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冒険者ギルドで人を探すお仕事をしています  作者: さかい
最終章 ~ ハーメルン王国 ~
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[19歳] ソレイユ家の会食

最終章、始まりました。もうすぐ完結します。いましばらくお付き合いくださいまし。



 残されたディムたちがラールの街でどんなことになっているかなどつゆほども知らず、ディアッカ(エルネッタ)たちを乗せた飛行船は、王都ゲイルウィーバー近郊にある航空基地に無事到着し、ソレイユ家の面々は飛行船からゾロゾロと勝利の凱旋さながら、勝ち誇ったようにタラップを降りた。


 馬車で小一時間という道程を経て、ディアッカ(エルネッタ)は実に13年ぶりに実家の敷居をまたぐ。ディアッカの周りに侍女たちが集まってきて、その小汚い傭兵の服装を正すため、まずは風呂へと引っ張っていかれた。


 大きな姿見に映し出された自らの姿をみて、ディアッカは一粒の涙をこぼす。

 もうどうにもできない大きな流れに足をとられ、逆らう事ができない。ディアッカがソレイユ家と敵対すると、ディムとヒカリが戦うことになってしまう。そんな不幸な未来は絶対にあってはならないのだから。


 大浴場で侍女たちに湯浴みを手伝ってもらいながら、ディアッカは空を見上げる。

 ゆっくりと大きな満月が上がってきたところだ。空はこんなにも美しいというのに、隣にディムが居ないと考えただけで、得も言われぬ寂しさに押しつぶされそうになった。

 まだディムと別れてそう時間も経ってないはずだが、もうこの体たらくだ。一人で生きていくなんて簡単だと思っていた。だけど、ディムとほんの少し離れただけで心が叫び声をあげているように慟哭する。


 やっぱりディムのいない生活なんて考えられないと……そう思った。


 ディアッカはこれまで使った事のないようないい香りのするシャンプーや、きめ細やかなクリームのような泡立ちの石鹸で身体からディムの匂いが消えるまで徹底的に洗浄されると、コルセットでギュウっとウエストを締め上げられ、見栄えのいい純白のドレスを着せられた。


 僅か半刻ほどの間に、立派なソレイユ家の令嬢が出来上がった。

 13年のブランクなど、誰の目にも分からないほどだ。


 ソレイユ家に仕える侍女たちは、エルネッタの傭兵の服をゴミ箱に捨てた。

 エルネッタはゴミ箱をあさって、その中から髪留めを見つけ出し、そっと懐にしまった。

 ソレイユ家の者が見たらとても粗末な品だろう、だけど今のエルネッタにはディムが買ってくれた、この髪留めが世界で一番輝いて見えた。ディムが遠くなるほどに、まぶしく輝いて、手放したくないものになっていた。



 準備ができたと侍女に案内され、会食場に入ると、錚々(そうそう)たる面々が顔を並べていた。


 ディアッカの実父である、ソレイユ家当主アンダーソン・ソム・ソレイユ。

 ディアッカの実母、アンダーソンの正室、キサ・レイド・ソレイユ。

 ディアッカとは血のつながらないアンダーソンの側室が二人と、ディアッカの知らない13年の間に生まれた10歳と7歳になる妹たち。


 兄妹の中ではディアッカが唯一心を許しているバーランダー・アーソム・ソレイユに続き兄弟3名。

 父親の弟、つまり叔父であるレーヴェンドルフ・フィクサ・ソレイユに加えて、


 その妻であり、この王国を守護する勇者ヒカリ・カスガ・ソレイユと、

 勇者の娘、ギンガ・フィクサ・ソレイユが居た。


 兄たちの妻は呼ばれなかったようだが、だいたいディアッカの知るソレイユ家オールスターが雁首揃えている。


 ディアッカが会食場に一歩二歩と踏み出すと「おおおっ」とその美しさに嘆息が漏れる。

 不機嫌そうな顔も予定調和だった。


 ディアッカのために椅子が引かれ、席につくと正面の席が2席ほど空席になっていることに少々の違和感を憶えた。席次を確認すると上座にあるはずの父が上座に座っていない。父が座っているのはディアッカの隣。つまり13年ぶりに帰ってきたディアッカが座らされた席は見合いの席だった。


