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冒険者ギルドで人を探すお仕事をしています  作者: さかい
【第二部】シリウス(15歳)サンドラ編
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【15歳】指名依頼(22)アサシン

「……そっか、でもあの派手な音はパトリシアの居場所を示すからなあ、もうちょっと使い方を考えてみようか。それとさ、ほんと無理すんなよ、ここに来てからのパトリシア、なんか変だ」


「うん、ちょっと無理してました。心配させたね、でもさ、シリウスもさ、今もなんだけど気配消しと誤認スキルが段違いに腕を上げたわね、レベル上がったでしょ?」


「そか、レベルか……」



----------


□シリウス・ミルザム・ソレイユ 15歳 男性 (夜間)

○ステータスアップ(効果)

○知覚遮断(気配消し、視覚誤認:効果)

○鑑定無効(常時)

○状態異常耐性(強)

○耐魔法障壁(常時)

○知覚(暗視、非接触鑑定、気配察知:常時)


 ヒト族  レベル069

 体力: 0985600/1105440(10倍)110544

 経戦:185400

 魔力:42200

 腕力:427410

 敏捷:519540

【アサシン】A /知覚A/宵闇レベル10/知覚遮断B/短剣S

【 追跡者 】D /足跡追尾B/嗅覚追尾C/マーキングD/

【人見知り】E /聴覚B/障壁E

     『鑑定無効』『毒耐性B』『麻痺耐性』『幻惑無効』『合気柔術』


----------



 ……ええっ!?


 シリウスは思わず声が出てしまうほど驚き、脳の命令がすべてクリア―になってしまったように、足は止まり、瞬きも、息をすることも忘れたかのように静止した。


 アビリティ【夜型生活】が、あろうことか【アサシン】になっていたのだ。心臓が胸がヒヤッとして心臓が動いてないように感じた。口から手を突っ込み、自らの手で心臓マッサージをしたいほどに。


 混乱している。

 一言では言い表せない複雑な心境を、あえて一言でいうとショックだった。


 何度も鑑定しなおしてみたが、【アサシン】であるという己の評価が覆ることはなかった。


 アサシンはハーメルン王国最大の敵だと言われている。シリウスが10歳のとき、王都を襲撃し、何千人もの被害者を出したディミトリ・ベッケンバウアーがそれだ。ソレイユ家のルーツとなる人物だということも、頭では理解しているが、友人の父親が殺されたという悪事が根強くシリウスの心に残っている。


 『アサシンは勇者を殺し、王国を崩す』と言い伝えられている。王国が崩れても構わないが、いまこの世界に居る勇者は、シリウスの母ヒカリと、弟のアルタイルだけだ。なぜこんなひどいことになったのかは分からないが、シリウスは愛する家族を殺す者だということだ。


 複雑な感情が絡んで、とてもうまく説明することはできないが、夜の森でも明るく見えるのに、目の前が真っ暗になってしまった。悪い冗談だ足らよかった。夢や妄想の類ならもっとよかった。

 だがしかし、何度鑑定してみても悪夢から覚めず、アビリティは【アサシン】のままで、戻ることはなかった。


 考えがまとまらなず、混乱したままのシリウスは、視線も定まらず、ただ茫然と立ち尽くす。


 そしてパトリシアは、そんなシリウスの表情から異変を感じ取った。


「どうしたの?」


 声をかけられ、急に我に返ったシリウス。


「えっと、その。あの……何でもない」


 まさか自分がアサシンになってしまっただなんて、シリウスには話せなかった。

 しかしその表情からは不安をぬぐえない。何かに怯えるように落ち着きをなくし始めた。


「おいで、シリウス。何も心配しなくていいのよ……」


 パトリシアはそんなシリウスを正面からハグして、すこしだけぎゅっと抱きしめ、抱き合ったままうなじに唇を近づけると、耳元、ひそひそと小さな、蚊の鳴くような声で、


「アサシンにでもなりましたか?」と言った。



 ……っ。


 シリウスは驚いた。まるで息が止まる思いだった。抱き合っているパトリシアを引きはがし、肩を掴んで問いただしてやりたいところだが、せっかく抱き合っているのにそれをわざわざ自分のほうから引きはがすだなんて考えられないことだ。シリウスはそのまま、小さな声で、こんどはパトリシアの耳元に囁き返した。


「え? なんで? なんでそんなこと分かるのさ……」


「私はあなたのことなら何でも知ってます」


 知っているわけがない、ただパトリシアは誰よりもシリウスのことを気にかけ、ずっと見ているのだから、ほんの少しの変化にも気が付いてしまう。


 そうだ、シリウスはこんなパトリシアだからこそ好きになったのだ。


 引き離すのを躊躇ためらったハグの状態から戻したパトリシアは、腕を後ろ手に組んで、いたずらっぽく上目遣いで右から、左から、シリウスの表情を窺ったあと建物の出口に向かってからくるりと振り向くと、"ほら、やっぱり"とでも言わんばかりのドヤ顔を決めた。


「私ね、シリウスはきっと【アサシン】になると思ってた」


 そのパトリシアの自信にあふれた表情が余りにも美しく可憐だったので、シリウスはゴクリと唾を飲みこんでしまって、すぐには言葉が出なかったが、留飲を下げたあと、数回瞬きをしたあと問い返さずには居られなかった。


