表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
冒険者ギルドで人を探すお仕事をしています  作者: さかい
【第二部】シリウス(15歳)サンドラ編
210/238

【15歳】指名依頼(24)ダービーの技術

 パトリシアが寛容かどうかは別として、盗賊団『レッドベア』の拠点から出てきた3人の気配とそろそろ会敵かいてきする距離にまで来ている。


 カスタルマンもダービーも、言葉もなく矢筒から弓を取り出したヒルデガルドの行動から、そろそろ接触圏内にいることを知った。


「もっと早く言ってくれたら助かるんだがな」


「いいよ、オレが行くから……。みんなここで待ってて」


「私も行きましょう、シリウスに任せると敵は殺すか気絶させるかになるので、情報を聞き出せないし」


「パトリシアは休むんじゃ……」


「戦闘は休むと言いました。じゃあまたここで会敵を待ちますか。向こうもこの道を向かってきてますから、このまま歩いて行っても鉢合わせになりますし、ここで待っててもバッタリですね」


「敵の動きは? ランタン消して待ってりゃ見つからなさそうか?」


「相手のスキル分かりませんけど、カスタルマンさんが見つからずにやり過ごすのは難しそうです」


「そうだろうと思ったよ……。ダービー、『警戒』よろしく」


「急に老け込んだな、せめてサンドラに戻るまでは隠居しないでもらえると助かる」


「シリウスはあっち、私とヒルデガルドはこっちね。目的は情報を得ることだからね、くれぐれも殺しちゃダメだからね」


 言うとパトリシアは背中越しに振り返り、上を指さして「いける?」と言った。

 ヒルデガルドはこくりと頷く。


「試したいことがいっぱいあって何から始めようか迷うけど、敵はすぐそばまできてるので、とりあえず配置について、敵の動きに合わせてアドリブで何とかしましょう」


 本来なら3人の敵と会敵する前にどうするか作戦を立てておくべきなのだが、パトリシアが魔法を覚えてしまったことで、魔法の使い方に慣れるため試行錯誤するのに忙しく、満足に話ができていなかった。

 当然作戦なんか立ててはいない、さっき3人の敵が近づいているのに報告が遅れたのも、実は魔法をどう使うか、自分は何ができるのか、またはシリウスが鑑定した『霞糸』というスキルはどう使えば効果的なのか、戦場で突然魔導に目覚めたのだから、すぐさま使えるようになっておきたい。魔法は必ず身を助ける。


「わかった、アドリブは得意なんだ」


 シリウスが『気配消し』『視覚誤認』のスキルを起動すると、パーティーメンバーの眼前から、まるで闇に溶けるように消失してしまった。


 パトリシアはジャンプし、ひとっ飛びで大木の枝に立ち、ヒルデガルドは低木の枝から枝を渡って、パトリシアの立つ位置に追いついた。まったく、森に棲むエルフ族が100年単位で騎士団と小競り合いを続けられる理由がよくわかる。森ではエルフ族の機動に追いつくことも難しい。


 カスタルマンとダービーはやれやれといった表情で3人を送り出すと、細い道のど真ん中にどっしりと腰を下ろし、ランタンも足元に立てた。


「なあカスタルマン、気を落とすな。シリウスたちが異常なんだ」


「いや、さっき3人にタックルされて倒されたろ。薄暗いと視力が落ちるし、咄嗟の判断もできなくなってる。タックル戦術なんて騎士団に居た頃はイヤというほど訓練したんだ。慰めはいらない。これは衰えだよ」


「まだまだ若いと思うがね?」


「もう55だ、古傷は痛むわ、反射神経も鈍ってるからな。実は陸軍の兵学校から声がかかっていてね、パーティー戦闘の教官に誘われてるんだ」


「おいおい、死亡フラグとかやめてくれよ……」


「わははは、エリザベトと結婚するとか言い出したらヤバいと思ってくれ」


「じゃあエリザベトの話はサンドラに帰ってから聞くよ、来たぞ、お客様だ」


 ダービーは『警戒』スキルで会敵かいてきを知らせた。しかしまだ動かない。

 敵はどんどん距離を詰めてくる。そしてザワッと音がすると二人は顔を上げ、音のしたほうを見る。もちろんこれは二人の息の合った芝居だ。これで敵は『音がしなければ気が付かなかった』と思わされた。


 敵はひとり。弓を構えたまま、茂みから出てくる際にわざと音を鳴らした。すでにダービーの眉間に狙いを定めている。重装のカスタルマンではなく、傍らにわざわざ目立つよう弓を置いてるダービーをまとに選んだ。これは単純に一人で二人を相手する場合、最初に近接のカスタルマンを殺したとしても、次の矢をつがえるまでの間に自分は射手に撃たれる。だが先に射手から倒しておけば、あぐらに座った近接の男などに先手を与えるわけがない。これはセオリー中のセオリーだ。


 矢をつがえ、弓を引いたまま現れた男は、「動くな、動いたら眉間に矢が生えることになる」と脅しておいて、半歩……また半歩と、じりじりとにじり寄ってきた。


 カスタルマンの傍らに立てられたランタンの明かりが届くとその表情まで露わになり、推定30歳前後、弓以外に短剣を装備しており、矢筒も皮革。防具は胸当ても付けておらず、ただ革製のパンツにジュートのシャツ。たすき掛けの革ベルト。腰にはポーチと、深緑色で腰までの外套マント


