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冒険者ギルドで人を探すお仕事をしています  作者: さかい
【不定期連載】 ~ 後日談・サイドストーリー:本編完結につき『人を探すお仕事』はしていません ~
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[ギンガの初恋] もと勇者、酔った勢いでチートスキルを使って告白する

「座れって言ったの。聞こえなかったのかな?」

 ディムが座れと言われた場所は3人掛けのソファー、ギンガの隣だ。

 念のためギンガの状態異常などを把握するため『知覚』スキルで鑑定しながらそっと腰を下ろした。


----------


□ ギンガ・フィクサ・ソレイユ 19歳 女性

〇ステータスアップ効果

〇全属性魔法防御 効果

〇状態異常アルコール 酩酊


 異世界人 × ヒト族ハーフ  レベル091

 体力:409880/410550

 経戦:SSS→★

 魔力:SS→SSS

 腕力:SS→SSS

 敏捷:SS→SSS

【勇者】SS /見通す眼SS/全属性魔法防御S/重力操作S/光魔法A/ダメージカウンターSS/片手剣SS/盾術SS/毒軽減S/麻痺軽減A/混乱軽減A/時間遅延軽減B/経戦ボーナス/魔力ボーナス/腕力ボーナス/俊敏ボーナス/打撃耐性S/斬撃耐性A/刺突耐性A/経験値ボーナスD/体力増加/正しき心


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 ディムはギンガのステータスからアルコール酩酊状態になっていることと『毒軽減』スキルが発動していないことを確認した。要するに、いまのギンガはただ絡んでくる面倒な酔っ払いなのだ。


 ディムは13の頃から泥酔したエルネッタさんで慣れているから対処法ぐらい知っている。

 酔っ払い相手に逆らうのは逆効果だ。


「はいはい、聞こえてます。よいしょっと。言われた通りに座ったよ……えーっと、ディアッカは酔い潰れたし、目的は達成したんだから、そろそろ今夜はお開きにしない?」


「イヤだ。逃げるなバカ、あなたさっきディアッカから聞いたでしょ?」

「えーっと、何のことかな? 主語が見当たらないから、ねえギンガ、話は明日にしよう。こんな状態で話をしても明日覚えてるかどうか……」


「わたしがセイヤさんのこと好きだって話を聞いたでしょ? って言ってるの」

「ギンガおまえちょっと正気に戻れってば、自分が何を言ってるのか分かってないだろ?」


「はぐらかすの? はぐらかすのね? やっぱり! 母さんの言った通り……」


 ギンガはディムに覆いかぶさる形で迫っていて、巧みに身動きできないよう、またはディムをソファーから立たせないよう、逃げ出すことができないよう、あの手この手を駆使してディムの動きを先回りする。

 まるで柔道かレスリングの寝技のプロのような技術でだ。


「私はさっき聞いた。セイヤさんも私のこと、気になるって言ってたし」

「あ、ああ、確かに言った。だけどこの状況はまずいぞ、明日ちゃんと酒抜きで話をしよう。な、ギンガ」


「好き同士なんだったら、いまから話をすればいいじゃんかー」


 ディムは思った。

 理屈が通用しなくなった女はことほか手ごわい。いまギンガは泥酔しながらも正気を保ちつつ理性だけをどこかの彼方へフッ飛ばしてらっしゃる。

 この寝技のうまさもきっとトールギスと素手の戦闘訓練してたというその成果だ。


「ギンガ! いい加減にしろよ……」


「何よ、怒った顔をすれば私が引き下がるとでも思ってるの?」

「すみません、ちょっとだけ思いました」

 ギンガはヒカリの娘だ。そんな初歩的な手が通用するわけがなかった。


「動いたらダメだからね……私いまから告白するんだから。ちゃんと聞いてください」

 告白すると言われてしまうと聞かざるを得ないのだけど、ギンガはいま泥酔していて、横に座ったディムは既にもう馬乗りにされて両手首をソファーに押さえつけられてる。総合格闘技で言うとマウント取られた状態だ。こんな押し倒された女の子みたいな情けない格好で告白を聞いていいものなのか……。


 ……。


 30秒、1分。いや2分……。

 ずっと考えていたのだろう、頭の中にたくさんの言葉を用意していたらしいギンガは、口をついていろんな言葉で今の思いを伝えようとしたが、言葉にならなかった。


 喉まで出かかった言葉が口から出る寸前にかき消されているようにも見えた。

 ギンガは溢れ出す思いを言葉にしてディムに伝えることができないのだ。


 この期に及んで何も言えないギンガの目が潤み始めた。やはり伝えられなかった。土壇場での弱さを露呈してしまった。


「ズルいよセイヤさん……私こんなに胸が痛いのに……あなたはそんな涼しい顔をして……」


 ギンガはひとつだけ、最後に足掻いて見せた。そっとディムのうなじに顔を近づける。

 ディムは何をされるのかと思って、ドキドキしながら軽く防御姿勢をとっていたが、耳元で、聞こえるか、聞こえないかという小さな蚊の鳴くような声が聞こえた。


「ダメージカウンター……」


 それは勇者のスキルだった。絶体絶命の絶望的な状況を、あわよくばひっくり返すことができるかもしれない奥の手。ギンガは勇者の固有スキル『ダメージカウンター』をディムに使った。


 ダメージカウンターとは自分の受けたダメージも痛みも、そして状態異常もすべてカウンターで相手に返すというチートスキルだ。もっとも自分の受けたダメージが無かったことになるとか、そんなに都合のいいものではないし、攻撃を仕掛けた相手にしかダメージを返すことが出来ないという制限があるので多用できる技でもないのだが、この夜、無抵抗のディムに使う分には十分だった。


