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冒険者ギルドで人を探すお仕事をしています  作者: さかい
【第二部】シリウス(15歳)サンドラ編
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【15歳】指名依頼(23)パトリシアの父

 パトリシアは少し頬こわばらせシリウスを横目で流しながら「で、調査の結果は?」と問うた。パトリシア本人は今まで隠せていたつもりだった。それが貴族の結婚調査が入ったとすると、都合がの悪いことはすべて知られていると考えていい。


「結婚の障害になるのはパトリシアのお父さん。オッツダルヴァ・ローズ。腕のいいゴールドメダルの遺跡探索者ルメインシーカーだった。セインは母方の姓だったんだね。当時はパトリシア・ローズだった。カッコいいな、そのお父さんはいまから11年前、ワイデン領のウプサラという街で、仲間だったパーティーメンバー3人といさかいになり……殺害、駆け付けて取り押さえようとした衛兵の手を振り切り逃亡。それから17日後サウスブロンプトンで捕縛されたが、その際に衛兵4人が犠牲になった。男女合わせて7人を殺害した罪で終身刑が確定。現在はラトーナ監獄に収監中」


 何度も何度も読んだのだろう、すらすらと台本を読み上げるように出てきた言葉は、衛兵側の言い分そのものだった。


「そう、私が10歳のときのこと」


「でもまあ、大丈夫。父さんと母さんは許してくれたよ。家督を継げなくなるけど、それでいいならって」


「聞き捨てならないことを聞いてしまいました! そんな条件を出されたシリウスが本気で家を捨てて私を選ぶ可能性どれぐらいありましたか?」


「100%だね」


「それが分かっててそんな条件を飲ませたって事ですよね! ヒドいです。許せません。こんどヒカリに会ったら説教してやります! シリウスは家を継ぎなさい」


「……それがさあ、知ってると思うけど、じつはオレの弟が勇者なんだ。騎士の家系で武を重んじるソレイユ家に生まれた男子として【勇者】アビリティを持つアルタイルは、たとえ次男であってもソレイユ家、ひいては全王国民が望む期待の星ってわけ。期待を裏切り続けることしかかなった兄が言うのもなんだけど、アルタイルは次世代のソレイユ家を背負って立つのに相応しい男だと思ってる。パトリシアもあーいう直球の性格すきでしょ? オレは弟のアルタイルが家督を継ぐほうがいいと思ってる。それにオレ……アサシンだし」


「その【アサシン】が嫁に欲しいって指名した女は【オセ】、森に出る悪霊とか悪魔のたぐいなんだけど?」


「似合いのカップルだろ。なあパトリシア、ちゃんと聞いて欲しい、本気なんだ」


「シリウスずるいよ。そこまで言われたら断れないよ。でも、考えさせて。帰ったらその理由も言うから、時間が欲しいの」


「えっ? 断らないの? いつもは瞬殺で振られてたのに! マジで? ちょっと前進した? もしかしてもう一押しかな?」


 この時のパトリシアは、少し頬を赤らめてはいたものの、その瞳は悲し気に沈んでいて、シリウスの求婚を素直に受け入れられないことが見て取れた。この依頼を終えて帰るとパトリシアのことをまた知ることができる。パトリシアとは対照的に、シリウスは少し満足げな表情をしていた。



----


 この後シリウスたちは後に続くパーティーに合流したとき、倒木の幹に腰かけて休憩していたカスタルマンは、二人の表情をみて少し違和感を覚えた。


「何だ何だ二人とも、なにかいいことあったのか!」


「こ、これはヤッてきたな!」


「やってません」


「何もやってないって、収穫も特にないけど、こんなカギを1つ見つけた。デニスさん要望の鋼の盾もなかったし」


「やっぱ盗賊は騎士盾なんぞ持たないか……」


「南門?、門なんかあるのかい?」


「さあ……。でもどこのカギか分からなくても、カギがあったらとりあえず取っておきたくなるじゃないですか。いま42人が居たと思われる詰所のような施設を見てきたんですけど、盗賊のくせにずいぶんと几帳面でした。手掛かりになるようなものが何もないんですよ

