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冒険者ギルドで人を探すお仕事をしています  作者: さかい
【不定期連載】 ~ 後日談・サイドストーリー:本編完結につき『人を探すお仕事』はしていません ~
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勇者、出撃す(15)ワクワク!

 メイリーンの話を最後まで聞いた仲間たちは言葉もなく、ただ沈黙を続けていて墓場ということもあってか、静けさが僅かばかりの薄気味悪さを連れてくる。


 鳥肌がたつ肌寒さのなか、ダービー・ダービーがトレードマークのカウボーイハットを脱いでつばの形を整えながらさっきの話の中に出てきた男の子の話に興味があると言った。どうやら詳しく聞きたいらしい。


「ごめんなさいね、話の腰を折って悪いんだけどさ、私はダグラスって子の話を聞きたいな……」


「え? なんでなの? ダグラスなんてザコよ? ディムの話に出るときはやられキャラだしさ」


「ひどいなあ……、いやね、ちょっと名前に聞き覚えがあるんだ。どこだっけか、辺境の街の冒険者ギルドでバカみたいにムチャやらかす若いのがいるって噂になっててさ、そいつがダグラス……なんだっけか? なにせダグラスという名前だった気がするんだ」


「ダグラス・フューリーだけど?」


「それだ! それよそれ! 18歳だかで傭兵のゴールドメダルになったんだってさ。信じらんないよね、18でゴールド。私でもゴールドになったのは26の時だったのにね。そのフューリーってやつギルドじゃあちょっとした期待の星なんだわ。実力には懐疑的だったけど、なるほどねメイリーンの幼馴染で実戦を経験してるならちょっと分かるかな」


「ダグラスも私の子分だったわ。あいつ体力だけはあったんだけどさ、すぐ食あたり起こしてお腹こわすのよね……。あんなのでゴールドメダルやれるなら私も帰ったら冒険者やろうかしら。ねえダービー、冒険者ってお金になる? それだけで食べていけるの?」


「おおっ! 本当か! メイリーンなら大歓迎だ。私が推薦してやるよ。大丈夫大丈夫、冒険者は実力の世界だからね、そもそも魔法使いで冒険者やってる人が少ないからね、希少価値ありありなんだわ」



 メイリーンが銀河ギンガたちと夜の墓場で雑談しているとき、銀河の実家フィクサ・ソレイユの屋敷ではレーヴェンドルフがルーメン教会から解読を依頼された魔導書に書かれてあった異世界文字がどういった意味をなすのか、調べるのに苦心しているところだった。


 子どもたちを寝かしつけたあと、レーヴェンドルフはヒカリとふたりで遅い夕食をとった。


「ねえあなた、研究に没頭するのは構いませんが食事ぐらい家族でとってくれないと困ります」


「ああ、そうだね、悪かったよヒカリ。ところでちょっと教えてほしい事があるのだがいいかい?」


「はい、私に分かる事なら。でも私はあまりものを知りませんよ?」


「うん、知ってたらでいいんだ。異世界の言葉で『ワープ』ってどういう意味なんだい?」


「はあ?」


 ヒカリは眉をしかめて訝った。

 この世界で『ワープ』だなんて言葉を聞いたのは初めての事だった。

 第一、レーヴェンドルフのどこを押せば『ワープ』なんて単語が出てくるのか。


 レーヴェンドルフも訝るヒカリの顔色を見て、ちょっと失敗したかなと思った。

 ならば言い方を変えてみるのがいい。


「ああ、ちょっと発音がよくわからないんだけど、じゃあ『ワームホール』って何のことか教えてもらえたら助かるのだけど?」



 レーヴェンドルフはヒカリから異世界の言葉を習った。何と書いてあるのかは読める。だが、その意味まではよくわからない。

 それが日常会話で使うような単語ではなく『ワープ』だの『ワームホール』だのというSFに出てくるような用語であるなら尚更に。


 レーヴェンドルフはルーメン教会から古文書の解読を頼まれたと言って、書斎にこもりきりで研究を続けている。それが異世界の言葉だからこそ苦戦していて、ヒカリにも怪しまれてしまった。


 いや、怪しいを通り越している。


 ヒカリは何か確信を得たようで黙ったまま鋭い眼光をレーヴェンドルフに向けた。

 レーヴェンドルフはヒカリの突き刺さるような疑いの視線に耐えられなかった。



「あ、あの……ヒカリ? 黙ってられるとちょっと怖いな……。なんて……」


「レーヴェン。何の研究をしているの?」


「ごめん、言えないんだ。魔導書の解読を頼まれたんだけど」


「その魔導書にワープだとかワームホールだとか、そんな言葉が日本語で書かれてあって、その意味が分からないから私に聞いたってことよね? いい? 異世界の日本と言う国では、魔法なんてのはだいたいがファンタジーの代名詞で、ワープだとかワームホールというのはSFの領分なの。わかる? エスエフよエスエフ。ここじゃあ通用しないと思うけど?」


