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冒険者ギルドで人を探すお仕事をしています  作者: さかい
第一章 ~ 探索者という生き方 ~
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[16歳] 追跡、夜の森へ!

20180207改訂


 ディムがギルドを飛び出すと、まずは通りの向かいにあるアパートの前、今日の昼間にサラエとセイジに会ったところに行って痕跡を探す。……『羊追い』スキルで足跡を追おうにも上から上から新しい足跡が重なっててうまく見えない。


 近所の男衆の足跡だ、オッサンらがウロウロしなければ足跡を追えたかもしれないのに……。いまさら言っても仕方ない……だけど、街の外に向かってるような小さな足跡が途切れ途切れにある。


「これかな?」 目撃証言では東の森の方で見かけたと聞いた。


 街を出て東の森に向かう。二人が目撃されたのは夕刻前(16~17時ごろ)か。だとすれば目撃された時刻から日没まで1~2時間あるけど、森の中は空が明るくても真っ暗になって道が見えなくなってしまう。森に入るなら太陽が傾く前に出られるプランを組むべきだ。


 ディムが街を出て川べりの街道を東に向かうと、荷車の車輪の轍が上に付いてたけど、集中して地面を凝視すると浮かび上がってきた。いくつもの足跡、狩人の靴、商人のなめし革の靴、農民のブーツ、そして小さな子どもの靴跡。


 ディムは手がかりをみつけた。


 小さな足跡が二人分。


 これぐらい踏み荒らされてなければ大丈夫だ、もう見逃さない、小さな足跡、横並びだ。手をつないでいたのかな? 歩幅も小さい。……足跡が向かう先は……やっぱり森か。森の方に向かって足跡が続いてる。


 足跡を見失わないよう慎重に追っていくと、森の入り口の手前の土手のところまで来た。


 おかしい、こんな土手の下で足跡の方向が乱雑になっていて、方向が定まらなくなった。

 どうやらこの場で立ち止まって、二人で何か話したのだろう。


 少し高くなった土手を登る形で足跡が続いている。こんなところを登ってから森に入ったのだ。

 なんでこんな土手を上って森に入る必要があるのか? もうちょっと行けば二人並んで歩けるぐらいの道がついてるのに。


 考えても埒が明かない。


 足跡を追いかけて森に入ろうとしたら、後ろから呼び止められた。


「はあ、おい待てって、ディムくんキミは……松明は? ランタンは? 灯火あかりぐらいもってけ! それと夜の森は危険なんだ。真っ暗闇の中で何をする気なんだ、それに森の入り口はここじゃない……」


「ギルド長さん、もしかして心配して来てくれたんですか。ありがとうございます。でもぼく言ったじゃないですか、森で育ったって。夜の森が怖いだなんて思ったことありませんよ」


「しかし!」


「ここで待っててください。あの子たちの痕跡を見つけました。必ず無事で連れて帰ります」


「痕跡を見つけた? 本当か! もしかして『追跡』スキルをもっているのか? そうなんだな?」

「はい。そのようなものです。任せてください。自分が死んでも必ずあの子たちを無事で連れて帰ってきますよ。ぼくはこの約束だけは破ったことがないですから」


 ディムはそれだけ言うと、灯りも持たず、軽々と土手を駆け上がり、真っ暗な、美しい闇に煌めく森に入っていった。


 この美しさをどう表現したらいいのだろうか、光合成をやめた葉の色は濃く深い、まるで黒光りしているように見えながらも、艶のある深緑色のむらを表現していて、銀河を形成する幾億いくおくもの星々からは隙間なく微かな光線が降り注ぎ、ざわめく葉擦れの音はうなじを心地よく撫でる。


 言葉では形容しきれないほど、心は高ぶっている。

 闇のなかに足を踏み入れようとする喜びに打ち震えてる。


 夜の森はいい。昼間とはまた違った表情を見せてくれる。木漏れ日のように漏れ落ちてくる柔らかい光が敏感な網膜に優しく語り掛けているようだ。


 夜の空気感を楽しんでる訳にもいかない。足跡を見失わないよう集中して、ちょっと急がねば。

 サラエとセイジを見つけるのが先だ。


 足跡は道に沿って奥に続いていて、逆に二人分の足跡が森から出る方向に付いている。土手から入ったという事は、おそらくこの足跡の主が森の入り口に居たのだろう。夕刻前(16時~17時ごろ)に子どもが二人で森に入ろうとしていたら誰だって止める。だから隠れて道をそれて土手を登って森に入った。けどすぐ道を見つけて奥に向かってる。こっちの歩幅の広い方が姉のサラエ、歩幅の狭い方が弟のセイジ、歩幅からは躊躇が見られないし、迷いも恐れも感じない。


 サラエは強い子だ、ほんとメイみたいだ。セイジは少し歩幅が狭くなってきた、怖いのを我慢してついていったんだ。ディムにはセイジの気持ちがよくわかる、同じように怖い思いしてそれを乗り越えてきたのだから。


 スキル『聴覚』を発動させる。

 もともとピアノ講師だった雨宮あめみやさんのスキルで、単純に聴力が増すというよりも、360度、すべての方向から聞こえてくる音に濾過ろかフィルターをかけて、特定の音だけを抽出するようなスキルだ。たとえばオーケストラの中で特に際立って聞こえないファゴットの音だけをはっきり聴き取るような感じといえば想像しやすいだろうか。

