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冒険者ギルドで人を探すお仕事をしています  作者: さかい
【第二部】シリウス(15歳)サンドラ編
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【15歳】指名依頼(13)待ち伏せ

 森に入るといつ戦闘が始まるやもしれない。話し合いに応じてくれるような相手ではないのだ。

 しかしダービーはカスタルマンに世間話を投げかけた。こんな状況だからこそ緊張はほぐしておいたほうがいい。


「シリウスって何気にいい度胸してるわね」


「単にアホなだけだろ、なあセインさん、痴話喧嘩に割り込んで悪いが、待ち伏せされてる? その根拠は?」


「敵の配置です、昨日みた地図ではこのまま平坦な森の小道が続きますよね、えっと、ダービーさん地図を出してもらえます?」


「ほいさ、もう出してる」


「ありがとう、えっとさっきの集落がここで、現在地がここ。このまま平坦路をいくと1日もかからず傾斜がきつくなってきます。盗賊団『レッドベア』の拠点は谷沿いにぐるっと回り込んだ一番奥になります。実はここの拠点に何人いるかはちょっと。これだけ人口密度が高くなってるともうちょっと近づかないと分かりません」


 『気配察知』の超感覚で感じ取った敵の配置を、地図上に示すことで視覚化してゆくと自ずと見えてくることもある。現在地から森の奥に向けて、地図にある小道をたどってゆけば、必ず包囲される地点があった。


 さきほどの黄色い狼煙のろしを受けてこの配置にしたのではない、と考える合理的理由が見つからないほど、完璧に外からの情報によって配置が決められている。

 騎士団の砦から飛ばされた鳩の通信、そして分かっているだけでも黄色の狼煙のろし、もしかすると他にも何かシリウスたち冒険者パーティーの与り知らぬところで情報漏れがあったやもしれぬが、この配置を見るともう、そんなことはどうだってよくなった。


 敵はもう戦闘配置を完了している。


「セインさんのおかげで敵の裏までかけそうだ」


「徒歩1日の距離を気配で探れるのか!? どんだけだよ!」


 パトリシアは地図にある小道をなぞりながら、このまま進めばどうなるのか、シミュレーションをしながら仮説を立てた。


「精度が足りなくて拠点までは探れないと言ったんです、で、その拠点に向かう小道をぐるっと囲うよう、ここに5、ここに5、ここに10と10なので本隊かな? で、ここに6、ここにも6.合計42、私たちがこのまま進んで、ここらへんに差し掛かると一斉攻撃で一網打尽にしてやろうという意思が感じられますね。でも拠点から離れてるのに配置されたのが早すぎます。たぶん、この辺りにもうひとつ拠点があるんじゃないでしょうか」


「盗賊団がそんな組織的なことするかね?」


「さっきの子。アッテンボローの軍隊に攻められても追い返したって言ってましたよね? だったら地の利を生かせるここ、この辺りに砦を築いていると、守りやすいですよね」


「ってことはアレか、たかが盗賊団の拠点が要塞化してる可能性もあるってことか」


 呆れ返ったカスタルマンの背中をポンと叩き、シリウスは森に入ったパトリシアの情報精度がいかほどのものかを語る。


「可能性じゃないよ、パトリシアがそこに拠点があると言ったら、絶対にあるから」


「マジかよ!」


 カスタルマンは信じられなかったが、ダービーには信じるに足る根拠があった。


「考えてもみろ。国軍が盗賊団のアジトを討伐するのに集める人数は?」


「まあ、300から500というトコだろうな」


「付け加えるなら『訓練された兵士』が300から500だ。盗賊団『レッドベア』は普段50程度の中規模盗賊団だと聞いた。いまは80以上だともいうがね。そんな数で国軍の攻撃を退けることができたとしたら、地の利を最大限に生かすしか方法はないんじゃないか?」


「……ああ、そうだな。そして私たちはそんな、国軍でも泣かされて帰る『レッドベア』を、たった4人でぶっ潰さなきゃいけない上に、あちらさんもうとっくに準備完了してて、こっちの出方をうかがってやがる。……くーっ、なんで去年のうちに引退しなかったんだろうなあ」


