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冒険者ギルドで人を探すお仕事をしています  作者: さかい
【不定期連載】 ~ 後日談・サイドストーリー:本編完結につき『人を探すお仕事』はしていません ~
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[ギンガの初恋] ギンガ19歳、初恋に全力で体当たりし鉄山靠を習得する

語られないほうが良かったかもしれない蛇足の物語を、サイドストーリー、または後日談としてダラダラと不定期連載で書き連ねていきます。


 これはディムたちが1000年前の世界に転移してきてから3年後、ディアッカの執拗な尋問に、とうとうセイヤのことが好きだという事を告白してしまったギンガ、当のセイヤが戻ってきたおかげでディアッカの追及を免れることができたところから話は始まる。


 どう言う風の吹き回しなのか、ディアッカはギンガにマッサージを受けろと言った。

 いつもならディアッカはセイヤが他の女の体に触れることを極端に嫌う。なのにだ。


「いいえ、あの、たったいま戦地から戻ってきて疲れてるのに、そんな……」

「あはは、なんだギンガも奥手なのか。ディムも相当な奥手だからな、落とすのに苦労すると思うぞ」


「はあ? エルネッタさんまた何か企んでるの? ……まったく、どうしたのさ? ギンガ?」

「いえ、なっ、何もないです……」


「なんだか動きがギクシャクしてるよ? 相当肩こってるみたいだ。んじゃ、えっと、ソファに座って、肩から腕をほぐすよ……どうしたのさ? 鼻息が荒いけど、大丈夫か?」


 マッサージを始めるとギンガは目が虚ろになっていて、動悸? 心拍数がやたらと多くなった。ディムは聴覚スキルを発動させなくても心臓がバクバク言ってることが分かったし、血圧も上昇していて、更には体温も高い。というかむしろ身体が熱い。ギンガの身体は、ディムのマッサージを軽ーく受けただけで、もう軽く汗ばんできた。


 もしかして何か病気なのかもしれない。


「状態異常だ! 身体が火照ほてってる。発熱だ、たぶん39度ぐらい。ギンガ大丈夫か? ガチガチになってるよ?」


「あははははは! ダメだギンガ、わたしを笑わせるなって、お腹が痛い、やめてくれ……笑いすぎて早産してしまいそうだ、はははは」


「笑い事じゃないよ、熱があるし意識レベルも低い。どうしたのさギンガ、待ってろよ、医者に連れてってやるからな!」


「だーいじょうぶ! ギンガは大丈夫だから」

 すぐさまギンガを抱き上げて部屋を飛び出そうとするディムをエルネッタは制止した。

 いまのギンガの状態異常を治す薬なんてどこにもないのだから。


 抱き上げたギンガの身体は石像のようにカチカチに力が入っていて小刻みに震えている。

 もと日本人のディムはその時のギンガの様子を "まるで鰹節かつおぶしを抱いているようだった" と表現するほどカチカチだった。


「何の状態異常かステータス覗くからね、怒っちゃダメだからね!」


 しかしギンガのステータスは正常だった。

 それもそのはず、ギンガはディムが帰ってくるまでディアッカと話をした中で、自分の運命を、これから近い将来、自分の身に起こることを自覚しただけ。


 この男性ひとと結ばれることが運命として確定していることを、いま初めて意識した。

 いや、アンドロメダが生まれたということでそんなことぐらい理解していたのだけど、実際こんな近くにいて、優しく触れられて、今後二人は愛し合って、裸で抱き合って、子どもをつくるだなんて考えただけで気が遠くなって頭がクラクラして、状態異常を引き起こしたような症状が出ていると言うわけだ。


 ディムが帰ってきて同じ部屋の空気で呼吸しているだけで心臓バクバクもの。瞳孔が拡大し、"星弥さんしか見えない"状態だと言うのに、何の前置きもなしに、いきなりマッサージしてもらえと言われたのだから、バッターボックスに無理やり放り込まれて構える前に剛速球を投げられたような準備不足感は否めない。


 ディアッカはディムが13の頃からずっと身体のメンテナンスを受けてきたから分からなかった。ギンガは無意識のうちに、いや、ハッキリと明確に意識していた。『セイヤさんに触れて欲しい』『あの青い夜の体験、もう一度でいいからギュッと強く抱き締めて欲しい』という自然な欲望を強固な意志によって封印してきたことなんて、まるで知る由もなかった。


 ギンガは平常心を保つため『混乱軽減』スキルを展開しながらブツブツとうわごとのように素数を数えていた。しかもだ、いまギンガが陥ってる状態異常は混乱状態ではなく、興奮状態だったという、根本的な所ところで間違った。ごくごく初歩的なミスを犯す。


 結果、極限の興奮状態だったものがプツリと切れ、全身の脱力と同時に鼻血を流す羽目となった。



「うわあああああ、ヴェルザンディ! ギンガが鼻血を、鼻血が滝のように! 止めてあげて。回復魔法を頼む!」

『はいっ!』


「熱が下がってない。これは病気なのか? ヴェルザンディ、お前の見立ては?」

『回復魔法で改善しないという事はケガや体力消耗ではありません。病気もしくは毒による状態異常です』


「うわあああ、ギンガ! 気をしっかりもて。毒? ギンガは毒に強い……ってことは病気だ。どうする、どうすればいい? 考えろ、考えるんだ!」


 よりによって世界でも有数だろうマッサージのプロが肌に触れているか触れていないか絶妙なソフトタッチで身体を触るものだからゾクゾクする感覚に魂が持って行かれるように感じたのだろう。


