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冒険者ギルドで人を探すお仕事をしています  作者: さかい
【第二部】シリウス(15歳)サンドラ編
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【15歳】指名依頼(27)静けさ

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 一行は『気配察知』を頼りにしっかりと付けられた踏み跡から外れることなく、盗賊たちの道を通って拠点へと向かう。


 森の一番深いところまできた。樹木の太さが半端じゃない。そびえ立つ高さも巨木と言って差し支えない。太い幹に沿うようにハシゴがかけられている。


 シリウスの目には木々の高低差が緑の崖のように見えるほど緑にカベがあり、目を凝らして見ると太い枝にはいくつもゴンドラのようなものがくっついている。あれは射撃台か、


 巨木の森の一部を切り拓いて作られた天然の要塞風でありながら、無駄に材木を使って壁を作っていて、その壁に両開きの扉がついていた。荷車を搬入する通用口だろう。


「シリウスの目で見てあれどう見える?」


「丸太を打ち込んで並べた壁に、両開きの扉。あれが南門かな。ぐるっと囲んでいる木にはやぐらがいくつもあるから、敵に気配察知スキルもちが居たらとっくに配置についてると思うけど、配置についてるというより、広場でキャンプファイアー囲んで宴会でもしてんのかな? 雑談してるのが聞こえる……。内容は、えっと、何か賭け事をやってるみたいだ、ナイフ投げ? 盗賊の風習はわかんないや」


 カスタルマンはシリウスが気配を感じ取った内部情報を聞きながらランタンを前にかざして遠目にうすぼんやり見えた扉を指して「南門ってアレか。せっかくカギもあるんだし、あそこから入ろうや」となどと言う。いつもは慎重に慎重を重ねるようなカスタルマンが一番言わないだろうことを言った。


 ダービーは手首の関節をグリグリ回す準備運動を続けながら「カスタルマンが泣きごとを言わなくなった。ますますヤバいかなぁ」などと茶化すように笑った。


「では鼻に薬を。麻痺耐性は四半刻(30分)です。それまでに、作戦通り、私とシリウスは先行して拠点に侵入します。合図があったら南門から堂々と入って気配察知で索敵もして。シリウスは鑑定眼あるからいいとして、私たちレッドベアの顔を知らないの。ヒルデガルドは知ってる?」


「はい、顔だけは」


 近隣のエルフの村を襲撃し、ヒルデガルドの母を攫い望まぬ子を産ませたのはレッドベアだ。

 パトリシアはレッドベアがヒルデガルドの、生物学上の父親であることを知りながら冷たく言い放った。


「殺すけどいい?」


「私の夢はレッドベアを殺してヨーレイカに行くことです」


 返事は早かった。だけど考えなしに反射的に答えたわけじゃない。ヒルデガルド自身、10歳のころからひとりで生活する中、夜寝る前、狩りの合間、何度も何度も考えていたことだった。


「強い子。その夢、叶うといいですね。じゃあカスタルマンさん、麻痺対策の解毒剤を準備されてるとしたら、きっとレッドベア本人が使ってるはずです。くれぐれも……」


「分かってるよ。ところでレッドベアってどんな奴? まさかクマみたいな獣人なんてことないよな?」


「ヒトです。でも軍隊と戦ったとき、レッドベアひとりで数十人を倒したって……」


「マジかよ!! 前言撤回して帰りたくなってきたよ……」


「お! カスタルマンが泣き言を言い始めた。やっぱそうこないとな!」


「大丈夫そうですね、ではお願いします」


 パトリシアも少し笑って『お願いします』なんてことを言うものだから、カスタルマンはちょっと名残惜し気に「セインさんは休憩するのか?」と言い、本当に自分たちだけで戦闘しなきゃいけないのかなんて、今さらそんな覚悟の揺らぎを表面に出した。