 不意に戦闘用のスキルを使われ、無防備に受けてしまったディムは、キュッと締め付けられるような胸の痛みに襲われた。

 切ない痛みだった。ギンガの初恋で、いま正に感じている痛みそのものだ。妻ある人を愛してしまったというやるせない心の動揺も伝わり、ギンガと同様に、ディムの目にも涙が溢れた。


 ドキドキ激しく脈打つする動悸、呼吸もままならない息切れ、熱っぽく上気した頬。そして燃えるような恋心に加え、泥酔してしまって判断力が失われてしまうほどの血中アルコール濃度。その全てがディムに伝わった。


 これがギンガの告白だった。

 ここまで心が伝わってしまうと、もはや言葉など蛇足に等しい。


 ディムには全てが伝わった。どれほど好きで、どれほど恋焦がれていて、どんなに触れたかったか、どれほどまで抱き合いたかったか。性的衝動リビドーを状態異常として、すべての思いが伝わったのだ。


 ディムはギンガの愛しい思いの全てを受け取ると、その小さく、細い身体を抱き締めた。強く。



 ……。



 ……。



 ……。



----


 ギンガは早朝には目を覚ました。いつものようにこの三人の中では誰よりも早い目覚めだった。

 目の前にはセイヤが居て、ギンガをギュッと守るように、抱き締める格好で眠っている。

 ギンガはソファーの背もたれとディムに挟まれる形で横たわっていた。


 いつもなら勇者パンチのひとつでも食らわせてやるところだが今朝のギンガはそうしなかった。

 昨夜何があったのか、何があってこうして抱き合う形で眠っているのか、またそれはギンガが望んでいたことだということを鮮明に覚えていたせいだ。


 ギンガの着衣は胸がはだけていて、下着もつけていなかった。ほぼ全裸に羽衣だけを纏ったような天女さまスタイルでディムに抱きしめられている。いつものギンガなら軽くパニックになるところだったが、肌と肌を合わせた安心感に包まれて眠っていたせいか、抱き合いながら静かに寝息を立てているディムを見ても愛おしいとしか感じなかった。ギンガはディムが眠ってる間に、もう一度だけ、その胸にごそごそっと顔をうずめた。


 ディムの肌の匂いがする。この匂いが媚薬のように作用して、ギンガの騒めく心を落ち着かせる……。

 このまま二度寝できたらどれほど気持ちいいだろう……だけど!


「ああっ、どうしよ。大変なことをしてしまったわ……」


 ギンガは小声で体をゆすりながらディムを起こした。

 いかに朝の弱いセイヤであっても、耳元でこっそり「セイヤさん、セイヤさん、起きて。ディアッカにバレてもいいの?」なんて言われて熟睡できる訳もなく、飛び起きては酒瓶をやらいろんなもんのを片付けて、皺になった服もきっちり着替えた。ギンガに至っては一旦シャワーを浴びて髪を入念に乾かして再び居間に戻った。


 もちろん二人とも昨夜何があったのかは正確にすべて覚えている。

「ギンガ、話し合いは近々またこんどな」

 ギンガはディムと目を合わせることも避けて、俯き加減のまま頷いた。


 二人が状況そのものを取り繕いながら水差しからコップに水を注いでいると、


「んっ……んんん――っ」


 エルネッタさんのお目覚めだ。昨日のディアッカの感じとは違って、伸びをする仕草に女っぽさをそれほど感じない。これは間違いなくエルネッタさんだ。


「やあ! おはようエルネッタさん。すっごく気持ちのいい朝だよ?」

「んー? ディム? わたしはこんなところで寝てたのか? ギンガまで……」


「……おはようディアッカ」

 ギンガの朝の挨拶はどこか遠慮していて、か細い声でエルネッタの耳に届いた。


 エルネッタはキョロキョロと室内を見渡し、窓から差し込む光の角度などから今がまだ早朝であることを理解した。ギンガの様子がおかしい。体調でも崩したかと思ったが、いつもより顔色も髪の色艶もいいぐらいだ。そのくせディムがパリッとしていて腹が立つぐらい元気そうだし、ギンガも起きたての雰囲気ではない。とりわけ極端に朝弱いはずのディムがシャツのボタンを一番上までとめているし、しっかり折り目の付いたスラックスを穿いている。ギンガも朝っぱらから水浴びでもしたかのように小ざっぱりしてる。


 これはおかしい。

 いつもならディムを横に座らせて質問形式で尋問するところだが、昨夜はディアッカに代わっていて、自分はフテ寝してたものだから何があったのかは分からない。頭の中でディアッカを呼んでも何の反応もない。


 エルネッタは考えた。

 ディアッカの大バカ者が何かやらかしたに違いない。下手に突っ込むと藪蛇になって、必ずやディアッカに交代していたことを咎められる。ここはこの話題に触れないほうが良いと思った。

 自らの保身とディムの尋問を天秤にかけて保身を取った。


「お腹がすいた。ご飯は?」

「準備できてるってさ」


「そか、……じゃあ下のダイニングまで頼む―」

「エルネッタさん、家の中ぐらい自分で歩こうよ。足腰が衰えてぐだぐだになるよ?」

「ディムが冷たい。スカアハならずっと文句も言わず抱いてるくせに私にだけ冷たい……」


「スカアハまだ1歳じゃん」

「いーや、この男は絶対スカアハを離さない。たとえ15になっても20になってもずっと抱いてる気だ」

「娘が嫌がるわよ、そんなの」


「嫌がられたらぼく泣いてしまうからね」



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