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冒険者ギルドで人を探すお仕事をしています  作者: さかい
第一章 ~ 探索者という生き方 ~
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[16歳] 捜索者

 作者ですらタイトル検索しなければ見つけ出すことができませんでした。

 こんな掘り進めないと見つかりもしないような作品を読んでいただき、ありがとうございます。

 モンスターランクの星の数を修正しました。


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 翌朝、いやもうお昼だ。

 ディムは基本が夜型なせいか朝にはめっぽう弱い。特に昨夜は慣れない追跡をしたせいか朝まで神経が高ぶってしまい、目が冴えて冴えて、朝になったらどっと崩れるように眠りに落ちてしまって……。疲れのせいかちょっと寝坊してしまった。


 夜型生活を満喫したら朝はとことん眠い……。


 はやくギルドに行かないと……なんて思っちゃいるんだけど、なかなか起き出すことができず毛布にくるまってゴロゴロしてたらドアをノックする音がした。まさか逮捕されるの? なんてドキィッ!として、恐る恐る玄関まで出たら、サラエんとこのお母さんだった。あらためてお礼を言いたいのだとか。そんなこと言われたらこっちも改めてお詫びをしなくちゃいけなくなるので、いい加減チャラにしてくださいといって許してもらった。


 まだ頭が冴えないんだけど、寝ぐせのボサボサ頭のままサンダルを履いて、ちょっと近所のコンビニに行くような部屋着のままギルドに向かった。


「ああくっそ、なんか調子悪い。ステータス異常かな?」



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□ディミトリ・ベッケンバウアー 16歳 男性

 ヒト族  レベル050

 体力:37480/38060

 魔力:D

 腕力:C

 敏捷:B

 ■■■■ B /知覚/■■/■■

【羊飼い】D /羊追い

【マッサージ師】B /鍼灸/整骨

【人見知り】E /聴覚/障壁

【ホームレス】D /拾い食い


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 絶好調だった。どうやらただの睡眠不足だったらしい。

 夜型生活でステータス爆上げだからって調子に乗って動き回ると、朝になると疲労感でご飯も食べたくないほどヘロヘロになってしまう。



 ディムはギルドのドアを開くと依頼ボードには目もくれずそのまま直進し、眠い目をこすりながらカウンター横の急階段を二階にあがり、右奥の部屋、ギルド長の部屋の前に立つ。


 はあっとひとつ大きく深呼吸をしたあと、ドアを小さくノックすると中から「入れ」と、迎えてくれる声が聞こえた。


 扉をくぐり、まずはぺこりと挨拶し指示を待つ。

 思っていたよりも狭い空間だけど化粧板に覆われて対面してても足が見えない社長机が豪華なのと、思っていたよりも小奇麗にまとまったローソファーのセットがあった。


 てかソファーの色がくっそ悪趣味なテカテカでエナメル質な紫色だしソファーテーブルは天板がガラス。こんなのVシネマのヤクザ映画でしかみたことない。もしかして冒険者ギルドってそういう組織で、ディムもエルネッタさんも知らずにその末端の構成員をさせられてたとか、そういうオチがあるんじゃないかと裏読みしてしまう。ダウロスさんすげえ不機嫌そうな顔してて怖いし……何を怒られるんだろう……と、ドキドキしながら第一声を待った。


「おおっ、ディムくんそんなとこに立ってないで、ほら座って。お茶もってこさせるけど、お茶でいい? それとも何か他の飲み物がいいかい?」


 フレンドリーだった!


 とりあえずホッとした面持ちで尻をうずめるのが憚られるような紫色のローソファーに座ると、

「あ、はい。それじゃあお茶で」と答えてお言葉に甘えることにした。


 秘書の人がお茶を入れてくれるのかなと思ったら、下のギルド酒場のマスターがいれてくれるタダのお茶がでてきた。慣れ親しんだ香りだけど、今日はなぜかお茶が濃い。いつもより念を入れて茶を出してくれたようだ。


「んー、よく寝たみたいで羨ましいな。こっちは一睡もしてないんだ。朝から昨日の件でまた森に呼び出されたりして……な。用件というのは他でもないんだ。えっと、ディムくん。まずは登録証を出して」