「席次について質問してもよろしいか? 父上」

「なあディアッカ、ただいま帰りましたという挨拶より先にそんなことを聞くのか?」


「帰る気はなかった。わたしはまたすぐラールへ戻るからな」

「ディアッカ! 聞き分けろ。あんな平民の男……いや、まだ子どもだったではないか……」


「子どもじゃない。言ってやれヒカリ。あの人はわたしと同い年ですって。ディムはあれで54歳、わたしの婚約者を悪く言うような奴は許さないからな」


 婚約者が居ると聞いて、実母のキサはディアッカの顔をまじまじとみつめた。


「ほんとこのむすめは、わたしにもただいまの挨拶なし? それで婚約者がいます? 次は何が出てくるのかな、まさか子どもがいるなんてことないでしょうね?」


「誰が"ただいま"なんて言うか。どうせまたすぐに出て行くのにな!」


「ディアッカ、私を困らせるでない。お前の嫁ぎ先はすでに決まっておる。これは単なる男と女の約束事ではない。我がソレイユ家と、ハーメルン王家との盟約なのだ。王家との約束は守る以外の選択肢はない」


 父アンダーソンと娘ディアッカの押し問答が食傷気味になり始めた頃、扉が開き、執事が一礼をして入ってきた。


「お見えになられました」


 どうやらディアッカの前の席に座るべき人物が遅れてきたようだ。

 来客の報を受け、これほどの面々が全員起立して迎えた。


 ソレイユ家の者が全員で起立して迎えねばならない相手など、王族ぐらいしか考えられない。



 案内されて入ってきた男は、ディアッカが戻ったと報告を受け、夜だというのに馬車を飛ばして来たそうだ。


 年の頃50ほどか、実に父親のような年齢の男だが、ソレイユ家伝統の白の服を着ていない。

 ねばつくような視線を受け気分が悪くなったことからその男の正体はだいたい窺い知れる。

 初対面だが、どこかで見た顔。そう、肖像画でしか見たことのない男、この国では二番目に偉い男、そして、ディアッカ・ライラ・ソレイユの婚約者である弟王ルシアン・マティス・ハーメルンその人であった。


 ディアッカは盟約でこの男の正室に収まることが決められていたせいか、先に嫁いだという若い女性を連れてきたが、この女性は側室なのだという。つまり正室の席を空けたままディアッカの帰りを待っていたというのだ。


 賓客の訪れとともに、テーブルには料理が運ばれ始めた。

 今日のところは顔見せと食事会が執り行われることとなった。


「ディアッカ、そちらのお方がルシアンさま。お前はルシアンさまの妻となる」

「ん、余がルシアンである。さすがに美しいな、13年もの間、待った甲斐もあったというもの。すぐにでも連れ帰って世継ぎを産んでもらわねばならんのだが、婚礼の儀に7日かかるそうだ。待ち遠しいだろうが、いましばらく待たれよ」


 当たり前のようにスケベ面を晒す王族の男にディアッカはきっぱりと言った。


「お断りします。わたしには決めた相手がおりますので。申し訳ありませんが、この縁談、なかったことにしていただきます」


「なんだ? あの何とかというガキか? ベッケンなんとかといったな……そいつならもう生きてはおらんぞ?」


「そういえば諜報部の暗殺者が何人かいらっしゃいました。残念ながら暗殺計画は失敗したようです」


「諜報部がしくじったか。なるほど、ではまた反省会を開かねばならんか。まあ、諜報部が集めた情報では凄腕の冒険者だと言うのでな、虎の子の王国軍精鋭部隊を三個小隊も送った上にラールの衛兵にも動員をかけておいた。万が一にも生きてはおらんから、安心して我が妃となるがよいよ」


