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冒険者ギルドで人を探すお仕事をしています  作者: さかい
【第二部】シリウス(15歳)サンドラ編
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【15歳】指名依頼(7)まさかの殺人事件

 シリウスの【夜型生活】は夜が明けると効果がなくなる。徐々にではなく、いきなりスイッチが切れたようになるので、太陽がちょっとでも顔を出した瞬間、シリウスはガクンと音を立ててステータスが低下することになる。シリウスは夜明けの瞬間から皆が起き出してくるまでの短い時間だけ、少し深く眠ることができる。


 自宅でならもう少しよく寝るのだが、砦の朝は夜勤の者と日勤の者が交代するときの報告、引継ぎの時出す大声でイヤでも目が覚める。ちょうど朝ごはんのタイミングだ。

 シリウスが椅子に腰かけたまま背もたれに深く身を沈め目を覚ますと、パトリシアはシリウスを起こさないよう、静かに髪を編みながら朝の身支度をしていた。ちょうど編んだ髪を巻き上げてうなじを出したところだ、シリウスはぼーっとしながら、後れ毛が可愛いな……とか、他愛もないことを考えていた。


 ぼーっとしながら常に軽い眠気にとらわれている。これがシリウスの朝であり、通常運転の始まりだ。


「おはようパトリシア」


「おはようシリウス。なんで椅子で寝てるの?」


 なんでベッドで一緒に寝なかったの? どいう意味ではなく、これは、なぜ自分の部屋に戻って、ベッドで寝なかったのか? という意味だ。


「月光浴してたら寝てしまったみたいだ」


「風邪ひいてない? 集合時間まで半刻(1時間)あるけど、もうちょっとウトウトする?」


「起きるよ、パトリシアここで待ってて、朝ごはんもらってくる」


「朝ごはん……あるかなあ? 給仕係のひと全員連れてかれたみたいだよ?」


「パンぐらいあるんじゃね? ちょっくら見てくる」


 シリウスがドアの内鍵を外して廊下に出ると、自分の部屋の前にいるバーランダーと目が合った。


「なんだシリウス、そっちに居たのか? ……起き抜け? や、やったか? やったのか!」


「それはまた次頑張るよ、なに?」


「いや、ちょっと折り入って相談があるんだが、メシか?」


「うん、相談? オレ個人に?」


「できればセインさんにも聞いてほしい。メシは給仕係に言って持ってこさせる」


 シリウスは閉じかけたドアをもういちど開き、パトリシアの姿を確認した。着替えが必要そうでもないし、もう顔も洗っている。


「バーランダーが話あるっていうんだ。ちょっといい?」


「?? 構わないけど? 何かあったの?」


 パトリシアが訝るのも無理はないが、昨夜あんな騒ぎがあったんだ、何もないと考えるほうがおかしい。

 シリウスはパトリシアの部屋にバーランダーを招き入れた。


 バーランダーはしっかりとドアが閉まったことを確認すると、少し周りを気にする素振りで話し始めた。

 神妙な顔だ、少し声のトーンも低い。


「言いにくいことなんだが、カーラ・コーバッツが死んだ」


 場の空気が変わった。パトリシアは


「ちょっと待ってください、パラシアスキノコの麻痺毒でそう簡単に……」」


「カーラ・コーバッツに麻痺が強く効いていたのは確かだが、セインさんの麻痺毒は無関係だと思われる。なにせ意思の疎通もままならなかったからね、話せるようになるまで牢屋に閉じ込めてたんだが……、時間がたってもなかなか動かないから、取り調べを一番後回しにして、つい半刻ほどまえのことなんだが、担当の取調官が様子を見に行ったら……」


「死んでたってこと?」


「そうだ。麻痺毒で死んだと思わせようとしたのかもしれないが、うちの監察担当は腕がよくてね、検死の結果、遺体にはかすかに首を絞められた痕跡が認められた。カーラ・コーバッツはスパイ容疑で逮捕された後、この砦の中で何者かの手によって殺されたんだ」


牢番ろうばんは? 何をしてたのさ」


「牢番は二人、事情を聴いているところだが……供述がいまいち的を射なくてね。二人に折り入って相談というのはこれなんだ。なんというか、その……、一言で説明すると、二人とも記憶に少しの欠落が見られるんだ。記憶を操作する魔法について、シリウスも知っているだろ?」


