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冒険者ギルドで人を探すお仕事をしています  作者: さかい
【第二部】シリウス(15歳)サンドラ編
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【15歳】指名依頼(14)包囲されましょう作戦

 少し嬉しそうに話すダービーの顔を見て、シリウスは少し怪訝そうに答えた。

 戦闘が始まる前というものは、得てして、みな多少なりともリラックスとは真逆の感情を抱く。

 装備品に不具合がないか入念にチェックしているカスタルマンとは対照的だったからだ。


「感心してる場合じゃないですよ、敵の気配察知にもかかってるんですから」


「そうだよなあ、仕方ないか、成り行きに任せて合流するか?」


 弓師がひとり合流し、守る対象が増えると防御担当のカスタルマンはキャパシティオーバーとなる可能性が高い。こちらに遠隔攻撃のスペシャリスト、ダービー・ダービーがいる以上、何人かやられた時点で敵は必ず間合いを詰めてくる。カスタルマンはダービーを守りながら近接戦闘を担当しなくてはならないのに、二人守るとなると近接戦闘が疎かになる。


「盾一枚じゃ守り切れんぞ」


 やはり合流は愚策だ。ダービーは弓に矢をつがえて後方に向けて弦を引いた。


「それか、足に矢を当てれば誤魔化せるか?」


 盗賊団にいる気配察知スキルもちも当然ヒルデガルドの接近を察知している。

 合流してしまうとヒルデガルドはこっちの仲間とみなされ、盗賊団からすると敵と認識されることになる。


 だとすると足にでも矢を射て、ちょっとした怪我をさせることで誤魔化せるか? ということだ。

 しかしカスタルマンは首を振ってこたえた。


「ダメだやめとけダービー、もう遅い。下手に怪我をさせてしまうと逃げることができなくなる。盗賊はケガをして動けなくなったあの子を喜んで連れ帰るさ。それに依頼目的は盗賊の皆殺しじゃあないからな、可能な限り戦闘は避けたい」


「じゃあさっきの賭けに勝った分、シリウスとセインさんにお願いするしかないな」


「仕方ありませんね、私はパーティーから離れて単独行動する予定なので、シリウスにお願いします。じゃあ予定していたポイントまであと少しありますが、私たちはここを拠点に迎え撃ちましょう。シリウス、ここで焚火の準備しよ」


 いうとパトリシアはバックパックを下ろし、少し広くなった小道の傍らでキャンプの支度を始めた。

 パーティーメンバーみんな肩に背負った荷物を下ろしたところで、後方からヒルデガルドが追いついた。


「あんたらアホか! この先には盗賊たちが大勢待ち伏せてるんだ、このまま進んだら殺されちまう! 悪いことは言わないから引き返せ! はやくほら! こっちだ」


 息せき切って急を告げに来たというのに、当の冒険者パーティーはまるでレジャーにでも来たかのように、いま焚火の準備をしているところで、これから飯でも食うんじゃないかってノリに、ヒルデガルドは開いた口が塞がらなかった。


 ダービーはそんなヒルデガルドを労うように優しくいまの状況を説明してやることにした。


「えーっと……私たちに危機を知らせに来てくれたのね、ありがとうなヒルデガルド、それは誰にでもできることじゃない、勇気ある行動だ。でもさあ、敵の中に気配察知スキルもちがいて、もうあなたがこっちに付いたこともバレちゃったのよねー。私たちも当然、待ち伏せされてることぐらい分かっていて、ここにキャンプを張ることにしたんだけど……なぜかわかる?」


「えっ? な、なにを?」


 ヒルデガルドはダービーの思わぬ返答に目を白黒させるばかりで、その問いに答えることができなかった。

 仕方ない……とばかりにパトリシアが助け舟を出す。


「罠にかけるのよ。で、私たちがエサってことなんですけど、ダービーの言った通り、敵の気配察知スキル持ちに、あなたはもうこっちに合流したことがバレてしまったので……、どうしましょうか? エサが一匹増えただけかな。あなたを守る役目はこちら、シリウス・ミルザムが引き受けることになったのだけど、うーん、なんだかイヤな予感がしますね」


「私を守る? レッドベアの奴らから? 足手まといは要りません。レッドベアに知られたというなら自分の身は自分で守ります、助けてもらわなくて結構です。イヤな予感がするのだとしたら、こんなトコでキャンプしてるあなた方がアホだからです」


「いえあの、イヤな予感っていうのは、あなたシリウスのこと好きになりそうだし、集落には盗賊団の手下がいるみたいだし、うちに帰れなくなって、くっついて来ちゃいそうな気がするんですけど……」


「なりません! なんで私がこんな眠たそうな人を……ないない、絶対にないです」


 と言ってキッと睨んだシリウスの顔はもうシャキーンとしていて、所謂いわゆる別人のように見えた。 いまざっくりと夜になり、シリウスの【夜型生活】が『宵闇』を起動している。