「ひとつ聞かせてほしい。わたしの愛する男を殺せば、あなたは愛されるとでも思っているのか?」


 ルシアンは何を言われているのか少し理解に苦しむという表情を見せた。


「何を言っておる。王国民が王族を愛するのは当然のことだろう?」


 この弟王を名乗る男、年齢50歳前後に見える。それほど歳を重ねておきながら、女の愛する男を殺しさえすれば、その女は自分のものになると思っていて、それを間違いだとは微塵も考えていない。


「わたしはあなたを愛さない。そして軍を動員したというなら、きっと大勢が死んでいて、今頃ディムはわたしの後を追ってきているはずだ。なあ父上、わたしを帰さないと大変なことになるぞ」


「ディアッカ、ソレイユ家は恫喝や脅しに屈しない。そういう物言いは逆効果だぞ? しかしあの若い男、それほどの力を持っているのか? いったいどんな加護を受けておるのだ?」


 ディアッカは固く口を閉ざして、アビリティについては何も語ろうとしなかった。

 もちろん、ヒカリもギンガも、パニックを誘発するようなことは控えたほうがいいと考えたのだ。


「バーランダー、お前はあの男と話したのだろう? 鑑定はどうだった?」

「いやそれがその、彼には鑑定を防ぐスキルがありまして、私にはなにも……」


「鑑定を防ぐ? ギンガも持っていたな。たしか勇者アビリティに付随したものだ。ヒカリさん、ギンガ、お前たちは性能のいい非接触の鑑定スキルを持っていただろう? あの男は何者だ?」



 ルシアンとの話で、ディムの暗殺を平然と言ってのけたところで、扉がノックされた。

 料理が運び込まれるのだと思い、ナフキンを首にかけて準備を始めた気の早い者が居たが、入ってきたのは執事だった。


「弟王ルシアンさま、急使が参りました。緊急で伝えたいことがあるそうですが……」

「なんだこのめでたい席に……まあよい、急使というからには重要なのだろうな」


 すぐ背後に控えていた急使は一礼したあと、一歩だけこの食堂に足を踏み入れると敬礼したままの姿で報告を始めた。


「はっ、報告します。メナード王宮に軍の飛行船が墜落しました。王城ゲイルキャッスルの一部と時計塔、周辺の建物を巻き込んで現在大火災が起こっており死者と重軽症者の数は不明。また墜落現場から炎と雷を纏った襲撃者が現れ一般の衛兵たちでは食い止められず、近衛騎士団長ガルベリー卿がドラゴンを従えて迎撃に当たり、大賢者ホーセスさまも襲撃者の足を止めるため出撃されましたが、お二方とも連絡が途絶え現場は混乱しております。火災のほうも消防隊だけでは対応しきれず、水魔法を使える魔導師と臨時的に軍が独自で動いて消防活動と救命活動中でありますが士気が下がっており王城の守りは手薄になっております。ルシアンさまにはすぐに王国軍の指揮に戻っていただき、襲撃者の迎撃に当たっていただきたいとのこと」


「なっ……? メナード王宮に? 飛行船がぁ? なんて言った? 墜落だと? 襲撃者? どういうことだ! 話が見えんではないか」

 弟王ルシアンは開いた口が塞がらず、どういうことだ? を連呼していた。いま王都で起こっている現実を認めたくないのだろう。


 扉を締める間もなく、急使の男はその場に立たせたまま、また執事が次なる来客の訪れを告げた。

「ご当主さま、また急使でございます。すぐにご当主さまにお目通り願いたいと……」

 当主アンダーソン・ソレイユは危急の事態を察し、すぐさま急使を呼んだ。

「急使? すぐにここへ連れてくるんだ」


 呼ばれてきた男は蝋で封のされた書状を持っていた。

「近衛騎士 エイブラハム・ガルベリーより、ソレイユ家当主アンダーソン・ソレイユ卿に援軍要請の書状を持ちました。今すぐ、今すぐに王立騎士団を組織し、王城ゲイルキャッスルへ援軍願う」


「ガルベリーは何をしておる! 自慢のドラゴンはどうした?」


「……竜騎士ガルベリーは使役するドラゴンと共に落とされました。王城を守る近衛騎士たちの陣も次々と沈黙しております。急いで王城へ参じていただきたい。王国存亡の危機であります!」


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