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冒険者ギルドで人を探すお仕事をしています  作者: さかい
【不定期連載】 ~ 後日談・サイドストーリー:本編完結につき『人を探すお仕事』はしていません ~
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勇者、出撃す(16)勇者、銀河・フィクサ・ソレイユ


もしかして待ってくれていた読者の皆様、お待たせしました。

お初にお目にかかる方にも、お待たせしました。久しぶりに更新できました。

銀河のお話はこれにて完結、次話からはディムやエルネッタが銀河といっしょに旅立ったあと、現代に残された者たちの更なる戦いを、いつものようにダラダラと書き連ねていこうと思います。


 なぜか銀河ぎんがにだけは容赦のないアンドロメダの計略によりパーティメンバーを分断されてしまった勇者パーティは、取り囲まれた挙句、魔法と矢による遠隔攻撃の一斉攻撃を受け、仲間を取り戻すこともできず、ほうほうのていで森に逃げ帰った。仲間のうち3人を同時に失ってしまうなど考えたくもない悪夢だった。メンバーが半分になってしまったときどう戦うか? などあらかじめ決めているわけもなく、頭の中は混乱を極める。


 銀河ギンガはこれまで順調すぎたせいで敵を甘く見ていたようだ。。

 3人の仲間が攫われてしまったのは『一騎打ちに勝てばセイカ要塞を明け渡す』という、目の前にぶら下げられた釣り針の先に付いていた餌に食いついて、ミエミエの罠にハマってしまったせいだ。



 つい昨日までは獣人たちと互角以上の戦いをしていた。

 6人パーティで力を合わせれば勝てると思っていた。だがしかし、絡め手ひとつ使われただけで対処すること叶わず、絶体絶命の窮地におとしいれられてしまった。


 銀河は功を焦った自らの失策により、仲間3人を失ってしまった責任感に押しつぶされそうになった。

 森に帰って隠れ家に潜むと、灯りのない真っ暗闇の中、銀河はひとり、嗚咽を押し殺し、声も出さず、肩を震わせて泣いた。


 メイリーンはそんな銀河の肩を抱いて敗北と屈辱にまみれた夜を明かした。



----



 空も白み始めていると言うのに、まだ光が当たらぬうっそうとした森の小道を、柔らかな黒髪を朝の冷たい風に揺らしながら歩く少女の姿があった。


 銀河ギンガだ。


 銀河は攫われてしまった3人の仲間がいまどんな酷い目に遭わされているのか考えると居ても立ってもいられず、メイリーンたちの目を盗んでたった一人、音もたてずに隠れ家を出た。


 盾を持ち、聖剣バルムンクを腰に下げていて、その表情には覚悟を宿す。失策の責任を一人でとるつもりで戦場に立った。


 要塞化したセイカ村の森につながる方の門を見張る斥候のゴブリンが気付き、笛を吹き鳴らした。

 銀河はギリギリ矢の届かない位置に立ち、敵の出方を窺う。


 敵がどのような攻撃をしてこようと、そのすべてに対処してみせるという、いわば出たとこ勝負の作戦を選んだ……。と言ってしまえばカッコいいが、その実、何も考えてはいない。ただ居ても立っても居られないので、飛び出してきたというわけだ。



 ……。



 ……。


 しかし待てど暮らせど、敵はただの一兵たりとも出てこなかった。

 防護壁の上からちらちらと下を覗き込む獣人たちが居る程度で要塞門の扉は固く閉ざされたまま。さっき確かに笛が吹き鳴らされた。あの笛は確か、敵襲を知らせる笛のはずだ。それなのに弓兵の一兵すら出てこないなど考えられないことだ。


