「いや、そうじゃないんだ。私さ、今の今まで天涯孤独だと思ってたんだ。それがさ、自分の出自が分かってみると、いろんなところに血のつながった人がいたんだなと思ってさ。ちょっと混乱してるんだ」


「ジャニスもコンもソレイユ家の末裔だけど、何世代も前にこの集落で血筋が混ざりましたからね、どちらも遠縁にあたりますよ」


「そっか……。そうだったんだ……」


 降って湧いたように、たくさんの親戚ができたダービー。

 不満そうに見えたのは困惑していたせいで、心の中は熱いものがこみ上げるほど、喜んでいた。


「何それ。ニヤニヤして気持ち悪いですね」


「そういうなって、悪くないんじゃないかと思ってんだからさ」



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