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冒険者ギルドで人を探すお仕事をしています  作者: さかい
序章 ~ プロローグ ~
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[10歳] 異世界に転生してしまったらしい【挿絵】

挿絵のタイトルは旧タイトルです。すみません。

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挿絵(By みてみん)


 緑、薄緑、深緑、黄緑、ビリジアン。

 若葉の色、青漆色、深碧に柳碧、若草色、単に "みどりいろ" と言っても、数えきれないほどの "みどり" があって、風に揺られるたびに、葉擦れの音は優しく耳をそばだてると、木々に折り重なる葉が幾重にも波打つように風がうねりを上げているのが分かる。


 広大な森の数えきれない "みどりいろ" と空の色をシンメトリーに写し出す鏡のような湖に囲まれた風光明媚な土地から物語は始まる。


 ここは勇者と聖女の伝説が残る1000年王国ハーメルンにあって、北の外れの辺境。


 夏でも雪が解けない万年雪の積もる山脈のふもと大森林にかかる湖のほとり、森を切り拓いて作られた比較的歴史の新しいセイカの村だ。


 広大な森林と透き通った水を湛える湖に守られたセイカ村は、豊かな自然の恵みを受けて人々は平和に暮らしていた。


 そんなのどかな村のいちばん外れ、ここまでは村で、ここから先は森という境界にある掘立小屋ほったてごやのような貧しい家に、ひとりの男の子が産声を上げた。


 少し小さく生まれた子、成人するまで生きられないと言われるほど身体が弱かったけれど、大自然の中で育ったおかげか、大きな病気をすることなく、健康にすくすくと成長した。


 名はディミトリ。

 先月10歳になったばかりで、夢と希望に満ち溢れているこの少年こそ、異世界転生を果たし二度目の人生をやり直すことになった朝霞星弥あさかせいやその人だった。



 湖畔を渡ってくる風に耳を澄ませば遠くのほうから聞こえてくる。


 森の湖から掘られた用水路の洗濯場で蓋を踏む音、いつもの悪ガキども3人の声。


「ねえちょっとまって、はやいよメイ……」

「ディムが遅いんだってば」


 ディミトリをディムと愛称で呼ぶ女の子はメイリーン。この小さな村で同い年に生まれた3人子どもの中では、ただひとりの女の子、村ではメイと呼ばれている。


 メイは村の大人たちが言う "悪ガキトリオ" の中では一番早く生まれたお姉さん気質で、足もとの悪い獣道を躓きもせず全速力で駆けて行くお転婆さんだ。面倒見がよく、他の二人の同い年の男の子はどちらもデキの悪い弟といった扱いで、いつも文句を言いながら世話を焼いている。


 メイが丘に佇むと茶色に近いブルネット気味の金髪は太陽の光によってコロコロと表情を変える。

 勝気に強い眼差し、世界を映す瞳の色は、どこまでも高く、抜けるような夏空に似た深いブルー。肌が白い分そばかすが目立つけど、10歳にして将来有望な美少女なのだが……これが活発と腕白わんぱくとガキ大将を足して3で割らないような豪快な性格をしているという残念美少女なのであった。


 毎朝、森に遊びにいく通りがかりでディミトリの家を訪れては『ディム! 遊びに行くよっ!』と強引に手を引いて森へと入ってゆく。

 ディミトリが「もうちょっと寝てたいのにー」と渋ってもお構いなしに手を引いて行く。半分寝ていて、枕を抱っこしながらでも、そのまま連れてゆく。いわゆる強制連行である。


 そしてそんなメイリーンの横暴からディムを庇う声がする。


「ダメだって! ディムには無理だって! 待ってやらないと転んでケガするってば」


 すばしっこいメイの後を苦もなくついてゆくのが悪ガキトリオの一翼を担うダグラス。

 メイリーンよりも明るい栗毛色の髪はすこしクセっ毛が強くて汗をかくとクルクル巻き毛が顔を覗かせる隠れ天然パーマである。


 ダグラスはお爺ちゃんがセイカ村の村長をしているせいか、この村を守るという意識が強い。

 ディミトリが3つ年上のいじめっ子に絡まれていても、いきなり飛び蹴り食らわせて助けてやるぐらいの強さと正義感をもっていて、いつも『大人になったら村を守る衛兵さんになるんだ』と、あまり大きくもない、現実的な夢を語っている。


