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冒険者ギルドで人を探すお仕事をしています  作者: さかい
【第二部】シリウス(15歳)サンドラ編
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【15歳】聖域のひみつ(1)

 ヒルデガルドは森から何か厳かなものを読み取り、ダービーの背に隠れるよう小さくなってついてゆく。


 集落につながる道を左に逸れると聖域の森に踏み込んだ。


 聖域の森に一歩足を踏み入れると、パトリシアの『オセ』が起動した。髪がフワッと軽くなったようにそよ風になびくことで分かる。アンドロメダはレベル47まで上がったパトリシアの実力を確かめるため鑑定スキルを使うと、二度見して驚いた。


「うっわ、パトリシアったら森の悪霊になって帰ってきたのね。私も長く生きてるけど、オセをこの目で見たのは初めてだわ」


「森じゃないところで『追尾』スキルがあれば探索者シーカーから捜索者サーチャーにステップアップできるのになあ、変なところが伸びるんですよー」


「贅沢ねー、なんかいつの間にか魔法まで使えるようになってるし、このステータスみると2週間前とは明らかに別人よね、ところでスキルの『糸使い』ってどうなの? お裁縫スキルじゃないわよね?」


「お裁縫もできると思いますよ? でもまだスキルを得たばかりなので、あれこれ試してるところかなあ。今のところは糸を作って引っ掛けるぐらい。あと、糸に不純物を混ぜたりしましたが、うまく行ったのは水溶性のものだけですね、あと強度が足りません。シリウスを動けなくするのに繭みたいになっちゃいます。鋼線ぐらい強くなればいいのですが」


「さっきギルドマスター、ケーニヒのトコでシリウスに巻き付いてた糸でしょ? パトリシアって鋼線使って罠かけるのうまかったわよね? そっち系じゃないの?」


 パトリシアは水魔法で糸を作り出せるようになったことと、その糸に状態異常を起こす毒を溶かして使えるところまで実戦で使ってみたけれど、まだ自分の思った強度にまでは達していないことを説明した。


 そのうえで『レンジャー』が『オセ』になって何が変わったのかと問われ、そっちは『威圧』が使えるようになったぐらいで、これといって『オセ』つえー!とは思ったことがないことと、あと戦闘を頑張りすぎると涙腺に血が混ざることも説明しておいた。やはりパトリシアにとっては水魔法を使えるようになったことが大事件なので、アンドロメダも『水術師』を伸ばしてゆくことに異論はない。


「で、シリウスはどう成長したのかな?」


 シリウスはいつものように鑑定不可能なので、アンドロメダはいつもこうやって口頭で何か変わったことがないか聞くことにしている。自分も【夜型生活】アビリティから【ヴァンパイア】に変化した経験があるから、特にシリウスの動向は気にしている。


「ここで言っていいのか?」


「いいんじゃないの?」


「そか。うん【アサシン】になった。レベルは72」


「やっぱりアサシンになったんだ、いいなあ。私もアサシンが良かったなあ、でもそれはここで言っちゃダメでしょ」


 さっき『いいんじゃないの?』と言ったばかりなのに、舌の根も乾かぬうちにこの手のひら返しである。


「誰も信じないよ。どうせ誰も鑑定できないしさ」


「鑑定無効スキルをオフにする鍛錬もしなくちゃね。知覚遮断スキルのコントロールを練習しましょうか。アサシンになって少しは強くなった? ステータスはどう?」


「アンドロメダの15分の1ぐらいじゃね?、アサシンってさ、母さんや姉ちゃんもまるで敵わなかったっていうから、どんな気持ちなんだろう?ぐらいには思ってたけどさ、いつ夜型生活がアサシンになったのかも分かんなくて逆にワロタぐらいだし。元祖アサシンのディミトリ・ベッケンバウアーってどれぐらい強かったのさ?」


「人魔大戦が終わったときにはレベル256、ステータスは軒並み億超え。5つのアビリティを持ってましたからね、ひとの限界はレベル50と言われているわ。50を超えたひとは、すべからく人を殺した経験がある。だけどいくら人を殺して殺人鬼と呼ばれるような者でもレベルは60が限界、それ以上は特別な条件が必要なの」


「レベル256!? ステータス億超え? そんな数字見たら桁を数えてる間に殺されてしまいそうだよ」


「あはは、そうよね。鑑定したら数字だらけでパニックになるわよ」


 人は殺人鬼と呼ばれるような者でもレベル60が限界という。

 ダービーが問うた。


「わたしは61らしいのだけど、ってか、アビリティは一人に一つじゃなかったのか? 複数アビリティなんて、それだけでチートじゃないか」


「ダリアにはベッケンバウアーの血が流れてますからね、今からでも頑張れば100行くかもしれません。複数アビリティを持つ人は稀にいますよ? シリウスも3つアビリティ持ってますし、私の兄も3つ持ってましたし」


