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冒険者ギルドで人を探すお仕事をしています  作者: さかい
【第二部】シリウス(15歳)サンドラ編
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【15歳】指名依頼(15)ゲリラ戦その1

「いいえ、たぶんアンだと思います」


「アン? ……知らないなあ、誰だろう?」


「アンディー・ベックって言えば分かりやすいんじゃね?」


「そうなの?」


 パトリシアはダービーとカスタルマンの顔を交互に見て、アンディー・ベックという名で分かってもらえたのかと表情を読み取ろうとしたが、二人はグイっと眉根を寄せ、険し気な視線を向けた。


「まいった、こいつは大物の名前が出てきたな」


「教会の外部の者は誰も会ったことがないというルーメン教会の最高指導者だろ? なんでそんな大物と知り合いなんだ?」


「え? 誰もあったことがないの? ただ自分がアンディー・ベックだと名乗ってないだけだろ?」


「そうよね? 普通に真昼間からサンドラとかプラプラしてますよ?」


「「マジかあ!」」


 パトリシアは『追尾』スキルが欲しくて、たまにルーメン教会を訪れ、訓練していると言った。

 サンドラの冒険者ギルドでもルーメン教会といえばブラックボックスとして知られる。中に高く築かれた白い壁の向こう側に何があるのかなんて誰も知らない未知の領域なのだ。


 そういえば過去にカスタルマンたちとパーティーを組んで獣人支配地域に向かった神官、ハイデル・ショーラスは教会関係者ではないけれど【神官】アビリティをもっているがため『回復魔法』の適性があり、教会の門を叩き、回復魔法の手ほどきを受けたというが、それでもアンディー・ベックには会ったことがないと言ってた。その存在はトップシークレットに属すると言った。自身【神官】でありながら十年以上も教会で修行させてもらっていたにもかかわらず、ハイデル・ショーラスはアンディー・ベックを知らなかった。


「てかギンガ姉ちゃんと一緒に帰ってきたでしょ? セイカってとこで合流したって聞いたよ?」


「え? 知らない」

「はあ? セイカは獣人の要塞になってた。合流したのは勇者パーティーだけだ」


 話が……合わない。

 だけどパトリシアは何となくわかっていた。


「シリウス、きっとアレ……」


 パトリシアの目配せひとつで『アレ』とは何のことか伝わった


 そう、アンドロメダはカスタルマンの記憶もダービーの記憶も、きれいさっぱり、自分が関与する部分だけ消去済みなのである。思い出せないのは仕方のないことだ。ハイデル・ショーラスについても、もしかすると記憶消去したのかもしれない。アンドロメダは今年990歳だ、不死のスキルを持つ【ヴァンパイア】だなんて、人々の記憶に残っていたら、大騒ぎになってしまう。


「ああー、そっかなるほど分かった。ダービーさん、パトリシアの実力は確かだよ」


「いや、その、ちょっと意地悪してみただけだよ、まあ教会の推薦なんて私やカスタルマンでも受けたことはないんだ。この依頼が完璧にセインさん向けの依頼だってことぐらい分かるさ」


 敵は必ず包囲戦を仕掛けてくる。そこまでは誰でもわかる。

 だが、あと少しで完全に包囲できるというギリギリの状況を維持するということは、包囲されてない空白地をちょっとだけ残しておくということだ。前面からの攻撃で事足りると思えば背後に回り込むような必要はない。前面が頑強であればあるほど包囲したくなり、背後に回り込もうとする。


 パトリシアはその空白地を狙ってくる敵に先回りして罠を仕掛けると言った。

 そこに罠を張っておけば敵は勝手にハマってくれるというわけだ。


 ダービーはそれがどれだけ難しいかを知っている。この依頼を受けた時、シルバーメダルのパトリシア・セインと組んで、まさかこれほど困難なコンビネーションを求められるとは思わなかった。


 しかしパトリシアは平然とそれをやってのけると言った。ならば自分がミスするわけにはいかない。これはダービーの長い冒険者稼業の中でも、一番緊張感のあるコンビネーションだ。なにしろ包囲しにくる敵の思惑通りに動いてると見せつつ、包囲されずに敵を誘導しろというのだから。


「まったく、どっちがプラチナメダルなんだか……。だが気に入った! いい度胸だ。こんなアホで素晴らしい作戦を立てるだなんて、本当に狂ってるとしか思えないな。だけど私はワクワクが止まらないんだ。成功して無事に帰れたら酒を奢ってやるから死ぬんじゃないぞ」


「私ファルムンド・ゴシュレーヌのショコラが食べたいです! これは意地悪された分の上乗せですが」


「よっしゃ! ショコラも酒もおごってやるぞ、約束だ!」



「言質とりました! シリウスはカスタルマンさんの補助を。くれぐれもカスタルマンさんに狙いが集中するようにね、ほんとお願い、数が多いの。背後は私が何とかしてみせるから、シリウスはくれぐれも気を付けてね、ケガしないようにね」


「任せろ、みんなでスイーツ食べに行こう」


「へいへい、しがない盾持ちの騎士は囮ね……そうなると思ってた!」


「おいおい、前面が硬いと思わせたら敵は必ず背後を狙ってくる、そこにセインさんが罠を張る作戦なんだ。カスタルマンが頑張ってくれないと前からの攻撃で私たちは負ける」


「きっついなあもう、私はスイーツなんざ要らないからな。オッサンはギルド酒場でひとり酒飲んでるのが似合いだ」


「私が付き合ってやるよ」


「デニスさんはエリザベトのおっぱいが恋しいってさ」


「なっ! シリウスおまえ なんでエリザベト知ってんだよ!」


「わははは、自分が口走ったことも覚えてないのか! こりゃ傑作だ」


 カスタルマンが火をおこし、焚火の炎が狭い範囲を照らし出すと、ようやく敵の気配が遠巻きににらみ合うような距離で止まった。配置についたと思われる。

 敵の中に『聞き耳』スキルを持ったものが居るなら会話が聞こえる距離だ。


 焚火を囲むふりをしながら、パトリシアはハンドサインで指示を出した。


 (前面に12人配置についた。作戦を開始します)



 敵もさるもの、全員のスピードが速く、遅れて接近してくる者もいなかった。こいつら真っ暗闇だというのに、この森を熟知していて、スムーズに移動すると一糸乱れぬとは言い難いが、それなりの練度で訓練も積んでいる。そこらの盗賊じゃないことは、フォーメーションを組んだままスムーズに包囲戦へ移行するその手管てくだで分かる。こいつらは盗賊というよりも、森での戦闘に特化した戦闘集団だ。何倍もの規模の軍勢で攻略しようとしたアッテンボロー国軍が退けられたという事実を忘れてはならない。


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