「うーん、ちょっといいかな? ヒカリ……」


「なに?」


「エスエフってどういう意味かな?」



 ―― はあっ……。



 ヒカリは大きなため息をついて肩から力が抜けてゆくのを感じた。


 その魔導書とやらを見せろと迫るヒカリの圧力は相当なものだったが禁書だから誰にも見せることができないと言って頑なに要求を突っぱねた。レーヴェンドルフの意固地さも相当なものである。


 仕方がないのでヒカリは日本人だった頃のSFの知識や、宇宙ものアニメの知識から分かる範囲でレーヴェンドルフに教えた。



----


 破竹の勢いで快進撃を続ける勇者パーティと連絡が途絶えたのはそれから数日後のことだった。

 勇者パーティがあらかじめ決めてあった待ち合わせの場所に来ない。隠密で獣人支配地域の奥深くまで潜行していた斥候も危険を感じて戻ってきたのだそうだ。


 しらせを聞いて手に持った水差しを落としたヒカリに対して、レーヴェンドルフはやけに落ち着いていた。あらかじめ決めていた約束の日時に、約束の場所に現れないのは、その場所が危険だからだ。

 メイリーンはセイカ村周辺の地理なら獣道まで把握していると言った。アンが先行して現場に入っているとするなら案ずることはない、まずは自分の仕事をやってのけることが重要だ。


銀河ギンガは大丈夫だよヒカリ。ところで『四次元時空の壁』という単語があってね、よくわからないんだ。『壁』は分かるんだが『四次元』『時空』って何のことだい?」


「はあああああああ? ちょっと待ちなさい! 何あなた、銀河ギンガの心配よりもSF小説のほうが重要だっていうの? あきれた。本当にあきれた! 木剣を持ちなさい、性根を叩き直してあげます」


「うわあああ、待ってくれヒカリ、誤解だ! 誤解なんだたあああああああぁぁぁぁぁ……」




----



 レーヴェンドルフが信じていた通り、銀河ギンガたち勇者パーティは獣人たちとの戦闘を順調にこなし、戦闘の経験を積み、レベルアップしながら要塞化したセイカの森まで到達していた。

 メイリーンの提案したゲリラ戦が功を奏し、森から森へと移動しながらセイカを目指す。

 イレギュラーだが空からいきなり襲い掛かってくるグリフォンがいいところで助けてくれたりしたおかげで獣人たちは苦戦を強いられ、銀河たちは逆にすんなり歩を進めた。


 それは順調すぎるほどに順調だった。もう順調すぎて銀河ギンガたち勇者パーティだけでセイカの要塞が落とされてしまうんじゃないか? と心配するほどに。


 獣人たちの独立国家、ヨーレイカから前線基地セイカ要塞を任されたオーガの凶戦士、カンダルフェ・ギマールは防護壁の上、いちばん高いところから森で戦闘している兵士たちを眺めながら深いため息をついた。


「あれがハーメルンの誇る勇者というものか。凄まじいものだな」


「はいっ、そうですね。あの勇者は見たところこちらの最高戦力、ファルコア・ギーヴンと同等の力を持ってますねえ。このままだとこの要塞ごと落とされちゃうかもしれませんよ」


 ギマールの傍らに立って非接触で鑑定スキルを行使し、勇者パーティの戦力を正確に報告する女がいた。


 名を『レディ・ピンク』という。


 ひと月ほど前、街道をプラプラとひとりで散歩するように歩いてたところを哨戒中の警備兵に捕えられた、ちょっと頭のおかしな女だった。


 非接触の鑑定眼を持っていることと、オークのイレズミ級戦士など素手で投げては頭から地面に突き刺すほどの体術をもっていたことから気に入られ、ヒトの身でありながら獣人軍のインストラクター的な立場になったという恐ろしい女だ。


「ギマール隊長さま! ひとついい作戦を思いついたのですが、どうでしょう?」


「ほう、聞くだけ聞いてやるから言ってみろ」


「はい。勇者のひとって馬鹿正直が服を着て歩いてるような世間知らずですから、ここは一騎打ちを装って敵パーティの分断を狙いましょう。とにかく回復魔法を使う神官がいい仕事しすぎです。ちょっと殴ってやらないとダメですね」


「わははは、なるほど。お前はヒトでありながらヒトを裏切るのか、面白い」


「いやだなあ違いますよ。私のアビリティは知ってるでしょう? 捕らえた捕虜は全員私の食事にしますからね、捕虜に手を出すなら私は協力しませんよ?」


「くくくく、よかろう。捕虜はおまえに与えよう、恐ろしいなレディ・ピンク。いや、夜の女王といったほうがいいかな? ヴァンパイアよ」


「じゃあそう言うことで。私は準備しておくとします」


 いうとレディ・ピンクは得意の変身魔法で姿をコウモリに変え、夜の闇に消えていった……。



 数日後、圧倒的な火力とコンビネーションを柱に、獣人たちを蹴散らしながら要塞門を抜き、内部へと侵攻した銀河ギンガたち勇者パーティは獣人たちの卑劣極まる罠にハマり、パーティを分断され、遠隔攻撃と索敵担当のダービー・ダービー、剣士として背後から襲う敵から後衛を守っていたショウズ・セネガルシス、そして回復魔法を使い傷を癒していたパーティ経戦能力のかなめ、神官の聖ジャニス・ネヴィルが捕えられ捕虜となった。