 シリウスは脳の伝達物質シナプスが激しく活性化するのと同時に『ナンボでも来い』状態となる。


 正直なトコ、シリウスは昼間でも背が高くてモテ顔なのに、夜になると100倍イケメン度が増す上に、よく分からないが恐らくフェロモンのようなものを振りまいている。


 当然ヒルデガルドも初めて見たカッコいい男に一瞬目を奪われたのである。


「ダメだこの子、瞬きしてない……。もうシリウスに夢中になってる」


「なってません、ちょっと驚いただけです」


「おおっ! シリウスのイケメンタイムきたのか! さっきのキス残念だったな、今から私とするか? キスだけじゃなくいろんなことを」


「パトリシアにシバかれるからまたの機会に」


「なにやってんですかっ! またの機会ってなに? 作戦のことを考えてください! シリウスはさっさと持ち場に付く! この子に手を出したらマジで殺すから、ダービーと変なことしたらもっと殺すから」


「パトリシア怖い怖い怖い! ランタンの光が顔の下から……」



「変なことなんかしないってば、いいことをするんだ」


「は、や、く、も、ち、ば、に、つ、く!」



 ダービーはここでもパトリシアの態度と言動に不自然さを感じた。

 パトリシア・セインは嫉妬も含めて、シリウスとの掛け合いを楽しんでいる。ヒルデガルドの事もダービー本人のことも、後ろ暗い雰囲気を少しも感じさせない。


 パトリシアの感情には口ほどにも嫉妬の心を持ち合わせていないように感じたのと同時に、少々の苛立ちを覚えた。パトリシアがシリウスの恋心を弄んでいるようにも見えたからだ。



「やめてくれー、ダービーさんそうやってパトリシアをけしかけないで……あっ?」


 シリウスは振り返り、パトリシアと顔を見合わせた。

 パトリシアはシリウスの目を強く見ながら、こくりと頷く。


 急を告げる二人の行動は、パーティーにも伝播した。


「どうした? 口に出して言ってくれないと分からん」


「笛のが聞こえたんだ」


「笛の? 聞こえなかったぞ?」


「遠かったですからね、でもいまの笛のを合図に敵の気配が動きました。このスピードならたぶん四半刻の半(15分)ぐらいかな、それぐらいで接敵しますけど、時間はまだ少しありますから落ち着いてください。じゃあ取り急ぎ作戦を説明しますね、ヒルデガルドは巻き込まれてしまったけど、戦闘が終わるまではパーティーリーダーの指示に従うこと。シリウスは敵の第一陣奇襲攻撃を躱してから気配を消して。私は接敵して背後に回り込む敵の動きに合わせて移動しますね」


「じゃあ最初はここに5人いるんだな?」


「そうですね、いまも敵は『気配察知』でこっちを監視しているはずです。私とシリウスの気配が消えたのを察知すると、最初の襲撃で2人倒したと思うでしょう。プラチナランクの冒険者パーティーと戦闘して、最初に二人倒せるなんて上出来だと考えるはず。暗い森の中です、笛を吹いて動きの指示を出しているとしたら、バリエーションは多くないわ。カスタルマンさんはランタンをもって離さないように、火が消えると逆に不利になりますからね、注意してください」


「ランタンなんか持ってると狙ってくださいって言ってるようなモンなんだが……」


「しっかり狙われてください。ダービーさんはこの状況で獲物をどっちに誘導したら追い込めるか考えて、より都合の悪いほうへ追い込まれつつ敵を誘導してください。いいですか、くれぐれも囲まれてしまわないよう包囲を躱しつつお願いしますね」


「ぐへえ、きっちいな。で? ちなみにそっちはどう動くんだ?」


「私はダービーさんの誘導に合わせて敵の動きを先回りします」


「難しいことを平気で言うねえ……、セインさんにそれをやってのける実力はあるのかい?」


「信じてください、というしかありませんが……ルーメン教会が私を指名したということで納得してもらえませんか?」


「ルーメン教会ねえ、ルーメン教会といえば聖ジョセフ・ネヴィルというおっさんが私らのパーティーメンバーだったんだが、知ってるかい?」


「聖ジョセフ・ネヴィルって誰だっけ……、でもダービーさんたちとパーティー組んで獣人エリアに入ったのってジャニーさんじゃなかったっけ?」


「そうだよパトリシア。試されてるよ、ちゃんと答えないと」


「意地悪なひとですね、聖ジャニス・ネヴィルというひとなら知ってます」


「あははは、悪い悪い。で、セインさんはジャニスの推薦なのかい?」


 試すようなことを言ったのをアッサリと看破されてしまい、ちょっとばつの悪そうな仕草で悪い悪いと話をすり替えたダービー。35歳という妙齢なので、タヌキババアとは言い難いが、なかなかどうして、食えないタヌキであることには違いない。


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