 ギリギリと音が聞こえるほどに引かれた弓は戦弓ではなく、威力より軽さと命中精度を高く設計された狩人の弓だし、その狩人の弓につがえられた矢は、普通に返りのついた狩人の矢。


 シリウスが鑑定するまでもない、この男は狩人を本職としている。


 カスタルマンは殺意のこもった脅迫を受け流すように、

「おお、助かった。実はさっき戦闘に巻き込まれてしまってね、命からがら逃げてきたんだが、情けない話、道に迷ったんだ」といってごまかしてみせたが、


 男は「下手な嘘だな、俺たちの仲間にやられて逃げてきたんだろうが。お前たちの情報は筒抜けなんだよ」といって勝ち誇ったように笑った。


「あちゃあ、こいつは参った。まあ……、そうしゃっちょこばらずによ、手荒なことはなしでいこうや、さ、弓なんか仕舞ってここに座って話そう」


「くかかかか、そうしてやりたいのはやまやまだけど、ちょっと耳を澄ませよ。囲まれてる気配を感じないか? お前たちはもう囲まれていて、俺の合図ひとつで一斉に飛んできてお前たちは死ぬって寸法だ。手荒で悪かったな、だがそれが俺たちの流儀だ。手荒なことしか知らないんだ……そっちは女か? ほう、戦利品が手に入ったな。たった今お前は俺のモンになったぞ」


「ダービーいいなモテモテだ。引く手あまたじゃないか」


「サンドラじゃ私に言い寄る男なんてもう居なくなって久しいが、わるいな、ブ男は好きじゃない」


「んだとコラ! お前みたいなババアでも相手してやるっていってんだ、俺の思いやりをフイにしや……」


 ―― シュパアァァ……


 ダービーは男が瞬きしたほんの刹那、流れるような極めて無駄のない一連の動作で矢をつがえ、弓を引き、瞬時に矢を放った。男は文字通り一瞬のスキを突かれ、引き絞っていた弓の弦がバチンとと音を立てて切れた音を聞いた。


 近接戦で露呈する弓の弱点がこれだ。弦を切られてしまっては攻撃力を発揮しない。

 ダービーほどの弓の名手に向けて弓を引いたまま姿を現すからそうなる。



 力余って後ろに矢を放り投げた男の膝頭ひざがしらに激痛が走った。


「ぐああっ」


 たまらず膝をつく。

 何をされたのかすぐには理解できなかったが、目の前にいる男女が「よっこらしょ」と立ち上がる様を見て、間合いを測るためバックステップしたとき、足が思ったように動かず転倒した。


 地面をなめたそのとき、膝に矢が刺さっているのが見えた。

 矢を抜こうとしたが、膝関節を貫通していて、反対側から逆に引いたほうが早いことも理解した。


 つまり、矢を射たところは見てないが、弓の攻撃を受けたということだ。


 男は状態を起こすまではできたが立ち上がることができず、身を崩した。しかしこの場を逃れようとする意思は大したもので、動くほうの足で地面を蹴って、後ろに後ずさって逃れようとするが、


 腰を持ち上げるのに支えていた手に矢を撃ち込まれ、地面に縫い付けられてしまった。


 歯噛みして前を見ると、次の矢をつがえ眉間を狙うダービーが目に前に立っていて、騎士の男は尻についた土を払っているところだった。


 男は観念して大人しくなるかと思ったが、なかなかどうして、盗賊のふてぶてしさは失われていない。


「この女を殺せえ!!」


 ダービーはたったいま自分を『殺せ』と言われ、誰かいるのか? と周囲を見渡す素振りをしてみせたが、特に何も変わったことはない。


「私はまだ35だ。これでもまだ20代に見えるって言ってくれる人もいるしな、街にいるときはお肌も気を遣って手入れしてるんだがまあいい、決まり文句でも吐くとするよ……。もういちど言ってみろ」


 ドサドサッ!


「ひいっ……」


 男の傍ら、男が二人投げられた。生きているのかどうかも分からない、ただピクリとも動かないのは確かだ。そして闇の中から声が聞こえた。


「ダービーさん、ちょっと段取り違うんじゃね? そこは仲間を呼んでみろとか、やれるもんならやってみろとか、そういった所でこいつら転がして、闇の中からオレらが現れる。これがセオリーじゃん」


「悪かった。本当はそうするつもりだったんだけどムカつく事を言われてな……そっちの二人は生きてるのか? 動いてないぞ?」


 木の上からはパトリシアとヒルデガルドが音もなくスッと降りてきた。


「麻痺させました」


「んじゃあこいつ殺してもいい訳だ。了解、尋問しよう」


「フン、俺は尋問なんざまっぴらごめんだ」


 さっきまで『ひいっ』なんて泣きそうな声を上げてたくせに、急に強気になった男の視線の先には、ヒルデガルドが居た。どうやら知っているらしい。


「ん? ヒルデガルドの知り合いか?」


「はい。この人は関所の村の冒険者ギルドで狩人のランカーです」


「もしかして仲間?」


「違います。私ハーフエルフだからギルドに所属できなくて……、この人に獲物を引き取ってもらってるだけです」


「どこの誰だそんなウソを言ったのは……」


「この人です」


 狩人のランカーが盗賊と繋がっている? 冒険者ギルドは基本的に種族も出自も問わないが、盗賊との掛け持ちだけは許されない。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
script?guid=on
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