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冒険者ギルドで人を探すお仕事をしています  作者: さかい
最終章 ~ ハーメルン王国 ~
142/238

[19歳-22歳] アンドロメダ銀河

ごめんなさい、長くなったので分けました。

最終話はまた数時間後に


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 我こそが世界の覇者となるべく小さな国が各地に興った群雄割拠の戦国時代、強い力を持つ一騎当千の武将を多く召し抱えた国が勝者となる。


 そしてディムの力はこの時代にも強力すぎた。


 ステイメン・ハーメルンはディムを家臣として召し抱えるでなく、良き友人として一緒に戦い、そして民を治める政治についてもアドバイスを求めた。もちろん政治の知識は朝霞星弥あさかせいやのものではなく、雨宮美登里子あめみやみどりこの理念が大きな助けとなった。


 ステイメン・ハーメルンはこの戦乱の世にあって、覇権を目指すでなく、領民たちが平和に暮らすことこそ発展の糧になると説いていた。招かれた城塞都市サンドラでディムはステイメンと幾晩も討論し、どうすれば皆が平和に暮らすことができるのかを話し合った。ディムはもと日本人であったことから、いまよりもずっと優れた社会のモデルケースを提案し、国民から愛される賢王が支配すれば千年は安泰だと提案した。

 優れた社会の優れたモデルケースはディムの兄弟、葉竹中はたけなかの知識が助けた。



 ディムとエルネッタは結婚式も執り行わず、最初から夫婦だったように振る舞い、ただの土地領主だったハーメルン家が、ハーメルン王国を興すのに尽力した。


 当時のこの国では夫婦別姓を採用していたので、ディムはそのままベッケンバウアーの名を、そしてエルネッタは約束通りディムの妻となったが、ディアッカ・ベッケンバウアー・ソレイユを名乗り、ソレイユ家の聖女として建国して間もないハーメルン王国を守護した。


 ハーメルン王国建国と同時に、ソレイユ家の歴史も始まったのだ。


 ディアッカは月の聖女として王立騎士団初代団長を務めたが、名ばかりではなく腕っぷしの強さにおいても、騎士や戦士たち、男どもは誰もかなわなかったため、文句を言う者など誰一人いなかった。

 月の聖女と言われてはいたが実力で王立騎士団を纏め上げたのだ。


 ソレイユ家の盾に彫刻された荒ぶるグリフォンは騎士たちの憧れとなった。みなこぞって盾や鎧にグリフォンを描くようになると、国王ステイメン・ハーメルンも国旗のデザインを国民に最も人気のあるハーメルンの守護聖獣トールギスにすると宣言した。



---- 3年後 ~


 そしてディムたちがこの時代に時空転移してきてから3年の年月が流れた。

 ハーメルン王国軍を率いる勇者、ディミトリ・ベッケンバウアー将軍が、眷属であるグリフォンのトールギス、光の妖精ヴェルザンディと共に戦線に参加すると昼夜の区別なく連戦連勝し、その中でも僅か1000の軍勢で7万の大軍に勝利したガゼフノート会戦は、大陸全土に勇者ディミトリ・ベッケンバウアーの名を、大きく轟かせた。



 王国の国土が広がるとともに戦場は遠くなり、連戦連勝がかつてない好景気を連れてくる。


 当時の王都だったサンドラにあるソレイユ家の屋敷でディアッカのおなかに二人目の子どもが宿ってしばらくしたころだ。ディムの留守を守り、暖炉のある居間で長女スカアハをあやすギンガの姿を見ながらディアッカが問うた。


「なあギンガ、おまえ本当はディムの事が好きなんだろ?」

「……答えてあげない。だってディアッカに嘘は通じないし。相手をするのは損だし」


「ふうん、勇者をやめて、おまえは恋をするって言ってたが、どうだ? いい男は見つかったか?」

「私に言い寄るような男、どこにいるの? まさかこんなにモテないとは思わなかったわ」


「それはおまえ、ディムの留守を狙って来た獣人たちの軍をたった一人で蹴散したりするからじゃないか? 騎士団の男どもみんなドン引きだったぞ」

「ディアッカは産後だったじゃないの。いやいや剣をとらされて機嫌が悪かったのよ。仕方ないじゃん」


「なあギンガ、わたしには勇者のような力はない、アサシンのような能力もな。だけどおまえの気持ちは分かってるつもりだ」


「何が分かってるって言うの?」

「おまえはディムしか見ていない」


 ……。


 ギンガは話をはぐらかそうとしているのか、短い沈黙の後、返答に困ったのか、その手に抱いたスカアハに話しかけた。


「あなたのこわーいママが私を追い詰めようとするの。どうすれば逃げられる? ねえスカアハ、あなたのパパしか見てないって言うのよ? 違うわよね、だってディアッカの頭にはツノが見えるもの」