「なんでさ!」


「夜型生活……、羊飼い……、人見知り。私の知ってる人も同じアビリティを持ってたからね」


 パトリシアの知ってる人というのは、当然シリウスも知っている男だ。

 

「ディミトリ……、ベッケンバウアー……銀河お姉ちゃんの夫になった人か……」


「お義兄にいさんって言ってあげなよ」


「いやだよ、会ったこともないしさ、オレは認めてないからな」


「認めるも何も、現にあなたディムさんの血を引いてることは分かってるし。いまもしっかり【アサシン】なんだから。世に言う大隔世遺伝ってやつね? アンも【夜型生活】から【ヴァンパイア】になったっていうし、なんだかあなたたち似てたからさ、シリウスも【ヴァンパイア】になったらどうしようかと思ってたけど、【アサシン】でよかったです」


「ほらパトリシアはすぐそんなことを言って誤魔化すじゃん。オレはアサシンになりたいだなんて考えたこともなかったよ」


「そういえばシリウスは勇者になりたがってたわね……」


「そ……、そりゃあ、俺も勇者だったらって思ったことぐらいあるさ……夜型生活って何だよ、せめて騎士とか戦士だったら良かったのにって」


 パトリシアは覚えたばかりの水の魔法をああでもない、こうでもないといろいろ試しながら会話を続けている。時折シリウスと目が合ったときの、その髪をかきあげる仕草が可愛い。


「アサシンはイヤ?」


「アサシンは勇者を殺し、王国を崩す。ソレイユ家の敵、母さんたちの敵だ……」


「そんなことないわよ、シリウス、あなたはあなた。これまでも、これからも何も変わらないの」


 ハーメルン王国にしてみれば【アサシン】ディミトリ・ベッケンバウアーは王都を襲撃し死者、行方不明者合わせて千人以上の犠牲者を出した大罪人だ。そしてシリウスの大好きだった姉の銀河をさらって1000年の過去に連れて行ってしまった憎たらしい男だ。


「そっか。ギンガ姉ちゃんが好きになったひとがアサシンだったから、まあいいかって思えばいいのか……」


「うわっ、なにそれ。シスコン?」


「ちげーよ」


「シスコン」


「ちげーって」


「シスコン」


「ちげーっていってんだろ!」


「やーいシスコン」


「イラっとするなあ……いま夜なんだよ? おっぱい揉んじゃうよ? いいのかな?」


「あら? シスコンでおっぱいが好きなの? シリウスったら可愛い」


 "ああ、これは後ろに回り込んでおっぱいを鷲掴みにしてもいいということなんだな"と、そう理解した。


 唇をニヤリと歪めたシリウスは瞬間移動のような速度でパトリシアの背後に回り込もうと……、


 ……チリッ


 しかしシリウスの頬に短く鋭い痛みが走った。


(やばっ……これは……?)


 シリウスはパトリシアが大型の哺乳類を捕獲するとき鋼線で罠を張るのを知っている、だがシリウスの目に鋼線はハッキリ見える。肌に触れるまで見えないなんてことは……。


「あのさあパトリシア、ほっぺたが痺れる」


「んー、やっぱ夜のシリウス相手じゃそんなものかあ……」


 シリウスは頬に張り付いた『糸』をそっと引きはがす。透明な糸だから、素早く動いてるときにはよほど注意してないと違和感も感じない。そしてこの『糸』はしっとりと濡れていて……シリウスほどの状態異常耐性を持っていても頬に少し触れただけで麻痺の感覚があった。


 パトリシアは手のひらに小さな木箱を出してみせた。それは昨夜、騎士団の砦で大惨事を引き起こした麻痺毒のたっぷり入った小箱だ。


「この糸、もしかしてパトリシアの魔法で作ったの?」


「うん、さっきからいろいろ試しながら練習してたんだけど。でもまだまだね、鋭さが足りないよ、だって頬が切れてないし」


「危ないよコレ! だってものすごく見えづらいし……いつもの調子で巧妙に隠されたらオレでも罠にかかるってば」


「だって夜のシリウスは私の何倍も強いでしょ? そのシリウスが力ずくで私にエッチなことしようとするだなんて騎士としてどうなのかな? いいえ違うわね、男としてどうなのかな? と思わない」


「ごめんなさい。でも触りたいのは本当だよ」


「ねえシリウス、私なんども言いましたよね? 恋愛の関係にはなれないって」


「聞いたよ。それが何?」


「理由を聞かないのね?」


「んー? バーランダーにも言えないってたじゃん?」


「あの時、おかしいと思ったの。ねえシリウス、これってシリウスにとってどうでもいいことなの? もし私があなたなら絶対その場で理由を聞くと思う。でもシリウスは聞こうとしなかった。なぜ聞かないのかな? もしかして……、私のことを調べた?」


 ―― ぎくっ!


 シリウスはパトリシアとの約束で、絶対に嘘は言わないことになっている。パトリシアも同じく、シリウスには絶対ウソは言わない。だけどここで図星を刺されたのだから答えるしかない。


「調べた」


「ふうん、その件に関してごめんなさいは?」


「オレがパトリシアと結婚したいと言って両親に相談したんだ。貴族の長男が平民の嫁を貰うってことになったら、家柄の保証がないだろ? 調査が入るのは当然のことだよ。だから謝る必要ないでしょ」


「そこまで話を進めてたの? 私に無断で……」


「そうだよ」


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