 免停とかだったら困るけど、ギルド長に登録証を見せろと言われたら出さないといけない。

 ディムははガラステーブルにスッと冒険者登録証を出した。Eランクの探索ライセンスだけど、唯一の真っ当な収入源でもあるから、なんとか取り消しなんてことにならないよう謝るしかない。


「確かに預かった。さて、ディムくんにひとつこちらから提案があるのだが、まずは聞いてもらえないだろうか」

「提案? ですか。はい」

「実は今朝、昨日キミが助けた子供たちから調書をとっていた職員が報告してきたんだ。森にレッサーベアが居たのを見つけて、それで木の上に逃れたんだと」


「はい。ぼくも聞きました」


「レッサーベアは危険な猛獣に指定されているから、森の入り口近くに出たなら退治しておかないと薬草取りにも支障が出るんでな、子どもらの言ってることが本当なのか調べるため現場検証ついでに傭兵と探索者がパーティ組んで現場に行ったら……アッシュベアーの死体が転がってた」


 ……。


「心当たりがあるみたいだな。じゃあ続きを話そう。……そのアッシュベアーってのはレッサーベアよりも2段も上の危険度★★★★で、猛獣どころかモンスター指定されている。アッシュベアーを討伐するには最低でもエルネッタクラスの傭兵がリーダーを務めて傭兵5人と、探索者シーカーのパーティを出すか、だいたいは狩人ハンター組合が総出で山狩りするんだが。それがどうだ、喉をひと突きにされて死んでたんだ。ちょうどキミが昨夜腰に差してたあの短剣を思い出したよ。激しく戦った痕跡もなく、逃げようとしたなんて足跡もなく、あのアッシュベア―が、ただ喉をひと突きにされて死んでいたんだ。そして子どもたちが登って難を逃れたという木には何度も引っ掻いたような爪痕がたくさん残されていた」


「えっと、あの、子どもたちが二人とも木の上に逃れてまして、あの子たちが狙われてたんです。ぼくに気付きもしませんでしたから」


「野生のアッシュベアーがヒトの接近に気付かなかったなんてことあるのか? それにあの真っ暗な森の中でランタンも持たずにアッシュベアーの懐に入って首の動脈をひと突きに? まったく、いったいどんなスキルを持ってたらそんな芸当ができるんだ?」


「言った通りです。ぼくは13までずっと森で育ちました。ワイルドボアと比べても、そう危険そうにも見えなかったのですけど、そんなに危険な動物だったのですか?」


「ワイルドボアは危険度★★★だから、ワイルドボアよりも一段上になる……。なあディムくん、冒険者ギルドでは過去も出自も、名前すら問わない。すねに傷を持つようなランカーも少なくないからな。だけど、私はここを与るギルド長として、このギルドに集まる荒くれ者たちを守ってやらねばならない。それは分かるよな」


「は、はい。お察しします」


「提案だ。その探索シーカーの腕前と『追跡』のスキルを見込んで、これからは捜索サーチャーの仕事も受けて欲しいと思っているんだが、どうだろう?」


「捜索?というと昨夜のあんな感じですか?」

「もちろん行方不明者の捜索はこれまで通りしてもらって構わないが、私がキミに引き受けて欲しいのはそんな掲示板に貼り出す内容じゃなく、ぶっちゃけて言うと依頼に失敗して行方不明になったギルドメンバーの捜索なんだ」


「え? それって技術と力を認められた人にしか……」

「そうだ。そのための面接だ。捜索者サーチャーには追跡スキルが必須条件で、そしていまうちのギルドには捜索者サーチャーがいない。このラール広しといえど追跡スキルもちは狩人組合に数名いるだけというのが現状だからな。追跡スキルは貴重レアなんだ……。なあディムくん、遙か北方じゃ獣人たちの侵攻があって戦場になってるという。そのせいかラールの界隈でも盗賊が増えてな、これまで楽な仕事と言えば隊商の護衛と言われるほど鉄板だった商人が盗賊に襲われる事案が目立ってきた。どの街道でも軒並みにだ。こう言っちゃ卑怯だと思われるかもしれないが、例えばエルネッタの護衛する隊商が襲われて、万が一にでも盗賊の方が優勢だったとしたら? ギルドでは捜索隊を組織して一刻も早くギルドメンバーと依頼者を救出しなければならない。狩人組合にいちいち人員を回してくれるよう要請していたら、それだけで半日以上時間を浪費するんだ。だからディムくんには捜索者サーチャーとしてメンバーに加わってほしいというのが、私の提案……いや、これは頼みだな」