ね。それなのに、南門ってデカデカと書かれた木札のついたカギがあからさまに掛けられてあったんです」


「ちょっとこの地図で位置を教えてくれ、どのあたりだ?」


 パトリシアはダービーがランタンの光のもと広げた地図を覗き込むと、一点を指さした。

 そのポイントは盗賊団の拠点があるところから谷筋にちょうど南側に位置していて、沢のある崖の上だった。つまり、南門のカギを拾ったらこのまま北に向かって谷筋を一直線に上がれば、そのカギを使う扉があるのだろう……。


 と思わせておいて、実はそこには罠が仕掛けてある。というのはよくあるパターンだ。

 つまり、カギを見つけたといってドヤ顔で北に向かうと酷い目に遭う公算が高い。


「というわけで、罠である危険性が高いので作戦通り正面突破いきましょう!」


「罠があるって分かっていながら突っ込むのか……、はあ、パーティーリーダーとしては反対したいのだけど、気が乗らないなあ……」


「罠がないと思って罠にかかるよりはずいぶん気が楽じゃないか、いくら踏んでもヘマしたことにならないなんて緊張感ゆるくて助かるわー」


「いえ、さっき敵の拠点から出てきた3人が居たじゃないですか。あと四半刻の半(15分)ぐらいで鉢合わせです。そいつら捕まえて情報を聞き出しましょう」


「パトリシアは戦闘すんなよ」


「私せっかく水の魔法覚えたのに……」


「「 魔法だって!? 」」


「そう! 見てください、私、手から水が出せるようになったんです」


 パトリシアの手指から水がシトシト湧き出して、それが糸を引いてポタポタ落ちる。


「「おおおおお!」」


 水魔法などというレアなものを見せられたプラチナメダルの二人は年甲斐もなく歓びの声を上げた。

 攻撃魔法としては炎の魔法が知られているし、飛行船が実用化されてからは風魔法を使える者が急に求められるようになった。水の魔法を使えるものが仲間に居ると、命をつなぐ安全な水源が確保できる。決して目立つことはないが、従軍する魔導師団の中に水魔法使いが居てくれれば行動範囲が一気に広がるのだ。


 パトリシアはいま高給で優遇される一生安泰なスキルを得た。

【魔法使い】アビリティを持たないパトリシアに魔法スキルが下りてきたのだ、素直に祝福してやればいいものを、


「手汗だろ、なんかネバネバしてるし……」


 などと、シリウスはまた要らぬことを言ってしまった。


「なっ! ……」


「いやその魔法、手汗が増幅されて大量に出てるのかな? と思うよね?」


「前言撤回、さっきの返事だけどやっぱり断る。シリウスなんて大嫌い」


「ちょ、なんでだあ!」


「うるさいです」


「え――っ!」



----


 けっきょく一歩前進したと思われたシリウスの嫁取りは、またいらんことを言ってしまってパトリシアの怒りを買い、振り出しに戻ってしまった。


 カスタルマンはダービーと相談して、この哀れなシリウスにひとつ助言をしてやることにした。


「なあシリウス、セインさんの件だが……」


「パトリシア? うん、いつものことだよ」


「いや、お前も懲りないよな、ほんと。なんでセインさんが怒るようなことを言うんだ?」


「え? パトリシア怒ってるの?」


 シリウスが見てもパトリシアはよそ見をしたまま振り返りもしない。


「ほら怒ってるだろ?」


「デニスさん違うよ、逆なんだ。パトリシアはね、口では怒ってるようなことを言うけど、本当は怒ったことがないんだ。だからオレは怒らせてみたいと思ってる」


 カスタルマンとダービーはパトリシアの表情を窺った。

 パトリシアは少し勝手が良くないといった表情でやりづらそうだ。


「私、寛容なの」


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