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冒険者ギルドで人を探すお仕事をしています  作者: さかい
【第二部】シリウス(15歳)サンドラ編
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【15歳】指名依頼(40)捕虜

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 翌朝、シリウスたち冒険者パーティーは、バーランダーたち騎士団と一緒に、国境の関所に居た。

 驚くべきことに騎士団がずらっと並ぶ列の隣には、ガスト・セルを筆頭とするエルフの里『ヘーベル』を代表する一行が列をなして並んでいて、荷車には賞金首であるレッドベア盗賊団の幹部が積載されている。


 まだ森の中に42人分の死体が転がっているのだが、こちらも現在、エルフたちが回収に手を尽くしてるところだが、パトリシアの鋼線の罠にかかって胴体から離れてしまった首をどう扱うのか、エルフたちには気の毒だがそんなこと知ったこっちゃなない。


 ただひとつ言えることは、この後も続々と死体が集まってくるだろうということだ。


 打ち合わせ通り、レッドベアを討伐したのはシリウスを除いた冒険者パーティーとヒルデガルド。

 ソレイユ家の直系の男子、シリウス・ミルザム・ソレイユが名声を上げるためレッドベア盗賊団討伐に出征したが、ベテラン冒険者たちの指示を聞かず、森の中で捕らえられてしまった。


 冒険者ダービー・ダービーは王立騎士団の砦に鳩を飛ばしシリウスの窮地を伝え、騎士団に救援を要請した。。冒険者パーティーを救うため王立騎士団はすぐさま救出部隊を組織し、南回りで進軍。関所ここの衛兵に行き先だけを伝え、レッドベアの拠点に向かった。これについては砦の総司令官であるバーランダー・アーソム・ソレイユ自らがアッテンボロー国境警備隊長に向けた始末書を書いただけで解決した。


 レッドベアと腹心二人の賞金、三人分合わせてゼノ換算1500万ゼノになるのだが、その金額は関所の冒険者ギルド経由でサンドラに送金される。エルフたちもシリウスたちには及ばないが、そこそこいい額の賞金を得られることとなった。


 だがここで、ひとつ困ったことになった。


 騎士団の要請に応え、真っ暗な森の中、灯火ライトの魔法で進軍する騎士たちの道を示した魔導師たちが、スクルドを買い付けに来た魔導大学院の二人を解放しろと要求してきたのだ。


 魔導師たちの要求に対し、カスタルマンは拒否したが「ならば、帰りの船は出すことはできない」と冒険者パーティーに捕まった二人の魔導師が、サンドラに連れてゆかれるのを強く拒否した。


 魔導師たちは重大犯罪にかかわった実行犯なのだから、魔導師たちの要求は不当なのだが、深夜の戦闘であったため、森という炎魔法が使えない状況であっても、最低限、明かりは確保しなければ騎士団は満足に戦えない。もともと別組織、もともとあまり仲が良いとは言えない集団だが、緊急時の協力体制は整っていて、今回は共同作戦でシリウスたちの救出に向かってくれたのだ。


 だがしかし、蓋を空けてみると魔導大学院所属の魔導師が二人、身柄を拘束されている。しかも妖精族の密輸にかかわったというのだから、捉えられた二人だけでなく、魔導大学院も追及されることは明らかだ。


 冒険者パーティーも、騎士団も、エルフ族の戦士たちも、まるっと丸く収まったのに、魔導大学院だけワリ食うのはどうしても納得がいかないと言ってる。


 今回は騎士団を代表するバーランダー・ソレイユが数々の不都合な事実を隠蔽したと疑うに足る証拠をいくつも握られている。バーランダーは圧力などに屈しないことが信条のソレイユ家の男だが、ここでややこしいことになるとエルフ族との紛争を治めるため、嘘の報告をした大義名分が崩れてしまう。


「なれば騎士団に問う、貴殿らが逆の立場ならどうか。仲間が我々魔導師に連行されるのを指をくわえてただ見ているだけなのか!」


 確かにそうだ、バーランダーならば徹底的に抵抗して仲間を渡さず、公正な軍法会議で処分を決定するだろう。あまり仲の良くない陣営に仲間を連れてゆかれるより100倍安心だ。

 バーランダーはここでも苦渋の決断を強いられることとなり、パトリシアが捕らえた捕虜に対して口出しすることはできなくなった。


 しかし冒険者パーティーにしてみれば、捕らえた魔導師二人は400万ゼノという高額賞金首と同じなのだ。帰さない、ならば飛行船に乗せない、いやダメだ乗せろ! などと、見物人が増えてきた国境警備隊詰所の前で押し問答を続けているカスタルマンと魔導師たちの間にシリウスが割って入った。


「じゃあ買ってくれませんか? こいつらには賞金懸かってるんっスよ。二人合わせて500万ゼノ。ここで耳を揃えて500万、出してくれるならこいつらの身柄、引き渡しますよ」


 金額が違う。本当は4人の各自100万ボーナスなのだから、こいつらを突き出したとして400万ゼノにしかならないのだが、シリウスは500万ゼノ要求した。


 飛行場の魔導師たちと言い争っていたカスタルマンとダービーもさすがにピンときた。要するに上乗せされた金額はヒルデガルドの取り分だった。


 500万ゼノを要求された魔導師たちが一瞬固唾を飲んだのをダービーは見逃さなかった。

 冒険者陣営で特にカネに細かいパトリシアとダービーは、いま現在、飛行船の発着場に妖精族を買う予算、つまり2億8000万ゼノが保管されていると睨んでいた。もちろんシリウスが「買ってくれませんか?」なんて言い出したのもパトリシアの指示だ。


 ここぞとばかり、ダービーが畳みかける!