「今日もそうやってはぐらかすつもりか?」

「私は自分の気持ちについて話すことはありません」

 ギンガはこの話題で話すことはないとキッパリ断った。しかしそれをディアッカは許さなかった。


「すまんなギンガ。聞いていいのか、それとも聞かないほうがいいのか分からなくて、今まで黙ってた。だっておまえは可愛いし、若いからな」


「何の話?」


「わたしがアンドロメダのこと、気付いてないと思ったか?」

「アンドロメダは関係ないでしょ?」


「あいつおまえのむすめじゃないのか?」

「なっ……なんで? なんでそんな事いうかな」


「ギンガ、違うなら今ここで否定してみればいい。もう一度聞くぞ、アンドロメダはおまえの娘なんだろ?」


「ディアッカひどいよ、否定したら嘘だって言う気じゃん」


「これは口に出して聞きづらいだろ? あの女はな、ベッケンバウアーの姓で南方人の血が混ざってた、どことなくディムに似てたからな」

「じゃあセイヤさんの身内ってことでいいんじゃないの?」


「それがな、あいつ母親と生き写しのような顔をしててな、ベッケンバウアーは父親の姓だから。な、おかしいだろ? アンドロメダがディムの父親の血縁だったら、ディムの母親に似るはずがないんだ。それにディムには言ってないんだがアンドロメダの口元と鼻と輪郭な、あれはソレイユ家の血を引く顔だ。強いて言うならレーヴェンドルフ叔父さん、つまりギンガ。おまえのお父さんに似てるように見えた。ここまではわたしの頭の中にしかない。だけどディムはこう言ってたぞ、『アンドロメダはギンガと似たような意味で、空にあるたくさんの星の集まりのようなものだ』とな。それにアンドロメダという言葉自体が異世界のものだから、アンドロメダの言った通り、名付け親が父親と母親だとするなら、ディムの言った通り、少なくとも両親の内どちらかは異世界人だ」


「……ディアッカ、もうその話は」

「もうひとつ。これはギンガが生まれる前の話で、わたしがまだ8歳だか9歳だか、聖騎士の加護を受ける前だったと思う。ヒカリからセイヤという言葉の意味を聞いたんだ。夜空にあまねく星だと言ってた。だからヒカリは毎晩、夜空をずっと見上げて、星を見ていたんだ。なあギンガ、おまえの名前も、セイヤの名をもらって付けられたんだぞ」


「……っ! お願いだからその話は……」


「トシも984歳だったってさ。アンドロメダ、今が何年か分からないから正確には分からないが、たぶんあと何年かしたら生まれるんだろうな。だけど隠し子なんて絶対に許さないからなギンガ。お前はそうやって話をはぐらかしてろ」


「そうします。私はアンドロメダの話はしたくないの」


「そうか。じゃあ、おまえ自身のことを話せ。おまえはディムの事が好きだから家を捨ててディムについたのだろう? いつからだ? いつディムの事を好きになったんだ? やっぱりあの時か?」


 しばらく見つめ合う時間が流れる。言葉もなく、ただ暖炉の薪の爆ぜる音がするだけだ。

 ギンガはその手に抱いていたスカアハを揺りかごに戻して、あやす役目をヴェルザンディに委ねた。

 そして指で深青に光るお守りの指輪を指で愛おしそうに撫でながら語り始めた。


「セイヤさんは知らないのね?」

「わたしは話してない。薄々感付いてはいると思うが、わたしにもそんな話をしたことはないんだ」


「最初は敵だと思った。あんな人、この世に居ないほうがいいと思ったの。でもねディアッカ、あの人は私に"もう剣を抜かなくていい"って言ってくれた。わたしを守ってくれるって。そしてあの人は勇者を肩代わりしてくれてる、私の代わりに戦って、私の代わりに人を殺している。あの夜、抱きしめられたとき心を奪われたんだと思う。やっぱりあの人は悪いアサシンだった。だって私はもうあの人が居ないと生きていけないもの」