「シリウス3つもアビリティあるの? 【アサシン】と何と何よ?」


「【アサシン】と【追跡者】と、あとなんでもいいだろ」


 パトリシアは吹き出した。シリウスが【人見知り】アビリティを隠したからだ。

 だがバカにしてはいけない。人見知りアビリティは【結界師】に変わる可能性を秘めている。伸びしろでいうと、もしかすると【アサシン】と同等の価値があるかもしれないことをアンドロメダから聞いて知っている。


「特別な条件って、もしかしてユニークアビリティのことかな?」


「ユニークアビリティ、ユニークスキル、鑑定で表示されない隠しスキルがそれにあたるのだけど、でも例えば【戦士】アビリティを持つ人が隠しスキルで『調理師』を持っていてもダメ。でね、これは私じゃなくてヴェルザンディが教えてくれたことなんだけど、ある意味『人を超えた人』つまり超人? が存在するわけ、この世界には」


 アンドロメダは、ランタンがわりに光ってくれてるスクルドをチラ見したのだが……スクルドは何も答えなかった。


 だけどもう一押しすればスクルドの口から話してもらえるだろう。


「スクルドはなぜシリウスについてきたの?」


『シリウスと約束したからです』


「そう? じゃあ私があなたの故郷に帰してあげる。約束するわ」


『結構です』


 やっぱりスクルドはもうシリウスから離れたくないようだ。アンドロメダはニヤニヤしながらさらに意地悪な質問をしてみた。


「へへー? だって私知ってるんですよ? ヴェルザンディに聞いたし。妖精族がひとについてゆく理由」


『知ってるなら聞かないで欲しいですね。私があなたについてここに来たのはシリウスとの約束もありますけれど、あなたが持ってきた小枝の真意を確かめたいからです』


 アンドロメダは「これのこと?」と言ってまたどこからともなく手品のように小枝を出してみせた。


『それ、ヴェルザンディですよね?』


「はい、そしてこの聖域の森に入って、どう感じますかスクルド」


 アンドロメダが指し示したのは森の小道の終わるところ。大きく弧を描くようにカーブすると、突然広場に出る。うっそうと茂る森を通ってくると、いきなり空が開け、星空の屋根が姿を現す。


 夜目の利くシリウスにはこの演出がたまらない。

 

 だけどスクルドが見たものは、篝火の焚かれた、今にも崩れてしまいそうなほど歪んでしまった建物と、その背後、建物を侵食し、取り込むような恰好で凛と立つ巨木だった。


 一般人では、敏感な者でも季節感がおかしいぐらいにしか感じられないが、この圧倒的な存在感とマナに満ち満ちた様は壮観でもあった。


 スクルドは知っている。自らの出自を知っている。

 意志を持つ木、意思を伝える木、森を司る神樹、つまりいわゆる世界樹だ。


 妖精族は魔法生物であるため、通常の哺乳類とは違った生態を持っている。母親の胎内から生まれるでなく、卵の殻を割ってこの世に出ることもない。妖精は母なる世界樹から『花』として咲くことで生まれる。だがしかしこの巨木は樹齢千年にも迫ろうかというのに、世界樹になり得なかった、花の咲かない、なりそこないの世界樹であった。


 サンドラの冒険者ギルドで小枝を見せられた。葉に触れただけで、おおよそのことは理解していた。だけど姉であるヴェルザンディが死んでしまっただなんて信じたくなかった。だからこそ真相を知りたかった。


 聖域の霊廟を食うように浸食する、この世界樹になりそこなった巨木こそ、ヴェルザンディだ。


 ヴェルザンディは地に落ちて種となり、大地に根をおろした。もう飛ぶことはできない。



 スクルドは広場に出て圧倒的な星空の下、天を衝くように伸びる樹が視界に飛び込んでくると、咄嗟に飛び出していた。高く高く、二段ジャンプ、三段ジャンプと跳ねるように上空へと飛びあがり、懐にもぐりこむと、今はもう大地に根を下ろし、大樹になってしまったヴェルザンディの幹に触れ、語りかけた。


 聞きたいことが山ほどある。なぜなら分からないことだらけだから。


 ヴェルザンディはスクルドの2つ年上の姉だ。

 たった2つしか離れていない。スクルドが13歳なのだから、ヴェルザンディは15歳のはず。それなのになぜ樹齢千年にも見える巨木になってしまったのか。


 なぜ種になって落ちたのか。

 妖精族が種になって地に落ちるのは、寿命だとか命が奪われて死んだとか、そんな単純な理屈ではない。



 スクルドは何度も何度も、なぜ? と問うた。

 しかしヴェルザンディは何も応えない。


 世界樹と妖精は一心同体といった一面を持っている。直接会話まで出来なくとも、心を通わせることぐらいできるはずなのに……。


 スクルドに伝わったのは、悲しみの感情と苦痛とが複雑に絡み合った、失意ともとれる感情だった。


 ヴェルザンディは倒れた王の傍ら、泣いているのだ。



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