 銀河ギンガは苛立ちを覚え、防護壁の上にいる監視のゴブリンに怒りをぶつけた。


「獣人軍はたったひとりの女に恐れをなしたのか!」


 突然声を張り上げて話しかけられたゴブリンは少し恐縮しながら銀河ギンガの問いに応えた。



「今日は休みだ。明日までそこでまってろ。クカカカカッ」


「休みですって!?」


 定休日とか……。

 軍施設なんて完全に24時間営業やってて、いつ行っても敵がゾロゾロ出てくるぐらいの備えをしていると思っていた。シフト制でもなく、全員揃って休みを取るなんて信じられない。


 ハーメルン王国陸軍なんかたったの6人を敵地に送り込んだくせに、ルーメン教会の連絡員とはとっくの昔に連絡取れなくなるようなグダグダ加減だし、食料の支援も案の定なくなってしまって、自給自足が始まったっていうのに。待遇の差を見せつけられた格好になった。



 もちろんセイカ要塞の獣人軍に休みなんてあるわけがない。勇者パーティに余裕がないことは分かっていたことからアンドロメダが司令官に耳打ちをして銀河たちを休ませてやろうとしただけのことなのだが。


 そういって銀河はその場に取り残された。

 銀河は「仲間を返せ!」と凄んで見せたが、見張りのゴブリンは「せっかくの人質をそう簡単に返すわけがない」と言って見張り台の向こう側に消えた。


「戻ろっか?」


 銀河の背後から声がした。

 前に意識を集中していた銀河は突然のことで驚いたが、その声のの主がメイリーンであることは分かっていた。みんなが寝静まったあと、音もなくこっそり出てきたつもりだったけれど、メイリーンに気付かれず森を歩くことは出来なかったということだ。


「でも……」


「人質ってことは簡単には殺さないって意味よね、今日のところはこっちも休みにしましょう。仲間たちはまだ生きているし、私たちも体を休める必要があるわ」


 メイリーンに背中を押され、銀河は森に帰っていった。その足取りは鉛のように重く、後ろ髪ひかれる思いだった。二人、言葉もなく、重圧に押しつぶされそうになりながら、樹上からのルートを通ることで追尾スキルでの追跡をまき、大樹の秘密基地に戻った。


銀河ギンガ、ひとりで出撃してどうにかしてやろうだなんて考えちゃダメだからね。3人で力を合わせないと。けどさ、グラナーダはずっと寝てるしさ、聖騎士って何? ほんと役に立たない……」


「いや、すまぬ。どういう訳か身体が動かないのだ、今朝から下痢がひどいし、盾が重くて持てないなど、聖騎士の名折れだ……、だがしかしこの状態異常……、敵の中になにか呪いのようなデバフ魔法を使う魔導師が居る……」


「デバフならそのうちに治るわよ。けど敵に下痢させて戦えないようにするなんてデバフ聞いたことないわ。単におなか壊してるだけだったら後で罰ゲームだからね」


 グラナーダは銀河とメイリーンがとってきてくれる山の幸を食べながら強力なデバフ魔法が解けるのを待っていた。徐々に快方に向かったかと思えば、翌朝になるとガクンと体調を崩し、意識すら朦朧となるほどの状態異常だった。せめて治癒師の聖ジャニス・ネヴィルがいてくれたら敵のデバフ魔法について知識があったのだろうし、呪いであれば解呪を、体力の消耗は回復魔法でができたはずだ。根本的な治療が無理でも熟練の冒険者、ダービー・ダービーが持つ薬草の知識があれば、腹痛や下痢を緩和する対処療法は出来たはず。だけどいまはその二人ともが敵に捕らえられている。


 勇者パーティはこれ以上ないほどの窮地に陥っている。



 グラナーダは動けなくなって10日もするとゲッソリと痩せこけ、意識を保っていられる時間も短くなった。もう戦うことなどできはしない。調子のいい時であっても剣を持って構えることすらできないのだ。

 意識を失ってしまうと次に目を覚ますかどうかすら分からない、そんなギリギリの、まるで綱渡りのような生命維持を続けていた。それも奇妙なことに、意識がもうろうとなり食事がとれなくなって、水しか飲めないといった極限の状態になればなるほど体調は快方に向かうことに本人はおろか誰も気付かなかった。これもグラナーダにとって不幸としか言いようがなかった。