 鼻血はヴェルザンディに止めてもらったけど、ギンガはいま鼻の穴にハンカチの端っこを詰めて、ぐったりと脱力している。毒を盛られた形跡はないし、そもそもギンガは毒の効きにくい体質だ。


「ディム、まずはおまえが落ち着け。そしてギンガをソファーに戻せ。大丈夫だから」

 ディムは笑いすぎて涙ぐんでいるエルネッタに指示されるままギンガをソファーに戻した。

 ギンガがあんなことになって普通は焦るはずなのに、笑い転げるなんて絶対に何かある。


「エルネッタさんギンガに何をしたのさ! おかしいでしょこれ」


 ギンガをソファーにそっと寝かせたあとディムはエルネッタを問い詰め、そしてエルネッタはちょっとした悪戯だったことを認めた。


「毒なんか盛ってないし、病気でもない。わたしも笑ってしまったけどな、いやあ、あんなこと言わなくても良かったかなー。ホッとしたよ、まあ、そうだな。10年ぐらいは大丈夫そうだ」


「はあ? 何言ってるのか分からないよ……、ほんと焦ったんだからね。この時代は医者も薬草師も1000年遅れてるんだ。まともな医療なんてこの世界じゃ期待できないんだからね」

「おまえがそんなだから10年は安泰なんだ。もっとわたしを安心させてくれ、ディム」


 しばらくしてギンガが話せる状態になると、まだマッサージはダメだからという訳の分からない理由で辞退しますと、本人からくれぐれもお断りされてしまった。


 ディムはエルネッタ以外の人をマッサージしたことなんてなかったので、これまで自信があったアスリートの戦う身体を磨き上げるメンテナンスが実はエルネッタ以外の人には通用しないことを知った。


「ああもう、自信があったのにガックリきた……じゃあぼくはステイメンに報告しないと大臣とかがうるさいからちょっと行ってくるけど、ギンガに無理させちゃダメだからね、くれぐれもだよ。ほんとエルネッタさんギンガをアルさんだと思ってるんじゃないの?」


「失敬だな、ギンガをアルスなんかと一緒にするな!、おまえは寄り道なんてしないで早く王に報告してこい、ほら」


 ディムは国王よりも愛娘スカアハの顔を見ることを優先させて先に帰宅していたため、ギンガの無事を確認すると報告のためすぐにトールギスと王城へ飛んだ。


「トールギスとディムは……行ったか。ふう、ギンガおまえ大丈夫か?」


「ぜんぜん大丈夫じゃないわよ。死ぬかと思った……し・ぬ・か・と・思ったあ! ねえあれ何? 私どうなったの? 何をされたの?」


「ははは、何も? ディムはおまえの身体に触れただけだ。ギンガ、おまえにディムを口説き落とすことは無理だな。わたしの心配は杞憂に終わったようだ」


「笑った? ディアッカいま私を見て笑ったわね……何がおかしいの? 何がおかしいのよ。私いま死ぬとこだったんだからね」


「わはははは、死ぬか! 死ぬわけないだろ。おまえホント面白いな。ディムに触っていいぞ、どうぞ、いくらでも触ってやれ。ディムを口説き落としたら側室に入ることを許してやる」


「口説く? 私がセイヤさんを口説くの?」

「あいつの奥手は筋金入りだぞ? 結婚して隣で寝てても半年は何もなかったからな……ギンガ、おまえには無理だ。鼻血の海に溺れろ」



「キ――ッ! 言ったわね。ディアッカがムカつくこと言った!」


「言ったがどうした? ま、10年ぐらいかかると見た。頑張れ。そしてわたしをもっと楽しませてくれ」


「5年! 5年で落としてみせるから。私こう見えて、けっこうテクニシャンかもしれないのよ? メイリーンや、エルフのプリマヴェーラさんから凄いの教わってるし。セイヤさんなんて一発でメロメロになってしまうんだからね。どうせディアッカのことだから私なんて何も知らないと思ってるんだろうけどさ……」


「ギンガ、そこはそうじゃない " 三日で落として吠えづらかかせてやるから首を洗って待ってろ " というのが正しいんだ。一発でメロメロにできるような技があるなら今夜にでも使え。5年もかからんだろ?」


 ギンガは頭をフル回転させて考える。

 まずギンガはさっきの現象を分析してみた。セイヤは何かの状態異常を引き起こすフィールドを張っていて、近付けば近付くほど強力に作用するらしい。ギンガの使う重力操作のようなものだと理解した。

 視界がぼやけて呼吸が荒くなり、発熱したようにぼうっとする。風邪をひき拗らせたかのような症状だった。それだけではない、身体が硬直して動けなくなった。それこそアサシンの強さの秘密だと思った。

 あのセイカの森でもそうだった、青い夜の体験、抱き締められただけで動けなくなった。


 あの技を破らなければ一歩も前に進むことができないのだ。


 ギンガはギュッと拳を握り、その小さな胸に当てて誓いの言葉を吐いた。


「吠え面かかせてやるんだから。5年!」


「そうか、くくくく……、まあ、がんばれ鼻血ブー」



 次話にはエルネッタさんの別人格、エロネッタさんが久しぶりに登場する予定ですが、投稿は急がず焦らず、気が向いたときに書くので不定期更新ということにさせていただいてます。


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