 これは常時発動型じゃないから意識的に発動しないといけない。

 集中力が必要だから頭の冴えてない朝や昼間に使うとすっごい疲れる。めったに使わないスキルだ。


 スキル『拾い食い』を発動させる。

 これは旅人だった桜田さくらださんのスキルで、本来は発動の必要はない。効果は食べ物の匂いにのみ敏感なのと解毒の力が強い。意図的にスキルを発動させると嗅覚からいろんな情報を得ることができる。食べ物以外の匂いもだ。


 単に嗅覚が鋭くなるのと同時に、なんとなく匂いの元がどこにあるのかも分かるようになる。

 ただし元々、食べ物を探すためのスキルなので警察犬のような追跡には向かない。あくまで羊追いの補助として多重に起動している。


 五感を高め、足早に足跡を追跡する。

 子どものような体重の軽いものが落ち葉の上を歩いた足跡のサインは微弱だから、急いでいるからといって端折はしょるように雑なことをすると一瞬で見失ってしまう。


 森に入って子どもの足だとここまで30分といったところか、しかしまだ奥に向かってる。

 夕刻前(16~17時ごろ)に街から森までの街道で目撃されたと言ってた、ってことは森に入ったのはもう夕刻近かったはず。それで子どもの足で30分近く歩くと、……そう、この辺でもう森の中は相当に暗くなってきたはずだ。


 そこでディムは少しだけ足を止めた。けもの道の左側、あの落ち葉が盛り上がった感じのところからトリュフの匂いがする……気がする。

 セイジの足跡のすぐ脇だ。腐葉土を掻き分けて土をちょっと掘ってみると小ぶりだけどいいカタの白トリュフを見つけた。


 足跡を追いながら匂いも敏感にかぎ分けている。頭は冴えてる。集中力は申し分ない。

 こんな時だって言うのにトリュフ採取のコツを掴んだような気がする。


 ディムはいま推測ではなく、推理も交えながら微弱な足跡を追い、対象者の二人を追っていて、確実に近付いてる。


 複数のスキルを同時に起動し、その全てに集中するのは初めての経験だ。

 耳に集中すると足跡がフッフッと消えて見失いそうになるし、ちょっと人の汗のにおい? を感じて、もしかすると……なんて嗅覚に集中すると目と耳の感覚が疎かになる。すべてに集中するなんて至難の業だ。



 『羊追い』スキルをメインに据えて、足跡を見失わないよう気を付けて慎重に、そのまま道沿いに更に奥へと続く足跡の軌跡を追っていると、大きく右にカーブした道から逸れて、右方向へほぼ直角に曲がっていた。


 これは不審感しかない。


 推理では二人がここまで到達した時間帯、すでにもう、森は暗かったはずだ。

 おかしい、それなのに何でこんなトコから右に折れたんだろう? しかも道から外れてだ。


 ここは分かれ道でもなんでもない。ただ少し斜面を上に上がる感じで、シダのような植物が低く群生してる、森の中ではよくある地形だ。特別なことは一つもない。


 だけど、こんなトコで右に折れる意味が分からない……足跡の向かう先に何かあるのだろうか。



 ……っ!


 ディムがなんとなく足跡を追跡しているとおかしなことに気が付いた。

 足跡が逆についていたのだ。


 いつの間にか逆行していた。

 それにより進行方向が分からなくなった。


 !


 そうだ。後ずさりして道を外れたってことか。じゃあここで何かに会った? のか。

 何に会った? 他の足跡は? 他の、イタチの足跡? いや、小さい。


 集中して集中してサラエとセイジの足跡を凝視する……後を追う足跡はないか?


 あったこれだ、大きいくて爪も鋭い。しかも深くハッキリ土を掻いているから体重は計り知れない。

 歩幅も大きい、これは大人よりも大きく、鋭い爪を持った四つ足のけものだ。

 セイカの森じゃ見たことがない爪跡だ。



「くっそ、まずいぞこれは」



 足跡が鮮明になって前に向きなおった。……、歩幅が大きくなっていて、二人とも足跡はハッキリと深く刻まれている。先ほどまでとは明らかに違う。

 身長が高くなって体重が増えたのでないとすれば、二人とも走ったということだ。


 何かから逃れようと走った。

 いったい何に追われて?


「無事でいてくれ……」



 葉擦れの音がザワザワと心地よい夜の森で、ガリガリと木で爪を研ぐような音に混ざって聞こえてきた。


 呼吸音、息遣い? 奥の方から聞こえる。

 何かいることが分かる。


 音だ。音が立体的に聞こえる。


 サラエたちの足跡の向かう先から、不安を掻き立てる音が!


 獣臭がする。

 野獣のような臭いが強くなってきた。



 『羊追い』による足跡の追跡から『聴覚』メインに切り替えて音の聞こえる方向に向かって走る。

 足跡は曲がっていたり、回り道したりするけれど、音は最短距離を直進して来る。


 ディムが見ている世界、この真っ暗な極彩色の森の中を飛ぶが如くのスピードで走って音のする方向、獣臭のきつくなる方向に向かうと、少し大きな木の下になにやら大きな灰色の毛皮の塊? が見えた。


 ディムの知らない動物のようだった。2メートル以上あるのではないか。なにやら大きな動物が木の上の何かを狙って登ろうとしてるように見えた。


 クマか? いや熊ほど丸いシルエットじゃない。初めて見る大型の獣で何なのかは分からないが、先に見える獣に重なって小さな息遣いが二つ聞こえる、半べそかいて鼻をすするような音が……。

 二人はきっと近くに……。


 見えた! 木の上だ。


 セイジ! 木の上にセイジがいる。あの服はサラエか。サラエもいる……よし無事だ。


 二人は木の上に逃れていた。


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