「あはははは、デニス・カスタルマンが泣き言をいいはじめたか! ってことは、私らも本気にならなきゃ死ぬってことだな」


「ええっ? デニスさんって泣きごとを言って強くなるタイプなの!?」


 一枚の地図を広げておいて、まだ空が明るいうちにと作戦会議は熱を帯びはじめた。


「生きて家に帰りたい! それだけだよ、全員そろってな……。ときにセインさん、こっちのルートやめて、いったん森を出るだろ? して、こっちのほうにぐるっと回り込んでから行けばどうだろう?」」


「もし万が一私たちがこっちのルートを通ったとしたら、こっちの1人が察知して本体に知らせると、このように動けばこの辺で包囲が間に合いますから、だいたいこの辺で一斉攻撃受けますね」


「どっちにしても囲まれて死亡のルートかよ、いったん森を出るか……、さすがにこんだけの人数に囲まれたらヤバい。ルートを変えて回り込む作戦にするとどれぐらい時間がかかる?」


 カスタルマンはパーティーリーダーだ。無謀な作戦を強行するようなことはない。作戦を吟味できるなら、可能な限り時間をかけてじっくりと、パーティーにとって最良の選択を選ぶ。

 ここはいったん森を出て、相手の予想していない角度から潜入するのが望ましいと提案すると、さっきから一言も口を出さず、黙って作戦を聞いていたシリウスが難色を示した。


「んー、でもさあ? こんだけも人数出してきたってことはさ、もしかして妖精さんの受け渡しが近いんじゃね? それか受け渡しの相手が来てるとか。まあどっちにしろ妖精さんを連れて行かれちまったらオレたち戦闘する意味もないんだけどさ」


「シリウスがいいこと言った。珍しく気が合いますね!! ちなみにシリウスと同感です」


「オレたちそんなに気が合わなかったっけ? 愛し合ってるのに」


「愛し合ってませんけどね! でも都合がいいので私はちょうどこの位置まで行ってキャンプを張る作戦を提案します」


 パトリシアの指さした地点をみて、カスタルマンは青ざめた。いや、ダービーも生唾を飲み込み喉を鳴らすと、次に控えていた言葉が出なかった。


 パトリシアの指した地点とは、敵の思惑通りにいけば、そこまで進むと全包囲されて一斉攻撃を受けるといったところ。つまり、冒険者パーティーが全滅すると予想された地点だ。


「ちょ……、そこってさっきの全滅ポイントだよな」


 カスタルマンも続く言葉を失った。こんなの聞いたことがない、どこまでも酷い作戦だった。

 森での戦い方を熟知しているダービーは「詳しく聞かせてくれ」と短く言って作戦の内容を精査し「たしかに悪くないかもしれないな……」と何度も頷いた。


 シリウスは当然、パトリシアの作戦には完全同意している。つまり……、パトリシアの作戦が採用されることとなった。


 カスタルマンは遠く、サンドラを懐かしむ老人のような目をして独り言をこぼした。


「とほほほほほほほ……、なんて日だ、私もう今夜には死体になってしまうかもしれないんだな、明日の朝のベーコンエッグが食えないかもしれない。ああ、これが夢だったらいいのになあ。本当の私はいま暖かいベッドで眠ってて、エリザベトのおっぱいに顔をうずめて静かな寝息を立てているのかもしれないよな……」


(ダービー……、エリザベトって誰だ?)

(私に任せろ、サンドラに戻ったら、ありとあらゆる線から洗ってやる)



----


 シリウスたち冒険者パーティーは盾持ちのカスタルマンを先頭に馬車の通ったわだちもハッキリしない、蹄鉄の跡も消えたような、かすかな踏み跡の残る道を歩いていた。人の気配についてはシリウスとパトリシアが察知できるから奇襲は考えなくていいが、罠があるかもしれない、慎重に、慎重に一歩一歩、森の奥に向かって足を踏み入れてゆく。


「カスタルマンさん、付近に敵はいませんけど私たちを捕捉してるひとが3人います。進行方向に1人、この人は私たちが近づいた分、同じ間隔を確保しながら先行しています。多分そいつが気配察知スキルもってる盗賊ですね。シリウス、この先にいるやつマークしといてね、気配を見失っちゃダメだからね」