 レディ・ピンクの言った通り、銀河たち勇者パーティは、アホみたいな罠に、いともたやすくハマってしまった。


 勇者、銀河・フィクサ・ソレイユ、一生の不覚だった。

 森の秘密基地に戻った銀河はその夜、嗚咽を押し殺し、声もなく泣いた。

 自らの不手際が招いた失策だった。メイリーンはそんな銀河の肩をそっと抱いた。



----


 一方、こちら獣人軍の支配するセイカ要塞の中、突貫工事でつくらせた石積みの捕虜の収容施設では、ルーメン教会の聖ジャニス・ネヴィルが声を荒げて嘆き、悲しんでいた。


「まったく! どういうことなのか説明していただきたい! アンディー・ベック教育長ともあろうお方が、なぜ獣人軍に手を貸しておられるのか! 私はこの二つの瞼からこぼれおちる涙の止め方が分かりませぬ。どうか何かの間違いであれと思うばかりでございます!」


「まあまあ、そう怒ってばかりじゃダメですからね、血圧あがって脳の血管切れちゃいます。とりあえずはお茶でも飲んで落ち着こうかネヴィル……」


「お茶? お茶など楽しんでおられますか! コンスタンティンのバカ野郎はいったいなにをしておられる? まったく、なぜ教育長から目を離すのか! 帰ったら三日三晩、寝ずの猛抗議をしてやりますからな!」


「まあまあ、聖ジャニス・ネヴィルどの、そう大声を張り上げては外まで声が聞こえてしまいます。ここはもうすこし小さな声で抗議すればいいかと? おっと、お初にお目にかかります、私ダービー・ダービーといいましてサンドラで冒険者をしておる者です。まさかルーメン教会の最高指導者、アンディー・ベックがこれほどお若いとは思ってもみませんでした、以後お見知りおきください」


「フン! ダービーどの、帰るまで覚えておればよいですな。まったく、わたくしめはイライラが収まりませぬ。どうせいま話したことなど綺麗さっぱり忘れてしまうでありましょうよ、いまのうちに消せないようイレズミにでもして書いておくことをお勧めする。アンディー・ベックがまた大変なことをしでかしたと!」



「まあ、そう怒らずに見ていてほしいよネヴィル。これから私の両親が出会って、お母さんが恋に落ちるんですよ? 私はそれを見守りたいだけです。ハーメルン王国、最高のロマンスはこれから始まるんだからね」


「ロマンスですか……、とほほほほ、ではわたくしたちはどうなるのですか? 無事に帰れるのでしょうね? あのファルコア・ギーヴンという【バーサーカー】は想像を絶する力を持っておりますが? 責任を取ってくださるんですよね? 教育長自きょういくちょうみずから、あれをどうにかしてくださるのですね?」



「うーん、いざとなったらわたしが倒しちゃうけど、たぶん大丈夫よ? だって私のお父さんは世界でいちばん優しい【アサシン】だもの。お父さんに比べたら【バーサーカー】なんて小動物みたいなものだし、うふふふふ……」



 ……。



 ……。


 捕虜になった3人は開いた口がふさがらなかった。

 父親が『アサシン』であることにも驚いたが、そんなことよりもアンディー・ベック教育長ひとりでこの要塞ぐらいなら簡単に落とせるということだ。


 聖ジャニス・ネヴィルはアサシンと聞いて気が遠くなるのを感じ、鉄格子を掴んで抗議していた力もむなしく、膝から崩れ落ちるようにべったりと座り込んでしまった。


 力なくうなだれる三人のパーティメンバーの心情とは裏腹に、アンディー・ベックはウキウキしていて、ワクワクするハートに歯止めがきかない。


 捕虜収監施設で鉄格子の向こう側でうなだれる者たちに向けて最高の笑顔で笑ってみせた。



 もうすぐ大好きなお父さんとお母さんが出会うのだ、嬉しくないわけなどない。




 ルーメン教会の最高指導者として900年以上という長きにわたってトップに君臨し続ける謎の女、アンディー・ベック。


 父は王国を恐怖に陥れた【アサシン】ディミトリ・ベッケンバウアー。

 母はハーメルン最強と言われたチートアビリティ【勇者】をもつヒカリ・カスガの娘で同じく【勇者】の加護を受けた銀河ギンガ・フィクサ・ソレイユ。


 984年前、両親からつけてもらった名はアンドロメダ。



 アンドロメダはこれから最高のロマンスを目撃する。



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