「とうとう吐いたな。それで? 側室に入りたいのか? それともわたしからディムを奪うつもりか?」


 ギンガは視線を落とし、小さく首を横に振った。何度も。


「あなたが羨ましいわディアッカ。あの人に触れて、あの人に抱かれて、あの人に愛されてる。私もそうなりたいと思ったことがあったわ……。でもね、私の母は、あんなにも素敵で、こんなにも愛しいひとを裏切って私を産んだ。私は生まれてきたこと自体が罪なの、きっと。あのひとの側にいられるだけで幸せなの。ねえディアッカ、私をずっと、死ぬまででもあの人のそばに居させてほしい。今さら側室に入ろうだなんて欲はないわ。だって幸せだもの。奪ったりなんかするはずがない」


 そういって自らの生まれを呪うギンガを見て、ディアッカもかつてディムに対して感じていた罪悪を思い出していた。セイヤ・アサカという恋人の存在を知りながらヒカリにレーヴェンドルフと付き合うよう勧めたという、消せない過去だ。


 ディアッカは少し呆れたような表情でギンガを見た。

 ギンガのほうもその表情の変化を推し量ることができなくて、すこしの戸惑いを見せる。


 ようやく引き出せたギンガの真意にホッと胸をなでおろしながらも質問を続けた。


「……、セイカの要塞でアンドロメダの手を引いてお前だけ離れただろ? あのとき何を話した?」

「私の鑑定は、鑑定した対象の出身地、父親の名前、母親の名前、そして兄弟が健在なら兄弟まで分かるの」

「聞いたことがあるよ。鑑定結果はどうだったんだ?」




--------


 あの夜、セイカの要塞で気になる男性がひとりの少女を保護していた。最初はどこかで攫われてきた女の子かと思った。怯えたように小さく丸くなって隠れようとしていた女の子のステータスを鑑定したギンガはその鑑定結果に驚愕の声を上げた。


「ちょ! ちょっとちょっとちょっとちょっと、ちょっと待ちなさいあなた! どういうことか説め……いいえ、説明しなくていいからちょっとこっちに来なさい!」


「ひっ……ひいいいっ!」


 年の頃はたぶんギンガと同じぐらいか、もしくはギンガよりも若く見えたこの女の年齢は984歳、名前は"アンドロメダ・ベッケンバウアー。出身地はサンドラで、父の名はディミトリ・ベッケンバウアー(セイヤ・アサカ)、そして母の名がギンガ・ベッケンバウアー・ソレイユだったからだ。


 しかもギンガが戦って勝つ確率はわずか229分の1。


 何かの間違いだと思った。


 何かの間違いだと考えてしまうと、本当に間違いであるという確証を得たいもの。

 ギンガはアンドロメダの手を引いて、ディムたちから離れたところまで引っ張っていくとうつむいて顔を見せようとしない黒髪の女の子の顔を両手で掴み、グイッと正面を向かせた。


「あちゃあ……、もしかして鑑定しちゃってます? しちゃってますよね? ああどうしよう、あの、えーっと、怒っちゃイヤなんですけど……」


「説明しなさい!」


「ええっ、いまさっき説明しなくていいって言ったのにー」


「あの男の前でヘタなこと言われたくなかっただけ。ここなら大丈夫だから安心して吐きなさい」

「ごめんなさい、なにも言えません」


「あなた『知覚遮断』持ってるわね。そのせいで鑑定が誤動作してると思っておくけど……、あなたをあの男の捕虜にしておくわけにいかないわね。変なこと言われたら大変。……いいこと? あなたはたった今から私の捕虜ってことにするわ」


「ええええっ、私としてはあっちの優しい男性の方がいいのですけど……」

「何? いま何か言った?」


「いいえ! 何も言ってません。わかりました。わかりましたよー。……ああっ、そうだ、もしかすると都合がいいかもしれませんね。レーヴェンドルフさんとヒカリさんに手紙を預かっているので、ついでに会わせていただけますか?」


「ついで? あなたついでに私の両親に会わせろって言うの?」

「やだなあ、誤解ですよー。ギンガさんは怒りっぽいのやめたほうがいいです。結婚して、子どもがうまれたらもっともっと甘やかして育てたほうがきっといいですよ。いいですか? 子どもが生まれたら絶対に怒っちゃダメです。たぶんあなたの秘蔵のスイーツを娘さんが隠れてこっそり食べちゃうかもしれませんけど、絶対に怒っちゃダメですよ? 勇者の力でぶん殴るなんてもってのほかですからね。思いっきり泣きますからね」


「私は結婚なんかしません。余計なお世話です! 子どもなんて絶対に生みません」

「えええっ、それは私が困っちゃいます。困りますってば」




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