 バーランダーの言う記憶捜査の魔法というのは、6年前、弟王ルシアンとディアッカ(エルネッタ)の会食にアサシン、ディミトリ・ベッケンバウアーが乱入した際に使われたもので、同席していたバーランダーたちソレイユ家の者たちのうち成人した者のみ記憶を残し、執事やメイドたちはあの騒ぎのあと、すっぱりと記憶が抜け落ちていたし、弟王ルシアンについては勇者ギンガ・フィクサが英雄的行動でルシアンを助け、勇者ヒカリ・カスガがアサシンを討ったというシナリオで記憶の小改編が施されていた。


 つまり、バーランダーは教会の関与を疑っているということだし、シリウスとパトリシアが顔を見合わせた理由も、まずアンドロメダの顔が頭に浮かんだからだ。


「話を聞いたのは牢番だけ? 牢の建物の入り口からの牢番のところまで何人いた? 全員に話を聞いた?」


「いや、そこまでは」


「シリウス、違うわ。牢番だけ記憶に齟齬があったり、死体に首を絞めた痕を残したり、あの人らしくないわ。いろんな角度から見て手口が稚拙すぎる。別人よ」


 パトリシアの発言が核心を突いたことにバーランダーは訝った。


「セインさんも知っている? のか……」


「あー、バーランダー。パトリシアはアンドロメダの友達なんだ。まる2年ぐらい一緒にパーティー組んで国中を飛び回って母さんの薬の材料を探してくれたんだ」


「なんと! そんな経緯いきさつがあったとは、それは知らなかった」


「私の知るアンはプラチナメダルの凄腕探索者すごうでシーカーなんだけどね……」


 ヒカリの病室で再会するまで人の記憶を操作するだなんて、そんなことができるという事すら考えてもみなかった。だがしかし、その現場を目の当たりにしたから知っている。アンドロメダがやったとは思えないほどあらが見える。


「私もその牢番二人の取り調べに同席させてもらえませんか?」


「ぜひお願いする」


 シリウスたちが部屋を出ようとすると、ちょうどダービーが洗顔から戻ってきたところで、バーランダーの深刻な表情から不穏な空気を察し、すぐさまカスタルマンも呼ばれた。結局のところ、冒険者の4人パーティが雁首揃えて国軍の取調室とりしらべしつで話を聞くことになった。


 昨夜の牢番は、カーター・レイフ(32歳、王国陸軍所属)と、ドリスン・カルナゴ(28歳、王国陸軍所属)の二人が担当していた。いまはドリスン・カルナゴの供述を聞いているところ、バーランダー以下、4人の冒険者たちがゾロゾロと取調室に入った。。


「私たちはしっかりと任務についていた。作戦会議室をスパイしていたような奴が捕まって牢に入れられたんだ。普段通りじゃない、いつもより気を張っていたさ。ソレイユ師団長! 母に誓ってサボタージュなどしていません! 怪しい者は誰一人として、牢に近づきませんでした」


 取調官はサボタージュを疑っているようだが、バーランダーは最初から不審に思っている部分をもう一度証言するよう指示を出した。


「カルナゴ曹長、重要な質問だ。夜間警備のスドールが牢の見回りに来た時、カルナゴ曹長はどうしたのか、もういちど」


「何度でも言いますよ。スドールとは会ってません。だいたい夜明け前に巡回してくるはずなのに、今日に限ってスドールは来なかった。麻痺毒が漏れたとかで中庭は野戦病院のようになっていた。きっとそのせいだろう? 私たちは牢の前から一歩も動いてなかった。トイレにもいかなかった。スドールたちの巡回はなかった。ですよね? レイフ先輩」


「ああ、間違いない。私たちは牢屋の前でしっかりと立哨していました。座ることもなくです」


「だが夜間警備を担当しているスドールとヘプスはお前たちに会っている。いつもと同じ時刻、夜明け前に巡回で、巡回ノートにもスドールたちの名前が記載されているじゃないか」


「いえ、私はスドールたちと会っていません。巡回は来ませんでした」


 一方、夜間巡回警備を担当していたスドールたちは牢番の二人と会い、巡回記録簿にも記載している。

 前日、そのまた前日に記載された巡回記録簿を見ても筆跡に不審な点はない。


「じゃあ巡回警備をしていた二人に聞きます。昨日までと比べて何か変わったことがなかった? ほかに何でもいいから気が付いたことは?」


「牢番の二人が緊張していて、私たちが話しかけても返事もしなかったぐらいでしょうか。でも居眠りをしていたわけではありません。直立不動で立ってましたね」


「なあスドール、何か甘い香りがしなかったか?」


「ああっ、そういえば……」


 証言が増えた。やはり何度も同じことを繰り返して質問するのは効果的だということだ。

 甘い香りとはどういったものなのか。パトリシアはその香りが手がかりと見た。


「現場に行ってみたいです」


「すぐ近くだ、こっちへ」


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