 パトリシアの答えはシンプルだった。

「私は麻痺毒を風に流したあと、その足で優先順位2番の買い手情報を捜索します」


「よし、そっちも頼んだ。合図は?」


「行けると思ったら来てください。多分それで正解です」


 カスタルマンもダービーもそんな野生のカンは持ち合わせてないのだが、パトリシアは自分ができることぐらいならプラチナメダルの冒険者ならできると信じているフシがあって、カスタルマンは何一つ断ることができなかった。要するにこれは、中の様子ぐらい自分で探れという意味だ。


「わかった、そっちも気を付てな。頼んだぞ」


「はい、これカギです。どこのカギかは分かりませんが渡しておきますね」


 ……。


「あ、あの、ちょっと……」


 カスタルマンが何かをお願いしようとしたとき、すでにシリウスとパトリシアの姿はなかった。


「あーあー、もう消えた……」


「どうした? 何か言いかけたね?」


「いや、もうちょっとこう、段取りを決めてほしかったんだが……」


「あいつら戦いの技はすごいが経験不足が服を着て歩いてるようなもんだからね、パーティー戦闘の段取りとか、分からないんだろうな。きっと……。さあてと、先にこれやっとこう」


「これも嫌いなんだよな、なんで飲むんじゃなくて鼻なんだ?」


「文句言うなほら、突っ込むぞ……」



(ふがっ、はっ……はっ……)


「おいおいカスタルマン、クシャミとかやめてくれよ?」


「いや、だがこれ、鼻をすすったら奥の薬が喉に……」



 ――ゲホゲホッ!


「アホ――――!!」


 咳き込む音で気付かれたはずだ。すぐ近くの門の向こう側に4人いるはず……。


 ダービーはパトリシアから預かったビンのフタを慌てて閉じながら、申し訳なさそうな表情で立ち上がるカスタルマンの背後に入り、ヒルデガルドは弓に矢をつがえ身を低く構え、敵の来襲に備えた。


(気配は?)


(動きません)


(ってことは? もういいってことかなあ?)


(よし、ヒルデガルドは弓より気配のほう優先で。カスタルマンは先行ヨロシク!)


(あいよ……)


 カスタルマンを先頭に、南門に近づく3人。

 ヒルデガルドに気配を探らせておいて、ランタンで照らしながら堂々と鍵穴を探している。

 荷車が十分に入る大きさの門はあるけれど、鍵穴がない。更に言うなら門の裏側からかんぬきがかけられていて、扉はびくともしない。


(鍵穴がないのだが?)


(ヒルデガルド、気配は?)


(動きません)


(カスタルマンよろしく)


(あいよ……っと)


 ダービーはカスタルマンに向かって助走をつけると、盾を踏み台にして大きく飛び、ふわりと壁を越えて向こう側に消えていった。


 もちろん盾を踏んだ時カスタルマンが上に向かって跳ね上げてやったからこそ、軽く飛び越えたのだが……、ここでもヒルデガルドは目を見張る新鮮な驚きがあった。


 ダービーに驚かされたのは、実は4度目だ。

 一度目は木の上からカスタルマンの耳をかすらせるよう狙った矢を素手で掴まれ、ハッと思ったときには撃ち返されていて、狙った所と寸分たがわぬよう耳をぎりぎりかするかかすらないかのところに撃ち返されたこと。


 二度目は弓の間合いで敵に先手を取られ、弓を引かれて絶体絶命だと思った。ダービーは挑発し、またぞろきっと射られた矢を掴んで撃ち返すのかと思っていたら、瞬間的に弓を構え、矢をつがえ、弓を引いて、狙いを定めて、敵の引いた弓の弦を切るという神業をやってのけた。そして弓に2本の矢をつがえ、同時に発射して、心臓と喉を射抜いた。止まった的だったが、それを平然とやってのけるには相当な技術の蓄積が必要だ。


 そしてたったいま見た、軽業師の様な身のこなし。

 ヒーロー的なシリウスのカッコよさにも惹かれたが、弓師としてダービーの技術に触れたことで、ヒルデガルドの人生は大きく変わろうとしていた。


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