 関節を極められた気分だ。そう言われると断ることはできない。


「エルネッタさんを引き合いに出されたら断る事なんて出来ませんよ。分かりました、引き受けます。でも過度な期待もしないでくださいね。過大評価されている気がしますから」


「わははは、この私が口説いて落ちなかった奴はいないんだ。うちのギルドには『追跡』スキルを持つ腕利きがいなくてね、ずっと探してたんだが、まさかこんなにも身近にいたとはな。もう登録証なんてペラペラの紙切れは捨てちまおう。これを渡しておく、Cランク捜索者サーチャーの証、ブロンズのメダルだ。実はもう裏の刻印でディムくんの名前を登録してある」


 ひどい……エルネッタさんを人質に脅迫しておいて口説いたことになってるじゃないか。


 ディムはEランク探索者シーカーなのだから順当にいけば次はDランクのはずなんだけど、捜索者サーチャーは指名依頼の兼ね合いからCランク以上じゃないとなれないという決まりがあるそうで、特例にもあやかり、ディムは二階級特進でCランクになった。


 Cランクになってメダルを受け取ったら一人前だ。捜索者サーチャーといえば探索者シーカーの上位互換みたいな存在だから、今後もやることは変わらない。


 登録証なんて紙でできた身分証明書を持ってるうちは駆け出し。

 Cランク以上をランカーと言い、チェーンの付いたメダルが交付される。ちなみにCランクはブロンズメダルのランカーだ。ブロンズランカーと言われることもある。


 つまり、ディムも晴れて捜索者サーチャーとして一人前ランカーになったってことだ。


 探索者シーカー捜索者サーチャーの違いは単に、ギルドの依頼遂行中に何らかの事故があり、連絡の取れなくなったメンバー、行方不明になったメンバーの捜索をするのに、ギルドから逆指名されるかどうかという一点に尽きる。救出が間に合わなかった場合でも、遺品を持ち帰るのが任務となる。


 傭兵マーシナリー職のランカーたちも腕のいい捜索者サーチャーがいてくれれば、安心して依頼を受けることができるということ。こんな【羊飼い】のアビリティがエルネッタさんの助けになるなら、最初から断る理由なんてなかった。


 メダルを受け取ってギルド長の部屋を出ると、なんだか生きながらにして二階級特進したことが照れくさくて、受け取ったメダルは隠すようにポケットに入れて帰ろうとしたら、ギルド酒場に居る人たち、いつもはだいたい無視するか、エルネッタさんの子分みたいな扱い(間違ってない)で冷ややかだった荒くれ傭兵マーシナリーたちの態度が一変し、ジョッキを頭上に掲げて讃えてくれた。


「新しい捜索者サーチャーに!」

「新しい捜索者サーチャーに!」

捜索者サーチャーディムに!」


 なんだか知らないけど、話したこともないような人がいきなり肩を組んで来たりしてマジ引いたんだけど、うちのギルド長は人を見る目だけは確かで、相当な技術がないと認められるわけがないと言って、酒場に居合わせた傭兵たち皆でディムの昇格を喜んだ。昼に運ばれてきたというアッシュベアの死骸も見たんだそうだ。


「まさかエルネッタんトコの居候だったボウズが、このまえ探索者シーカーになって薬草集め始めたと思ったらもう捜索者サーチャーなんだもんな、俺もトシを取るはずだよ……。俺が帰ってこなかったら頼むぜ? せめて遺品だけでも家族に届けてくれな」


「お前の遺品ってなんだ? 金歯か? それともそのくっそ下品なドクロの指輪か?」

「わははは、どっちも持って帰ったら呪われそうじゃねえか!」


 こんな駆け出しの捜索者サーチャーでも、いたら頼りにしてもらえるのなら良いのかもしれない。何よりこれまで居心地が悪い空気しか感じなかったギルド酒場のトゲトゲしい空気が若干和らいだような気がするあたり、ストレスフリー生活を目指すうえで大きな加点になった。


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