 何のことはない、体調を崩せば銀河とメイリーンが採ってきた毒キノコを食べられなくなり、意識を失いそうになったら水しか飲めないので快方に向かうだけの話だ。

 目を覚ましたら覚ましたで、銀河が「よかったわグラナーダ、今度ばかりはダメかと思った。お腹がすいたでしょう? 体力をつけないとね、はい、これ今朝とれたばかりの鳥肉とキノコのスープよ、たんと食べて、体力をつけないとね」などと言ってグラナーダの口に毒キノコのスープを飲ませた。そして銀河ギンガとメイリーンは強力な毒耐性スキルが発動していて、おなかを壊すこともない。


 まさか毒キノコを食わせられているなどとは露にも知らず、同じものを食べているのだから安全だと信じ込んでいたターミナル・グラナーダ。ただただ戦場に来て戦えないおのれの未熟さを呪う。


戦場いくさばに出て病ともデバフともつかぬものに侵され戦えないなど聖騎士の名折れだ。すまなかった勇者よ。私は足手まといになるのは我慢できない、もう捨ておいてはくれないか」


「ダメよグラナーダ。私たちの任務は獣人たちをこの土地から追い出すこと。そして誰一人として欠けることなく、全員揃って王都に凱旋するのよ。弱気になっちゃダメ。はい、食べられないなら食べさせてあげるわ」


「ううっ、かたじけない……」


 まさか優しい言葉をかけてもらいながら致死量に少し足りないレベルの毒を食わされ続けているとはこれっぽっちも考えてない聖騎士グラナーダだった。



----


 ターミナル・グラナーダの回復を待って要塞攻略する計画をたてていた銀河たちは暗くなるのを待って敵の目を盗み、音もなく秘密基地を出て行った。夜になると獣人たちは森に近づかない。食べ物と水を確保するなら夜陰に紛れるのが最も安全だ。


 籐で編んだバスケットを持ったメイリーンは森の奥へ向かい、銀河は革袋でこさえた水筒を人数分もって湖に向かう。メイリーンはバスケットにいっぱいの木の実やキノコ、野草などを獲り、銀河は獣人たちの斥候に見つからないよう、大回りで岩陰を進み、新鮮な水を汲んだ。


 銀河が夜空を見上げると満天の星が視界狭しと飛び込んでくる。

 殺し合いに明け暮れ、血泥にまみれた地上から見上げる夜空は、これほどまでに美しい。


 実戦経験もなしにに敵地の奥深くまで侵攻せねばならない危険な任務から身を守ってくれますようにと母が指にはめてくれたお守りの指輪を星空に透かして見た。


 幾万、幾億の星々の光が青い宝石の内面に反射してオーロラブルーに輝きを放つ。暗視スキルで夜目の利く銀河にしか見ることができないけれど、小さな麦粒のような青い宝石が、銀河には魔法の煌めきに見えた。



 銀河はため息をついた。

 任務の重圧と、3人の仲間を失ってしまった責任に打ちのめされそうになっている。


 グラナーダには強い言葉をかけた。必ずみんなで一緒に帰るんだと言ったのに、銀河の心は、その言葉とは裏腹にもう折れそうだ。


 まだ16歳の若い娘だ。

 同い年の子はみんな可愛らしい服やきらびやかなアクセサリーでその身を飾り、意中の男性と恋をしているというのに、銀河は身だしなみを整えることも、シャワーを浴びることもできない最前線にいる。


 湖でこっそり身体を洗えるかどうかも不定期だし、頭から敵の返り血を浴びても髪がバリバリに固まるまで洗えないことも多い。やはり戦いなんて無理だった、銀河は剣を握ることすら嫌になってしまって、仲間さえ助け出せたら何もかも投げ出して帰りたいとすら思っていた、そんな時だった。暗視スキルを使って星明かりを昼間のように増幅して夜の湖畔を歩いていた銀河の目に、閃光が飛び込んできたのは。