「ん。分かってる」


「北側の人は動きがいいですね、木の枝を渡って移動してます。気配がちょっと薄く感じるので、北のほうは『気配消し』スキルも併用してますね、接近されたとき『気配消し』を強くかける余力があったら厄介です、察知距離もかなり遠いし、あの距離でずっと捕捉されてるとこっちから手を出すのが難しいですからね、シリウス、北のほうもちゃんと注意しといてね」


「分かった。でも北のひとって、あのなんというか、えっと……」


「なに? モゴモゴしてる? 口の中にカブトムシでも挟まった?」


「いやその……パトリシア怒る」


「怒らないからハッキリ言いなさい」


「えっと、後ろからついてきてる子っぽく感じる」


「エルフってこと? 確かにエルフの集落っぽいのが北側にあるけど、かなり遠いわよ? シリウスもしかして気配で種族や性別までわかるの?」


「なんとなくだよ! なんとなく。あと性別までは分からないから……」


「うそね、可愛いからでしょ」


「ほらもう、機嫌が悪くなった……」


 包囲しようとする敵の動きにおかしな点はなし。

 敵はこちらが罠にはまってると思い込んでいて、いまたぶんニヤニヤとほくそ笑んでいるところだ。


 このまま一刻(2時間)も森を行けばヤバい地点というところで、そろそろ日が暮れようとしていた。

 森の中はすでに夜のとばりが下りていて、パトリシアはわざわざ目立つよう、ランタンに火をつけた。


「ランタンつけるの! マジでええ」


「はい、カスタルマンさんが持ってください」


 カスタルマンは大きな溜息をつくと同時に天を仰いで己の不幸を呪った。

 敵に包囲されることが分かっているのにランタンをけるだなんて、わざわざここを狙ってくださいと的を抱えて歩いてるようなもの。そんなアホの見本のような役目を担う。ランタンを持たされて、先頭を歩かされることが確定したのだ。


「シリウス、相手はこっちの人数も把握してる。夜になってもいきなり気配を消しちゃだめだからね!」


「分かってる」


「あとどれぐらいで夜?」


「もうちょっとだと思うけどな、オレの目にはどれだけ暗いか分かんないんだ」


 この会話、カスタルマンには覚えがあった。


「シリウスは暗闇を知らないのか……、ほんとどこかのアサシンみたいなことを言うな。正直いうと、私らの目には真っ暗で、ほとんど何も見えない。見上げると木の葉の隙間から見える空が藍色になってる。もうすぐ日没だと思う、ランタンを持つのは我ながらアホのする所業だと思うが、ランタンがなければ先頭を歩くなんてことできないな」


「そっか、じゃあ……太陽が完全に沈むまで四半刻の半(15分)ぐらい? かな? 敵と遭遇する前に夜になるよ」



 カスタルマンにはランタンの明かりがないと何も見えない闇の中、シリウスたちはお互いに持つ情報を交換しながら作戦通り、敵の思惑に乗った形で森の奥に向かって歩いていた。


 敵の一部が北側に回り込む気配を見せ始め、そろそろ緊張感が増してきた時だ、不確定な要素が動いた。シリウスたちの後ろにぴったりツケていたヒルデガルドが、こちらに向かって急加速してきたのだ。


 まさかの事態にパトリシアも困惑した。


「あら?」


「あちゃあ、どうすればいい?」


 森での戦闘は得意でないカスタルマン、二人の声を聞くとすぐに歩を止めた。異変はすぐさま知っておきたい。


「どうした?」


「後ろ、くっついてた女の子が動いた。そこそこ早いな、走るぐらいのスピードでこっちくるけど」


 辺りはもう真っ暗闇で、カスタルマンなどはランタンがないと一歩たりとも進むことができないのに。

 この暗闇で森を走れるというスキルにダービーは感嘆の声を上げた。まだ14歳、【弓師】アビリティを持っていて『追跡』『気配察知』『足跡消し』を持つ狩人特化のハイスペックでありながら、夜目まで利くとは……そんな逸材、サンドラにもいない。


「へえー、すごいな、この暗さで走れるのか」


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