「まてまて、カネだけじゃ割に合わない。私たちはプラチナメダルだからもうランクアップはないが、こちらのセインさんたちはギルドの評価ポイントをごっそり失ってしまうじゃないか、評価ポイントはカネで買えないんだ。セインさんも何か言ってやれ」


「え? 私ですか? 私はシリウスの言った500万ゼノでいいんじゃないかと思いますよ? だって魔導師のかたたちも、私たちを助けるため、命を懸けて戦うつもりで来てくれたのでしょう?」


 言い争っていたところにパトリシアが手のひらを返し、お礼を言う。これも織り込み済み。


 魔導大学院が要求しているのは、不都合な事実の隠蔽だ。

 捕らえられた二人の魔導師をサンドラに連行すると、冒険者ギルドを通じて必ずルーメン教会に身柄が引き渡される。そうなると個人で動かせる金額ではないことから、妖精族を売買し、王国に密輸しようとしたのが魔導大学院であることは動かせない事実として糾弾されることになる。


 冒険者パーティーも、王立騎士団も不都合な事実を隠蔽したのだから、魔導大学院の不都合な事実も隠蔽させろと、そう言ってるのだ。


 とはいえ、しでかしてしまった罪の大きさもそうであるし、そもそも妖精族の売買などという悪事に手を出さなければ、シリウスたち冒険者パーティーがここに来ることもなかったのだが……。


 みんなすべての事実が暴露されたとして、カスタルマンたち冒険者パーティーは国境を侵犯し、隣国に不法入国したという疑いがあるけれど、これは隣国アッテンボロー側の国境警備隊が発見し、逮捕しなければ満足な罪に問われることはない。極端な話、『昨日、国境侵犯してしまったようです、ごめんなさい』と始末書を書けば許される程度の話といって過言ではない。


 バーランダーたち騎士団は意地でも『攫われたシリウス・ソレイユを救出するため止むを得なかった』と言い張るだろうし、魔導学院の者が『レッドベアの正体が元王立騎士団員、グリューデン・カルタスとその部下たちだった』とバラしても、唯一証拠と認められるであろう肩の刺青いれずみも、エルフたちが持ち去ってしまったので証明するのが難しい。


 だが魔導師のほうは妖精族を売買して密輸入しようとしたなどという大罪を、どう理屈をこねまわしたところで誤魔化し切れない。現に商品として売られようとしていたスクルドはシリウスの肩でこの押し問答の行く末を見守っているのだ。こんなにも圧倒的不利な状況からゼノを支払うことで譲歩を引き出せるなら、ある意味、願いを叶えてもらったのと同等なのだ。


「500万払えばいいのだな」


「はい、私の評価ポイントは諦めます。私たちはゼノと引き換えに二人をあなたたちに引き渡します。書類や領収書と言った類のものは一切やりとりしないでいいですね」


「そうしてもらえるとこちらも好都合だ」


「じゃあ決まりということでいいな」


 カスタルマンが押し問答の幕を引いた。欲張らず、ゼノで手を打つ。これが最善の選択だ。



 魔導大学院の魔導師たちは、交渉するのに一生懸命でシリウスが肩からかけているショルダーバッグのベルトに、安物の子どもがするような勲章を模したバッヂがついてることに気付かなかったが、視覚誤認スキルを得たダービーは何かおかしいな? と違和感を感じる程度に気付いていた。


 シリウスのやることだから、きっと何か狙いがあるのだと考え、それが何なのかわざわざ口に出して問うこともなかった。


 冒険者パーティーは関所での報告を済ませ、捕らえた魔導師二人は飛行場でゼノと引き換えに開放する約束をした。二人はシリウスたちと同乗せず、ここに残って魔導大学院で独自に取り調べを行うのだという。


 なんとも面の皮の厚い話だが、魔導大学院はこの二人の犯した犯罪について、まったく関知しないという立場で通すつもりなのだろう。


 シリウスたち冒険者パーティーの手続きは驚くほどスムーズに進行し、ただシリウスの【アサシン】アビリティが消失して酷く疲れた顔になってしまったのを除けば、だいたいのことは丸く収まった。


 関所の町ではレッドベア盗賊団が壊滅したという噂がものすごい勢いで広がり、狭い通りに人が押し寄せた。

 王立騎士団とエルフの戦士たちが一緒になって歓声に応えていることも、関所の町に住む人たちにとって、なんだか明るい未来を予感させた。この土地で100年にもわたる紛争が終わるのではないかという期待だ。


 冒険者パーティーも、騎士団も、魔導師たちも、そしてエルフたちが去った後も国境の関所の、小さな町では宴が続いた。その陰で、レッドベア盗賊団に所属していた衛兵の男や、探索者、狩人たちは力関係が逆転したことにより姿をくらました。すぐさま追手が差し向けられ、冒険者ギルドの賞金首リストにも名を連ねたので、すぐに捕まるだろう。


 シリウスたちは約束通り、飛行船の発着場で500万ゼノと引き換えに捕らえた二人を引き渡し、チャーターしていた飛行船の準備ができ次第、乗船して夕刻にはサンドラへと到着した。いつも小さな集落から飛行船が飛び立つのを見ていたヒルデガルドは飛行船に強い憧れを抱いていたようで、終始ハイテンションで窓から外を食い入るように見ていた。山と川と森と、どんなに手を伸ばしても届かなかった白い雲が、眼下にあるのだ、最初ははしゃいでいたが、雲海を見るや涙がこぼれた。


 ヒルデガルドは、決して抜け出せないドブの底に暮らす生活から解放されたのだ。

 ひとは空を飛ぶと、なんだか自由を手に入れたような気分になる。ヒルデガルドは涙をぬぐうと、清々しい表情で明るい未来を予見した。


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