 眩しさに眉をしかめた。


 閃光? あれは空に激しい光を放ちながらゆっくりと落ちてくる照明の魔法。ライトバルーンだ。


「メイリーンが戦闘してる?!」


 銀河は小走りになって秘密基地へ急ぐ。しかし次の瞬間、森から炎が立ちあがった。ファイアウォールの魔法……。ゴブリンの使う通常のファイアウォール魔法より数倍規模が大きい、あれはメイリーンの魔法だ。しかもかなり余裕がない。


 森の中であの規模の炎魔法を使うなんて……、獣人たちに秘密基地が発見されたとしか考えられない。

 銀河はまさかと思った。

 樹上ルートは追跡スキルにかからないから安全だと思い込んでいたからだ。


 汲み上げた水をその場に投げ、星明かりの湖畔を駿馬の如く駆け抜けメイリーンのもとに急いだ。銀河が基地を出たときグラナーダは意識がなかった、秘密基地が敵に発見されたとなると一刻を争う。


 獣人たちは夜の森には入ってこないと思い込んでいた。その思い込みがもたらした結果だった。

 銀河は度重なるミスを犯した。


「お願い! 無事でいて……」



 獣人が夜の森に入るのを嫌がる理由は、オセという夜神が森に棲むという言い伝えだけではない。

 オセなどという不確かなものよりも、夜になると森に戻ってくるグリフォンの方がよほど驚異だった。

 ではなぜ今メイリーンが戦闘しているのかというと、グリフォンは湖の対岸にある狩人の小屋の付近で戦闘を行っていることが確かめられたからだ。獣人たちは二面作戦を展開していた。グリフォンが居ないセイカの森に捜索隊を出して、銀河たち勇者パーティの隠れ家を突き止めようとしていたのだ。



 銀河は秘密基地に戻ったあとグラナーダの無事を確認し、ほっと胸をなでおろしたのと同時に遊撃に出たメイリーンを援護するため基地の防衛に出た。しかしそのとき、要塞の北門が開き、獣人たちの本隊が打って出た。本格的な夜戦が始まる。


「銀河! 数が多いわ、私がひきつけるからグラナーダを連れて森の奥へ。ポイントデルタで落ち合いましょう」


「わかった! でもメイリーン、オークが迫ってる! これじゃあグラナーダを連れ出せない」

「近くにいる奴は皆殺しヨロシク! 私は前に出てこれ以上オークを近づけないようにするから」


「一人じゃ危険よ!」


「セイカの森で私が負けるわけないじゃん。そっちに行った打ち漏らしだけでもお願い。スキを見てグラナーダを避難させてね」


「分かった。分かったから……メイリーン気を付けてね」


「大丈夫よ、あの夜と比べたら全然余裕っ、こんなのまだまだ逆境ですらないわ!」


 銀河は木の枝から枝に飛び渡るメイリーンを見送ると、盾を構えて拠点防衛の構えに入った。

 グラナーダは動けない。避難させるためにはまず敵の数を減らす必要がある。


 折れそうな心に気合を入れなおすため、銀河は声を張り上げた。


「さあ来い! 私が勇者だっ!!」


 しばらく膠着状態が続いたが、このあとディムやエルネッタたち援軍が間に合い、一夜にしてヨーレイカのセイカ要塞が陥落することになる。銀河は攫われてしまった仲間を救出するという困難な目的も完遂し、無事に王都へ凱旋することとなった。


 最大の功労者となった勇者、銀河ギンガ・フィクサ・ソレイユ本人も、アサシン・ディミトリ・ベッケンバウアーと出会ったことで、その人生を大きく変えた。


 ロマンチックは1000年の時を経て、まだとどまるところを知らない。


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