 そう、ブルネットのお転婆メイに、身体が大きく正義感の強いダグラス。

 二人は個性的だけど、ディミトリには外見上、これといって特徴がない。ごくごく普通の黒に近い茶色の髪に、とび色の瞳。肌が少し浅黒いのは父親が南方人の血を引いているからなのだけど、村人の半数以上が同じような髪色なので、ちょっと離れたところにいると母親の目で見ても、息子を見分けることができないぐらい特徴がないらしい。


 だからディミトリが人混みに入ったのを探すときは、家族ですら肩に止まったタカを目印にしている。



 森のずっと奥にある岩壁の断崖で、巣から落ちたヒナを見つけた時はその顔を見ただけで猛禽もうきんだと分かったので、ディミトリが飼うことにした。


 餌には苦労したが、罠をかけてネズミをとったり、父さんが畑で捕まえたモグラをもらったり、湖の桟橋で魚を釣ったりして一生懸命、親代わりとなって育てた。

 ディミトリも最初はハヤブサかミサゴかと思って育てていたけど、大きめの立派なハクタカに育ったので、トールギスと名付けた。


 タカを育てて肩に乗せるというのは、日本で暮らしていた頃からの憧れだったのだ。



 三人の悪ガキとトールギスは、村の北にある湖にイカダを組んで漕ぎ出しては風に流され岸まで戻れなくなったり、地中の浅い所に作られていたスズメバチの巣をわざと踏み抜いて逃げたりという日本では考えられないほど危ない遊びをして育った。


 そして悪事が明るみに出ると、決まって大人たちに怒られるのはディミトリの役割だ。もちろん逃げ遅れた者が悪いという独自ルールあってのことだが、それでもこのセイカ村に生まれ、メイリーンとダグラスという二人の幼馴染に恵まれ、森に育まれた。


 ディミトリは前世の事はあまりよく覚えていなかったけれど、この世界に転生して10年で蘇った記憶もある。前世、朝霞星弥あさかせいやはあまり良い人生を送ることができなかった。それこそ思い出したくもないほどに。


 いや、思い出す必要もないだろう。

 今はこんなにも素晴らしい世界に生きているのだから。


 過去に日本で生きた子ども時代もそうだったのかもしれないけど、子どもというのは、まったく、毎日毎日、光り輝く驚きに満ちた素晴らしい世界を生きている。眩しいほどに。


 目にしたもの全てが美しく、体験する出来事の全てが新鮮だった。

 美しい森はディムたち悪ガキの縄張りだった。だけど母さんは心配性で、ここの森は危険だから奥まで入っちゃいけないと、口を酸っぱくして注意する。


 何しろ森を少し奥に行くと、ワイルドボアなんていう大型で気の荒いビースト系のモンスターの目撃例が少なくない。メイリーンを筆頭に、ワイルドボアに追いかけまわされたりしながら、それをキャッキャウフフと逃げまわって遊ぶのだから大人たちが止めるのも無理はないのだ。


 この世界に広がる大自然、こんなにも美しい自然に囲まれた村で、気は優しくて力持ちを体現するかのようなダグラスや、お転婆だけど可愛いメイと一緒に幼少期を過ごした。


 充実という言葉だけじゃ言い表せないほど素晴らしい人生だ。


 まるで永遠に続く、宿題のない夏休みのように。




 朝霞星弥あさかせいやは、第二の人生をたっぷり堪能できるよう、ありがちな異世界転生をしたのだろう、だけど考えていた異世界転生とは少し違っていた。


 物心ついた時には、星弥せいやを含め五人の元日本人が共同生活をしていたのだから。


 そう、ひとりの中に、五人の人格が同居している。


 ディミトリは多重人格者であり、朝霞星弥あさかせいやはその内、ひとつの人格に過ぎなかった。


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